第十七話『星はただ見守るだけで』
星は相変わらず上から見ているだけで何もしない。月もまた同じ。下で戦争が起きようが、世界平和が締結されようが、彼らはただずっと見守るだけだ。まるで他人のゲームを横から眺めるかのように━━━
ーー
「ふぁぁ……眠くなってきたわね」
「俺みたいな人間は今からが活動時間なんだけどな」
「そ。不健康ね、死ねば?」
「なんでだよ」
俺の活動時間は夜の十時時から朝の六時まで。ちょうど八時間だ。昼間に活動している奴らと変わらない時間でもある。
まぁ、学校があるからその活動時間は休日だけの話になるんだけど。
「眠いのならサッサと寝た方がいいんじゃねぇの?俺みたいに生活してたら太るぜ?」
「別に私は太らない体質だから。あなたの気持ち悪い心配は無用よ」
「さいですか」
お前のそんな体質とか興味ねぇし。太ったら太ったで「丸くて可愛い」とか言われてチヤホヤされんだろ。ふざけんな。
「……腹減った」
「あなた頭大丈夫?あ、頭はもうダメか。体の方も狂ってるんじゃないの?」
アホか、とでも言わん顔で彼女は俺の方を見て言い放った。しかし、ただの空腹でここまで言われるのは少々凹む。
そこまで言われる筋合いは無いはずの人間関係なのだが。つか、こんな夜更けに二人きりでいる関係でもない。……なんか急に緊張が。
「狂ってんのは俺より世界だろ。なんでリアルが充実してる奴がドヤ顔で歩いてんだよ。頭おかしいんじゃねぇの」
「完全私怨じゃない、それ」
「『私』じゃねぇし。非リアだし!」
彼女は両手を上げて呆れた、とポーズをとる。あーはいはい、お前みたいな顔も良きスタイルも良きみたいな人間は男に困らないもんな。つい昨日も告白されてたし。
本当にこのグラフィクだけの人生ゲームはクソだな。その中にある二次創作のゲームの方がよっぽど面白ぇわ。
「ったく、お前はサッサと寝ろよ。眠いんだろ?」
「そうね。ならお言葉に甘えて帰らしてもらうわ」
「そうしとけ」
適当に返事を返し、俺はゴロンとベンチに横たわる。バカみたいな数の星が此方を見ていた。綺麗、とまではいかないが確かに景色としては良いと思う。星が好きな人からすれば、都会でこれだけの星が観れるのは中々珍しいのではないだろうか。
まぁ、そんな星を見たところで俺の心は震えも響きもしないが。
「……おやすみ」
「・・・・・・」
彼女の挨拶は、小さく小さくなって俺の耳に届いて消えた。なぜか口は開かず、代わりに扉が開く。白澤茜が居なくなったのを耳で察しながら、俺はそのまま空を見上げ続ける。
━━━━綺麗だ。
そう心が認識し、掴めないかと手を伸ばす。
ーー
「蓮ー!おはよぉ!」
「……朝っぱらからうるせぇ」
「拙者寂しい」
「知るか」
相変わらずのうるさい声が耳元で爆発する。この旅行が始まってから、毎度毎度この目覚ましで起きているのだが、一向に慣れる気がしない。
まぁ、それでも構わない。今日でその目覚ましともお別れだ。序でに言えば、この班も今日で終わりだ。最高だね……!
「とうとう三日目でごさるよ。拙者泣きそう」
「俺も泣きそうだよ。あまりの嬉しさに」
「蓮もなかなかのツンデレですな。楓っちと同レベ?」
「んだよ、レベルって。つか、俺はツンデレじゃねぇ。ツンデレはデレがあるからツンデレって言うんだよ」
つまり、ツンはツンでもデレがないツンはただのツンである。そしてそれは萌えないモテない煙たがられる、の三拍子。
だから俺に友達はいない。証明完了。悲しくなんかないもん!
「拙者はどっちもイケる口ですぞ?」
「それはただのドMなだけだろ。つか、お前の守備範囲広すぎだろ」
百合、ツンデレ、ドS、年下、年上。なんなの、コイツ。男として機能し過ぎだろ。
「拙者でも無理なのはあるぜよ?恋愛対象は女の子に限られるし。男のコとかはギリ無理ですな」
さて、今の男の『コ』にはどの漢字が当てはまるのやら。俺はもちろん娘に一票で。
でも一番の好みを俺は知らない。ロリか?ロリだよな?ロリで決定!
「一応聞くけど、一番の好みはロリだよな?」
「なにをッ!違う!確かにアレは楽園だが違う!!」
「……お、おう。なんかすまねぇ。で?一番は?」
「後!輩!属!性!」
OKつまりロリだな。後輩と言う名の小学生。悪くはねぇが、少々強引な捻じ曲げ方だ。以後気をつけるように。ロリは恥じゃない。罪だ。
「そうか」
「今酷い解釈で通しただろ!!」
「さぁ?」
さて、柳の趣味なんかは正直に言ってどうでもいい。むしろコイツがまだ犯罪に手を伸ばしていないって情報だけで十分だった。
それにしても、だ。今朝はやけに静まり返っている。昨日の朝に比べれば非常に静かと言えた。
「……なぁ、柳。今日はやけに静かだな」
「言われてみれば……」
「おい、柳?今何時だ?」
「あっ━━━━六時十分」
この後、堂々と二人揃って遅刻し、先生に扱かれたのはいい思い出となった。
いや、なぜ部屋の奴らは俺達を起こさなかった。