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小さな珈琲店の悪魔  作者: 悠
日常編
3/14

第3話「ハサミ女」


「ハサミ女??」

俺は依頼人のその言葉に耳を疑った。

何だよハサミ女って、ハサミの形をした女?いや、ハサミを持っている女のことだよな?

「はい。ここ最近、夜遅く帰宅している女子生徒をハサミで切りつけるという被害が数件ありまして...目撃者の情報によるとその不審者の身なりは女性であるらしくて...」

なるほど。それで「ハサミ女」か。

それにしてもハサミで突然切りつけるなんて恐ろしい奴だ。いったいなんの恨みがあるんだ?

依頼人の女性は近くの魔導学校に勤めている若い先生だった。一応「ハサミ女」の件は学校でも問題になっており、学校側でも夜に帰宅路の見回りなどをしているのだと言うのだが、それでも被害は増え続けるばかりらしい。


この手の話はギルドに行くより、うちに来ることが多い。相手はおそらく「人間」ではないからだ。



第3話「ハサミ女」


そのハサミ女は、夜遅く帰宅している女子生徒の前に突然現れ、髪や制服、人によっては顔を切りつけられた子もいるらしい。

幸い、皆軽傷で済んでいるのだが、一刻も早く犯人を捕まえなくてはいずれ大変なことになるだろうな。

「わかりました。この依頼引き受けましょう」

被害者が女子生徒だけってのが少し気になるな、きっと何か目的があるに違いない。

「ありがとうございます!」

「ちなみに、そのハサミ女が出没する時間や場所って決まっているんですか?」

この広い街に魔導学校は一つしかないが、学校に通う生徒は500人以上いるわけだ。その中で女子生徒の帰宅路1箇所1箇所で奴を探すのは不可能だ。できれば決まったところに居てほしいんだけどな。

「時間は決まって日が暮れて暗くなってかららしいのですが、場所については神出鬼没でなかなか特定できなくて...」

まあそれはそうだよな。

一応、学校側では生徒を早く家にかえすようにして対策を取っているらしいが、やはり根本的な部分を解決しなきゃな...


俺達は最後の被害者が襲われた場所に向かうことにした。



〜東の街「ワークス」小道〜


時間は昼の12時。ここの小道は住宅街に囲まれて日があまり入らないせいか、昼でも少し暗い。「ここで生徒が襲われたそうで...当時は夜遅かったので、その子以外に人は見当たらなかったそうです」

1人で下校しているところを狙ってるのか。なかなか悪質だな...

そのとき俺は家の石壁に切傷があるのを見つけた。

「これって...」

その石壁には大量の切傷が付いていた。これ、もしかしてハサミ女が?

「とても女の力でやったとは思えないな」

カイトの言う通りだ。いくら石壁でもたかがハサミでこんなに切れるもんなのか?やはり、相手は「人間」ではないのは確かだな。

そう思っていたら隣にいた先生が何かに怯えていた。

「どうかしましたか?」

彼女は壁の下の方に指をさしていた。

俺らはその先を見てこの切傷が奴の仕業であることを確信した。


壁には「ツギハコロス」と書いてあった。



その日の夜、俺達は「ハサミ女」退治(?)の作戦会議を開いた。



「奴をどうやって誘き出すか」

まさか学校の生徒を使うわけにはいかない。さすがに危険すぎるからな。

そもそも何で女子生徒ばかりを狙っているんだ?

「制服や髪を切ると言う観点では、生前はおそらく魔導学校の子だったんじゃないか?」

生前...そうだった...まだ確信を得られていないが「人間」ではないのか。

「だから、ユウタ、お前が学校の女子生徒になれば良いんじゃねーか?年齢的にも学生に近いだろ」

ファ!?この相棒は何を言ってるんだ!?そりゃ奴を誘き出すには良い作戦かもしれないけど、俺がキツイ!!それは本当の最終手段にする!!

「あの...私が囮になると言うのはダメなのですか」

「あのなミーナ、今回の件はさすがに危険すぎ...」

あ、カンナに付いててもらえば大丈夫か。

「...大丈夫なのか?」

「確かに少し怖いですけど、このまま「ハサミ女」を放っておいたらうちの生徒がかわいそうじゃないですか。それに、カンナちゃんが付いているならば私頑張れます!」

天使か...

「わかった。カンナ、また頼めるか?」

「全然構わないよ〜。まぁ、私としてはユウタの女装姿も見たかったけどね(笑)」

嫌に決まってんだろ!恥ずかしすぎて死んじゃうわ!

