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小さな珈琲店の悪魔  作者: 悠
「Bonds」番外編
6/14

Mother

※本編はユウタの過去編となり、母親が殺された後の話となります。


こちらを先に読まれると微妙にネタバレになるので、本編から読む事をオススメします。


いやまあ言うて、こっち先に読んでも問題ないけどね。


強いて言うなら、今回はちょっと特殊で、前半は姉のハル目線。後半は弟のユウタ目線でお送りしてますので、そこで混乱しちゃうかも。


分からないことがあればコメントください。

ホームにTwitterのURLも貼ってあるので、そちらで聞いてくれても構いません。


本編と多少の矛盾は許せ。俺も忘れる。

ある日の朝、その人は、ユウタと母を抱えて現れた。


ユウタは左腕を骨折しており、頭からは血を大量に流していた。


そして...


母はすでに息絶えていた。


私はその場で泣き崩れた。大好きだった母が、優しかった母がもうこの世にいない。当時の私に、そんな現実を受け入れられる心はなかったのだ。


私が泣き喚いている間、村の人たちはユウタの命を繋ぎとめようと必死になってくれてた。


村人「エレナさん息子だ!絶対に死なせるわけにはいかねぇ!」


村人「おい!店にある回復薬ポーション持ってこい!」


ユウタは村の医務室に運ばれていった。


母を失った悲しさ。ユウタを失う恐怖。


ユウタ、お願い。死なないで。


私はその後も数時間泣き続け、次第に疲れて眠ってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目が覚めたら自分の部屋のベッドにいた。

窓の外を見るとすっかり暗くなっており、月明かりが私の部屋を照らす。


ルミエル「起きたか」


ハル「あ、あなたは」

そこには今朝、ユウタと母を抱えていた女性が立っていた。


ルミエル「私はルミエル。お前の母さんの友達みたいなもんだ。それと、母、エレナの事だが...助けられなくてすまなかったな」


私は何も言えなかった。

母の事を思い出すと、寂しさがこみ上げてくる。


ルミエル「だが、エレナは自分がこうなるとわかっていた。あいつは、すでに自分の死を受け入れていたんだ」


なんの話なのかわからなかった。

でも、昨日母が家を出る前に言ってくれた言葉を思い出した。


母『ハル、ユウタのことお願いね。あの子、寂しがり屋でしょ?ハルがそばに居てあげてね』


あの時の母は、どこか悲しそうな顔をしていた。


ルミエル「お前の弟だが、村の人たちが何とか一命を取り留めてくれたみたいだな」


ユウタ!?よかった、無事だったんだ。

ユウタの無事がわかって、私は安心した。


師匠「今は医務室のベッドで寝ている。明日お見舞いに行ってやれ」


そう言って部屋を出て行こうとする彼女の服を私は掴んで引き止めた。


ルミエル「なんだ?私はもう行くぞ」


ハル「あの...えっとね...その...」

お母さんになら言えるのに、上手く言葉が出てこなかった。


母を失って、私は寂しかったのだ。


モジモジしている私をみて彼女は察したのか


ルミエル「...ったく、わかったよ。母を亡くしたお前らを放っておくのもおかしいよな」


その日からルミエルさんは毎日、私と一緒に寝てくれた。

母以外の人と一緒に寝るのは少し緊張したけど、人の体温と言うものはとても心地いい。自然と私の心は安らいだ。



次の日の朝、私たちはユウタの様子を見に、村の診療所に向かった。


医者「ハルちゃん!よく来たね!ユウタくんのことだろう!?」


お医者さんはすぐに案内してくれた。


ユウタの治療は無事に終わり、なんとか一命を取り留めたのだったが、問題がひとつあった。


ルミエル「心が死んでいる?」


ユウタは、魂が抜けたかのようにベッドに座っていた。


医者「腕の怪我は回復薬ポーションを使ったから2〜3日あれば治るが、心の方はもっと重症だ...」


お医者さんの話によると、ユウタは生きているが、心が無い抜け殻状態だと言う。


それでも、ユウタが生きているだけでも私は嬉しかった。


私の唯一の家族。


ハル「帰ろう。ユウタ」


私たちはユウタを連れて、家に帰った。


帰ってから始まったユウタの介護生活は地獄を見ているようだった。


夜中に悪夢を見るのか、突然大声を出して暴れるので、それをルミエルさんが抑える。


ご飯を食べさせるが全て吐いてしまうので、毎日お医者さんが栄養剤を打ってくれた。

もちろんユウタは暴れるのでルミエルさんが無理やり抑え込む。

その度に、治りかけていた腕がまた悪化する。


ルミエル「ユウタぁ!お前このままだと死ぬんだぞぉ!!」


その生活が1ヶ月続いた。



そして...



