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短編&詩集

つばさのない、鳥

作者: 倉井 陽流

これはふと思いついた時に書いた短編小説です。

「ねえ!そーいやあ、こぐり、変わったよね!」


最近、友達にそんなこと言わられやすくなった。

「いやいや、変わってないよ。」


私は手を左右に振って否定した。

変わってない・・・・ただ、隠してるだけ。


私はただいま、おとなしめの読書ばっかりしてる優等生を演じている。

小さなころは勉強熱心な姉に付きまとっていた。

「ねえ、お姉ちゃん!知ってる?」


「なあに?」


姉は優しいことに邪魔されたことに怒っているだろうに、優しい声で勉強を続ける。小さな私はそんな優しさを気にせずに話しかける。


「私ね、昔、鳥だったんだよ!?」


「ふうん。証拠は?」


「しょうこ?」

まだ小さな私は聞き返す。だってあの時はまだ証拠の意味も分からなかったんだから。


「ああ、証拠っていうのはその、こぐりが言う『昔、鳥だった』っていうのが本当かわかるもの。」


「ふうん・・、そうなんだ。」

一つ、言葉を覚えて賢くなった気がする。

「ないよ。」


姉は手で動かしていたペンを音もたてずに高いところから落とした。

すごい・・こんなことできるんだ。

そんなことを思っていたので姉の怒りに気が付かなかった、この時は。

「じゃあ、なんで昔、鳥だったって分かるの?」


「そういう記憶があったの。」

姉は思い切りため息を出した。

「それは夢なんじゃない?おかしいもの。」


「なんで?」


「なんでもなにも!」

姉は小さな私の小さな手を強く握った。

痛い・・・怖い・・。

「それより・・・邪魔しないで。そんな夢の話はちがうときに話して。いくら苗字が『白鳥しらとり』だとしても、違うの。それにね、お姉ちゃんは勉強してるの。」


ひどい・・・本当のこと言ってるのに。

小さな私は姉が手を離した隙に外へ飛び出した。


私は姉のほかに友達にも言ってまわっていたらしい。

でもいつだって相手にしてくれなかった。笑うか・・・無視されるか・・・生返事されるか・・・・。


私は転生した姿だ。もとはハト。公園によくうじゃうじゃいるあのハト。

小さなころある日そのことを思い出した。

その時から毎晩のようにハトだった頃の飛んでいる夢を見る。ある意味、姉のことは言うとおりだが。

「おはよう。」


「あっ、おはよ。」

空想と本に行ったり来たりしてた私は今教室に来たばかりの人によって我に返る。

安村・・・。

ずっと前から思っていたがなんか安村は誰かに似てる気がする。でも思い出そうとするとその記憶が薄くなる。誰だっけ・・・・?

「ん?白鳥また新しい本読んでんの?なにそれ?」


「ああ。これね。」

今読んでいるページにしおりを挟んで本を閉じる。

「『鳥たちよ』だよ。」


「ああ。鳥つながりで?」

どっちの?

「でも読むの速くない?前なんかすっごい分厚いの読んでたのに、たった、二日で読んじゃったじゃんか。」


「まあね・・。」

安村はカバンの中に入ってる教科書などを中に入れ始めたので再び読書に専念した。


中学校生活。そんなに楽なもんじゃない。

ハトの時はただただ公園に餌をばらまいてくれる人にくれる人にただくっついて餌を食べて生きるだけで良かった。餌争いも多々あったが。

でも部活、きちんとついていけるけど勉強、人間関係。特に人間関係は中学校になると複雑になる。

だからもっと友達に合わさなきゃいけない。うなずいてばっかでいつの間にか部下の存在のようになる。

私の友達はそういう部下的タイプ友達が好きらしいから逆についてこられるけど。

でもその分、ストレスがたまる。だからといって悪口、愚痴を言ったとしてもそれはただ単に友達の「真似」をしてるだけであって。


悲しいことに私にはストレス解消法が・・・、ない。

歌っても音楽聞いてもスポーツして体を動かしても、大好きな読書をしても勉強しても詩に愚痴を書きまくっても枕に怒りをぶつけたり、叫んだり、悪口・愚痴を言ってもぬいぐるみを握っても。

心当たりある解消法を全部試したけどだめ。

やっぱりハトの時は毎日平和だったから、餌争い以外は。

平和の主張だもんね、ハト。

ここも平和っちゃ平和だけど。

私の「平和」の基準が・・・、違う。

「白鳥さん?白鳥こぐりさん?」


「は、はい?何でしょう?」

我に返り声を出した。社会の先生?

