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2回目  (婚約破棄、キタ)

名前が思い付かなかったんですが、そのまんまでも結構いけました。

幸い、前世の記憶は歳と共に徐々に甦ったため、赤ん坊の時点でパニックすることはなかった。

だが、それなりに思い出し始めてからは、なるべく前世のあれこれを記憶の彼方に封印するようになっていった。



忘れた方が幸せになれる気がしたからだ。



環境こそ色々アレだが、それなりに華麗ではある世界だ、そこに高位貴族として生まれたからには、良いとこ取りして満喫せねばなるまい。

人間の順応力をナメてはいけない。

想像するもおぞましいような事でさえも、状況次第で限界突破できてしまったりもする。

そういうのを、普通、極限状態と言うんだけれども……。


なんせ1回目の人生は、89年。

しかも文化的に、激動の時代であった。


木製の電話機が集落に1台しかなく、メディアは新聞とラジオだけ、電卓すらなかった少女時代には、当然、水洗便所なんかなかったし。


お湯をかけるだけのラーメンの誕生に感動したり、白黒テレビや洗濯機に一喜一憂した青春時代もまた然り。


友人が子持ちになる頃合いになって、卓上電気計算機が一世を風靡し、さらに超大国にはコンピューターなるモノが生まれた。


アラフォーにもなると、パーソナルコンピューターなるものが普及し、100万円近くもするくせに麻雀ゲームと、マルを描くのに数日かけるくらいにしか使えなかったというムダ遣いな思い出。


その頃からである。

水洗便所が一般化し始め、お洒落な家庭のお風呂に、シャワーが設置され始めたのは。




つまるところ、私の初回人生の半分においては、水洗便所なんか存在していなかった。

しかも前半数年間は戦時下だったので、それこそ物資も食糧もなく、虫だって結構食べていたという、経験豊富なアナログ生活レジェンドだ。




だが、そんなワタシにも許容範囲というものがある。




「アラナイン・ローバ、お前との婚約は取り止める!」



……それは、いいです。


でも、あなた、今座ってるその椅子って、例の「穴開き椅子」……ですよね?



当世の流行はその「穴開き椅子」ですが……それって、「おまる」でしたよね?!

そりゃ、辺り一面が臭いんで、臭いの問題は無いっちゃ無い。

だがしかし。


その状態からの婚約破棄は、あんまりであった。


長年の婚約時代に免じて、ちょっとだけこの男を弁護してやると、この姿勢はそう非常識なわけではない。

なんせ今のこの界隈では、体の余剰物はどんどん出すのが健康法なのだ。

病気と言えば何かにつけ、瀉血……すなわち血抜きをされるので、迂闊に風邪もひけなかった子供時代であったりもしたが。

要は、とにかくいろいろ出しちゃうのが体に良い→では贅沢の極みとは即ち……、というワケで、高貴な方々は今や謁見や食事でさえも、この「おまる椅子」に座ったままなのがステータスとなってしまっていたりする。


はっきり言って、やめてほしい。

かつてワタシも大人になったお祝いにと、当の婚約者の家門から華麗なおまる椅子を贈られて所有しているし、なんなら常用もしているが、恥じらいを以て部屋の隅に囲いをして用いている。


だが。



「そなたの異常な性癖は、侍女を務める令嬢カンツーシャより聞き及んでおるぞ! そなたは異常な潔癖症、いや、それは口実なのであろう。月に1度もの入浴をしながらまだ足りず、毎日、体を拭うと言っては湯を持たせ、側仕えの者達を苦しめているというではないか!」


「ダメンズ様……」


「不敬であるぞ! もはや王家に連なる身分ではないと心得よ、そなたには、尊きわが名を口にする権利などない!」



王太子ダメンズは、婚約当初は普通に貴族の令息だった。

だが。ワタシとの婚約により、我が家門とその血族の支持を受けた彼の父親は、近隣の小国を征服して独立を宣言したのであった。

その戦下、不運にもワタシの領地は激戦地となり、婚約者の城にいたワタシを除く家族全てを失ったのだ。


終戦の後、独立王家となった家門の下で、ダメンズは王太子となった。


ワタシの家門は、傍系親族から領主を立てる事が認められ、その結果ワタシは、領主の娘ではなくなってしまたのだった。








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