海のバーベキュー
「落ち着かない!!」
それは俺達全員が思っていた事だった。
獣王国の観光を始めた俺達だったが、それは本当に観光か?と疑いたくなる内容だった。
移動の際は常に屈強な兵士達に囲まれながら。
有名な建築物は兵士の背中越しに見る。
終いには屋台で食べたい物は兵士が毒味と言って半分食べる。
現在、食事をするために入って店でも、入った瞬間に他の客は出て行き、俺達の座るテーブルは兵士に囲まれ、兵士の隙間から見える店主は兵士の監視つきで料理をさせられている。
「落ち着かない、落ち着かない、落ち着かない!!」
そこでフェンの不満が爆発したわけだ、特に屋台で買った物を半分取られたのが不満だったのだろう、あの時のフェンの絶望した顔ときたら………。
「フェン落ち着きなさい」
意外にもフェンを宥めたのはメロウだった。
「でも……」
「タクト様が何も言わないのよ?我慢なさい」
メロウの基準はあくまでも俺らしい。
「……まぁ、俺もちょっとなぁ」
「直ぐにどうにかしなさいウサギ!」
俺の呟きに直ぐにメロウが反応する。
「し、しかし……」
テトラさん的には、安全に安心して街を見てもらいたいのだろうが。
「なぁテトラさん、案内はもう大丈夫だから、明日は俺達だけで回らしてくれないか?」
「しかし、護衛が」
「俺達に護衛必要だと思うか?」
「………思わないのですよ、わかりました、ただ陰ながら見守らせて頂くのです」
ここら辺が妥協点だと思い、何とかフェンを宥めて了承した。
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翌日、テトラさんによる陰ながらの監視を受けつつ街を回る。
陰ながらと言いつつ、たまに視界に武装した兵士とテトラさんが写るが気にせずに観光しようと思う。
とりあえずは昨日見て回った所をもう一度ちゃんと見る事にする、昨日は兵士越しに見ていたからしっかりと見れていないからね。
「……何かこう、独特の文化だな?」
見ていたのはトーテムポールを犬に変えた様なオブジェクト。
「おそらくフェンリルを奉って居るのでしょう」
「あ、確かに祈りを捧げてる人居るな」
少し視線をずらせば、供物と祈りを捧げる人の姿。
「今でもこの街はフェンリルに感謝しているんだな」
「ちょっと照れます」
頬を掻きながら微笑するフェンの頭を撫でる。
「昨日の屋台もう一度行くか?」
「はい!」
さて、続いて食文化なのだが。
「うーん、不味くはないんだがな」
特別うまいと言うわけでもない。
「ふむ、獣人用の味付けと言ったところでしょうな」
「あー、なるほど」
以前フェンが、香草の入った料理を臭いが強くて食べられなかった事がある。
同じように獣人族は味付けが人族とは違うのだろう。
「基本は塩、少し胡椒か」
「ですね、野菜はほぼ焼いただけが多いみたいです」
人族ではスパイスや香草、他にも果実や魚介等で取ったソースや出汁が使われる。
「獣人族は、素材の味を活かした料理が基本なんだな」
と、こんな具合に獣王国を堪能した一日を過ごした。
さて、獣王国を堪能したし、次の国へ行こうとしたのだが、一つ問題が有った。
「人魚の国ってどうやって行くんだ?」
次の目的地人魚の国、獣王国の更に北、海の国に在る国だ。
幸い北極見たいに氷海ではないらしいが、果たしてどうやって行けばいいのか。
「それなら連絡船があるのですよ」
「連絡船?」
人魚の国って船で行けるの?
