第七話『学校という社会』
二年前の春。
俺は高校生と言う新たな環境へ淡い希望を胸に秘め、青春という名の甘く冷たい飲み物へと手を出そうとしていた。
━━━━と、美化でもしておこう。
高校に希望なんて感じてなかったし、青春なんて甘ったれた飲み物なんかより俺はブラック派だ。故にさっきの駄文は頭から尻尾まで全て違う。
それでも今の俺は、あの二年前の春をそうやって美化していかなければ誤魔化せない。
あの過去を━━━━━━━
ーー
俺は小学生、中学生の頃は非常に暴力的なガキだった。笑顔と嘘で周りを惹く奴らとは違い、己の拳一つで黙らせる。端的に言えばただのガキ大将だ。
近所の学校と公園での縄張り争いも制したし、近場の駅のフリースペースも我が物とした。別に家が荒れていたりしたわけではない。単に俺が『喧嘩』という分野に秀でていただけだ。
この高校を受けたのはただ周りより頭が良かったから。勉強はした。喧嘩で負けた奴が勉強でも勝てないと知った時の様子が面白かったから。
そして高校に入るが、俺の態度は前と変わらないままだった。ナメた態度をとり、いつもガンを飛ばしている。周りからすれば『異質』と思われただろう。この上の下あたりの学校にヤクザみたいな野郎がいるのだ。異質、異物、関わりたくないと察するのが普通である。自分で異物とか言ってると寂しくなるな。
そうやって過ごして行くも、そろそろ俺と言う存在がクラスに馴染み始めた頃。その事件は起こった。
「━━━━やぁ、君が噂に名高い黒垣君だね?」
爽やかに声をかけて来たのは、黒髪を綺麗に仕立て上げた青年だ。顔は見た覚えがないが、声は覚えている。入学式で新入生代表挨拶を喋っていた声。つまりコイツは同じ学年で、学年一位の成績で、爽やかイケメンである。あーってことは、俺の敵って事ね。コイツ絶対性格悪いだろ。俺のリア充アンテナが立ってる。……ただの寝癖だよ。なに一人で黒歴史作ってんだ俺。
「あーどちらさん?俺の知り合いに頭脳明晰なイケメンはいねぇよ?」
「あっと、ごめんごめん。僕は金百合迅、隣のクラスの委員長さ」
何が「委員長さ☆」だよ。なんですか、ホステスですか?そうですか!だったら、お願いだから夜の街で店の前に立たないで下さい。あれホント怖いんで、マジで。
つー事は、とうとうこのホステスはターゲットを男へ変えたのかな?女釣れないからって男漁りに来るのだノーだよ。ハッ!女いねぇんだって、カッスやな!
ゲフンゲフン。まぁ、日本男児である俺からすれば、それも人生ってもんさ。ここはクールにコイツからのお誘いを断らせてもらうぜ。
「そうか。じゃ」
ソォ・クール。完璧な返しだぜ相棒。世の女の子達も目がハート型だな。
「待ってくれ!まだ話が残ってるんだ!」
おいおい……。コッチのソォ・クールな解答への当てつけか?俺はそんな少女漫画の切り抜きみたいなセリフでキュンキュンするような玉じゃねぇぞ?
……え、何コイツ俺のこと好きなの?スラッシュ持って来ないと。
いや何してんだ俺。
「で?その話ってのは?」
「━━━━━いやなに、君って人間の醜さの話だよ」
なるほど、なるほど。
あの『顔が可愛い女子は大体性格悪い』って説、ちょこっと修正入れるか。
『顔が可愛いカッコいい女子男子は性格クズ』に修正しまーす!異論反論異議抗議は死んでも認めん。
「そうかよ。どー見たってお前のがクズさは上だろ。頭湧いてんのか」
髪をサッと搔きあげ、金百合迅は陰湿な顔をする。その顔は普段女子やら先生達へ向ける顔とは全く違っていた。
ギラつく目に、僅かに緩め笑う口、コイツはどちらかと言えばヤクザに近い。喧嘩だけをしてきた俺のような不良とは違い、周りを脅し、イジメて金品を奪い取る。
毎度毎度こうやって色んな奴らを誑かして来たんだろう。態度と顔が正にそれを表している。目も泳いでないし、上から覗き込むように話す態度、そして冗談には聞こえない口調。
「湧いてるとは酷い評価だ。ちゃんと段取りを踏んでこの行為に及んでるんだよ?」
「まだ一ヶ月も経ってねぇってのに、仕事が早いことで。サッサと低賃金の職場で働けば?」
んで、そのまま社畜になってブヒブヒ言っとけ。俺はその間にお前が連れる女の子の一人に養ってもらうから。
あれ?なんでコレだと俺の方がクズみたいな扱いになるんだ?
