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第八話『夕日に魅せられる』

 さてさて。ただ今より始まるのは三尽くめのバトルロイヤル!実況は拙者、柳涼太がお送りしていく所存です。


 第一コーナー。東雲高校生徒会長の座に座り、今もなお『リーダー』と言えばこの人と謳われる人物!男子からのお便りも多いだとか。あと胸が大きい!白澤茜ッ!!

 第二コーナー。冠する称号は『女帝』!女子の友達ランキング一位!男子達はその鋭い目つきと口調にメロメロだぁ!浅黄楓ッ!

 ……。

 …………。

 あー、最後黒垣蓮。

 よぉし!やって行こうー!


「……お前、今ロクでもないこと考えてたろ」

「ヒギミッ?!」


「ったく、サッサと決めて帰ろうぜ」


 おいおいイケメンなセリフじゃねぇか、相棒。どーしたよ?死ぬのか?まぁ、拙者は不死身でござる故?死にはしませんが?

 時刻は四時半を回り、そろそろ夕日が綺麗な時間へと向かっている。鮮やかなオレンジ色が前に座る彼女ら二人に当たり、その黒と茶色の髪が美しく映える。

 なるほど。これが美少女と言う奴か。どうりでクラスの男子の目がこの二人に集まるわけだ。可愛い、と言うより美しいと表現した方が正しいだろう。


「ではまず、班長の事なんだけど」

「あんたそろそろ諦めなさいよ。くどいわよ?」

「は?諦めるのはそっちでは?」


「……これは終わんねぇな」


 それには拙者も同感だ。否、終わらせたくない。この百合喧嘩ップル……!新しい分野でむちゃくそ尊い。尊すぎて死にそう。


「あんたらもどっちかに付きなさいよ。話進まないじゃない」


 ふむ。ここで多数決を勧めるか。悪くはないが、今投票する権利がある人間が悪い。普通の男子なら推しの方へ正座で進むだろうが、この場にいる二人はどっちも推しじゃない。

 別に「いっせーのーで」とは言ってないが、偶然声が重なる。


「「中立で」」


「……あんたらホント使えないよね」

「ったり前だろ。そんな易々と使われるほど俺の人件費は安かねぇぞ」


「誰も人件費なんて取ろうとしてないのだけど」


 だから、女子にネタは通じないって。特にあんな真面目な生徒会長様は特に!マジで何回同じミスをするのやら。そろそろ成長しようぜ相棒!

 と、相棒の成長を望むも、この際成長だとか進化だとか考えてる暇はない。なぜか?目の前が怪獣大戦争だからだよ。ゴジラvsモスラだな。キングギドラ?それはアッチの人だから……。


「さいですか。とりあえずサッサと決めてくんね?俺らは先にどこ行くか考えとくから」


「はぁ?私ら二人だけで決まると思ってんの?」

「……自分でもわかってんのかよ」


「あーじゃあ拙者は決めとく故、蓮に任せた」


 拙者がそう言った途端、隣からものすごい殺気の帯びた目がこちらを向いたが気にしない。ほら、人間気にしすぎたらダメって釈迦かキリストが言ってたでしょ?信仰大事。したことないけど。

 ま、彼女らへのツッコミは蓮に任せとけば何とかしてくれるだろうし。拙者はルート検索でもしておこう。


 ……ふーん。TDLに行くのね。その後は東京観光と。悪くはない時間設定だが、起床時間が六時半で就寝時間が十一時ってのは納得いかないのですが。

 にしてもTDLか。厳しくないか?このメンツであの『東京・デンジャラス・ランド』に行くと?自殺でもするの?

