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小さな珈琲店の悪魔  作者: 悠
日常編その2
13/14

第12話「牛鬼現る!」

ある日、それは突然起きた。


「ユウタ、大変なことが起きた」


珍しくおとなしいカンナが、突然深刻そうな顔で話しかけてきた。


「なした?今日はなんか静かだけど、腹でも痛いのか?」


「牛鬼が現れた」


「え?」



第12話「牛鬼現る!」



「冗談だろ?」


「いや、冗談ではない。今朝から遠くの方で妙な魔力を感じてな、おそらくこの魔力は奴で間違いない」


「マジかよ...」


牛鬼とは、体は巨大な人の形をしており、牛の顔をした上級モンスターのことだ。数年前からギルドの方から奴の討伐依頼がハンター達に出ていたのだが、あまりにも凶暴すぎてこの国のハンター達では手に負えなかったのだ。次第に、王国の聖騎士長が直々に奴を撃退まで追い込んだとか。


実は俺もその現場に居合わせていた。あの時の聖騎士長との戦闘は凄まじかったのを忘れない。だが、あと一歩のところで牛鬼は逃げ出してしまったのだ。


「正確な場所はわかるか?」


「奴との距離が離れ過ぎているから正確な場所まではわからないけど、方角的におそらく例の場所だ。少しずつこちらに近ずいて来ている」


「例の場所と言えば、ここから北に行ったところにある山の中か」


聖騎士長と牛鬼の戦いがあったところだ。なぜ戻ってきたんだ?なんにせよ、このまま放っておくわけにはいかない。


「行くしかないな」


「私たちだけでか?無茶だ!」


「さすがに俺らだけじゃ敵わないよ。だけど、聖騎士長が来るまでの時間稼ぎにはなるだろ?」


また奴を逃すわけにはいかない。時刻はまだ昼前、暗くなる前には奴に遭遇出来る。


「一応おやっさんにも連絡するさ。カイト行けるか?」


「俺は大丈夫だが、本当に行くのか?」


「このチャンスを逃したくない。今すぐにでも奴を倒したいんだ」


「...良いが、ヤバくなったらすぐに撤退するからな」


さすが相棒、わかってくれるな。


「よし、急いで準備しよう。ミーナは店番を頼む」


「わ、わかりました」




〜「フリデント王国」北門〜


聖騎士長と牛鬼が戦ったところは、この北門から2km離れたところにある。最初はもっと離れたところに居たのだが、時間が経つにつれ奴は王国に近づいていた。


「カンナ、奴の動きはわかるか?」


「まだ私の魔力感知外にいるが、さっきよりだいぶ近づいているぞ」


やっぱり、奴はこの王国を目指して向かってきているのか?


「...行こう」


奴をこのまま野放しにはできない。


「ジムさんには連絡したのか?」


「したんだけど出なかった。忙しいのかな」


一応、ギルドにも顔を出したが、今は不在とのことだった。戻ったら連絡貰うように、受付にお願いしたが。


「それで、その『牛鬼』ってのは何者なの?俺が森にいた時は、そんな話聞いたことなかったよ」


そう言えば、シュウには話してなかったな。


「『牛鬼』ってのは、数年前に突然現れた人型モンスターのこと。奴はかなり凶暴で、村や町、冒険者や商人などを襲ってたんだ。それで、うちのギルドからハンターが駆り出されたわけなんだけど、奴は強すぎた。肉体に刃は通らず、矢を弾き、魔法も効かない。そんな絶望的な窮地に現れたのが、聖騎士長だ」


「あれは強かったな」


カイトが笑いながら言った。


「強いなんてもんじゃないよ、圧倒的だった」


ハンター達の剣すら通さなかった奴の肉体を聖騎士長は料理で肉を切るかのように切り裂いてた。


「へ〜そんな強いなら、その人に頼めばいいんじゃないの?」


「頼めるなら俺もすぐに頼んでるさ。でも、その人はその後、行方不明になってな」


「え、そうなの!?」


理由はわからないが、「牛鬼」撃退後、彼は突然姿をくらませてしまった。


「俺らで行って大丈夫なの?」


「わかんない。でも、このままにするわけにはいかないしな、せめて聖騎士団が駆けつけてくれるまでの時間稼ぎにはなるだろ」


その時間稼ぎが上手くいく自信なんてない。でも、俺は奴を何としてでも倒したかった。俺らはあの時より強くなっている。今回こそは絶対に逃がさない。


そうこう話しているうちに、俺らは山の入り口に着いた。この山には広く単純な一本道がある。山の向こう側には大きな街があり、うちの王国と繋ぐための交易路にもなっている。そのため、この道も色々な人が行き交う。


