3.挑発
城の小さな部屋で私は取り調べを受けていた。私は取り調べをする騎士の質問に淡々と答えた。
私の予想は的中したようだ。魔封じの石の効果は抜群だった。魔封じの石は封印を解けば一定範囲の魔法を封じる事が出来る。
私は、子どもの起爆には魔法、或いは爆弾を使っていたと考えた。
まず、魔法を使った場合は起爆させる為に細工した魔石を子どもの体内に仕込んでいる。その場合は、遠隔魔法で魔石に魔力を送り込み起爆させる事ができる。
爆弾を使った場合は、まだ、この時代に時限式の爆弾は開発されていない。その事から、爆弾を使って時間を指定して起爆させるのは不可能だろう。そして、普通の小型の爆弾を使うなら、自分で爆弾を起爆させる必要がある。しかし、あの事件の時、子どもは取り押さえられていた。自分で爆弾を起爆させる事は不可能な状況だ。
その事から私は子どもの起爆には魔法を使ったのだと予想した。
魔封じの石を使えば、遠隔魔法で魔石を起爆する事は不可能になる。そして、魔封じの石で子どもの体に付与されていた力を増強させる魔法の効果も打ち消された為、クリストフに取り押さえられても、抵抗できなかったのだ。
事情聴取の質問は終わった。
「なるほど.....。陛下に暗殺を企てている何者かがいる事を公爵様が事前に知っていた。そして、魔封じの石で、あの子どもに付与されていた魔法と爆発するかもしれない、魔石を封じたのですね」
「その通りだ。陛下は、まだ狙われているかもしれない。今後の事について会議を今すぐ開きたい。その会議は陛下にご同席頂きたい。文官長にその旨を伝えてくれぬか?」
「かしこまりました。長い時間、拘束してしまい申し訳ありませんでした」
取り調べを終えて、解放された私はあの子どもがどこにいるか教えてもらい、医務室に向かう。
医務室の近くにはクリストフが立っていた。
「クリストフよ。よくやった。今度、褒美を与えよう。あの子どもはどうした?」
「私には、勿体ないお言葉でございます。陛下がご無事で何よりでした。今から、魔法使い数人が子どもの体内の魔石を取り除く所でございます」
今、魔石を取り除いたとして、意識を取り戻すまでに数時間はかかる。
「子どもに取り調べはしたのか?」
「はい。事件の時の事について、騎士と文官が取り調べを行いましたが、強い自己暗示のようなものがかけられており、放心状態でした。今、取り調べが出来る状態ではありませんでした」
「なるほど。その子どもには首謀者を割り出す、重要な手がかりをつかんでいるかもしれない。魔石を体内から取り出すのは、一番安全な方法で頼むように魔導士たちに伝えてくれ。あと、子どもに護衛をつけるように頼む。その護衛の見張りもクリストフには頼んだ」
「かしこまりました」
子どもは証拠を残さぬように爆破されたのだ。すぐに子どもを殺そうとする者が現れてもおかしくない。首謀者など、すでに分かっているが、せっかく助かった命なのだから、殺してしまっては後味が悪い。
クリストフを医務室に残して、私は会議が開かれるか確認をするために文官を探す。
城の廊下を通っていると、聞き慣れた忌々しい声が聞こえてきた。
「ルドルフ殿から聞いたぞ!エフィデル殿がそのような事をするなど、見損なったぞ!」
「ギュスターブ殿、話が見えないのですが、要件は何でしょうか?」
五人の筆頭貴族の一人である、ギュスターブが私に怒鳴ってきた。そのギュスターブの後ろにはルドルフがいる。
ルドルフが芝居がかった仕草で前に出てきた。
「これはこれは、エフィデル殿も、自作自演で、陛下の信用を得るなど、そのような愚かな事をするなどとは思ってもいませんでしたよ」
「何を言うかと思えば、陛下から信用の無いお二人がやるのなら分かりますが、日頃から陛下と懇意にしている私が、そのような事をして何の得があるのでしょうか?」
「なっ、何を申すかっ!」
「貴様っ!私とルドルフ殿を侮辱して、ただで済むと思うなっ!」
一体何を言うのかと思えば、笑い出しそうで困る。ルドルフは分かり易く取り乱し、ギュスターブの顔色を伺っている。ギュスターブが私に怒っている事が分かると、ルドルフは勝利を確信したのか、意地の悪い笑みを浮かべている。
ギュスターブは、私と陛下の仲が良い事をずっと逆恨みしていた。私がお飾りの宰相に祭り上げられた時に散々、嫌味を言ってきた。
そして、陛下が暗殺された後、ルドルフと一緒に数々の悪事を行ってきた。
しかし、ギュスターブ本人がこの事件に関与していたかは定かではない。ルドルフと仲が良かったが、この男は陛下に忠誠を誓っていたように思う。だから、私はあえてあのような挑発をしたのだ。
二人が陛下暗殺を企てていた共犯者なら、あのような事を言われて、ギュスターブは動揺して多少の間が空くはずだ。しかし、私の挑発に直ぐに怒りを露わにした。私は、ギュスターブは白だと確信した。
他にも筆頭貴族は二人いる。共犯者かそうでないかを洗い出す為にも、ルドルフとギュスターブには、もっと動いてもらわねばいけないな。もう少し挑発をしてみるか。
「都周辺の領地を任せられている私が、その様な危険を侵さずとも、陛下の信用も財力も何の揺るぎもしないでしょう。ルドルフ殿も、もう少し無い知恵を絞ってくださらねば、また北の痩せた土地を任せられますぞ」
「ぬっ!ぬぬぬっ!この様な侮辱をされるとはっ!許さぬっ!覚えておれっ!」
ルドルフは肩を震わせながらワナワナと怒りを露わにした。それを見たギュスターブは笑いを堪えている様に見える。
「ギュスターブ殿も、あまり、彼を信用しない方が身の為でしょう。危機管理能力も、領地を経営する上で大切なのですからな。その様な事だから、特に取り柄のない西の領地を任せられるのですぞ」
「貴様に言われずとも分かっておる。ふんっ。ルドルフ殿っ!もう行きますぞっ!」
「貴様っ!覚えておれっ!」
二人は捨て台詞を吐いて去っていった。
この国の領地経営は筆頭貴族の五人が代々、執り行う事になっている。筆頭貴族から、各派閥の貴族達に各地の領地経営を行わせるのだが、その手腕によって任せられる領地が決められる。
東西南北、そして帝国周辺の五つの領土に分けられるが、その中でも帝国周辺の領土を任せられれば、多額の援助金と税金を受け取る事ができる。
領地経営は3年ごとに更新されて、領土拡大と領民を増やす事、利益を生む事の三つが評価の基準となる。
利益の為に、領民から税を搾取しすぎてしまっては領民が離れてしまう。かといって、税を取らなすぎて、税を納められないのも駄目だ。その、手腕を見せる事が3年の内に出来れば、陛下から認められて、王都周辺の領地を任せてもらえる。私は、12年連続で王都周辺の領地経営を任されている。その分、私には敵が多いが。
私の挑発にまんまと引っかかってくれた二人は、共犯者を洗い出す為に一役買ってくれるだろう。
二人とも上手くやってくれよ。くっくっく。面白くなってきたぞ。