「えっと、人魚の国って海の中じゃないのか?」
「?違うのですよ、海の上の国なのです」
早くもイメージが崩れた、人魚の国だから海の中にあると思っていたのだが。
「それとマーメティアは"海洋国"なので、人魚の国と言うわけではないのです」
「え!?そうなの!?」
てっきり女王が人魚っぽかったので、人魚の国だと……。
「確かに現女王は人魚族です、しかし海洋国は多くの種族が共生する国なのです、人族も獣人族も居るのですよ」
ふーん、多種族国家なわけだ。あれ?でも……。
「エルフ族は?」
「エルフ族と言うよりは、妖精族全般が他国には居ないのです、居るとしたら強制的に連れてこられた者だけなのです」
拉致か、聞けば無理矢理奴隷にされて連れてこられるのだとか。
「そりゃ妖精女王も怒るわな」
「……難しい問題なのですよ」
場合によっては妖精国の協力は諦めるべきであろうか。
「それで、連絡船って直ぐに来るものなのか?」
「はいなのです、明日の朝の便に席を用意させるのです」
「ああ、任せた」
こうして無事に海洋国に渡れるようになった。
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翌朝、獣王国の南端にある港町にジェノサイドドラゴンで向かう。
ちなみに俺達が海洋国に行っている間、ジェノサイドドラゴンはテトラが面倒を見てくれる、念のため操れるかどうかを御者をして確認してもらっている。
「す、すごいのです……」
大人しく従うジェノサイドドラゴンにテトラが感動していた。
「問題無さそうだな」
「…………」
「どうかした?」
「い、いえ、ちょっと可愛く思っただけなのです」
災害級のジェノサイドドラゴンを可愛く思えるなら問題無いだろう。
「タクト様、見えてきましたよ!」
目的地の海が近づき潮の香りが流れてくる。
「ひょっとして船ってあれか?」
「はいなのです」
見えてきた船は予想外の物だった。
ジェノサイドドラゴンを降りて港に着いた俺達を出迎えたのは豪華客船だった。
「船って、てっきり木造船だと思ってたんだがな」
そこに有ったのは現代日本でも有るような鉄製の船。
「この船は特殊な金属で作られているのですよ」
「特殊な金属?」
「はいなのです、海洋金属と言われる水に浮く金属なのです」
「へー……」
水に浮く浮力を持った金属か、なかなか面白いな、と、思ったのは俺だけじゃないらしい。
「ふむ、実に興味深いですな」
「そうね、もう少し詳しく知りたいわ」
クロノとメロウが興味を持っていた、今までの経験上この二人が一緒に興味を持つと、とんでも無い物が出来る。
「今度は船が出来るんですねタクト様!」
「ソウダネ」
もはやどんなとんでも無い物が出来るのか、考えたくない。
「そろそろ出発するのですよ!」
「あ、はい、じゃあ行ってきます」
「はいなのです、お帰りをお待ちしているのです」
テトラに見送られ、俺達は海洋国マーメティアへと旅立った。
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さて、船に乗りマーメティアに向かっている俺達なのだが。
「何か慌ただしいな」
「そうですね、なんとなくバタバタしてますね」
船員が駆け回っているのもあるが、何か殺気も飛び交っているんだが?
「少々お待ち下さい、船員に話を聞いてきます」
メロウが一人の船員を捕まえ話をしに行く。
戻って来たメロウが話すには。
「海獣?」
「この時期に出てくるようです、その為船内は物々しい雰囲気です」
ふむ、海獣とな?やっぱりリヴァイアサンとか?
「その海獣ってどんなのだ?」
「巨大イカの化け物らしいですわ」
「ああ、クラーケンか」
そっちか、と、思っていると。
ドーン!
突然船が大砲を撃った、いや、豪華客船に大砲ってどうなの?
「クラーケンだ!総員戦闘配備!」
この船、客船じゃなくて軍艦だったか?
「どれ何処にクラーケン?」
「あ、あそこです!」
フェンの指差す先には確かにイカの足らしき物が見える。
「足だけか」
「大砲もあまり効いてないですね」
確かに、海面から出ている八本の足は綺麗に健在だ。
「ん?八本?」
もう一度数えてみる………間違いない八本有る。
「どうかしましたか?」
「いや、あれって……」
「あ!見えてきましたよ!」
クラーケン?が上がってくる、その全体象は。
「蛸じゃん」
丸みを帯びた頭、八本の足、真っ白ではあるがどう見ても蛸である。
「あれがクラーケンですか」
「ん……違う?」
「イカではないですね」
「焼いたら美味しそうですね」
フェンだけ何か違う気がする、いや、タコでもイカでも焼いたら旨いけどね。
「………とりあえず大変そうだから退治を手伝うか」
「倒したら食べていいですか?」
「うん、いいんじゃないか?」
やった!と言いながらタコに突撃していくフェン。
「では、私も行ってきましょう」
「わたくしは厨房を借りて来ますわ」
「ん……机借りてくる」
クロノはタコを切り分けに、メロウは厨房を、エニは机と椅子を借りて本格的に食うつもりらしい。
「まぁ、いいんだけど、てゆーかもう終わったのな」
見れば既にタコは素材になっていた。
次々とタコをぶつ切りにしていくフェンとクロノは、船員にとても感謝されている。
「タクト様、大物ですよ!」
まぁ、船を襲うくらいだからな、そりゃ大物だわな。
「問題はどうやって食うのかだな」
「タコ焼きでいいんじゃないですか?」
うん、物理的に無理、切り分けた足で人くらいの大きさだよ?そもそも小麦粉とかないしね。
「クロノ、もっと細かくできないか?」
「ふむ、可能ですがそれなりの量に成るかと」
「それでいいよ、余ったら船の人達と、なんだったらマーメティアの女王様に手土産として持っていけばいいし」
「畏まりました」
そんな話をしているうちに、メロウとエニが戻ってきた。
「ん?それは?」
メロウが持って来たのは携帯コンロの様なもの。
「甲板でしたら使っていいと許可を取りましたので、せっかくですからバーベキューでもいかがでしょう?」
「まぁ、いいって言ってるなら」
結局甲板でバーベキューをした、他の乗客や船員にも振る舞い、特に文句も言われず、むしろ感謝されながら、船の旅を楽しんだ。
ちなみにタコを焼くだけでは寂しいので、クロノに言って釣竿を作ってもらい、魚を釣ったり、メロウの魔法で魚を掬い上げて貰ったりして、大いにバーベキューを楽しんだ。




