表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな珈琲店の悪魔  作者: 悠
風の女神編
8/14

第7話「風の女神〜フレイヤ〜」

第7話「風の女神〜フレイヤ〜」


俺たちが森に潜入して数時間が経った。


森にあったモンスターの変死体は、すでにギルドが回収していたのでほとんど見当たらない。


「今のところ異常なしだな」

やめろカイト。そんなフラグを回収するような事を言うのは。


いや、言いたくなるのもわかる。森に入って数時間経つが、特別変わったことは起きていない。


商人が言っていた「仮面の子供」と「若い女」とやらも見つからない。

やはり2人は無関係なのか?


その時、カンナが何かに気づいた。

「2人とも静かに。何かがこっちに近づいてくる」


悪魔族であるカンナは、魔力感知力がずば抜けている。

俺らは数百メートルが限界だが、カンナは半径10kmまで可能だ。

まあ、魔力感知は努力次第で伸ばすことも可能なのだが。これがなかなか難しい。


「数は1人。前方からものすごい速さでこっちに来てる」


例の犯人か?向こうもこっちの存在に気づいているのだろうか?

俺たちは武器を構えて、そいつが現れるのを待った。


「来るよ。残り200m...150m...」


前方は高い木々が生い茂っていて見えない。

こんな緊張感は久々だ。


「50...0!」

カンナのカウントが終わると同時に、奴は木の上に現れた。


仮面の子供だ。


仮面の子供は、どうやら木から木へと飛び移ってここまで来たらしい。

なんて身体能力。ただの人間ではなさそうだな。


俺が「お前は誰だ」と聞こうとした瞬間だった。


奴は木からこっちに向かって飛び、俺の頭に向かって攻撃してきた。


槍!?コイツどこに隠し持ってやがった!

俺は紙一重で奴の攻撃を躱すが、仮面の子供はすかさず攻撃を繰り出す。


「ちょ!ま!あぶ!クッソ!」

コイツなんて早さしてやがる。

攻撃ひとつ躱すのが精一杯だ。


「ユウタだけ楽しいのはズルいぞ!」

カンナが何故か嫉妬している。


「楽しんでないから早くコイツなんとかしてぇ!」


カンナが奴の横から攻撃を仕掛ける。

「そっちが槍ならこっちも槍だよ!『暗黒槍ダークネス・ランス!』


仮面の子供はカンナの攻撃を受け止めた。


「なかなかの魔力の持ち主だな。これは少々手強そうだ」


その時、奴はカンナに手を向け、技を放った。


「『風のサイクロン』!」


「ウアッ!」

奴の手から放たれた風で、カンナが吹っ飛ばされた。あいつ、やはり能力者エレメント・マスターか!」


仮面の子供は、ターゲットをまた俺に切り替えたようだ。


すかざす黒刀で対抗する。


「なぁ!話ぐらい!聞いてくれても!良いんじゃないか!?」

俺から会話の交渉をするが、聞く耳を持たない感じだ。


「黙れこの悪魔!!人間のフリしてもわかっているんだぞ!!」


「俺は100%人間だ!」


「嘘つけ!この狂人!よくも森のモンスター達を殺してくれたな!!」


ん?森のモンスター達?


「ちょ、ちょっと待って!」


攻撃を止めるように頼むが、奴の攻撃は勢いを増すばかりだ。


「眠れ」

カンナが突然目の前に現れ、奴の前で指を鳴らした。


仮面の子供はそのまま地面に倒れた。


「さっきの仕返しだ!」


やっと落ち着いた...

俺はため息を吐いた。


「カイト最初からこいつの動き止めてくれよ〜」


「すまん。子供相手に大人3人で行くのはどうかと思ってな。まぁ、お前なら大丈夫だと思ってたさ」

カイトは笑いながら答えた。

まったく...この相棒は...


さて、コイツだか...また暴れられては困るから、木に縛り付けておこう。

それにしても、コイツさっき「森のモンスター達を〜」とかって言ってたな。


それから10分が経った頃、仮面の子供は目を覚ましたようだ。


「おはようさん。気分はどうだ?」


「ッ!?」

どうやら自分が縛られて動けないことに気がついたみたいだな。


「大丈夫、安心しろ。俺らはお前に危害を加えるつもりはない。ただ、聞きたいことがある」


「黙れ!お前が犯人なんだろ!?」

話が進まないなぁ...


「最近起きてるモンスター虐殺の事だろ?俺たちはその犯人を探しにきたんだ」


仮面の子供は「え?」と 言って静かになった。

やっとわかってくれたかな?


「話を聞く限り、お前は犯人じゃなさそうだな。知っていることがあれば教えてもらってもいいか?」


「うん」

なんだ意外と素直じゃないか。

俺は縄を解いてやった。


「疑ってごめん。実は俺もモンスターを殺し回ってる犯人を探してたんだ。俺はシュウ」


「俺はユウタ、こっちがカイトで、コイツはカンナ」

お互い自己紹介したところで早速本題だ。


話によると、シュウは2年前からここの森に住んでいたらしい。

何不自由なく、森の生物達と毎日を過ごしていたのだが、ある日例の事件が起きた。


「モンスター虐殺事件か」


「最初、異変に気付いたのは5日前。森の中を散歩していたら、エレファンが死んでいたんだ。最初はハンターにやられたんじゃないかって疑っていたんだ」


エレファンとは象の下級モンスターだ。

通常、エレファンの性格はすごく穏やかで人を襲わないからギルドの討伐対象から外れている。


「けど、死体は胴体を真っ二つにされ、目玉をくり抜かれていた。これは、どう考えてもハンターの仕業じゃない」

そこまでは俺たちと同じ考察だった。


シュウは犯人を探そうと森の中を見て回ったが、犯人はなかなか見つからず、死体は増えていくばかり...


