第13話「魔力解放《ドライブ》」
第13話「魔力解放」
「ユウタ!カイト!シュウ!少し準備をするから時間を稼げ!」
「「「了解!」」」
カンナがやろうとしている事はおおよそわかった。「召喚」だ。
この世界には、能力以外に、魔法や召喚術なども使える者がいるが、召喚術に関しては習得が能力並みに困難だ。だが、悪魔族のカンナは、それをいとも容易く操れる。ただ、召喚の術を寝るには時間がかかるのと、魔力の消費が激しい。俺たちだけで、牛鬼をどこまで止められるかが問題だ。
「さて、始めるぞ!」
召喚の詠唱が始まった。異様な魔力を感じたのか、牛鬼は俺たちを無視し、ターゲットをカンナに変えた。「このままにしてはいけない」っという奴の野生の本能がそうさせたのだろう。だが、俺たちも必死で奴を食い止める。
「行かせるかぁ!!『闇撃』!!」
黒刀から放たれた闇の斬撃を奴の体に叩き込むが、やはりかすり傷程度のダメージしか与えられない。
「『氷止!!』」
カイトが能力で奴の足を凍らせたが、ダメだ、あの巨体の動きは止まらない。
「マズイな」
「任せて!今度こそぶっ倒れろ!『暴風弾』!」
シュウの『暴風弾』が命中し、牛鬼は後方へ軽く吹っ飛んだ。
「よっしゃぁ!どうだ!」
「ナイスだシュウ!」
「ブオォォォウ...」
倒れはしたが、ダメージは少ないので奴はすぐに立ち上がろうとしていた。
「ブオゥ?」
「寝ている状態なら、力も入らないだろう?『氷眠』」
『氷眠』で、牛鬼の体は少しずつ凍っていった。やっと動きを封じれた。
「ブ...ブオ...」
牛鬼は必死に抵抗しているようだった。
「ブオォォォォォォォォォォォッ!!!!!」
突然、牛鬼が咆哮をあげた。奴の咆哮は凄まじく、俺たちは反射的に自分の耳を塞いだ。
「ぐわぁ!!なんて声量してんだ!!」
「こ、鼓膜が!!」
俺たちは自分の鼓膜を守るのに必死だった。そして奴は咆哮をやめたと同時に、カイトの氷を自力で割り始めた。
「嘘だろ!?」
カイトは思わず驚いていた。いや、カイトだけじゃない、まさかあの状態から脱出するなんて俺も思わなかった。奴から感じる魔力が、さっきより多くなっている。まさかパワーアップでもしたというのか?
「う...ぐぅ...牛め,,,」
後ろ召喚の詠唱を行なっていたカンナが、牛鬼の咆哮にやられダウンしていた。
「カンナぁ!」
状況が一転した。
「ブオォォォォォォォォォ!!!」
牛鬼は鉄斧を右手に持ち、横に振り上げた。奴の目線はカイトに向かっていた。
「カイト伏せろぉ!」
だが、カイトも奴の咆哮で意識が朦朧としていた。このままでやられる!牛鬼は、そのままカイトに目掛けて鉄斧を振った。
「『女神の息吹』!!」
カイトは風に後方へ飛ばされ、間一髪で攻撃をかわした。
「悪い、助かった...」
だが、最悪の状況は変わっていない。フィニッシャーだったカンナの詠唱が途中で途切れ、さらにパワーアップした牛鬼。そして、奴の咆哮で耳が麻痺して音が聞き取りずらい。絶望的だ。俺の頭の中には「撤退」の二文字が浮かんだ。このままだと仲間を失う。でも、負傷者を抱えて奴から逃げ切れるか?無理だろう。ならば、やるしかない。
「シュウ!カイトとカンナを頼む。コイツは俺が倒す」
「わかった!」
『紫鏡』の時は少しだけだったから問題なかったけど、今回は全力だ。大丈夫だろうか。いや、先の事なんて、今はいい。
「魔力解放!!」
『魔力解放』は、体への負担が大きい。使用後は体内の魔力が底をつくため、体を動かすことができない。そして、長時間使うと魔力が暴走するというリスクがある。魔力が暴走すると使用者の意識がなくなり、体だけが勝手に動き無差別に攻撃を始めるのだ。
「こい!牛鬼!!」
急いでケリをつけてやる。
「ブオォォォ!!!」
牛鬼は俺に向かって鉄斧を振り下ろすが、俺は容易くかわした。見える、奴の動きが。
『魔力解放』の影響で、動体視力、身体能力、再生速度が上がっているのだ。
「『闇刀』!」
黒刀に、魔力を大量に注ぐ。
「喰らいな!『闇撃』!」
黒刀から闇の斬撃を放ち、奴の胴体を切り裂いた。
「まだだ!」
俺は牛鬼に接近する。奴は俺が近づいた事に気付き、俺に目掛けて鉄斧を振ったが、「魔力解放」状態の俺には当たらない。飛んで奴の攻撃をかわす。身長が2m以上ある牛鬼と目線の高さが一瞬あった。
「終わりだ!『闇...』」
技を発動しようとした瞬間、奴は何も持っていなかった左手で、人形のように俺を掴んだ。
「ブフゥゥゥ...ブフゥゥゥ...」
さっきの『闇撃』が効いたのか、牛鬼の呼吸が少し荒かった。
「クソッ!」
動けない。幸い、黒刀を持っていた右手は振り上げていたので少しだけ動かせるが、この状況はマズイ。牛鬼は俺を握る力を強めた。
「アァァァッ!!」
このまま握りつぶすつもりか!