 行動表を片手に、明後日の方向へ目を向けた。視界の端で蓮がぶつくさ文句を言いながら、彼女ら二人の間に入りツッコミを入れているのが見える。彼はなんやかんやで世話好きなのだ。この一週間ぐらいずっと見てきて理解した。

 彼女らはギャーギャーと騒ぎながらも、蓮の声に合わせてジャンケンをする。「ポンッ!」と声の後に出すのはグーとグー。次に「あいこで」の後はチョキとパーが出た。

 チョキを出したのは、顎を上げ上から敗者である彼女を眺める白澤茜だ。


「はぁ……やっと決まった」


「ふふ、じゃあ残りを早く決めましょう」

「この人めっちゃ嬉しそうだな、おい」


「さ、さっきのは後出しだったでしょ!?私が後出ししてたからノーカン!」

「悔しそうだね。って、後出しで負けたの?!」


 二人の反応に蓮と拙者が交互に反応する。

 片方はずっとニマニマ顔で行動表を眺めていて、もう一方はラスボス戦で絶望した主人公みたく落ち込んでいる。

 やっぱりこの二人、中々相性がいいのでは?今回の修学旅行で恋が目覚めてもいいんですよ?拙者としてはコミケで買う予定の内容が、現実で起こってるので幸せ一杯でごさるし。


「さ、じゃあサッサと向かう場所を決めましょう。まずはTDLから━━━━━━」


 なぜかさっきまで聞こえてなかった音が聞こえ始めた。ボールがバットに当たる音、掛け声をあげる少年たちの声、吹奏楽部による演奏練習、もう十二年間も学校に通っていたがこんな感情になったのは初めてだ。

 果たしてこの気持ちはどこから湧いて出てきたのやら。そこが少しばかり心残りだが、今は多分見つからない答えだろう。なぜかそんな事を感じながら、柳涼太は優しい笑みを浮かべた。



 ーー


 早くもあの日から約一週間が過ぎた。もう季節に春はいなくなり、夏が顔だけ出している感じだ。暑くもなく寒くもない、そして梅雨には少し時期が早い。環境は最適と言えるだろう。

 だがまぁ……彼女ら二人の関係は未だ真冬である。


「あなた、予定より一分遅刻よ?時間も守れないとか、人間でいる意味ある?」

「はぁ?!一分って何よ!わずか数十秒の差でしょうが!あんたの頭の中、人間の作りしてないんじゃないの?」


「俺しーらね。柳あとは任せた。俺は出欠報告してくる」


「あ、うん。……って、あ!逃げられた!」


 さーっと彼はガヤガヤと騒がしい集団の中を抜けて、先生達が立つ入口の方へ向かって行った。

 で、彼に任されたこの二人の手綱なのだが。一体どうしたものか。さっきから機関銃の如く悪口が飛び交っている。見慣れた光景になってしまったが、多分ペットのように過剰なストレスは与えない方がいいだろう。顔を見合わせているだけで、滝の如く水が流れ落ちるのだ。できるだけのケアはしてあげないと飼い主としての責任が……って、なんで拙者らこんな幼稚園の先生みたいに頭使ってるの?

 のびのび育って下さいねーってか、ある意味のびのび育ってるよね!ほら、先っちょとかもうピンピン。針よりも尖ってるよアレ。しかも先っぽは即効性の毒塗られてるし。


「まぁ、片付くわけねぇか」

「逃げたくせに何言ってんの?」


 当たり前のように帰って来た蓮へ、軽く叱責する。彼はバツの悪い顔をしながら「悪りぃって」と謝罪して彼女らに背を向けた。

 放っておく方針らしい。臭い物には蓋とは正にこれだ。見て見ぬ振りの方が正しいだろうか。なんにせよ、彼女らがいきなり殴り合いをするわけではないので、ここは思う存分はしゃいどいてくれ。


 なぜって━━━━━この後乗る新幹線で静かになるだろ?


 これから約三時間もかかる新神戸から東京駅までの新幹線において、彼女らのスタミナが切れているか切れていないかは、拙者らの楽しい新幹線タイムの生命線となるのだった。


 んじゃまぁ、ちょっくら東京行きますか!オラ東京行くべよ。

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