ルミエル「最低限の治療は終えた。後はお前次第だ」


ハル「私...次第...?」


師匠「私たちは身体の傷は治せても、心の傷までは治せない。治療法があるのなら、唯一の家族であるお前だろう。私は外で一服してくる」


ハル「あっ...」


ルミエル「大丈夫。心は完全に死んじゃいない。優しく話しかけてみな」

そう言って、ルミエルさんは部屋を出て行った。


ベッドに腰掛けているユウタを見る。

1ヶ月前と比べると、だいぶ良くなってきた気がする。


もしかしたら...


・・・・・・・・・・・・・・・


ハル「ユウタ...隣、座るね?」


...


ハル「よかったねユウタ。あんな綺麗なお姉さんにお世話してもらって。ちょっと乱暴だったけど」


...


ハル「ずっと心配してたんだよ?ユウタが戻ってこなかったらどうしようって」


...


ハル「そういえば、お母さんね、実は私に相談してたんだ。「ユウタの事をお願いね」って」


...オネ...ガイ?


ハル「ユウタはお母さんの事大好きでしょ?だから、いなくなったとき、私が面倒見なきゃって」


...


ハル「そういえば、お母さん最後に何か言ってなかった?」


カア...サン...?


母『ユウタ...お姉ちゃんのこと...頼んだわよ』


...そう...だ...


母『2人で頑張って、生きるのよ』


そうだ...


ハル「あ...ユウタ?涙が...」


母『強く生きるの』


・・・・・・・・・・・・・・・


俺は心を取り戻した。


姉はそれに気づいたのか、俺の事を強く抱きしめて一緒に泣いてくれた。


男のプライドなんて関係ない。俺は喉が潰れるまで叫び、目が腫れるまで泣いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ハル「ほら涙拭いて。私も泣きすぎちゃった。今日はシチュー作ったから一緒に食べよう?シチュー好きだったよね」


俺がうんと頷くと、姉は優しく俺の手を引いてくれた。


部屋のドアを開けたとき、居間の光が眩しくて目が開けられなかった。


自分の部屋を出るのは実に何週間ぶりだろうか。心が一度死んでから、その先の記憶があまりない。


居間に行くと姉が作ってくれた料理の香りが部屋中に充満しており、俺の鼻腔をくすぐった。


俺はテーブルの椅子に座り、目の前に置かれたシチューを一口食べた。



それはいつも母が作ってくれたシチューの味だった。



ハル「あ、また泣いてる。もう、どうしちゃったの?美味しくなかった?」


ユウタ「ごめん...」


ハル「ん?」


ユウタ「ごめんね...姉ちゃん...俺のせいで...」

俺は潰れてガラガラになった声で姉に謝った。

涙が止まらなかった。母は俺のせいで死んだ。罪悪感だけが胸を押しつぶす。


泣くな。姉だって辛いんだ。それでも、涙は滝のように流れた。

俺につられて、姉もまた泣いた。


その日から数日、俺がまた泣くんじゃないかと心配した姉は一緒に寝てくれた。

当時9歳の俺は、不思議と恥ずかしさを感じなかった。感じたのは、姉の体温と安らぎだ。


俺は、心を取り戻して2日目で動ける身体にまで回復した。

折れていた左腕は何故か真っ黒に変色していたので医者に診てもらったが、原因はわからなかった。

不自由なく動くし、痛みもないので気にはしていなかった。


そして


ユウタ「ありがとうございました」

外でタバコを吸っているルミエルさんに俺はお礼を言った。記憶が無かったときの事を姉に聞いたからだ。


ルミエル「なんだ。やっとまともに喋れるようになったのか」


ユウタ「はい...」


ルミエル「良かったじゃないか。それじゃ私は...」


ユウタ「あ、あの!俺、強くなりたいんです!」

ルミエルさんが驚いた顔でこちらを見ている。


ユウタ「もう何も失わないように、強くなりたい!俺に、剣を教えてください!!」



ユウタ 過去編「Mother」 END

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