猫な上司はモテまくり
どうでもいいが、先輩はモテるらしい。
「昨日は二丁目の田中のお婆ちゃんからメザシをもらったよ」
「……」
専ら、ご年配の女性から。
「七里、お前最近太ったんじゃないか?」
「失礼な。熊五郎にはデリカシーってものが足りてないよ」
「やっぱり太ったんじゃないか」
がははは!と豪快に笑いながら熊五郎こと熊代は『七里』と呼んだグレーの毛並みの猫の頭をぐりぐりと撫でた。
七里 千歳
呪詛返しの失敗で猫化してしまった、通称:猫先輩の名である。
七里は嫌そうに、熊代の手をペチりと肉球パンチで払い除けると、ボサボサになった毛並みを丁寧に毛繕いし始めた。
猫だって人間だって、身嗜みは大切なのだ。
「巡回してると、ご年配の女性達から色々と差し入れを頂くのだよ」
つやつやのグレーの毛並み
靴下を履いているように見える白く可愛い足
アーモンド型の瞳
ぷにぷにの肉球
これらは世の奥様方を魅了して止まないらしい。
その可愛さに、思わずおやつをあげたくなる気持ちも分からなくない。
「餌付けされてんのか」
「否定はせん」
いや、そこは否定しろよと資料の束を抱えて戻った神奈は心の中でツッコミを入れていた。
「熊代さん、これが頼まれた例の資料です」
「おう!手間かけてすまんな、神奈」
熊代は神奈から資料の束を受け取ると、それらにざっくりと目を通し始めた。
「あんまり太ると、神奈に嫌われるぞ」
「うちの部下はそんな事で上司を嫌ったりしないさ」
自信満々に言った七里から神奈はスっと目を逸らし、ボソリと
「…あんまり重くなると、運ぶの大変なんで」
程々にしてくださいと釘をさしておく。
個人的にはぽっちゃり系猫も好きなのだが、猫は猫でも上司のぽっちゃりは頂けない。
運ぶのが大変になるし、何より任務に支障が出るようになっては困るのだ。
ショックを受けたように固まる先輩を見ると少し心が痛むが、ここは心を鬼にしなければならない。
目の前でコントのようなやり取りをしている師弟を横目で見ながら、熊代は『焦れったいヤツめ』と少し呆れたように溜め息を吐いた。