第5話「神の復活」
お昼を過ぎた頃にはお店の客足も落ち着いてきた。
ミーナが来てから以前よりお客さんも増えた気がする。素晴らしいことだ。
「ミーナ、休憩してても良いよ」
「はーい」
お客さんが増えた分お店の利益も上がり、出せるメニューも増え、心なしかカイトも嬉しそうだ。
なんか...やっと珈琲店って感じが出てきたな。
今まではずっと依頼の報酬金で賄ってたし。
「ユウタくん。お知り合いの方が見えてるよ?」
厨房でコーヒー豆の手入れをしているときだった。
誰だろうと思いつつ店内に戻ると、そこには見覚えのある女性が立っていた。
「久しぶりだな、ユウタ」
おいおいマジか。なんであなたがここにいるんだ...
「お...お久しぶりです...師匠...」
第5話「神の復活」
「たまたまここのギルドに用事があってな。そのついでに、可愛い愛弟子の顔を見てやろうと思って寄ったんだ」
この人はルミエルさん。俺の師匠だ。
俺が能力者になったとき、彼女が剣術や能力の扱いを教えてくれた。
今思い出しても、あの修行はなかなかハードだった。
「元気そうでなによりだな。カンナたちは?」
「私はここにいるよルミー」
「お〜、また一段と可愛くなったんじゃないか?カンナ」
師匠はカンナにベタ惚れだ。
「ルミーさん。お久しぶりです」
「カイトぉ!お前も可愛くなったなぁ〜!」
いや、カイトにそれはおかしいぞ。
「ん?このお嬢ちゃんは?」
師匠は1人取り残されたミーナに気づいた。
「この子はバイトのミーナ」
「ほほ〜?バイトねぇ...可愛いな」
おっさんかこの人は。
「見た感じ、能力者には見えないけど、まさか依頼とかに連れてったりしてないだろうな?」
俺の心臓がドキッと鳴った。いやまあ。ミーナも一応魔導学校に通う生徒だし?経験と言うことで...
その瞬間、師匠のチョップが俺の脳天に響いた。
これがかなり痛い。
「バカヤロウ。一般の女の子を危険なところに連れて行くんじゃない。何かあったらどうする」
「ごもっともです...」
隣でミーナがあたふたしているのが横目でわかる。
「それで、ギルドに用事と言うのは?」
俺は無理やり話題を変更した。これ以上師匠のチョップを味わいたくない。
「あぁ、お前らにも伝えようと思っててな」
師匠はコーヒーを一口飲んで答えた。
「神が復活した」
「神...」
神とは、遥か昔この世界を創造した者らしい。
一国の王よりも、世界政府よりも偉く、全世界の人々に崇められた存在。
数百年以上前に消失したと言う話があったらしいのだが、俺が産まれる前の話だから伝説だと思っていたが...
「あまり広めるなよ?この話は世界政府と各国のお偉いさんしか知らないからな」
まぁ、神が復活したからと言って、別に世界が滅ぶわけでもないので特段気にする必要はないだろう。
実際、神は何を望んでいるのだろう。世界の平和?
「そういえば、姉ちゃんと連絡は取ってるのか?」今度は師匠から話題を変えてきた。
「あ〜ときどき手紙を貰います」
俺には遠く離れた村に姉がいた。唯一の家族だ。
「バカヤロウ。姉ちゃんもきっと心配してるぞ?お前がまた無理してないかって。たまにでいいから、手紙でも出してやったらどうだ」
本日二度目のチョップが炸裂した。
そう言っても、今更姉ちゃんに何て言えばいいんだ。勝手に家を出て行った俺を姉ちゃんは怒っているだろうか。
「懐かしいな、もう10年経つのか?お前ら姉弟に出会ってから」
10年か。長いようであっという間だった。
「2人でずっと泣いててな〜」
おいやめろぉ!人の過去をほじくるんじゃない!
あの辛かった過去も、今では懐かしく感じる。
それもこれも、この人に助けられたからだ。
「それじゃあ、私はそろそろ行くよ」
「もう帰るんですか?」
「あぁ、まだ色々やることがあってな」
そういうと師匠は帰り際、ミーナに何かを渡して帰って行った。
「ルミエルさん。とても優しい方でしたね」
女の子にはな。男には厳しいぞ。
母が死んでから10年経ったが、俺は一度も忘れた事はない。
母さんを殺した奴への復讐心を。
第5話 完