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2.運命への抗い

 あれから何時間たったのか。何が起こったのか、私は目が覚めた。不思議なことにどこにも痛みは無く体の傷も癒えていた。


 見慣れた我が屋敷の天井がある。

 側には私付きの執事のクリストフがいた。私は夢でも見ているのだろうか?死ぬ前に見る走馬灯というやつだろうか。


 これは夢だったのか?

 ここに居るはずなど無い筈だ。彼はあの時.....


「旦那さま。おはようございます。お召し物と朝食の用意は出来ております」


「クリストフなのか?」


「ええ。クリストフでございますが?」


 一瞬だけキョトンとした顔をしたが、さすが一流の執事。その顔をすぐに元に戻した。


「すまない。寝ぼけていたようだ。着替えを頼む」


「かしこまりました」


 クリストフは着替えを持ってきた。白を基調とした法衣の胸元には銀の刺繍が入れられている。


 しかし、これはいつも私が着ていた物とは違う。爵位とは別に、この国の神に仕える聖職者には七つの階級がある。

 これは第六位の六聖位の衣だ。私の聖位は最上位の七聖位だ。法衣の胸元には金の刺繍が入っている筈だ。


「クリストフよ。いつも着ていた法衣はどうした?」


「主人様、今日は皇帝陛下の誕生祭でございます。会議で来ていかれる法衣より、こちらの正装の方がよろしいかと」


 思い出した。これは、皇帝陛下の60歳の誕生祝いを間近に気を良くした私が、今日の為に用意させていた法衣だ。あの頃は確か、六聖位だったから、この法衣の銀色の刺繍は合っている。


 私の脳裏に蘇る。今日が陛下の誕生日であるならば、これは10年前の忌まわしいあの事件の記憶だ。


 この夢か走馬灯か分からぬ、現象がいつまで続くか分からぬが、10年前に私がこのような質問などしなかっただろう。

 現に今、クリストフは主人である私の言動に冷や汗をかいて動揺を隠せずにいるのだから。


 私の記憶通りに行動しなくても良いのなら陛下の暗殺を未然に防ぐ事が、今の私には出来る筈だ。



「すまぬ。寝ぼけていたようだ。朝食はすぐ食べられる軽い物で良い。あと、頼みがある。今から欲しい物を紙に書くから、すぐにその紙に書いた物を用意してくれ」


「そうでしたか。この日の為に用意していた法衣に何か不備があったのかと、肝を冷やしました。では、すぐ書く物をご用意致します。その後にお召し替えをさせていただきますね」



 クリストフは直ぐにペンと紙を用意した。


 私は暗殺を未然に防ぐために必要な物を全て書き、クリストフに渡す。


「では、こちらの紙に書かれているものをご用意いたします。お急ぎの様ですが、何時までにご用意すれば宜しいでしょうか?」



「すぐだ。陛下の参列なされるパレードの前に必ずだ!クリストフにもやってもらう事がある、用意できたら私の所へ来るように」



「かしこまりました。では直ぐにご用意させて頂きます」


 私は紙を渡すとクリストフは直ぐに部屋を出て行った。しばらくすると数人の給仕たちが、私の着替えを手伝ってくれた。



 私は紙に書いたものを全て、マジックアイテムである、小型の収納袋に入れて法衣の袖に忍ばせる。


 広場にて、パレードの行進が始まる。

 軍隊の行進と共に陛下は手を振り、国民からは祝福を受ける。

 私は、五人の筆頭貴族の中で代表の一人に選ばれたため、陛下の直ぐ後ろの小さな馬車で行進に参加していた。



 10年前の、このパレードの中で悲劇が起きたのだ。陛下が暗殺されたのは、陛下の乗っていた馬車が襲われたのではない。街が軍隊に襲撃を受けたのでもない。射手が矢を放ったのでも、魔法使いが魔法を放ったのでもない。


