筋肉巨人祭~女傑王大激怒!【肉フェス参加作品】
長岡更紗様開催企画『肉の日マッスルフェスティバル第二弾』参加作品です。
読んで字の通り、『筋肉』がテーマです。
レッドガルドより馬車で地底界ロードガルドの歯車騎士団本拠のあるシーマヘイムに向かう途中の街で、精鋭の中の精鋭たる複数の屈強の女性兵士を引き連れ、彼女達に輪をかけて屈強な身体の白き女傑隊長並びに鉄騎士団団長の女傑王メフレックスは窓越しにある光景を見かけた。
「何かしらあれ…?」
メフレックスが違和感を感じたのは、人々があらゆる荷物をゴーレム達に運ばせている光景だった。中には人の力で持てる程度の物もあったのが違和感に拍車をかけていた。
「団長、いかがなさいましたか?」
一人の女性隊員がメフレックスに尋ねた。
「あなたも感じないかしら…?」
「何をですか…?」
「人々がゴーレムに荷物をあれこれ持たせている事よ。中には人の力でも持てる物だってあった。このままじゃロードガルドは間違いなく堕落するわ。」
メフレックスは人々がゴーレムに頼り切りの様を見て機械科学系EL技術の発達したロードガルドの堕落を危惧した。
「ゴーレムは極めて重い物を造作もなく持てますしね。便利である事は確かかと。」
「ええ、でも問題なのはその便利さに溺れる事よ。わたし、このままだとこの地からAUが誕生しなくなってしまうと思うと堪えられないの。」
「団長…、ロードガルドの事をお気になさる気持ちはわかります…。他のガルドの事に口を挟まれるのは…。」
「確かにロードガルドの事はロードガルドの事ね。でも、AUを育むのは我々国境なき騎士団の務めの一つなの。来るべき時に備えるべく…。(まあ…、何だかんだ言っても、『ただこそこそするのが厭』というのが本音だけどね…。)」
「御意…。」
白き女傑はロードガルドの未来を案じながら目的地まで向かい続けた。
白き女傑が歯車騎士団本拠に着くと門には二体のゴーレムが待ち構えていた。
「鉄騎士団団長メフレックスと申します。鉄騎士団直属部隊白き女傑より、歯車騎士団直属部隊ロードレンジャーと合同訓練の為に参りました。歯車騎士団団長サターナ様にお目通り願えませんか?」
メフレックスは一体のゴーレムに書状を渡し、ゴーレムは中に入って行った。暫くして、左右の瞳の色が違い、首から下の肌が露出していない女性が先程のゴーレムと共に現れた。
「ようこそ、白き女傑の皆さん。私は歯車騎士団団長のサターナと申します。」
サターナは自己紹介をした。白き女傑の者達の一部に彼女と面識のない者もいた。
「あなた達、これからロードレンジャーと合同訓練するんだったわね。さあ、こちらへ。」
サターナは白き女傑をロードレンジャーの駐屯地に案内した。
白き女傑とロードレンジャーの訓練は要人救助訓練、穴掘り並びに穴埋め訓練、『マッスルアーマー』というフィジカル強化訓練等様々だ。しかし、メフレックスはロードレンジャーの多くが以前に比べて訓練の段取りに手間取ったり、マッスルアーマーの準備運動や整理運動を端折ったりの様、また、若手の新人がいない事にも違和感を感じた。
(ロードレンジャーの質は横ばい…、いえ、やや落ち気味な感じね…。何より、若手の新人がいないのが気になるわ…。やはり…、街の事といいサターナ達に働きかける必要があるわね…。)
メフレックスは訓練を通じてロードレンジャーの質の低下を感じていたのだ。このように他者の質を見抜けるのは日頃より身体を鍛えているが故の事だ。
訓練が終わって、汗にまみれた身体を流し終えたメフレックスはサターナの元にやってきた。
「サターナ、ちょっといいかしら?」
「どうしたの、メフレックス?」
「鉄騎士団団長として極めて大事な話があるの。あなたの相棒も交えてね。」
メフレックスはサターナに炎の紋章と歯車の紋章を掲示した。
「!…わかったわ…。場所を変えましょう…。」
サターナはメフレックスを歯車騎士団本拠の最奥部に案内した。
最奥部にはサターナの相棒のカムイ、巨人女王ガイアがいた。
「ガイア、女傑王メフレックスがあなたにも聞いて貰いたい話があるとの事よ。」
サターナはガイアにメフレックスの事を伝えた。