「さ...!させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は右手に握っている黒刀を振り上げ、俺を掴んでいる奴の左手首を何度も斬りつけた。
「ブォォォォォォォォォォ!!!!」
「ぶった斬れろォォォォォ!!!!」
その瞬間、俺は牛鬼の左手と共に地面に落ちた。奴の左手を切り落としたのだ。
牛鬼は左腕に走る激痛に悶えていた。
「ハッ...ざまぁみやがれ!」
だが、俺も左腕の骨が折れてしまっていた。時間が経てば再生するが、今はもう使えない。激痛で意識が朦朧とする。
「ユウタ!あとは任せろ!」
後ろからカンナの声が聞こえた。振り向くと、召喚の詠唱が終わっていた。
「やっとか!待ちわびたぞ!」
「現れろ!私の友達『デビルベアーちゃん』!!」
カンナの前に召喚魔法陣が現れた。その中から、おぞましい姿をした、とても熊とは呼べない、異形な存在感を放った者が現れた。
「グルルルル...」
牛鬼はデビルベアーの異常さに気づいたのか、後ずさりをした。
「さぁ『デビルベアーちゃん』!あいつを食い殺せ!!」
「グガァァァァァァァァァァッ!!!!!」
デビルベアーの咆哮が鬼牛に向けられた瞬間、奴はこちらに背を向け、逃げようとしていた。だが
「なに逃げようとしてんだ?」
奴の足元はすでに、カイトの能力で凍って動けなくなっていた。
「ブォウ!?」
デビルベアーは鬼牛の背後に迫り、右手の爪で奴の硬い体を二つに切り裂いた。奴の上半身部分は生々しい音を立てて、地面に落ちた。
「おぉ...」
「マジか...」
「一瞬だったな...」
俺たち3人は、その迫力に圧倒された。デビルベアーは死んだ鬼牛の死骸を食べていた。
「しゅーーりょーー!あ〜疲れたぁ〜!!」
これにて、牛鬼の討伐は終了した。
「よしよし!良くやった『デビルベアーちゃん』!」
「グオゥグオゥ!」
あんな恐ろしいモンスターも、主人には忠実ということだろうか。デビルベアーはカンナにかなり懐いていた。
「いやぁ、今回はちょっとやばかったな...」
折れた左腕をさすりながら、今回の件について振り返った。
「まったくだ。あの咆哮を至近距離で聞いたときは死んだと思ったぞ」
「あんな強いモンスターがいるなんて思わなかったよ...」
だが、これで街の安全が保たれたと思うと少し嬉しかったりする。
「さてと、んじゃギルドに連絡するか...」
ズボンのポケットから携帯を取り出して、連絡しようとした時だった。デビルベアーが食い散らかした牛鬼の死骸のところに、白い鎧を覆った人が立っていることに気づいた。
「いつの間にいたんだ?」
「誰だろう?」
白い鎧の人物は、牛鬼の死骸をずっと眺めていた。ギルドの人だろうか?
「あの、ギルド関係の人ですか?」
反応がない。無視か?
「どうしたお前たち?」
召喚したデビルベアーを帰したカンナが、俺らのところに戻ってきた。
「いや、なんか人が...」
「人ぉ?お前らも人だろうが。疲れたんだからさっさと...」
白い鎧の人物を見て、カンナの様子が一気に変わった。
「お前ら...あれは人じゃないぞ...」
「は?」
「それってどういうこと...?」
「あれは...神の一族だ」
第13話 完