そうか、もう一時間目始まってたか。読書は終わっており準備もしてある。空想中に自分でやったんだと思う。自分の技術に驚きだ。

でもさすがに空想しながらノートを取るのは不可能で。既にたくさんの文字が黒板に書かれていた。

「何ですか?先生。」


「いやあ・・さっきから心ここにあらず!って感じでボーっとどっかを見てたから。

ちゃんと理解してるか・・・って思ってね。」


先生は真っ白な頭をポリポリとかいた。

もう・・。かかなければ先生の頭気にしなかったのに。

「だから、どういうことですか?」


「音読の順番。教科書の。」


「ああ。すみません・・。」

私は黒板のめあてをすっと見ると教科書でそのことを書かれているページを急いで探した。

そして音読した。


これでまたストレスがたまったよ・・・。自分に呆れちゃう。

のどかな風。この風なら太陽があったとしても熱中症にはならないだろう。

「うわあっ!」


白いもので下がふさがっていたがやっと見えるようになった。

たくさんの屋根、屋根。実に・・・、カラフル!その中には一風変わった屋根もあったが気にしなーい。

私はある場所を目指した。

「ああ!見えた!」


上から見ても分かる。あからさまに緑いっぱいのきれいな、いい例として扱われる、公園。

「みんな行くぞ。」


先頭を行く仲間が言った。

別に指示しなくてもいいのに。結局私らそこ行くんだから。

みんなはスピードを上げてそこへと向かう。どんどん着地していく中私はただ一人冷や汗をかいていた。


どうしよう。着地の仕方忘れちゃったよ。

こんなの身に染みて覚えるもの。でも無理。十三年間「人間」やってたから。

「早く来いよ。」


「もうみんな下に下りてるよ!」

みんなが口々に言う。この集団はしっかり自分を待ってくれる珍しいタイプ。

ありがとう、みんな。でも・・・。

と、とにかく突っこんじゃええ!!

「あ!」


突っこんだ私の体は普通にコンクリートに突っ込まれ。

やわらかい体から出血。しかも大事な翼が傷ついてるし。


「ぽ、ぽぽぽ!」

なんだよ、この時だけ鳴くって。

まあね、どうしようもないからね・・・。

「だ、大丈夫?」


優しい声が私を包む。見上げたいけど見上げられない・・・。


「あらま・・・出血かあ・・・。」

その人は私の軽い体を手のひらで包み、ベンチに座った。そして体を膝の上に置いた。

既にベンチにはバックが置いてあった。その人はバックの中を探った。

取り出したのは真っ白な包帯。と、テーピング。

その人は包帯を私の翼に巻き付け始めた。

いたっ!

どうやら包帯には消毒液が付いているらしい。


「ごめんな、少し痛いかもだけど我慢して。」

その人は包帯をテープで貼り付けた。


「ぽ、ぽぽぽぽぽぽっ!」

仲間が暴れ始めた。どうやら餌をくれないのに怒っているらしい。

その人はバックの中をまた探り、タッパーを取り出した。蓋を取って中の餌をばらまいた。


仲間は嬉しそうに餌にかぶりついた。

ねえ、私は・・・・?

