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第四話 『僅かながらにステップを踏んで』

さて、あと九十六話で百話だ()

 柳涼太は賑やかな人である。


 ある日、二次元の世界と出会った。三次元の世界には飽き飽きしていた所だったので、二次元の世界は未知の領域としてとても楽しかった。

 冒険、青春、熱いバトル……数えていけばキリがない。

 それほど二次元で表される世界は柳涼太にとって魅力的で、美しかった。彼がその世界へとどっぷりハマってしまったのは必然的にだった、と言えよう。

 そしてそれは数年が経った今も変わらない話でもあった。



 ━━━━━結局、彼は誤魔化すのが上手だ。




 ーー



「拙者、柳涼太と申す。以後よろしく!」


 いつだっただろうか。

 侍が好きだった。刀が好きだった。負けない強さが好きだった。


 前から来るのは絶対零度に達する視線。隣から感じるのは驚愕で溢れた視線。

 こうやって誰かを驚かすのはとても楽しい。悲鳴を上げさせ、恐怖で驚かすのではない。単純に、純粋に、唖然っと言った形で誰かを驚かすのが好きだった。

 それが拙者の切っても切れない鎖のようで、絶対離すことのできない大切な宝だ。


「……まぁいいわ。次、浅黄楓さん」


「一々腹立つ言い方ね……。私は浅黄楓。以上」


「じゃあラストは私か。白澤茜。趣味特技等は無いわ。嫌いなモノ……あぁ、プライドの高そうな女、ね。以上」


「うっざ。わざわざ私の方見て言わなくて結構!ってか、アンタもそこそこプライド高いでしょ」


 さて。中々に揉めてるな。前々から思っていたんだけど、この美少女さん達かなりの確率でブーメラン放ってるよね?

 先生のくじ引きって形でこの班になっちゃったけど、この班って相当酷な班と言える希ガス。

 いやまぁ、学年のトップスリーに入る美少女が二人って点だけは、神の所業、いや拙者の主人公適正バッチし故の結果なんだと思うけど。

 対して男子がボッチ&素行不良生ってのはいかがかなことかと思うよ?うん。



「さ、そんな事より班の役割を決めましょ?副班長は、柳くんでいいかしら?」


 せ、拙者!?

 何故?如何に?どうして?Why?


「私、目が腐ってる人は嫌いなの。理由はそれだけ」


「……おい。それだと俺の目が腐ってる事になるじゃねぇか」


「何か言った、ええっと……黒貝君?」


「いいえ!なんでもございません!……誰が貽貝だ」


 うわぁ……これがカースト上位と下位との差か。あ、今の下位と貝って掛けれるな。 日本語っておもしろい!

 それより黒垣君の最後の愚痴、本人は多分小さな声で言ってるつもりだろうけど、結構大きいんだよねぇ……。

 ほら、浅黄さんなんて「草ww」みたいな感じで腹抱えてるし。……草に草生やすなよホモか。

 白澤さんに至っては「こいつマジうぜぇ」感が全身から溢れてるっての。

 それじゃあチョコっと場に乗って拙者も口を挟むとしますか。



「んじゃ、次は班長ぜよ」


「普通に喋ってくれない?」



 ヒィ!?

 や、やっぱり拙者らには発言権が与えられてないらしい。拙者の個性をモロに消しに来る浅黄楓さん。恐るべし……。

 ま、まぁ?こ、これも修学旅行にはなくてはならない『いざこざ』ってヤツですよね!


 うーん。これホントにいざこざで済むのか?第三次世界大戦の引き金にならない?ならないか。



「じゃあ、次は班長ね。黒貝君がやるのは私が反対だからないとして……」


「……だから黒貝って誰だよ」


「ってことはつまり、誰かが一人でも反対すればソイツは班長になれないのね」


 次に口を挟んだのは拙者ではなく、浅黄楓さんだ。あーまたブーメランか?この班ツッコム人が居ないからネタがネタとして生きなくなるから、かなり無駄だと思うんだよねぇ。

 次辺りでツッコんでみるか。


「じゃあ私は白澤茜が班長をする事に反対するわ」


 うわぁ……。ブーメランじゃないと思えば、今度はめんどくさい事を始め出したよこの人。二人とも仲悪過ぎるでしょ。絶対二人どっちか戌で、どっちか申年生まれだよきっと。


 ━━━━━━いや、待てよ。

 もし、この二人の関係が見かけだけの物だとしたら?

 お?おっ?おおっ?!

 咲き誇れ。一輪の百合よッ!!ケンカップルの百合。これは良い!いや、拙者が望んでいたモノだ!!この百合こそ、真の百合!


