第2話 〜拠点への道中〜
補給班から台車を受け取った勇二は良人と合流し荷物を駐車場へと運んでいた。
勇二は「これ全部医療品か?」と良人に問う。「そうそう。結構な量あるよなー」「けど、一般人にも負傷者が出るって考えるとだいぶ心許ないな」「まあ他の隊にも分散して配布されてるし全部合わせればそこそこの数になるんじゃないか?今のうちの組織ではこれが限界っしょ」と良人は答える。退魔師団は経済的に余裕はない。退魔師団はNGO組織であり、政府からある程度支援はあるがその数は多くない。アメリカやカナダは抗魔組織は政府機関としており日本とは対照的だ。そうした不足分は現場の努力や寄付、退魔師団の商品開発部が作っている製品を売ることで補填している。だがそれでも十分とは言えない。
二人が荷物を積載すべき車両まで来るとそこでは5名の人物が待っていた。その中の1人が話しかける。「お、ふたりとも待ってたぞ。その荷物でラストだ」「あ、隊長!おまたせしました。」良人が答える。話しかけてきた男は山口巧次も良い第2騎士団第3騎士隊の隊長を努めている。勇二と良人の上司である。
勇二たちが持ってきた荷物を積み終えると巧次は「それじゃあとは俺、叶、勇二、良人の4人で現地まで持ってくから他はブレイクで」と言い仕事の終了を宣言する。呼ばれた4人以外は口々にあとはお願いしますといった言葉を残し解散していく。残された4人は車両に乗り込んでいく。
4人が乗った車は佐賀県の唐津市の第2騎士団の活動拠点へと向かって行く。異形の多量出現が予想される地域においては第2〜5騎士団には防衛線の維持の任務が与えられており、その際ある程度長期的に活動できるよう物資の事前集積が2年前から行われている。予知夢から予想されてる日はおおよそ2020年から2025年あたりという予想が一般的だ。しかし明日来てもおかしくないと言った予想や、そんなものは来ないといった予想もあり正確な事は何も分かっていない。だが年々現れる異形の数は増しており、予知夢の日は近付いてると思っている人は少なくない。特抗魔組織に属しているものや異形が発生している地域に住むものはその傾向が高い。今向かっている地域も度々異形は発生しており、予知夢の日ではないからと言って安心はできない。
「良人と勇二は向こうに行くのは何回目だっけ?」と巧次が尋ねる良人、勇二が順に「4回目です」「俺は3回目です」と答える。車を運転する叶が「向こうの地形とかはまだ覚えられてないよね?」と二人に聞く。安村叶は第2騎士団第3騎士隊の副隊長を務める女性だ。非常に気配りが上手く隊長の巧次をサポートしている。「そうですね。結構荷物運んではまたすぐ福岡にすぐ帰ってばかりだったので向こうの様子はほとんど分からないですね」良人が答える。「そうか。そしたら今回はしばらく向こうに滞在することになるから色々と見回っておいた方がいいな。予知夢の日の際の我々の配置が書いてある地図があるからそれ持って現地見回っておいてくれ。」と巧次が言い地図を勇二に渡す。勇二は「了解です」と答えながら渡されたちずに目を落とす。
県道292号沿いに大きな防御線が引かれている。ここを担当するのは第3〜5騎士団だ。この線より北側へで異形を抑え込み、反撃体制を確立し異形の軍勢を殲滅するのが退魔師団の戦略である。第1騎士団や情報隊の斥候班がそれよりも北側の各市街地に分散し、市民の避難を支援や偵察活動を行う。勇二たちが所属する第2騎士団は第3騎士団より1個騎士隊の増強を受け県道47号と23号の交点及び唐津市立打上小学校の東側に防衛拠点を築き、市民救助の支援及び後方の防衛線構築のための時間の余裕を獲得することにある。
退魔師団において戦闘を担う退魔騎士団の兵力は1500程度であり広い正面をカバーすることは困難である。異形の軍勢を抑えるためには自衛隊の協力が欠かせない。だが日本政府の腰は重たく事前の調整等はあまり上手くいっていないらしい。
「俺たちの守る場所は地形を利用しての防御がしにくい。それに線で守るというよりは点で守ってるため方位される危険も高い。だがここで時間を稼がなければ救助に当たってる部隊は孤立し、防御線も構築する前に攻撃される崩壊していく。そうなれば異形の軍勢はあっという間に九州を飲み込むだろう。そうなった時の被害はとんでもないことになるだろう。そうならないためにも使えるものは何でも使う。お前らも何が利用できるかしっかり確かめておけよ」巧次は二人に告げる。
4人が乗った車両は唐津市へと近付いていく。