「とりあえず決まりだな。念のため、俺とユウタはミーナ達から離れた所で待機している。奴が現れたらカンナ、頼んだぞ」

「りょうか〜い♪任せて」

よし。女装作戦が採用されなくて安心した。

「それじゃあ、行くか」




〜東の街「ワークス」小道〜



俺達は最後の被害者が襲われたところで奴を待つ事にした。

理由はおいおい説明する。

「それじゃあ2人とも、頼んだぞ」

「はい...」

ミーナは少し緊張していた。

カンナはスキル暗黒影ダークネス・シャドー』でミーナの影に隠れている。

俺とカイトはお互い逆方向で様子を伺う事にした。万が一逃げられた時のためだ。

全員所定の位置について数分経ったときだった。生温い風が弱く吹いた。

「あ!」

ミーナは思わず声を出してしまった。目の前にハサミを持った奴が現れたからだ。

やはり、奴は「どこにでも現れる」のだ。まるで幽霊のように。

ハサミ女はミーナにジリジリ近く。

まだだ、もう少し踏ん張れミーナ。奴が腕を振り上げた瞬間が合図だ。

もう少し...もう少し...今だ!

ハサミ女が腕を振り上げた瞬間、カンナが影から飛び出てハサミ女を蹴り飛ばした

「トァ〜!カンナ様参上!!」

俺は前から、カイトは後ろから挟み撃ちだ!

「見つけたぞハサミ女ぁ!」

渾身のジャンプ斬りを披露したが、コイツ、ハサミで受け止めやがった!?

「オワァ!?」

片手で俺をぶん投げやがった!なんつー馬鹿力してんだ。

後ろからカイトが奇襲をかける。

「ハァァッ!」

奴はカイトが双剣使いなのを把握したのか、ハサミを巨大化させ、2つに分けて対抗し始めた。

やはりあいつの正体は...

「カイト気をつけろ!そいつは霊魔だ!」

霊魔とは、生前強い思いを持った人間が、死後に霊体として現れる姿である。一種のモンスターのようなものだが、奴らは生前使っていた能力を操ることができるのだ。

「ムッ!?こいつ、なんて力だ...」

マズイ!カイトが押されている!

「だが甘いな『氷狼アイス・ウルフ』!」

地中から現れた氷狼アイス・ウルフがハサミ女に噛み付く。

奴の動きは封じられた。

「決まりだな。ユウタ、後は任せたぞ」

霊魔は普通に倒すことはできない。だから、俺の能力で倒す。

「ごめんな。お前は死ぬ前に、何か辛い事があったんだろ」

学校の女子生徒を狙う理由、コイツは生前に学校のトラブルにあったのだろう。

だがそれも解決せず、心に強い後悔を残しながら死んだ。

制服や髪を切りけるという事はおそらくイジメだったのだろう。

「グゥ...ガァッ...ユルサ...ナイ...ゼッタイ...コロス...」

ハサミ女は涙を流していた。

「お前の心の闇、俺が喰ってやる『闇喰ヤミクイ』」

これで少しは楽になるだろう。

心に溜まった怒りや恨みを全て俺の『闇喰ヤミクイ』で喰らった。

彼女の心は晴れたのか、空に消えていった。




〜次の日「Bonds」店内1階〜


「ハサミ女を倒してくださったのですか!?」

まぁ、にわかには信じがたいよな。倒した証拠とか手元に無いしな。

「あ〜今日から生徒たち通常下校にしても問題ないですよ」

先生は少し疑った顔をしていた。失敗したなぁ...この人に現地で立ち会ってもらうべきだったわ。いやでも危ないし。ミーナには囮になってもらったけど。それだけは言えない。

「その者の言葉は真実だぞ」

突然後ろに座っていた客のおじさんが喋りだした。

誰だ?

「こ、校長先生!!?」

え?校長〜!?

「フォッフォッフォ。君がユウタくんだな。ワシは魔導学校の校長ファウル。この度は本当に助かった。礼を言わせてくれ」

校長先生が何でここにいるんだ!?

「あの、なんで俺が嘘ついてないとわかったんですか?」

「みな、ワシの前で嘘はつけぬ」

そう言って校長は笑いながら立ち去って行った。

何者なんだ...

先生は俺に謝罪した後、報酬金を置いて校長の後を追った。

まあ、今回も無事に終わって良かった。

「残念だったな〜ユウタの女装が見られなくて」

「俺もだ。良い提案だと思ったんだがな」

「わ、私も少し見たかったです」

コイツら...女装なんか絶対やらんわ!



第3話 完


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