第2話 「コリブ討伐作戦」
『ユウタ...お姉ちゃんのこと...頼んだわよ』
母は笑いながら俺にそう言った。その瞳からは涙が溢れていた。
『嫌だ母さん!!死ぬな!!』
『母さん!!!』
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ッ!?
...あの夢だ。
ここ最近また見るようになってきた。
思い出したくない過去。でも、忘れるわけにはいかない。
『ユウタ、大丈夫か?』
カンナが心配そうに語りかけてくる。
「うん。大丈夫...多分」
正直気分は良くない。そもそも、あんな夢見せられて良いはずがない。
このモヤモヤを早く晴らしたい。そのために今まで頑張ってきたんじゃないか。
心の奥が少しザワザワする。
『落ち着けユウタ』
落ち着いてる。落ち着いてるさ。俺はいつもどおりだよ。だけど、早くあいつを...
ベッドの横にある時計を見て一気に我にかえる。
「うへぇ...もう朝か...」
時計の短い針は7時を指していた。そろそろ店の準備しなくては。今日は新しいバイトも入るしな。そう思うとグズグズしてられない。
「よし。今日も頑張りますか〜」
カーテンを開け、気持ちの良い朝日を浴びながら俺は深呼吸した。
第2話「バイト」
〜「Bonds」1階店内〜
「きょ、今日からここで働かさせていただきます!ミーナです!よろしくお願いします!」
「よし!ミーナ!よろしくな!」
「はい!」
最初は少し戸惑っていたが、なんだかんだミーナはあっさりバイトの誘いをOKしてくれた。
「んじゃ早速だけど、ミーナはコーヒーって作ったことある?」
固まるミーナ。いや、そりゃ無いだろうな。
まぁ、それはおいおい教えていくとして、彼女には接客からやってもらうことにした。客が来たら「いらっしゃいませ」と声をかけ、メニューを聞き(今はブラックコーヒーしかないけど)、テーブルに運ぶ作業だ。まずはこれに慣れてもらわないと。
そして良いことに今日は珍しく客が多い。最初はテンパっていたが、少しずつ慣れた感じが見える。いやぁ、バイトって素晴らしいね。
俺はカウンターでコーヒーを作り、彼女がそれを運ぶ。厨房は料理上手のカイトが担当しているが...今は品薄状態なので皿洗いだけ。許せカイト...
時刻はお昼を過ぎた。客足も減ってきて少し落ち着いた時に、とある客が訪ねてきた。
「コリブの討伐依頼?」
その男は街外れで作物を育てている農家の男だった。
「本来、コリブ程度ならうちらで何とか追い払えるんだけどよ、ここ最近、奴ら数が増えた上に凶暴になって手に負えない状態なんだ」
コリブとは王国付近の森に生息している猪の下級モンスターのことだ。夜な夜な奴らは人里に降りてきては農作物を食い荒らすという被害はどこの町にもある。だが、コリブ程度ならば能力を待っていない大人でも倒せるのだが、コリブが凶暴になっていると話しは少し驚いた。
実際、この手の話しは本来ギルドに行くべきなのだが、コリブ程度の討伐となるとおそらくハンター達は目を向けないだろうな。
「なるほどね。わかりました、この依頼引き受けましょう。それと報酬についてなのですが...」
報酬の話しは大事だ。なにせ珈琲店だけじゃやっていけないしな...
「報酬は1匹2500エンでどうだ?それと倒したコリブの肉と皮もそちらに提供しよう」
悪くない話だ。
コリブの肉は脂が乗っていて臭みも少なく美味い。皮は武具屋などがそこそこの値段で買い取ってくれるしこちらとしては良いことだらけだ。
俺はこの依頼を引き受けることにした。
「それじゃあ、コリブ討伐は今日の夜10時から開始ということで」
農家の男は「無事を祈る」と言い残し、店を出て行った。
コリブの凶暴化と言えば、少し思い当たる節がある。
ここ最近、モンスター達の動きが活発になって、王国騎士達やギルドのハンター達が駆り出されているのだ。
「ギルドは王国から調査依頼が来ているらしい」
「凶暴化の件で?」
「あぁ、今まで静かだったモンスターが突然暴れ出す。王国も何か不審に思っているらしいな。原因を突き止めようとしているらしい」
なるほどねぇ、平和祭が終わったばかりだってのに物騒なもんだよな。
原因も気になるけど、今はとりあえず依頼をこなしますか。
「ミーナはどうする?一緒に付いてくるか?」
「え!私も行って大丈夫ですか!?」
「夜遅くなるけど、ミーナが嫌じゃなければね。あ、学校は大丈夫かな?」
「明日は学校休みなので、ご迷惑じゃなければ付いて行きます!」
まぁ、何かあったらカンナもいるし大丈夫だろう。
〜街外れの農場〜
夜10時
俺たちは依頼人である農家の男の家に集まった。
「来てくれたか。今日はなんだか牛たちが落ち着きなくてな、何か不吉な事でも起こらなければ良いんだが...」
不吉な事...そうだな、何事もなく無事に終わってくれればこちらとしても嬉しいんだけど、果たして...
