第六話『その花は強く誇らしく』
なんか海賊版なろうが生まれててんやわんやになってるらしいんだけど、個人の意見としてはですね。載せるなら最終話まで載せろヤァ!って感じですね、はい。
逆に白澤茜は騒がしい。
無論、容姿と言動は全くの逆だ。静か、冷徹、爽やか。言葉ではそう表せるだろう。
しかし彼女の心はその裏の裏。コンサートの観客のように、危険を感知した動物のように、止まぬ音の爆弾が降り注ぐ。
例えばそう、黒垣蓮のような人間は彼女の心に巨大な爆弾を置いて行く。腐った目、どこか腹が立つ言い回し、捻くれた感性。それら全てが白澤茜のような『きちんとした人間』には無理なのだ。
━━━━━━結局、彼女は他人にうるさい。
ーー
私は放課後になると同時に生徒会室へと足を運んだ。柳涼太は黒垣蓮と、浅黄楓は彼女の仲間と一緒に早々と帰って行った。向こうにもこちらにも一緒に帰るなんて選択肢は鼻からない。
私は友達と言える人間はごく一部しかおらず、大所帯な人間関係を築いているわけではない。けれど、そんな私がここ兵庫県立東雲高校の第三十七期生徒会長を務めているのも事実だ。
確かに「中高の生徒会の投票なんて人気投票と変わらない」なんて言われても首は横には触れない。が、それを言うならごく少数の友達を持つ私で会長の座に座れたのだ。人気投票以前に、雰囲気と容姿、あとはボッチか否か程度の事でしか比べられてないだろう。
「━━━あ、こんにちは会長!」
部屋に入ると、明るい声の少女が声をかけてくる。赤っぽい色のショートヘアーを揺らしながら、彼女はクネクネと体を動かし近づいて来た。少女━━━━梅田梨花は副会長と言う立場で私を補佐する中々優秀な子だ。
頭も切れるし、何より配慮が上手い。彼女ほどの優秀な後輩は滅多にいないだろう。だが、やはり人間だ。欠点とは言わないが変わった所もある。
そう、例えば━━━━━━、
「……ねぇ、先輩?今誰もいませんし、私と奥の部屋でHしませんか?」
「いや」
「即答っ!?」
まぁ、こんな所だ。
彼女が生徒会に入った理由も私が目当てで、毎日毎日早く来てこうやって誘ってくる。悲しきかな。豊富な胸に、小柄な体、顔もよく性格も良い。正に完璧と言わぬばかりの女なのに、恋愛対象が同性である。まぁ、それを知るのは私だけらしいが。
「ぶー!先輩のケチ!一回ぐらい先輩とヤりたいですよー!!」
「だからぁ!なんで付き合う前にするのよ」
「おっとぉ?先輩にもHな知識がっ!?」
それぐらいあるわ!とは口には出さなかったが、ソッポを向いて一番奥の席へと腰掛ける。
ホント、最近は調子が狂う。まぁこれも環境に慣れないせいだ。あと二ヶ月もすれば心も落ち着くだろう。もうその頃にはあの班は無くなってるし。
深くため息を吐きつつ、私は書類の整理をする。確か次の行事は各学年の野外活動だ。一年生は奈良へ、二年は京都、そして三年生は東京と。日本の都が並んでいる。
他校は二年の秋に修学旅行は終わった、と言っていたが、何しろ変わった学校な事で修学旅行はゴールデンウィーク後すぐに行くらしい。
「……ま、いつ行こうと変わらないか」
「あっ!先輩達って修学旅行は東京なんですよね?!お土産に先輩の写真集欲しいです!」
「それ、東京関係なくない?」
むしろ修学旅行自体も関係ないと言える。まずお土産になってないし。まぁ、彼女へのお土産は昨日ネットで見たワッフルケーキにしよう。それで我慢して欲しい。
などと思いながら梨花との団欒を過ごしていると、ノックが鳴り男子二人と女子一人が生徒会室へと入って来る。
さて、梨花との冗談はこれにて終了。真面目に取り組むとしよう。
「では、これより生徒会会議を行う━━━━」
会議は遅くまで続き、終わるのは完全下校のチャイムが鳴る五分ぐらい前だった。
まだ春だというのに、その夕焼けはまるで夏のようにオレンジ色に輝いていた。青葉が木から離れ、街の方へと飛んで行った。
ーー
翌日、またしても行われるホームルームは単なる地獄でしかなかった。
副班長の件は黒垣蓮が辞退した事により、柳涼太と決まったが、まだ決まったのはそれだけだ。肝心の班長も、どこをどう回るのかも何も決まっていない。
否、今日決めなければならない。他班と比べればウチの班は相当遅れをとっている。何とかその遅れを取り返さねば、ぶっつけ本番では無理がある。
と、わかってはいるのだが━━━━━、
「だから私が班長で良くって?」
「だからさっきから私がやるって……日本語通じてる?」
「……日本語でおK?」
「おい、黙っとけって……」
私と浅黄楓による舌戦に所々でちょっかいを入れる柳君。そしてそれを制する黒垣蓮。
私と彼女、浅黄楓の怒りは秋の枯葉のような勢いで積もり積もる。未だお互いに引かないこの現状に、わざわざ聞こえる声でちょっかいを入れて来る男子二人に。