 拙者の主人公適正高杉ィ!!あれ?これ主人公なのか、拙者?……まぁいいや!


「あら?じゃああなたが班長をやると?笑わせないで欲しいわね。ゴリラが人間を纏めれるわけがないでしょ?」


「は?私がゴリラならアンタはカバでしょうが。一生泥水に浸かってろ!」


 お、おい……わ、笑いが込み上がって来る……!ゴリラとカバで喧嘩とか……!!いひひひひひ!大草原不可避ですわコレ。

 く、黒垣君は生きてるかな……?


 ……あ、吹き出す数秒前ですわアレ。

 ふ、吹き出したら確実に死ぬよ?同志よ!!まだ耐えるのだ!あとで拙者が考えた百合でも話し合いながら、笑い飛ばそうぜよ!!


 が、我が同志は天使となり天高く舞って行った。惜しい人を亡くした。せっかく百合について語り合える人物だと思っていたのに……。

 せ、拙者には七つの球を集める旅は過酷過ぎる。すまねぇ、同志よ!オメェの事は絶対忘れねぇからよ!!また一緒に酒でも酌み交わそうや。


「ふぅ……あぶねぇ。いや、柳?なんでお前泣いてんの?」


「ッ!?同志ッ!!」


「おい!やめろ抱きつくな気持ち悪りぃ!」


「死んだとばかり思っていた……!」


 拙者の主語も修飾語も無い言葉で、黒垣蓮はボンヤリと言いたい事を理解したらしく、優しく笑う。

 彼はまだ笑っていなかったのだ。それだけで拙者の心は半分ほど救われた。

 そして黒垣蓮は息を吸って続ける。


「大丈夫だ。目の前がゴリラとカバの動物園でも、お前と言う人間は見捨てねぇ……イッ!!!」


「ボッチが何を息巻いているのかしら?」


「あなたについては本当に無理です。今すぐ死ぬか消えてください。お願いします」


 彼女達の止まる事を知らない言葉の暴力は、まるでマシンガンのような速さで、まるで核爆弾のような威力で我が同志をけちょんけちょんに根絶させた。

 ……言葉って怖いね。あれ一種の殺害方法だよ。メンタル和紙の人とか、瞬く間にシュレッター掛けされたみたいになるよきっと。



 ーー



 そして次の日、我が同志は学校に来なかった。そう。彼は死んだのだ。悔しくも彼女達の猛攻で心を痛め、悲しみを背負いながらこの世を発った。

 拙者は彼を死んでも忘れない。

 黒垣蓮と言う人間は、最後の最後までカースト制度に立ち向かったのだ。

 これ以上の英雄はいない。あの青い空に向かって黙祷を捧げよう。


「━━━━━おい、勝手に殺すなよ」


「だって次の日休んでただろぉ!!」


「いや、それはアレだって。起きたの昼だったから行くのめんどくさかったんだよ」


 コーラを啜りながら、黒垣蓮はぶっきらぼうに答える。

 拙者はシャカシャカチキンなるモノを、シャカシャカと振って頃良いタイミング見計らう。

 ん?この袋はなんだ?……レッドペッパー。あぁ!!入れ忘れてる!しまった、無駄に十分もシャカシャカしていた……。


「あのな?あのゴリラもカバも一応は人間……矛盾してるな。あぁ、こうしよう。アイツらは半獣人だ。ゴリラとカバの半獣人。しかしだ。そんな怪物の二人だけど、しっかりと善の心は持ってるんだよ、多分」


「つまり、そう簡単に喰われる心配はない、と?」


「醤油ぅこと」


「さすが我が同志!よく見抜いてるな!!グハハハ!!」


「そんな笑い方する奴初めて見たわ……」


 最後はよく聞き取れなかったが、特に問題なかろう。

 ちょうど部活終わりの時間帯。そろそろここにも学校の人や、他校の人達が寄り集まる頃だ。

 チラッと拙者が時計を見ると、我が友は気を利かせて場の幕を下ろした。


「んじゃ、そろそろ帰るか。晩飯の支度しないといけないし」


「晩飯とな?お主一人暮らしか?」


「いいや、ただの共働き。明日のホームルーム、お互い生きて帰れるように頑張ろうぜ」


「おうとも!!それじゃあ、達者でな!」


 我が親友は軽く手を振り、そのままエスカレーターの方へと向かって行った。

 晩飯の食材でも買いに行くのだろう。なぜか少し大人びて見えた気がする。

 ポケットに手を入れ、耳にイヤホンを充てがう。


 賑やかな少年は、満足そうな顔で帰路を急いだ。今日は初めて親友ができた日。自分自信にお祝いをする為に。

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