戻ってきました (なぜこうなった)
また、原始人ライフに戻ります
さて。
きっとアラナインの最期は、端目には悲劇の一幕であったろう。
婚約者に裏切られ、言葉もなく滂沱し、あたかも一輪の花が萎むがごとくに倒れ、儚く命を散らした乙女……。
それはそれは、見るも哀れな光景だったに違いない。
まああれで、ちょっとぐらいはダメンズとカンツーシャに罪悪感のカケラくらいは食らわせた事だろう。
元々、ダメンズは王太子である以外にこれといったスキルのない男であった。
当然、人望のレベルも知れたもの。
あの場でアラナインに同情の視点が寄れば、集団心理なんて簡単に変わっちゃうものだから……。
あいつら、あの後どうなったのかなあ?
だが、あのときにうっかり 「そんな事より」 などと、要らぬ考えを巡らせた自分に物申したい。
1回目で懲りたはずだったのに、だ。
確かに今や、身分もお金も、謀を廻らすにも言葉すらない純粋な世界で3回目の人生の真っ最中だが、わざわざ衛生的要素をすっぱり除外された辺りに、何らかの悪意を感じずにはいられない。
ホント、なんでこうなった?
なにせ、今世には風呂どころか文明すら未だ存在していない。
かろうじて、ワタシ発祥のあれやこれやが集落の内外に伝播しつつあるくらいのものだ。
そして今、ワタシは更なる大きな一石を投じようとしている。
落雷を見た日、ワタシは洞窟には帰らなかった。
豪雨だったし、こういう時にどこかに潜んで夜を明かす事は、さほど珍しくもない事だったし、狩りに出た者達なんて、たいてい数日間は帰らない。
畑近くに設えて念入りに隠してあったねぐらに潜り込み、かねてよりの計画を実行するべく、慎重に準備していった。
設定としては、こうだ。
ワタシは雨に遭い、雨宿りしたところで落雷を見た。
くすぶる枝に近寄ると暖かかったので、拾って帰ったが、枯れ枝や乾いた草に触れると炎が復活した。
あったかいし、服も乾くし、たまたま硬い芋を焼いたら極旨に!
これって、めっちゃ便利なモノなんじゃない?!
……というノリを、群れの皆に、言葉という手段ナシでわかってもらわねばならないわけだが。
ワタシは、長い松明を作り、非常食として持ち歩いている獣脂を塗りたくってから点火した。
これが、この世界で初めての、人類の灯火だと思うと感慨深い。
とはいえ、遠く離れたどこかには、とっくにそこそこの文明があったりするのかもしれないが。
群れが暮らす洞窟の内外には、ワタシが石磨きに使った作業台がいくつかあるのだが、実はそれ、かまどになるように設計してある代物だ。
石で組んだ櫓に大きな平石を乗せて、そこで小石を磨くことにより、平石の中央は上手い具合に窪ませてある。
キャンプの焚き火台みたいなものが、すでに出来上がっているワケだ。
あと、獣脂の塊に繊維質の樹皮を縒った灯心を突っ込んで、なんちゃってろうそくも作り、大きな葉っぱで、簡易提灯もこしらえた。
これで夜にも灯りが得られる。
こういうのは、日々の「たまたま」と試行錯誤が重なって進化していくものだが、これまでも色々と発明してきたワタシであれば、もはや誰も違和感を持ったりはしないだろう。
むしろ今度は何だろうと、興味津々となるはず。
今の集落の皆には、この、火のある暮らしだけは、何とか伝授しておきたかった。
暖かさと、明るさと、加熱した食事。
人が人らしく暮らせる最低条件だと、1回目の人生では、当たり前に思っていたことだ。
3回目にして、初っ端から根本を覆す経験をさせられてしまったが、今世でワタシを生み育てて来てくれたのは、紛れもなくこの集落の人々である。
愛着もあれば、ちゃんと恩義も抱いている。
だからこそ今のうちに、彼らにはもっと多幸感ある暮らしを伝えておきたいのだ。
なぜならば、近いうちにワタシはここを去るつもりでいるからだ。
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