「……妹。菜乃花ちゃん、だっけ?」
「あ?」
「確か近くの私立学校に通ってるんだよね?」
「んだよ、それがどうしたってんだ」
なるほど、これが段取りってヤツか。OK手加減は抜きだ。本気でぶん殴ってやる。傷つける人間を間違えた罪は重いぞカス野郎。
「この辺の私立の学校には少しばかり根回しが効いてね。君のいもうトウキョッ!」
俺の右手は真っ直ぐに金百合の顔面へと向かい、力強くぶん殴った。金百合の華奢な身体はそのまま後ろへと飛び、ちょうど彼の後ろにあった窓ガラスを打ち破った。
偶然にも窓の近くに誰もいなく、怪我人はいない。金百合の方もその醜い顔面を除けば、特に怪我はない。まぁ、窓の割れた原因がアイツの肘が当たったってのが不幸中の幸いか。
「そのまま一生くたばってろ」
慌てて駆けつける先生達の前で、俺はそう奴に言葉をかけて生徒指導室へ自分の足で向かって行った。
処罰は一週間の自宅謹慎と反省文。まぁ、反省文の方は適当に有ること無いこと書けばいいので注した問題ではない。
そして一週間後。久しぶりに学校へと向かってみると、今までの様子とは一変していた。あの野郎含め、その取り巻き達により俺の学年は『黒垣蓮を許すな』と言った空気へと変貌していた。
━━━━━これが学校と言う社会だ。
ーー
「なんだ?誰かさんみたく窓ガラスに埋められたいのか?」
クラスの中央に座るのは、俺をボッチへと墜とした張本人。今の彼は優しそうな笑みを振りまいているが、再度自分の隠したい過去を晒され内心は顔真っ赤だろう。
多分、こんな馬鹿みたいな団結を深めているのもコイツが元凶なんだろう。なんで柳とあの喧嘩ップルが例外なのかは知らねぇが。
「……お主なかぬかやるのぉ」
「俺としちゃ、お前らの態度の方がビビったわ。なんなの?この班ボッチの集まりなの?」
いやまぁ、普通のボッチはアイツの的なんだろうが、この班の奴らは超能力で曲げったスプーンより曲がってるからな。クソ、なんで俺もその一員みたいな扱いなんだよ!
「ボッチなんて言わないで欲しいわね。私、これでも生徒会長よ?」
「自慢とかキツいわ〜。あ、私は全然友達いるんで。ボッチのあんたらと一緒にしないでね?」
「曲がる曲がらないの話じゃなくて、まず出てくる所を間違えてるな」
というか、この二人は我が強過ぎる。誰かの下に就くなんて腹は微塵もない。まぁ、その二人を混ぜるのは良くないんだが。
そんな話をしていると、さっきまで外に出ていたクラス担任のハゲが戻って来た。今までの事などなーんにも知らないで、教卓の前に立ち口を開く。
「……えっとだな。修学旅行が三日後に迫ったのだが、まだ何班か行動計画表が出せてない班がいる。その班は放課後、各部屋を用意するらしいからそこで話し合ってくれ」
なるほどなるほど、つまり缶詰めと。……えっ!?各班、各部屋?!つー事は━━━━━、
「最悪……」
「最低……」
「ふふーん、いいカップルだ」
OKわかった。ちょっと一回死んでルート変更して来いってか。おかしいな、どこで選択ミスったんだろ。
……おい、ふざけんなよマジで!何が楽しくてこの四人で一教室に押し込められなきゃならねぇんだよ!なるほど、とうとうクラスの奴らだけでなく先公達も俺をイジメにかかってきたか。
この青春の馬鹿野郎ッッッ!!!
蓮の軽い黒歴史です、はい!(満面の笑み)
まぁ、彼は喧嘩だけは強いんで。作中最強です!