双子の死神
私は、死神なのだそうだ。
双子で産まれた死神の片割れである私は、
幼い頃に死神である事を隠して引き取られた。
なぜ私がこんな話をし始めたか。
それは数日前に遡る。
この街では、一年に一度、選ばれた人間が殺される事になっている。
これは予知のようなもので、逃れようのない運命だ。
私は、選ばれてしまったのだ。
私は片割れの死神に殺される。
家の周りにはマスコミが張り付いている。
大体死ぬ日の予測は立ててあるのだが、待ちきれないのだろう。
スクープの瞬間を。
かつてアナウンサーだった私の死を、
かつての同僚が望んでいる。
今まで死神が選ばれ、殺されるなんて聞いたことがなかった。
だから私は、
いつの間にか、
無意識のうちに、
自分を殺害リストから除外していた。
それでも私は死ぬ。
死ぬ前に、
私は誰かに知って欲しかった。
自分のことを、
私は死神であるということを。
ベッドの上で打ち明けた。
一つ一つ、ゆっくりと。
私は双子で産まれた死神であるということ。
この家に引き取られたこと。
そして、私を殺すのが双子の弟であることを。
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信じられなかった。
僕はテレビを何度も点けて、
何度も消した。
僕が姉さんを殺すだなんて。
あぁ姉さん。
この世にたった一人の、僕の家族。
この暗闇の中でずっと人殺しをしてきた僕の目から熱いものが零れ落ちる。
もう真っ当な感覚なんて、喪ったものだと思っていたが。
不妊治療の末にやっと身篭った妊婦を殺しても、重病に耐えて毎日笑顔で暮らす幼子を殺してもびくともしなかった僕の心臓は、このニュース一つで、今にも潰れてしまいそうだ。
僕は姉さんに隠れてずっと見守っていた。はたから見ればストーカーと変わりない。
でも血に濡れた殺伐とした世界で暮らすには僕はまだ幼かったんだ。
産まれてすぐ貴族に引き取られた姉さんと違って僕は盗みに殺しに何でもやる人生を余儀なくされた。
そんな僕の唯一の心の支えは、
他でもない姉さんの存在だった。
姉さんが無事に生きている事を確認する、それが日課になっていた。
姉さんに危害を加えようものなら即刻排除していた。
その僕が。
姉さんの命を奪うことになろうとは。
運命を変えられない自分の無力さ、
そして
一瞬でも殺害方法を考えてしまった
自分の忌々しい職業柄に、
煮え滾るマグマのような怒りが溢れた。
やり場のないぐちゃぐちゃの感情は全て涙に変わっていった。
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話終わる頃に、窓の外に人影が現れた。
私は顔を見るまでもなく、それが私の弟であるとわかった。
それだけじゃない。
会ったことなんて無いはずなのに、
再会に心が喜んでる。
視界が滲んできた。
双子って、テレパシーでもあるのかな。
そんなことを考える私の顔を、
悲しみや怒りの入り混じった、
口惜しそうな顔で私を見つめる。
いや、睨みつけるの方が近い。
今夜私は殺される。
そんなに悲しい顔をしないで。
私の弟、世界でたった一人の家族。
でもふと、こんなことが頭をよぎる。
死神って、何だったのかな。