その人はタッパーの餌を全て私にくれた。

や、優しい・・・・。

やっと、見上げる労力が戻ってその人の顔を確認できた。

黒い帽子をかぶりその隙間から、爽やかな笑顔が垣間見えた。

それはいつもの餌をくれる優しい人だった。

その人は私の白い頭をなでてくれた。



「はああああ!」


午前五時五十九分。

私は目覚まし時計が鳴る前に起き上がった。慌てて目覚まし時計を止めた。

・・・夢だ。でも公園の夢は珍しい。

ああ、もう。考えたらきりがない。支度、しなくちゃ。

それで今朝は・・・始まった。


今日も「鳥たちよ」を学校に持ってきて読書を始めたが進まない。

あの夢が頭から離れない。

と、いうか離れようとすると頭の中で勝手に夢が再生される。

それで一ページも進まない、という始末になった。


時間は流れ、放課後。今日は部活が休みだ。

私は自然と屋上へと足が向いていた。屋上は景色がいい。まるであの時に戻ったようで。

「うわあっ!」


のどかな風。今日は風が気持ちいい。このところ太陽さんさんだったから。

ふいに夢を思い出した。

そうだ、昨夜も飛んでたな。しかも今日の風は夢の時に味わった風と似てる。

・・・飛びたい。

もしかしたら前世が鳥だったから小さな翼とかあるかもしれない。後遺症的な?

今日は絶好の飛び日和だ。

確か今手をかけてる屋上の柵に・・・弱いところが・・・・あった。


そこを押しのけると不思議なことに柵が扉のように開いた。


「行きます。」

深呼吸一つして外へと飛びだった。鳥のポーズして。


でもすぐに後遺症なんかないって分かった。

私は人間なんだ。きちんとその構造をしている。

スカイダイビングをしているような気持ちになったがパラシュートがパカッと開いてスピードが遅くなる訳

もなく。もし私が隕石ならばここら辺で火が出ているだろう。

バカだ。こんなことして死ぬだけだなんて。

まだやり残したことがある。「鳥たちよ」を読み切らなきゃいけないし、返さないといけない。


いい。もう怒るのはやめた。

止められるものなどいない。

私がむなしく死んだらまた転生して鳥になろう。あの時と同じ姿になろう。


さようなら。

私は目を閉じた。コンクリートを間地かで見るのは・・・・・・・・・・ごめんだ。





瞬間、時が遅く感じられた。スローモーションを見てるみたいに。


「バサッ」


何とも言えない乾いた音が耳に、響いた。

違う。・・・・違う。

コンクリートじゃない。だって昨夜でその音を覚えてるもの。


私は・・・・生きてる・・・・・・?

なんで?意味が分からない。間地かにあったのに・・。コンクリートが。

私は体が付いてる下のものを手で押しのけた。

やわらかい・・・・し。

私、起き上がれる・・・?

それに目の前に立ってた人が信じられなかった。なんで・・・、


「安村 拓実・・・。」


普通にフルネームで呼んでしまった。

下のものはマットらしい。

「な、なんで?部活あるんじゃないの?なんでいるの?」


安村は校内服のポケットに手を突っ込んだ。

「ん?まあ、確かに部活あるけど再登校だし。」


「でもこのマットは?さっきまでなかったのに。」


「なんか、白鳥、今朝から様子変だったから。大体こうじゃないかって思って。

 急いで柔道部から貸してもらった。」


安村は私の後ろのほうを指さした。

後ろを向くと柔道部全員がこっちに手を振ってた。先生も含め。

手を振るより部活しなさいよ、あなたたち・・・。


私は立ち上がると服についた砂、ほこりを取った。

マット、意外と汚れてるなあ・・気持ち悪い。

「あのさ、それよりありがと。」


「まあね。一人クラスからかけるとみんな心配するし。」


何?こいつ誰・・・?

まあいいや。

私はいろいろな勉強の知識が豊富でも人間的には鳥並みにバカかもしれない。

でも生きていく。命の恩人が助けてくれたから精いっぱい生きよう。

「私、下手したら自殺してたかもね。」


「だな。それより重いな、鳥。」


「ちょっと、ひどいな。それはレディーに言うことなっ・・・・?」


待って。

さっき、安村「白鳥しらとり」じゃなくて「鳥」って言ってたよね・・・?

「はあ、やっと名前で呼んでくれた・・・。」


ふちのない透明の眼鏡からのぞかせる爽やかな笑顔。


この笑顔は・・・・・・・まさか。


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