巣立ち (というか逃亡)
加熱調理をさりげなくレクチャーする事しばし。
肉も魚も貝も、火が通った状態に慣れるのは早かった。
何せ美味いから。
石鉢がすでに存在したのが結構でかいファクターだった。
おかげで、例のザラザラした粥もやや進化した。
本来、煮炊きには土器の発明を待たねばならないところだったのだが。
とりあえず土をこねてドングリなんかを溜め込む壺を作ったりはしておいたので、いずれ、それを焼けば硬くなると気付く事になるだろう。
ここまで来たら、あとは早い。
人間ってのは、美味いもの、便利な事への探求心に関しては、歯止めが効かないレベルで意地汚く進歩するイキモノなのだ。
ワタシにできること、いや、するべきことはここまでだ。
というか、小出しにせねばネタが尽きる。
さらに言うなら、ネタの価値が落ちる。
さじ加減は大切なのだ。
頃合いだ。
そろそろ、ここを離れねば。
バレないように荷造りしようと思ったが、そもそも荷物なんて何もなかった。
最低限の物は、既に例のアジトに備蓄してあるし、当面はあそこを足場に、次の進路を探っていこう。
ママは、この群れとしては既に高齢の部類だ。
ワタシを産んで、
ワタシの弟妹も4人いたが、生きて生まれて、かつ、これまで育ってきている子はいない。
だが、栄養状態が躍進した今なら、現在お腹にいる子は、無事に生まれさえすれば育つことだろう。
既に親子の関係は脱しているが、情はある。
会話という意思の疎通はないが、母の愛は今なお確かに存在している。
正直、離れ難くはあった。
だが、ここでママと同じ道を歩んでただ生きていくのは嫌だ。
せっかくの、三度目の人生なのだ。
しかも毎回の時代逆行ぶりからすると、次があったとしても、今度は数百万年レベルで逆行する可能性が高い。
そうなるともはや、自我と記憶を保てる脳ミソを有するイキモノとして生まれるかどうかも怪しいところだ。
とある普通の朝、普通の1日の始まりに、ワタシはいつも通りに洞窟を出た。
ママを含めたお腹の大きい女達と老人らが見送ってくれる。
食料事情や生活レベルが改善されるにつれて、群れの皆は表情豊かになってきていた。
最後に一瞥したとき、ママは微笑んでいた。