「女傑王よ…、私やマスターに話とは…?」
ガイアはメフレックスに話の内容を尋ねた。
「私はここに来る直前の街で人々がカムクリにあらゆる荷物を持たせているのを目撃しました。中には人の力で持てる程度の物もありました。それから、先程ロードレンジャーとの合同訓練で、ロードレンジャーの隊員の中には訓練の段取りに手間取ったり、マッスルアーマーの訓練の際の準備運動や整理運動を端折ったり…、と明らかに質が低下しております。挙句、若手の者も少ない始末でこのままだとロードガルドからAUが生まれなくなるのではと危惧しております。他のガルドの私が口を挟むべきではない事は重々承知しております。しかし、私は国境なき騎士団団長の一人として伝えねばと思った次第です。一つのガルドが堕落すれば、他のガルドも堕落するのではないかと考えての事です。私達国境なき騎士団は来るべき時、そう、ラグナゲドンに備えてAUを育む役目も担っております。どうか、ブルドラシルの為にもマスターと共に手を打って頂けないでしょうか?」
メフレックスはガイアに自分の想いを伝えた。
「…しばし待たれよ…。」
ガイアはメフレックスに暫く待つよう伝えた。ガイアの身体のあちこちが七色に明滅し、中の歯車の音が大きく響いた。暫くして彼女の身体の明滅がやみ、歯車の音がやわらいだ。
「…女傑王よ…、そなたの言う通り…、ロードガルドの人々の身体能力の低下…、ロードレンジャー隊員の質の低下並びに志願者の減少…、いずれも捨て置けぬ事態だな…。」
ガイアはロードガルドの様々な情報を分析していたのだ。その分析結果がメフレックスの話とほぼ一致している事を伝えた。
「マスター…、どうやらロードガルド全体でフィジカル面の向上の必要があると言える…。そなたもお考え頂きたい…。」
ガイアはサターナにもロードガルドのフィジカル面の問題の解決策を考えるよう促した。
「やはりフィジカル面が大切ね…。でも…、ただひたすらフィジカル面の向上を目指すだけでは…。!…そうね…、これならいけるかもしれないわ!」
サターナが何か閃いた。
「サターナ、どんな策なの?」
メフレックスがサターナに策について尋ねた。
「フィジカル面の向上並びにロードレンジャー志願者やAUの増加に結び付けるイベントを開催するの。」
「どんなイベントなの?」
メフレックスはイベントについて気になった。
「日頃より鍛え上げた筋肉を競うイベントを開催するの。鍛え上げられた身体はゴーレムのようで惚れ惚れするわ!そう…、『マッスルゴーレムコンテスト』を開催するの!」
サターナは狂喜しながらメフレックスに筋肉の事を語った。サターナもメフレックス同様鍛え上げられた身体が好きなのだ。
「凄い名前だけど何だか面白そうね。(ふふっ…、あなたも鍛え上げられた筋肉が好きなのね…。)」
メフレックスは自分と同じように鍛え上げられた筋肉が好きなサターナに内心狂喜しつつ頷いた。
日を改めて、歯車騎士団本拠の大会議室でサターナは、メフレックスを交えて歯車騎士団全体を対象にした会議を開き、ロードガルドの現状、その現状を打開するためのイベントを開催する事を伝えた。現状を理解した団員達は誰一人異を唱えなかった。
「では、マッスルゴーレムコンテストでの課題についてレッドガルドの鉄騎士団団長こと女傑王メフレックスにお話し頂きます。さあ。」
サターナはメフレックスに促した。
「まず、一次予選では身体を見ます。きちんと鍛え上げられているかどうかです。お祭り気分で参加する者は間違いなく落とされるでしょう。そう、マッスルゴーレムコンテストは中途半端な気持ちで参加して貰っては困るんです。二次予選では、マッスルアーマーの訓練です。これはレッドガルドの準ニュートラル種である我々ブリジット族に伝わるフィジカル強化訓練です。準備運動と整理運動を端折っていないかに重点を置きます。三次予選では物資運搬です。重い物を持つ際に、ひざを曲げているかどうかと手前から取り出し、奥から置いているか、そして丁寧かつ迅速にしているかに重点を置きます。そして、決勝戦に勝ち上がった方には…。」
メフレックスは予選の内容について話し、決勝戦についてサターナに促した。
