これからが本番
隠れ家に潜んで、数日。
そろそろ仲間たちは、私が帰って来ない事に気付いていることだろう。
これまで3日間ほどなら雨宿りで帰ることができない事もあったが、1週間を越えるとなると、もはや遭難である。
殊に、狩猟団ならいざ知らず、子供で、しかも女で、単独行動であるともなれば。
うっかり出会ってはいけないので、群れの活動圏内には近付かないようにしていたが、それでも幾度か、遠くで私を呼ぶ声が聞こえたような気がする。
「ウーダ」、と。
そう、名前があると、こういうときに呼べるんだよね。
そして、名前があると愛着も増すものだ。
きっと今ごろ、心配し、悲しんでくれていることだろう。
みんな、ごめんよ。
だが、戻るわけにはいかない以上、踏みにじってしまった心に報いるためにも、私は、私なりの幸せをここに築いていかなければならないのだ。
これから為すべきは、定住地をみつける事だ。
水場が近いこと、これが最低限の条件だ。
何せ私には、一人で井戸を掘ったりはできない。
そして、水場が近い以上は避けがたい水害対策として、住まいは丘場でなくてはならない。
さらには、日帰り可能な圏内に海があればなお良し。
塩が欲しいし、海の方が水悽生物は豊富なはずだ。
畑にできる平地も要るし、果樹園を得るには数年間を要する。
だが、女一人で隠棲するのにそんな大規模な農場をあからさまに作る分けにもいかないあたりが痛いところだ。
当面は今の洞窟があるけれど、仲間の拠点に近すぎる。
一人の暮らしに慣れてきたところで、私は、周辺の探索を開始した。
方向ごとに目印をつけつつ、行けるところまで進んでは引き返し、半径半日程度の地理をまず把握。
中継地として拠点にできそうな場所を見つけたら、帰路、目印を増補しておき、次には夜営の支度を持って訪れ、新たに別荘を拵えるのだ。
そんな事をしばらく繰り返しているうちに、ある時、高台に行き着いた。
この世界に生まれて初めて、こんなにも視界の拓けた場所に来たように思う。
眼下に広がる風景は、これでもかと言わんばかりの密林が8割。
蛇行する川の行方を視線で辿ると、遥か遠くに、扇状地とおぼしき平野と、灰色の地平線……おそらくは海であろう何かがかろうじて窺えた。
3方向には、うっすらと山嶺が霞んで見える。
私は、携行していた鞣し革に、消炭の棒でこの風景を丁寧に写生した。
現実であれゲームであれ、地図は、課金してでもなるべく初期に入手すべきアイテムなのだ。
大まかとはいえ、俯瞰図を手にいれた。
この進歩は、レベルアップ級の進歩と言えよう。