「まぁ、そのときはそのときで」
「久々のモンスター討伐楽しみ〜」
カンナはほんと呑気だな。
コリブは銃を持った大人なら1人で倒せるほどの下級モンスターだが、数が増えて凶暴化してるとなると油断は禁物だ。
「ここら辺でかな」
農場の広場にいれば周りを見渡せる。全部狩る事は難しいがなんとかなるだろう。
ミーナには依頼人の家の屋根から農場全体見張ってもらうことにした。何かあれば俺らに報告してもらうために。
森の奥が騒がしくなってきた。おそらく奴らの足音だろう。
「森から何か来ます!」
ミーナの言葉が合図となり、森の中から大量のコリブが現れた。
なんつー数だ!20...いや、50近くはいるぞ!?
「わははは!すごい数だなぁ!それ!『暗黒波動』」
カンナの技でコリブ達が吹っ飛んでいく。おいおい、畑も一緒に吹っ飛ばすなよ。
なんて考えてる暇もないか。ひとまず数を減らさないと。
それから30分近く俺らはコリブ討伐を続けた。
数が減ってきたのを感じたときだった。屋根の上から見張っているミーナが何かを叫んでいる。
「森から大きな魔力を感じます!こっちに近づいてきてますよ!!」
魔力?コリブは魔力なんて持たないはずだぞ、いったい何が来るってんだ。
そいつは大きな足音とともに木をなぎ倒しながら現れたのはコリブではなくメガコリブだった。
「嘘だろ!?」
メガコリブは基本人里離れた森の中でひっそり過ごしているはず。しかも大人しい性格なはずなのになんだあの凶暴性は!
メガコリブは畑の手前で立ち止まり、こちらを睨んでいた。息が荒い、だいぶ興奮している様子だ。
残っているコリブ達もメガコリブの魔力に圧倒され立ち尽くしている。
数秒睨み合いが続いたあと、メガコリブはこちらに突進してきた。
来いよ、その突進交わしてそのまま斬ってやる。
俺はメガコリブの突進を交わし、奴の横っ腹に刀を振った。
「オラァ!」
決まった。と、思ったが、硬い!刃が通らない!
「マジか!」
メガコリブがUターンしてこっちに向かってくる。まずい!
「『暗黒槍!』」
カンナの技がメガコリブの横っ腹に命中し吹っ飛んだ。
「わりぃカンナ助かった!」
「ふふーん♪お安い御用」
って、メガコリブ立ち上がったぞ!?
「あれぇ!?あいつピンピンしてるな!?」
カンナの技を受けて立ち上がるのか。これが例の凶暴化の影響ってやつか。
立ち上がったメガコリブは俺らに背を向けて依頼主の家の方に目を向けた。
あいつまさか!
「ミーナ!逃げろ!!」
まずい!あの巨体で突進したら、家は大破する!
「『氷止』」
メガコリブの足が凍りつき動きが止まった。
カイトの技だ!
「カイトォ!ナァ〜イス!!」
お互いグットポーズを交わす。
「ユウタ!やれ!」
相棒が動きを止めてくれたおかげで隙ができた。一気に決める!
「『闇刀」
黒刀に魔力を注ぎ、斬る!
「オラァ!!」
メガコリブは悲鳴を上げ倒れ、力尽きたようだ。終わったぁ〜。
数匹だけ生き残ってたコリブ達は森へ逃げて行った。おそらく、ここの農場にはもう近づかないだろう。わかんないけど。
さて、コリブの肉と皮はいくつか持って帰るとして、このメガコリブ...どうすっかなぁ。持って帰るのは無理だし、ここに置いておくのもなぁ...
あ!あの人に頼もう。俺はポケットから携帯を取り出して、ある人に電話した。
「もしもし?ユウタだけど、おやっさん今時間ある?」
〜1時間後〜
「なんだこりゃ?」
まぁ、そうなるよね。
この人はギルド隊長のジムさん。ギルドを統括している偉い人。国の警備隊などにも指揮をとっている。
昔いろいろあったんだけど、今ではお互い助け合う仲だ。ちなみに、この前のボマー逮捕にもこの人が関わっている。
凶暴化したメガコリブを討伐したと言ったら「は?今から部下連れて行くから待ってろ」と言って飛んできてくれた。
「了解。こいつはうち(ギルド)で引き取る。報酬金は受付に渡しておくから後日取りに来い」
「さすがおやっさん。助かるよ。モンスターの凶暴化については何かわかった事はあった?」
「いや、まだ全然だ。一応うち研究員に倒したモンスターの死骸を回してるが情報が少ない」
ギルドも苦戦してるみたいだな。原因はいったいなんなんだろう。
その後、おやっさんとその部下達はメガコリブを専用の荷台に乗せて帰って行った。もちろん俺らも手伝った。マジで重い...
これにてコリブ討伐依頼は完了である。時計は0時を過ぎてた。
討伐した数は32匹。報酬金とコリブの肉と皮を貰い、俺達はその場を後にした。
帰り際、ミーナが気になることを言っていた。
「あのメガコリブ、怒っていると言うより、何かに怯えているようにも見えたような...」
「確かに、興奮していたが怒りの感情は感じなかったな」
カンナも似たような事を言っていた。怯えてる?いったい何に?
ま、それはギルドがきっと解明してくれるだろう。
「ミーナ、バイト初日お疲れ様」
「えへへ。私何も役に立ってないですけどね」
いや、ミーナが魔力を感知してなかったら俺らの反応は遅れていただろう。
何はともあれ、今日は疲れた。
「帰って風呂入って寝る!」
明日も頑張りますか。
第2話 完