「近いな。距離的に3km、この一本道を登ったところだろう。」


「このまま落ち合うのか?」


「いや、この道の両側には木々が生い茂っている。そこで奴を待ち伏せし、現れたところを一気に叩く。あと、奴の攻撃は受けない方が良い」


あの巨体から繰り出される攻撃を生身で受けようならば、骨の一本や二本では済まない。もちろん、武器で防ぐのもNGだ。だが、この道の広さなら、十分戦闘は出来る。


「シュウは上空からの攻撃に専念してくれ」


「わかった」


「合図があるまで魔力は切っておくこと、向こうに俺らの居場所がわかってしまうからな」


おそらく、奴はまだ俺らの存在に気づいていないはず。


「ユウタ、万が一ヤバくなったら...」


「撤退でお願いします」


俺の独断にみんな付いてきてくれたんだ、怪我人を出すわけにはいかない。


「了解」


「よし、それじゃあ作戦開始だ」





〜山道〜



時刻は12時。俺たちが王国出てから2時間が経過した。あたりはまだ十分すぎるほど明るい。俺とカンナは山道の右側に隠れ、カイトはその反対側で身を隠している。シュウには奴に気づかれないよう、かなり高い上空で待機してもらっている。シュウの能力エレメント『風の女神フレイヤ』の力で、風を使って宙に浮くことができるのだ。便利な能力だ...俺が昔見た感じでは、牛鬼は巨大な斧を持っていた。あれがヤバイ。あれだけは絶対に受けてはいけない。いや、ヤバイのはあの巨大な斧を振り回す奴の筋力だ。剣の刃も通さないあの肉体。俺の黒刀で斬れるのか?いや、とにかくやってみるしかない。


「来たぞ」


カンナの声でハッと我にかえり、木の陰から山道の奥を覗く。2m以上はある身長。人間離れした肉体。巨大な鉄斧そして牛の頭。現れた、牛鬼だ。


「フシュー...グルルルルルル...」


一眼見ただけで感じる奴の強大さ。戦闘力で言ったら、大森林で会った「レムリア」の方が遥かに上だが、こいつにはまた違った異常さがある。どこだ?どこを斬れば奴は死ぬ?


「ユウタ落ち着け。気持ちが焦ってるぞ」


「あぁ...ごめん...」


「ごめんで済むか。お前の焦りや油断一つで誰かが死んでもおかしくないんだぞ?それでも付いてきたのは

みんなお前を信用しているからだ。それに応えようとして、何でもかんでも自分で解決しようとするな。もうちょっと私たちを頼れ!」


カンナに怒られるのはいつぶりだろうか。あぁ、そうか、みんな仲間だもんな。「何も失いたくない」と思うばかりで、なんでも自分で解決しようとしていたのかもしれない。こんな状況でも、カンナは冷静でいて仲間のことを考えていた。俺は、とにかく奴を倒すことだけを考えていたのかもしれない。


「ごめん!こんな状況だけど、ちょっと冷静になったよ」


「まったく...」


俺が説教を受けているうちに、牛鬼は数十メートル手前まで迫っていた。もう後戻りはできない。


「カンナ、準備はいい?」


「むしろ待ちくたびれたぞ」


ったく、この悪魔にはいつも助けられる。


そしてついに、牛鬼が俺たちの目の前に現れた。その瞬間、俺とカイトで横から挟み撃ちに、俺は右から、カイトは左から奴の首を狙う。


「『闇刀ヤミガタナ』!オラァ!!」


「ハァァッ!!」


俺たちの攻撃は牛鬼の首に直撃した。だが...


「クソ!硬い!」


ダメだ!かすり傷程度のダメージだ。俺たちが次の行動に移る瞬間、牛鬼が俺たちの存在に気付き始め、鉄斧を持っていない方の手で攻撃の体制に入った。奴からしたら突然現れた虫を叩き落とす感覚だろうか。


「させないよ!『暗黒波ダークネス・セル』!!」


カンナの技が、牛鬼の腹に命中したが、それでも、奴の体が少しグラついただけだった。


「はぁ〜!?硬すぎるでしょ!」


「『暴風サイクロンスピア』!!」


上空で待機していたシュウが、風を纏わせた槍で奴の脳天を攻撃した。


「どう!?効いたでしょ!」


そんな攻撃は御構い無しに、牛鬼は目の前にいるカンナを目掛け、右手に持った鉄斧を振り上げた。


「全然効いてないじゃんクソガキ!!」


「嘘ぉ!?」


マズイ!カンナが狙われている!


「カンナ!来るぞぉ!」


「見ればわかるっての!」


振り上げられた右手は、そのままカンナへ目掛けて振り下ろされた。


「ブオォォォォォォォッ!!!」


地面が粉々に破壊され、同時に爆発音が鳴り響いた。なんて馬鹿力してんだ!カンナは無事か!?


「お前さん、力は凄いが動きが遅いな。そんなんじゃこの私を倒せんぞ?」


カンナは地面の叩きつけられた牛鬼の鉄斧の上に立っていた。焦らせやがってあいつ!


「ブオゥ!!?」


仕留めたと思った相手が生きていた事に驚いたのか、牛鬼は少し驚いているようすだった。


「だが、私たちの攻撃が通らないとなると少し厄介だな...ならば少し本気を出すしかあるまい」


本気を出すって、アイツまさか...


「どれ、お手並み拝見といこうか」


カンナは不気味に微笑んだ。




第12話 完

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