猫な上司の書類仕事
「先輩、仕事してください」
「にゃぁん?」
「…かわいく鳴いてもダメです」
「……チッ」
窓際でゴロゴロと日向ぼっこをしていた猫は、舌打ちをすると渋々と自分のデスクへと戻っていく。
「判子押し、肉球汚れるから嫌なんだよなぁ」
「我儘言わないでください
先輩が出来る書類仕事、今はそれだけなんですから」
先輩が猫になって半月
本職である退魔の能力に問題はなかったものの、事務作業には多大な影響があった。
文字は読めるが、書けないのだ
何故ならペンが握れないから
綺麗に片付けられた机の上にお行儀よく座り、朱肉にぎゅぎゅっと肉球を押し付けて書類にペタリ。
朝から繰り返される同じ作業に、いい加減飽きてきてしまった。
「書類を書くのが神奈の代筆で問題ないなら、判子だって神奈が押しても問題ないだろうに…」
つまらなそうに朱肉にぺたぺたと肉球を押し付け、猫がぼやく
「それじゃあ、私が何でもかんでも書類通せちゃうじゃないですか」
「私のおやつ代、こっそり経費で落としちゃいますからね」
「それはダメ。経理にバレたら僕の給料から差し引かれるもん」
退魔師の書類仕事は誤魔化しが効かない。
直筆、押印…
これらの作業には個を識別する霊紋が残るためだ。
同じ種類の霊符でも、作成した者が違うと威力に差が生じるのは、この各々の霊紋に寄るところが大きい。
「書類の代筆許可は上層部から貰ってますけど、判押しは先輩が必ずするようにとお達示がありましたからね」
ほら、さっさと押しちゃってくださいよ
ずずいっと書類の束を猫の前に積み上げてやると、猫はフシャーっと毛を逆立てた。
「なんか多くない?!」
「多いですけど、仕事ですから」
動物虐待だー!などと叫びながら、ぺたぺたと押されていく肉球判子
猫と部下は知らない
上層部が肉球判子見たさにいつもより多く書類を回していることを。
「肉球、カサカサしてきた…」
「終わったらクリーム塗ってあげますから、あと少し頑張って下さい」
そして判子の押しすぎでカサついてしまった肉球を嘆き、後日後輩が上層部に殴り込みに行くことを…