 それは、陛下が馬車から降りられた時の一瞬の出来事だった。5歳ほどの男児が陛下に花束を渡そうと近づいた。


 まさか、この様な小さな子どもが陛下に害をなす筈がないと、皆が油断していた。陛下でさえも油断していたのだろう。花束の中に刺突用の片手剣が仕込まれており、その子どもは陛下の胸に花束ごと片手剣を突き刺した。


 一瞬の出来事に辺りは騒然とした。しかし、子どもには爆発する仕掛けが施されており、事態を把握した騎士達が子どもを取り押さえる頃には爆発して跡形もなく消えてしまった。


 そもそも、この国の皇帝は代々、巫女としての役割も兼任している。巫女は神の啓示を受け、国に繁栄をもたらし、他者からの悪意や敵意を見抜く神通力をもっている女性が継ぐ事となっている。その能力が、このベオグニード帝国を大陸一の国にした理由でもある。


 その力があるならば、並の暗殺者に陛下が殺される筈がない。


 だから、あの子どもに何かカラクリがある筈だ。洗脳か、或いは殺気も感じさせぬ程の殺しの達人か。どちらにしろ洗脳は確実にされている筈だ。


 そして、大人の女性の胸を片手剣で貫通させる腕力は異常だ。子どものなせる業ではない。薬で腕力を増強すれば、腕は太くなるから考えにくい。身体能力を増強させる魔法を付与していたと考えられる。



 パレードの行進は、もうじき街の広場に到着する。間も無くあの事件の日に陛下を暗殺した子どもが現れる時が近くなってきた。私は小さく呟いた。


「いよいよだ.....」



 街の広場に特設された壇上で陛下が演説なさる。陛下が馬車から降りた時に悲劇は起きる。


 10年前のあの時、私は何もする事が出来なかったが、今は違う。

 陛下は私が必ず救ってみせる。


 今度こそ運命に争ってみせるのだ。



 皇帝陛下は、御者から手を引かれ馬車を降りる。すると、陛下の側にいた子どもの一人が騎士の隙間をかいくぐり、花束を持ち陛下に近づいてきた。


 子どもに気がついた陛下は花束を受け取ろうとしゃがみこむ。子どもは陛下に近づき、陛下に花束を近づけた。


 計画を実行に移すタイミングは今だろう。


「陛下っ!お許し下さい!」


 私は陛下の側に近づき、防壁魔法のスクロールを広げる。陛下はたちまち、防壁魔法の光で包まれた。


「エフィデルよ。これは一体っ....」


 私のいきなりの行動に陛下と騎士たち、そして民衆は、呆気にとられていたが、すぐ後に広場に大きな音が鳴り響き何がおきたのかすぐに分かった。


 子どもが防壁魔法に花束を突きつけたのだ。防壁魔法は子どもの攻撃を防ぎ、散らばった花束の中からは刺突用の細い片手剣が露わになる。


「クリストフよ。今だ!その子どもを捉えよっ!」


「かしこまりました」


 私はクリストフに予め命令していた事をしてもらう。クリストフは子どもを取り押さえさせた。


 そして、私はクリストフが子どもを取り押さえている間に収納袋の中から魔封じの石を取り出し、魔封じの石の封印を解いた。私がスクロールで発動させていた、陛下の防壁魔法は霧散して消えてしまった。


「すぐに陛下をお守りしろっ!」


 騎士隊長の掛け声と共に騎士の数人が陛下の守りを固める。


 子どもはクリストフに取り押さえられても抵抗しなかった。子どもは起爆しないようだ。


 どうやら私の予想は的中し、ほっと一息つくのは束の間、私は騎士たちに囲まれてしまった。


「公爵様、あの子どもが陛下に害をなすと何故、気がついたのですか?」


「予感が的中したのだ。詳しくは城で話そう」


 こうなる事は予想していたが、どうやって切り抜けたものか。クリストフに魔封じの石を渡して、魔導士に魔石を取り出してもらうように命令をしておく。私は騎士達に城へ連行されて行く。

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