普通なら、いつもなら、大概の人間は生徒会長と言う立場に立つ人間に、リーダー性に於いて一歩後ろに下がる筈である。無論、それは単純に「嫌だから」と言った理由も含まれるだろう。しかし、この茶髪の女━━━━胸は奈良盆地で、体は小柄、顔は桜田梨花と変わらず美少女を語れる容姿の浅黄楓は、一向に引く気配がない。
それもそのはず。
要因一、私と彼女では馬が合わない。
要因二、どちらもプライドが高い。
要因三、お互いが持つ『物』への憧れがある。
これら三つの要因のせいで、私達の関係は劣悪だ。要因三に至っては殆ど自分の話ではあるが。
「ちょっとしつこいんじゃないの、浅黄さん?」
「それはあんたの方じゃなくって?」
「……これやっぱり喧嘩ップルできるよ、うん」
「何か言ったか、柳?」
「ちょっとお耳を拝借……」
「━━━━━━ッ!」
柳君からの裏話で、黒垣蓮の顔は驚きの色一色に変色した。さっきゴニョゴニョと呟いていた事だろう。しょうもない。ここに来て悪口陰口の年齢か。もっと将来に有効な事の一つも話せないとは、それで来年から大学生など笑えて来る。
しかし今はそんな他所のバカについての考察などをまとめている暇はない。この目の前の美少女との決着をつけなければならないのだ。そう、立場の決着を。
━━━━━が、まだまだ続くであろう舌戦も先程顔を変色さけた黒垣蓮による一言により、終結が迫った。
「……なぁ、あんたらのその狼社会的な問題は後回しって事にして、今はもうジャンケンで決めてくんない?その、そろそろ報告書提出しないと、お前ら余分に嫌な奴と顔会わせないといけねぇぜ?」
たしかに、彼の言うことは一理ある。
これ以上こんな無駄な時間を彼彼女らに取っている場合ではない。生徒会の仕事もまだ山のように詰まっている。ここは彼の言葉通りに動くのが吉だろう。いささか腹の立つ部分も存在するが、今は慈悲と慈愛に溢れた私の心に免じ許してあげる事にする。妥協と言えるな。
「……そうだな、そうしよう。何せ私は忙しいしね」
「なーにが忙しいだ。生徒会室で踏ん反り返って座ってるだけのワンちゃんが」
一々噛み付いてくるな、この女。そろそろ痛い目を見ないと気が済まないらしい。ここは生徒会と言う学校すらも操れる権力を使って、一つ彼女への報復を行おうじゃないか。
「……おたくら話聞いてました?穏便って言葉知らねぇのかよ」
また一人、人の堪忍袋の尾を切ろうとする輩がいたらしい。なぜ私と彼女を合わせて判断する。
そもそもだ。私は君の話を聞き入れた言動をとったつもりだが?それに噛み付いて来たのは浅黄一人であって、私は反論すらしていない。わざわざ火に油を注ぐあなたの方が『穏便』を知らないのでは?
と、私の心中は反論でいっぱいだ。まぁ、それを言葉として彼にぶつけるのは、この場をより面倒な方向へと向かわせるので口を塞ぐ。
「つーわけでジャンケンで」
「「・・・・・・」」
ジャンケン、と言われても少し困った事がある。この際相手に服従だとか、その他色々の問題ごとは無しとしたジャンケンと言う決め方だが、逆に一つ問題がある。
そう━━━━━どっちが音頭をとるか、だ。
めんどくさい、とは自分でも思ってはいるが私と多分向こうも、本能がこう言っているのだろう。「あの女には下手に出るな」「あの女には負けるな」と。
もう信憑性のカケラもない『絶対に負けられない戦い』の私バージョンが、いや私と浅黄楓のバージョンが正にこれに当てはまる。
黒垣蓮は心底「コイツら、めんどくせぇ」と言った顔を。柳涼太は顎の下で手を組み明後日の方向を見上げている。
「……おい柳、音頭とれ」
「えっ?盆踊り?」
「ちげぇよ。ジャンケンの音頭だよ」
「拙者にお任せを!見合って見合ってぇえ!アウト!セーふぁっく?!」
「誰が野球拳の音頭とれつったボケガァ!」
調子に乗った柳涼太を一括するべく、黒垣蓮は彼の頭を叩いた。少しパシーンっと軽快な音が教室に響いたと同時に、クラスが一気に静かになった。心なしか気温も下がったように感じる。
まるで、黒垣蓮を非難するかのように。クラスの目は凍てつくような冷たさで端に座る彼を捉え、誰一人喋らない静まり返った時間は、その氷のような視線に塩でもかけるかのように静寂を生み出した。
この時、初めて私は理解したと言えるだろう。このクラスの重要人物に痛手を負わせた黒垣蓮と言う人間が、クラスのごく一部の人間以外からどう思われているのかを。
痛手を負わせた。つまり怪我をさせた。
彼の罪は二年前の春、現学年一の美少年と謳われる金百合迅を腹が立つ余り暴力を振った暴行罪だ。
緊迫する空気の中、黒垣蓮は息を吸い口を開く。その言葉は彼がどんな意味を込めて放ったのかはわからない。ただ言えるとすれば、燃え盛る火にガソリンをぶっかけ、その周りに上から爆弾を多量に投下した。
「━━━━━なんだ?誰かさんみたく窓に埋められたいのか?」
爆弾は火柱のように燃え上がる炎から、引火し爆発。爆発は誘爆を起こし、最後彼から見える景色はただの炎の海でしかなかった。