第十六話『眠る世界はただ虚ろに』
東京観光は初めを除けば順調に行われていた。スカイツリーの後は浅草駅まで行き、雷門に挨拶して、仲見世通りで食べ歩きしつつ、最後に浅草寺でダラダラと。
この班にしては中々に順調な進みだったと思う。相変わらず、二人の仲は変わることはないんですがね。故に喧嘩はなくならない。
今は二度目の集合をし、これからは次の宿までバス旅だ。確か次の宿は旅館だったような。まぁ、どうせ部屋割りのせいで俺は外へ押し出されるのだが。コンビニでジャンプでも読みながら就寝時間まで待つか。
今日土曜じゃねぇか……。置いてねぇじゃん。終わった。
今回の話は随分と短かったらしい。らしいってのは柳から聞いた話なので正しいのかはわからない。俺?俺は寝てました☆
だってよぉ、ずっと浅黄のわがまま聞いてたんだぜ?アレが食いたい、これが食いたい。あれ美味しいの?コレって何?お前は箱入り娘かっての。せめてわらび餅ぐらいは知っておこうぜ、な?
俺が起きた頃には一番後ろの席に座る人達がバスに乗り始めていた。順々に入って行き、俺達もバスの中へと入る。女子二人が後ろで、その人席前に俺と柳が座る━━━━はずだった。
「……ん、んん?」
「あっ……」
浅黄は来る時と同様に後ろに座るが、白澤の方は柳が座っていた席に座っている。つまりアレだ。強制女子とお隣イベントだ。何してくれてんの、この人ら。
女子と隣って嫌なんだよ!何喋っていいかわかんねぇし、まずゆっくりできねぇ。寝てる間に何やらかすかわからないから、安易に寝れないし。
一言で纏めると、終わった。俺の人生最大の難所が今なのか。辛ぇ。誰か救いの手を差し伸べてくれよ。伸ばすわけないよな。だってこの両者だもん。伸ばした腕が微塵切りにされるかもしんねぇもん。藁すら出ないこのザマ。
「……無理か」
否定したのは交渉。唯一の賭けだったが、彼女らの気配から察する。アレは無理だ。絶対に意見は変わらねぇ。ピーマン食わせようとした時の菜乃花に似てるな。心の声が体から滲み出てる。
「勝ったら前、負けたら後ろ。いざ勝負」
「どっちも負けじゃん」
「「は?」」
「……なーんにもないデース」
どっちが勝とうが隣が女子になる事に変わりはない。つまり、俺の命が潰えるのは決まっているのだ。変なバットエンドより悲しい展開。
ため息を一つ吐き、手を前に出す。
「最初はグージャンケン━━━━」
「グー!」「チョキ」
俺の座席が浅黄の横に決まった瞬間であった。これ補助席じゃダメかな……。
ーー
「「・・・・・・」」
喋らない。何一つ喋らない。吐息の音すら聞こえないほど、俺と浅黄は静かだった。世界が静止してるかのようにどちらも動かず、ただボーっとしている。
「……な、なぁ蓮!今日泊まる宿ってどんなのか知ってる?」
もちろん、俺達と同じ状況が向こうに起こらないわけがない。柳は見るからに辛そうな顔で俺に助け舟を求めて来る。
が、こういう時の俺は優しくない。自分でもわかるぐらいいたずら心が芽生えている。
「?」
首を横に振るだけで話を終え、イヤホンを耳に挿した。これで壁の完成だ。これでお前はもうずっと一人さ!ハハハハハッ!!
肘を置き、手で頭を支えて目を瞑る。これで柳の声は聞こえないし、見えないので反応できない。圧倒的ボッチの為の壁。もしやイヤホンを始めて開発した人ってボッチなのでは?イヤホンの遮音率ってホントに素晴らしい。嫌味も陰口も聞こえないし、喋りかけても気づけないのだ。イヤホンって神アイテムじゃん。
隣の少女は悟りでも開いているかのように、ジッと黙りこくって窓に映る景色を覗いている。見える景色などただのビル群だけなのだが、彼女はただ見入っている。もしかすれば、忍者を走らせているのかもしれないが、そんな事まで知る気はない。
……寝てんじゃねぇの、アイツ?規則正しく型は上下に揺れているが、それ以外に滅多な動きがない。マジで人形だ。肩が揺れる人形。それはそれで怖いわ。髪だけ伸びる日本人形よりタチが悪い。
あぁ、頭がボーっとして来る。寝たらダメだ。起きないと。黒歴史が生まれ━━━━
ーー
「……あなた、部屋にはいないの?」
「っ!びっくりしたー!?座敷わらしかと思ったー」
風呂を終えれば、あとに残るは自由時間。部屋では携帯でゲームする奴らや、疲れたと言って爆睡する奴。あとは柳みたいな持って来たラノベを読み漁る奴、などなど。
この時間では全員が全員自由に過ごしていた。それは俺も同じ事で、宿前のコンビニで買った菓子とジュースを食べながらチマチマと夜風に当たるのも自由の内だ。
まさかこの旅館の屋上に星の観測場があるとは思っていなかった。食事の時に主人が「あるんですよー」なんて言っていたので、興味本位で来てみれば、全然悪くない場所だった。人はいないし、星は観れるし、飲み食い禁止じゃないし。
ボッチのボッチの為の場所だった。
「それで?あなたはなぜこんな場所にいるの?」
「理由なら自分の胸に聞けよ。どうせ一緒だよ」
「そ。ならあなたはここに明日の閉会式のスピーチの練習に来たのね。知らなかったわ。あなたが明日の閉会式で喋るなんて」
嫌味な奴とはコイツの事だろう。今後、俺は何人もの嫌味を垂れ流す輩と会う事になるだろうが、コイツを超える人物など片手で数えられる気がする。
つまり白澤茜は俺の人生トップファイブに入る嫌味な奴だ。何も嬉しくねぇ。
「はいはい。ボッチは一人が好きなだけですよー。お前みたいなモテモテじゃないんでね。人が寄って来ねぇのよ」
「確かに私は足の指を使っても数えきれない人数から告白されたわ。えぇ、多分私が二人いても無理ね」
「お前なんなの?煽りに来たの?」
むしろ彼女のスイッチが入ったレベルの嫌味度だ。心が割れる。
「でも、私はその全てを拒否したわ。だって好きでもない他人なんてただの他人でしょ?隣を通り過ぎる人と同じじゃない」
「お前今全モテない人類に喧嘩売ってるからな?そこんとこわかってるよな?」
同士よ。ここで立ち上がるべきではないか?俺は何も言わず立ち上がる!皆、俺に続けぇぇえ!
「だから、私はあなたと同じ。周りから、特に女子から邪見扱いを受ける一人のか弱い少女よ」
クソッ、撤退だ。向こうに戦う意思はない!無駄な殺生はここまでだ。
「まぁ、そんな気持ちがあなたにわかるなんて思わないけど」
やっぱ訂正!攻めろ攻めろぉ!
俺が率いる軍はこの後も一進一退を繰り広げる。それが文字通りの一進一退であって、言葉の意味通りに動いているわけではないのはもちろんわかってた。
まだ夜は終わらない。少女の皮肉はこの後も彼の心を穿ち続ける。
最近気づいた事の一つに「深夜テンションで書けばヤベェのができる」なんですよ。
でもね、深夜テンションになるには深夜じゃないとなれないんです。つまり、平日のど真ん中から一話書くまで夜更かしをするので、翌日の講義やら授業は死にます。
ってのを、先週からやり続けて今日気づきました。明日も終わった……!