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抗魔大戦記綴  作者: 語部きゅうり
第1章 〜鎮西事態編〜
2/21

第1話 〜年末の仕事〜

 2018年12月27日


 福岡県福岡市


 世間では年末を迎え徐々に休暇ムード入っているのとは対照的に、退魔師団福岡支部では多くの人々が忙しく働いていた。

その内の1人である黒澤勇二もまた例外ではなかった。「おい、勇二。この資料にある物品を2810のとこまで持ってくらしいから台車を2つ徳さんから借りてきてくれ」同僚で昔馴染みの冴津良人から頼まれる。「了解」と返し勇二は補給班の備品室へ足を運ぶ。「西側の玄関で合流なー!なるはやで!」と後ろの方から良人が叫ぶ。

 

 現在退魔師団は来たるべき日に備え、皆が忙しくしていた。そもそも退魔師団という奇妙な名前が付いたのもある訳がある。もともとは「特異者保護協会」というある人々を助ける日本のNGOが前身であった。二十年程、世界各地で様々な人々が特殊な力を発現した。そうした人々はその力を恐れた人々から差別や迫害を受けたり、また中には力を抑えられず周囲の人々を意図せず傷付けてしまったり、その力を利用して犯罪に走ったものや迫害を行う者たちに対し攻撃するものも現れていった。そうして各地において紛争の火種がくすぶりはじめるのを見た政府や、力に目覚めた人、そうでない人達の多くが事態の収集のために力を注いだ。

 そうしてようやく特殊な力を持つ人々と一般の人々との対立はなくなり特殊な力に目覚めた人々は「リシーバー」として市民権を確立していった。「特異者保護協会」は「リシーバー」を保護し、力のコントロールを教えるなどして「リシーバー」と一般人との架け橋となる組織のうちの1つであった。

 しかし11年前、世界中の「リシーバー」保護組織が大きく変化する転機が訪れた。多くの「リシーバー」がほぼ同時に同じような内容の夢を見たのだ。それは多勢の異形達によって世界の都市が襲撃されている夢であった。夢を見た者の証言を集めたところ夢の中で襲撃されていた都市はモンゴルのバヤンホンゴル、オランダのレーワルデン、タンザニアのドドマ、カナダのブランドン、ロシアのゴロシハ、フィリピンのルソン島、そして日本の佐賀県唐津市の7つの地域であった。そしてこの地域は「リーシーバー」が多く出現する地域でもあった。

 気味の悪い現象ではあったが、一部の研究者や悪夢を見なくさせるための治療を行う者たち以外にとっては所詮夢であるため誰も気にすることはなかった。

 だが大きく状況が変わったのはそれから約1年後の2008年3月頃タンザニアのドドマにて夢で出てきた異形が現実に現れ多数の死傷者を出したのだ。その異形は猿の前足と後ろ足を前後逆にし、頭部があるはずの場所には何もなく、臀部の部分に以上に大きな口のみがあるといった風貌であった。数はそう多いものではなかったが、その巨大な口や腕などを使い多くの人々を捕食または虐殺していった。

 現地の警察官などが対応するも、警察のもつ軽火器では立ち打ちできず、多くの殉職者を出す一方で事態の収拾は出来なかった。しかし現場に居合わせた「リーシーバー」の力で攻撃したところ非常に有効であり現場は落着きを取り戻した。最終的には軍が出動し協力な火力をもって異形を殲滅した。

 この事件を皮切に夢で予想された都市に異形が少しづつ現れるようになり、夢は予知夢であり現実に都市ご異形の軍勢に蹂躪されるのではないかと考えられるようになった。そうした情勢の中「特異者保護協会」は他の「リーシーバー」保護組織と合併し日本での「リーシーバー」による異形対策組織として退魔師団を設立されたのであった。

 

 勇二は補給班の備品室へとたどり着いた。コンコンとドアを2回ノックし部屋へ入る「失礼します。あ、徳さん!荷物を運ぶのに台車を2つ借りたいんだけどいいですか」部屋には3人ほどの人が作業しており、奥の机に座って資料を睨みつけながらパソコンをいじっている中年の男性に声をかける。徳さんと呼ばれた男は勇二の方へ顔を向けると「おお好きに使え〜。使ったらちゃんと返しに来いよ」と返す。勇二は「分かってますって」と返しながら台車のもとによっていく。

 徳さんは本名を徳井健と言い「リーシーバー」ではないが退魔師団において補給品を管理している。彼のように一般人でありながら事務仕事や物品管理など退魔師団が活動する上で欠かせない仕事を行ってくれる者も多くいる。

 徳井は「しっかしまあ年末だってのに忙しくて仕方ねえな」パソコンに顔を向けたまま勇二に声をかける。「仕方ありませんよ。予知夢で予想されている時期はもう間近なんですから」「その予知夢ってのは本当に起きるもんなのかね。俺らは見たことがねえからなー」「俺も見たことはあるんですか。子供の頃に1度見たきりなのでなんとも・・・」

 予知夢は一般人はほとんど見ることはなく、「リーシーバー」の中でも見てない人もいる。見る人によっては何度も見る人もいるらしいが勇二は小さな頃に1度しか見ていない。

「何言ってんだおめー。まだガキだろ酒も飲んだことも無いのに大人ぶるなや」笑いながら徳井は勇二をからかう。それを聞き部屋で作業していた他の2人も笑う。勇二はため息をつき「これ、持ってきますよ」と言い部屋を後にした。まだ18であり本来であるならば高校に通っている年齢だ。今年の春から本人の希望で高校を通信制にし退魔師団の活動に専念しているのであった。

 勇二の背中を見送った徳井は「もし予知夢ってのが現実になったらあんなガキが戦争に駆り出されるのか」と一人呟くのだった。

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