「この森の生物達は、みんな穏やかな心を待っているんだ。別に危害を加えているわけでもないのに、なんで殺されなきゃいけないんだよ!」

シュウは悔しそうに泣いた。


そうか。こいつにとってこの森の生物達は、家族や友達みたいなものなんだろうな。


「シュウその犯人、俺たちで協力して探そう」


シュウは「わかった」と頷いてくれた。


こうして、俺たちは4人で犯人探しをすることになった。

目撃情報があった謎の女...まだ確信はないが、そいつが犯人である可能性もある。


シュウは一度、住んでいる小屋に案内してくれた。その道中で


「そういえば、何で俺を犯人だと思ったんだ?」

側から見たら俺は19歳の青年だ。「悪魔」呼ばわりされたのは別に気にしてはいないが、何か理由があるんだろうな。


「...『風の女神』《フレイヤ》が教えてくれたんだ。ユウタから、邪悪な魔力を感じるって」


「フレイヤ?」


「『風の女神フレイヤ』は俺の能力エレメントのこと」


なるほど。『風の女神フレイヤ』が俺の魔力を感知していたのか。


邪悪な魔力ね...


「お前はいつから能力エレメントに目覚めたんだ?」

カイトが質問をする。


「目覚め始めたのは3年前ぐらい。ちょっと色々あってね...」


コイツも訳ありか...思えば俺もカイトそうだったかも。


俺は母親が死んだショックから『闇喰ヤミクイ』が目覚めた。


カイトは実家の厳しい訓練で魔力を使えるようになったが、その後、ある事件で『白狼ホワイト・ウルフ』が目覚めた。


そうこう話しているうちに、シュウの小屋にたどり着いた。


2年前、ここの森に来た時偶然見つけたらしく、今でも寝床にしているらしい。


中は俺らでも十分休める広さと快適さだった。


「おぉ!フォレストキャットじゃないか!可愛いぃ!」

カンナ、はしゃぎすぎだ。


フォレストキャットは森に住み着いている、いわゆる森猫だ。


「可愛いだろ?フォーって言うんだ」


フォーは「ニャーゴ」と挨拶(?)をした。


ひとまず、今回の事件に関して一通り話し合い作戦を立てることにした。


もちろん、シュウにも例の謎の女の事を話したが、心当たりはないみたいだった。


俺らは二手別れ森の中を探索することにした。

俺とカンナは西側へ、カイトとシュウは東側。

何かあったとき、俺とカイトが連絡を取る形だ。


時刻は夕方になり、あたりは少しずつ薄暗くなってきた。


「まずいな。このままだと探すのも大変だ」


「それにおそらく相手は魔力を切っている。私の魔力感知でも探せないとなると骨が折れる作業だな」


まったくだ。この広い森の中で犯人を探し出すなんてそう簡単にはいかない。

これは後日、おやっさんにご飯奢ってもらわないと割に合わないぞ...


「あの子供、ユウタのこと「悪魔」って言ってたな」

カンナがにひひと笑っている。


「んまぁ、実際間違いじゃないからな。お前と契約して、俺は半分悪魔みたいなもんだし」

カンナと契約したのはいつだったか。あれは俺から望んで契約したので、後悔はしていない。お互いの目的が一致した。そんな理由だ。


「...まだあの事は忘れてないのか?」


「あの事」ねぇ...ずっと心の片隅に残ってるよ。

カンナだけが知っている。俺の秘密だ。


そんな事を思っていると、奥の方から何やら物音が聞こえた。


なんだ...?


「誰かいるぞ」

カンナが小声で教えてくれた。


例の犯人か?

俺たちは恐る恐る、音のなる方へ近づく。


音は少しずつ鮮明に聞こえてきた。


なんだこの音...何かを切りつける用な音と、水の音?


暗くて先が見えない。シュウに借りたランプがあるが、点けたら相手に気づかれる。


「女だ。女がいる」

カンナの目は、暗闇でもある程度先が見える。


女?例の謎の女か?

音はまだ鳴り止まない。何をやっているんだ?まさか...


俺たちが音の根源に近づいた時、向こうも俺たちの存在に気づいたみたいだった。


「あら?どなたですの?まったく気づきませんでしたわ」


女性の声だった。

気づかれてしまったのでランプを灯す。


そこには黒いドレスを着た、色白い不気味な女が立っていた。

まさか、商人達が遭遇した奴か?


「こんなところで何やってるんですか?」


「あぁ、わたくし、道に迷ってしまいまして...」


「道に迷ったって...」

俺は女の右手に目が行った。


彼女は血の付いたナイフを持っていた。


「ユウタ!そいつの後ろ!」

カンナの声で女の後ろに目をやる。


そこには、おそらくさっきまで生きていたモンスターの死体があった。


俺はそれを見て確信した。

コイツが例の犯人だ!


「あらぁ?あなたぁ、何やら面白い物を持っていますね?」

女はニヤリと笑い、こちらに近づいてくる。


コイツ...ヤバイかも...


「すこーしだけで構いません。わたくしにそれ、見せていただけませんかぁ?」



第7話「風の女神〜フレイヤ〜」 完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