第十五話『未来は暗く、気は重い』
「天気は快晴。気温は二十度。爽やかな春風が吹き過ごしやすいでしょう。半袖に羽織るモノがあれば十分です。今日は良いお出かけ日和ですね」
テレビに映るニュースキャスターがそう嬉しそうに話す。が、そのテレビもプツンと切れ天井へと戻って行った。
もうすぐバスが止まるらしい。馬鹿でかいスカイツリーが車窓に映り、バスの中が一層騒がしくなった。隣に座る柳も「うぉおお!」と叫んでいる。コイツを窓側に座らすのはマズかったな。何かが見えるたびに叫ばれると、こちとらゆっくり眠れやしない。
つか、ホントお前ら元気よな。いやまぁ、規則正しい生活を送ってる人からしたら当たり前なんだろうけど、十一時就寝の六時起床はキツイでしょ……。俺みたいな昼夜逆転生活送ってる人間なんて六時とか「今から寝るか〜」ってなる時間よ?自由行動になったら絶対エナジードリンク買う。
「スカイツリーねぇ……。実際近くで見ると高いもんなんだな」
「そりゃあ634メートルなんだから、高いでしょーうよ!えっと……地上から160階で、ってアレ電波塔なの?!」
「なんで解説者が驚いてんの?」
まぁ、Wikipedia大先生を見ながら語ってるからそうなるわな。次からは大先生なしで胸張って語ろうな!
車窓からの景色がだんだんとゆっくりと失速し始め、最後にガタンっと揺れて確実に止まる。バスガイドのお姉さんがマイクを取り何かを話し始める。
「これから楽しもう!」って気持ちより睡魔の方が勝っていて全く集中できない。いや寧ろ、頭の中がエナジードリンクしか浮かんで来なくなってきた。これはヤバい。体がカフェインを求めている。
「では、バスの旅はここまでです。皆さん、東京を楽しんで来てくださいねー!」
最後にバスガイドのお姉さんがそう言うと、後ろから順々にバスから降り始める。俺らが座る真ん中辺りも、出る番となり立ち上がり荷物を持つ。
が、なぜか後ろに座る危険物が動く気配がない。危険物は動かしたらいけないのだが、それはそれ。チラッと横目に彼女らの様子を見ると━━━━やはり寝ていた。
「柳、起こすの頼んだ」
「は?えっ?あぁ!」
サーッと前の奴らに着いて行きバスから降りる。ま、後はアイツが何とかしてくれるだろ。俺はそんな事よりカフェインなんだ!
エナジードリンクでもいい、コーヒーでもいい!何でもいいからカフェインが欲しいッ!
自販機、自販機はどこだ!……あ、あった。
「ちっ、百円玉」
一枚しかない百円玉に愚痴りながら、千円札を投入してエナジードリンクを一つ買う。下の扉を開け、キンキンに冷えた缶を取り出し一先ず手元に留めた。
まだこれから長ったらしい話があるハズだ。そんな中で蓋を開けて放置、なんてしていたら炭酸がどんどん抜けて行ってしまう。気の抜けた炭酸飲料なんて、微温いアイスのように不味い。
お釣りもキチンと財布の中にしまい、振り返ってバスの方へと目を向けた。柳が無駄に苦戦していなかったら、もうすぐ出てくる筈だ。
いや、その心配は全くいらなかったらしい。
「……お、お疲れさん」
「「「・・・・・・・」」」
ははーん、さては機嫌悪いなお前ら。
互いに睨みあってるから、彼女らは起きた時に何かあったんだろ。どんだけ仲良いんだよ。サッサと付き合えよ。
んで、柳は……あーはいはい。「お前後で覚えてろよ」ですね。了解。気が向いたら覚えとく。
その後二分ほど誰も喋らない緊迫した空気が漂ったが、先生から集合がかかりその空気もどこかへ行った……ハズだ。そう信じる。
ありがたーい話を聞きながら、俺はコクコクと首を縦に振っていた。
ーー
「━━━じゃあ解散!」
先生の声と共に生徒達が立ち上がり、それぞれの方向へと散らばり始める。もちろん、その中に俺達の班も含まれているのだが。
「そ、そろそろ行く?」
答えは返ってこない。三人揃って無視だ。なるほど、俺を精神的に殺す作戦か?悪いが俺にその手の対応策は無いから即死だぞ?策とか要らないと言えるまであるね!
自分から拒絶するんじゃなくて、向こうから一方的に拒絶される。自発と受け身では全く違う。これだけに限る話ではないが、それはそれだ。
「……ぷっ、ふふ、あはははは!」
「あーあ笑ったし」
「ま、話が進まないからいいんじゃない?」
途端、柳が吹き出して笑い始めた。それに合わせて浅黄と白澤の顔も緩まる。先程までの緊迫した空気は、一瞬のうちに消え去っていた。
呆気にとられる俺に、柳は嬉しそうにニヤケながら口を開く。
「怒ってると思った?思ったよね?ね?」
「うぜぇ……」
お前が怒るほどこの二人の寝起きが酷かったのかと思っていたが、実際は全然寝起きは良かったとの事だ。なんだよ、常があんなんだから寝起きはもっと酷いのかと思ってたのに。
大きくため息を吐く俺に、三人は「ザマァwww」って顔で覗き込んでくる。クソッ、なんでこんな時だけ仲良いんだよ!イジメか?イジメだな!
「ま、コイツを弄ったってマトモな反応なんて取れないんだから。さっさと次いきましょ」
「いちいち腹立つ言い方だな、ホント!」
興が冷めたと、浅黄はスタスタと先を歩いて行った。それに合わせて白澤も向かって行き、残された俺と柳は━━━━
「なぁ、俺なんか勘に触ることしたか……?」
「二人とも別に怒ってないぜよ?でもでも、起きた時の体制がマジカップルだった」
「マジで!?どんな感じ?」
「な・い・しょ」
柳は人差し指で口を塞ぎ、イラストのようなポーズを取る。普通の男がやるとただのキモ男になるが、柳がやるとただの小悪魔系男子のように見えた。解せぬ。
なんでこうなるのか。イケメンってマジでステータスおかしいよな。色んな意味で。
「……一つ思ったんだけど、一番初めに行くって行ってたのスカイツリーだよな?」
「イエス」
「スカイツリーの入り口ってここだよな?」
「イェース」
「あの人らアッチに歩いて行ったよな?」
「イェスイェス」
「どうすんの?」
「イェスーイェスイェスイェスー」
拝啓
妹へ
お元気してますか?最近は寒暖差が激しいので、十分ご注意を。
今兄ちゃんは東京観光してます。スカイツリーってバカみたいなデカさだったわ(小並感)雷門とかもなんか凄かった←語彙力
お土産はブラッドクマ君で良かったかな?まぁ、もう遅いけど。
あぁ、一つ言いたいことがあって。
兄ちゃん、色んな意味で生きて帰って来れるかわからないから、キチンと家事ができる妹になって下さい。卵かけご飯しか料理できないとか論外なんで。よろしく!