第4話「幽霊船」
ある日の深夜、俺は携帯の着信音で目を覚ました。
時刻は深夜1時...誰だよこんな時間に。
携帯を開くと、画面には「おやっさん」の文字が浮かんでいた。
「もしもし、ユウタです...」
『俺だ。ユウタ、幽霊船が出たぞ』
その言葉を聞いて俺は一気に目が覚めた。
『今港にいる。すぐに来れるか?』
「10分あればそっちに着くよ。カイト連れてすぐ向かう!」
第4話「幽霊船」
事の経緯はこうだ。
ある日、おやっさんにとある依頼の協力を頼まれた。
「最近、ここから南に行ったところにある港町で殺人事件が多発している。被害者は全員、刃物で刺され死亡。遺体は何故か海に浸かったかのように濡れていた」
殺人事件...前回の「ハサミ女」もあったし、ここ最近なんだか物騒だな。
「被害者は全員で5人。そのうちの2人は死ぬ前に知り合いと連絡を取って奇妙なことを言っていたらしい」
「奇妙なことって?」
「2人とも『幽霊船を見た』と、言っていたそうだ」
なるほどね...
「偶然かどうかはわからないが、まぁ調べてみる価値はあるだろ?」
港町、殺人事件、濡れた死体、そして幽霊船...
少し無理矢理かもしれないけど、何となく繋がる気がする。
とりあえず残りの3人についても調べてみる必要がありそうだな。
「わかったよ。この依頼、手伝わせて」
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俺とカイトは、何かあった時のために港町のホテルで泊まっていた。
一応、被害者の親族や友人にも会い、死ぬ前に何か変わったことが無かったかなど調査をした。
やはりみんな「幽霊船」を見たそうだ。
ならば、今回の事件は「幽霊船」が関与しているに違いない。
そして、その正体はきっと霊魔だ。
「おやっさん!幽霊船は!?」
海の方を見るが、幽霊船は見当たらない。
「見たのは俺じゃない、この子だ」
おやっさんの隣には、若い女の人が震えながらうずくまっていた。
どうやらおやっさんは、幽霊船が現れるのをここで見張っていたらしい。だが、少し席を外して戻ったらこの女の人が青ざめた顔をして立っていた。不審に思ったおやっさんは彼女に話を聞いたら...
「幽霊船を見たと...」
「すまない。俺が少し目を離したすきに...」
おやっさんは悪くない。俺らも見張りに協力するべきだったな...
「ひとまず、この人を安全な場所に移そう」
俺らは彼女を泊まっていたホテルに連れて行った。
そこで、「幽霊船」を見た経緯を聞くと、どうやら夜遅くまで友達と遊んでおり、その帰りに偶然見てしまったようだ。
まったく...この町で殺人事件が起きてると言うのに、若い子は元気だな...俺も若いか。
彼女には事情を説明し、今夜はここの部屋で寝てもらうことにした。もちろん、俺らとは別の部屋。
「おやっさんは休んでていいよ。何かあったら俺たちで対応するから」
「いや、そう言うわけにもいかない。なんせ依頼主は俺だしな」
そうは言っているが顔は少し疲れてるように見える。ここ最近発生してるモンスター凶暴化についても色々調べて忙しいみたいだし...
「忙しくてなかなか休めてないんでしょ?ちょっとでも良いから寝てなよ。また何かあったら起こすからさ」
おやっさんは「そうか」と折れてくれて、そのまま部屋に戻っていった。
なぜ「幽霊船」を見たものは殺されるのだろう?
被害者の共通点と言えば、全員10代〜20代の若者。みんな刃物で刺されて殺されていた。そして、心臓を抜かれていた。
何故、心臓を?なんのために?
「心臓と言えば、昔「若返るには若人の心臓が必要」って書いてある本を読んだことあったな。童話の本だが」
なるほど。本の話だけど、そう言う理由ならば納得いくかも。
ってことは、そいつはきっと幽霊船に乗ってターゲットを探していたんだろう。
きっと今のターゲットはここの部屋にいる女の子。
あとは奴が現れるのを待つだけだ。
俺とカイトが廊下で待機して2時間が経ったときだった。
「キャーーッ!!」
突然、女の子がいた部屋から悲鳴が聞こえた。
おそらく、奴が現れたのだ!
「クソ!ドアが開かない!」
カギをかけたのか?霊魔のくせに何てやろうだ。
ドアをブチ破るしかない!
「カイト!!」
俺らはドアを思いっきり蹴って破壊した。ホテルの人に怒られるとか、考えてる暇あるか!
中では海賊の格好をした男が、女の子にジリジリと近づいていた。
「させるかぁ!!」
俺は左手に持っていた黒刀を鞘から抜き、脳天から斬り倒したが、奴は水となり床に散った。
「水!?」
散った水はまたひとつになるのか、すごい早さで集まりはじめた。
「そいつまた復活するぞ!」
霊魔は簡単に倒せない。ここは一旦女の子を避難させないと!
俺は女の子の手を引っ張り、カイトと部屋を出た。
部屋を出ると、悲鳴を聞いて飛んできたおやっさんがいた。
「大丈夫か!?」
「おやっさん!この子を頼む!」
俺はおやっさんに女の子を渡して後ろを振り返る。
散らばった水は集まり、本体として復活していた。
この狭い部屋で戦うのはキツイな。
実態を捉えるのが難しいなら...
「ユウタ、俺がやろう」
待ってたよ相棒。
相手が水ならば、凍らせればいい。
なにかを察したのか、霊魔は懐からナイフを取り出した。
先に仕掛けたのはカイトだ。
部屋に入り、霊魔に斬りかかる。霊魔は斬られたらまずいと感じたのか、ナイフで防ぐがカイトは双剣使いだ。
「ハァァッ!」
左手の剣で霊魔の腹を突き刺す。
刺されたところから徐々に奴は凍っていく。
次第に霊魔の動きは止まった。
ここまでこればあとは俺の仕事。
「ありがとよ、相棒」
いつも助けられてるな。
「お安い御用だ」
カイトはクールに笑った。カッコつけやがって。
俺は左手の『闇喰』で、奴を喰らった。
こいつ、生前はきっと海賊船の船長だったのだろう。安らかに眠れ。
霊魔の本体は瓦礫のようにくずれた。
これにて、一件落着だ。
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港町「レゼル」
後で聞いたところによると、彼女は部屋のベッドに座っていたところ、突然奴が洗面所の蛇口から現れたらしい。
なるほど、本体は水だから水道管の中を移動しているのか。
「世話になったな」
「こちらこそ。また何かあったら呼んでよ」
「あぁ、そうさせてもらう。報酬金は後でギルドに取りにきてくれ」
俺は「わかった」とだけ言った。
「あぁ、それとだな。この前の凶暴化の件なんだが、少しわかったことと言うか...」
帰りの馬車でおやっさんは教えてくれた。
おやっさんの話によると、ここ最近、各地のモンスターは気性は穏やかになってきているそうだ。
モンスター凶暴化は、特殊な病気が原因だと思われていたが、モンスターを解剖しても異常が見られないのでその線は無くなったらしい。
それじゃあいったい何が原因なのか?
「俺の推測なんだが、奴らは何かに怯えているようだった。その「何か」が何なのかはわからんがな」
何かに怯えている...そう言えばミーナも同じことを言っていたな。
「まぁ、まだ謎は多いが、この件はこれでおしまいだ」
おやっさんはそう言い残し、眠ってしまった。やっぱ全然寝れてなかったんだな...
その「何か」が、未来に関わってくることを俺らは知る由もなかった。
〜第4話 完