「土のクイーンガーディアンこと巨人女王ガイアから歯車の紋章を授かり、成績によって賞金が授与されます。」
サターナは決勝戦の賞与について伝えた。
「しかし団長…、それだけ盛大なイベントを開催するなら…、費用も相応にかかる筈です…。して…、予算はいか程でしょうか…?」
一人の団員がサターナにイベントへの予算について尋ねた。
「そうね…、予算は…、最低でも1MGはするわね。」
サターナは予算に最低1,000,000ゲルダかかると答えた。ゴーレム二体分の製造費用にて、個人ではまず持てないし、法人でも才覚で以てしても稼げるかどうかにてまさに国家級の高額だ。
歯車騎士団は『マッスルゴーレムコンテスト』、通称『筋肉巨人祭』を二の月の九の日に開催する事を決め、各ガルドの国境なき騎士団を介して広報活動等色々働きかけた。その甲斐あって、世界塔ブルドラシル内の各ガルドより多くの参加者を獲得するに至ったのだった。
そして二の月の九の日…、いよいよ開催され、古今東西の屈強の男女達が挙ってシーマヘイムの会場にやって来た。そして、メフレックスは大会のスタッフの一人として抜擢された。一次予選でとんでもない参加者の男性がいた。そう、派手に装飾されたゴーレムを引き連れていたのだ。審査員として会場に立ち会ったメフレックスは意外というより場違いな様に一瞬動揺した。
「あなた…、何か勘違いをしていないかしら…?」
「『ゴーレムコンテスト』なんだろ!?俺の自慢のゴーレムを見てくれよ!」
周囲の動揺をよそに、整備士の男性は自慢げに自分のゴーレムを審査するようメフレックスに主張した。
「これは『マッスルゴーレムコンテスト』で、人が日頃より鍛え上げた肉体を競い合う大会なの!!」
メフレックスは場違いの整備士に大激怒した。
「じゃあ何で『ゴーレム』って名前付けんだよ!?俺、てっきりゴーレムが対象かと思ったんだけど…!」
整備士はまだ納得いかない様子だった。
「人の鍛え上げられた肉体がゴーレムに例えられるからなの!!」
「!!…(くそっ…、そういう事かよ…!紛らわしいったらありゃしないぜ…!)」
メフレックスは人の屈強の肉体がゴーレムに例えられるからだと反論した。整備士は不服ながらもやっと理解した様だ。
「さあ、話は終わりね!悪いけど、規定に従っていない為失格よ!お引き取りなさい!」
メフレックスは続け様に失格として退場を言い渡した。
「…わかりました…。…帰るぜ、相棒…。」
やっと納得した整備士は連れのゴーレムと共に静かに去って行った。二人のやり取りの一部始終をサターナも見ていた。
そして、大会も無事に終わり、優勝者は大きな斧を携えた大男と屈強で知られるブリジット族の女性だった。会場の撤収作業を済ませたサターナとメフレックスは歯車騎士団本拠の談話室で向かい合った。
「メフレックス、今日はお疲れ様。ところで、例のハプニングの件だけど…。」
「ええ、ゴーレムを引き連れたあの整備士の事ね。それでわたし思ったの。ゴーレムを対象にしたイベントも開催するのも一興だと思うの。ただ、機械の事はわたしには畑違いだけどね。」
メフレックスはサターナにゴーレムを対象にしたイベントも開催する必要があると述べた。
「ゴーレムが対象ね…。わたし、ゴーレムだけじゃなくて、ヴァルキリーやウンディーネにジェネラロイド等、ブルドラシル中の色んなカムクリの技術を見てみたいの。そうね…、カムクリが対象の『カムクリ品評会』もいつか開催してみたいわね。」
サターナはカムクリが対象のイベントを開催してみたいと話した。
「ブルドラシル中のカムクリ品評会ね…、悪くないわ。(…やっぱり機械の事はサターナには敵わないわね…。)」
「ふふっ…、有難う…。」
メフレックスとサターナは暫く色んな事を語り明かした。
マッスルゴーレムコンテスト…、略して『M.G.C』は毎年二の月の九の日にシーマヘイムで行われ、『人はカムイやカムクリに頼り過ぎてはいけない』等の警鐘ともなり、ロードガルド出身のAUは勿論、ロードレンジャー志願者も徐々に増えていき、何より『AU達の登竜門』と揶揄される程の支持を得たのだった。