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第十二話『華は咲く』

 鮮やかな花火が悪魔城を神々しく照らす。

 赤や青、緑や黄色に輝く夜空をバックに、少年と少女は混じり合う。

 少年が腰を折り、なにかを叫ぶ。その言の葉がどんな意味を持っているのかはわからない。だが、その葉を聞いた少女はただ立ち尽くした。目を丸めながら唖然とした表情で。


 そして虫を見るような目で再度口を開いた━━━━━



 ーー


 見た。と、言うより見えてしまった。偶然に偶然が重なり、僅か一コマほどの瞬間をその目に焼き付ける。たまたま窓の外を眺めてしまったから見えてしまった、となけなしの言葉で自分を擁護する。


「・・・・・」


 感想は無い。見てしまった後悔もなければ、それを他人に言いふらそうなんて稚拙な考えもない。あるのは虚無だけだ。

 白紙の紙をただ眺めるように、心には何一つ思い浮かばない。

 ただ、一つ。少年が走り去って行った後に、気づいたことがある。その少女の名が白澤茜なのだと。


「━━━ん?……い?おーい、蓮ー?」

「……っ!なんだよ、びっくりした」


「どうしたでござるか、蓮?辛辣ぅな表情でぇすぜ?」


「あーいや、別になんでもねぇよ。てかお前、どんだけ食うんだよ……。ここのメニュー馬鹿みたいな値段だったのに」


 相当熱中して見ていたのか、えらく柳の声が遠くに聞こえた。顔を戻すと目前に控えるのは、一介の高校生男子が食べるには丁度いい量の夕食なのだが、その辺のスーパーとの値段の差は歴然だろう。

 なんで『グラタン一皿しかも量少なめ』が千円超えんだよ。満腹のまの字にもならねぇわ。


「あんたの家ってそんなお金持ちだっけ?」


「んー?いや、そうでもないぜよ。親はケチケチしてるし」


「ケチケチねぇ……」


 ケチケチって言うのは、こまめに節電節水して、食費はできる限り少なめに抑え、ちょびちょびと貯まっていくお金を一途に欲しいものへ注ぎ込む事を言うのだ。そう、俺と菜乃花のように!

 家事全般を任されてる身としては、予算額を下回るのにどれだけ苦労したことか。ウチの家でいいことは、下回っても予算額は一定のままって事だろうな。ほら、どっかの役所の予算って抑えれば抑えるほど少なくなるって聞くし。


「……そういや、アイツどこ行ったの?」

「アイツ?あー白澤さんのこと?」


「そ。迷子にでもなった?」


「浅黄さんって案外白澤さんのこと……ユディッ?!」


「ん?何か言った、どぶネズミ?」


 柳の足から変な音が聞こえたが、それを無視して俺は考えに浸る。否、浸る必要もなく答えは示されていた。己が見た景色を信じれば良い。

 少女は少年の一世一代の告白を難なく足蹴にしたのだ。それは変わらぬ証拠であり、事実である。ただまぁ、フラれたのは俺ではない。別に彼女への好意もない。が、見てはいけないモノを見てしまったと言う罪悪感が後を絶たないだけだ。


「━━━━ここにいたの。ごめんなさい、遅れてしまって」


 刹那、声が聞こえた。

 ハキハキとはしてないが、どこか凛としている声であり、暗めのトーンが妙に男の子のハートを握りそうな声。

 背中の真ん中ほどまである黒髪に、なぜか色気が漂う白と黒の制服を纏い、顔も良ければスタイルもいい。そして何より胸が大きい。今改めて彼女を見て悟った。彼女にモテない要素が一切ない。


「……何かしら黒貝君?気持ち悪い目を向けないで欲しいのだけど」

「名前っ!いい加減覚えろよ、お前」


「?」


 はて?っと白澤は首を傾げる。

 それにしても、だ。少しばかり彼女の様子が昼間とは違う気がした。なんの証拠も確証もないが、ただなんというか表情が豊かに思う。


「あんたも中々強情よね。サッサとそれの名前ぐらい覚えなさいよ」


 どうも、それです。改名致しました。以後よろしくぅ!


「別に覚えていようがいまいが関係ないじゃない。私のアレに対する信頼度は低いままなのだし」


 どうも、アレです!またまた改名しました。いやぁ〜最近親の離婚結婚が激しくてですねー。


「あ、ブーメランに対するツッコミじゃないんだ!まぁ、これの話は置いといて。この後どうしまする?」


「俺にも名前があるんですけど?」


 俺がつっこむと、柳は溜め込んでいたのを吐き出すように大笑いをする。二人の反応はいつも通りだ。多分、アイツら天然の塊だな。けどセンスが似てるから妙に繋がる。もうサッサと付き合えよ。


「そう言えばお土産買ってねぇや。お前らは買うの?お土産」


「「「買う」」」


 コイツらホント一日で仲良くなったよな。俺だけ一人ぼっちで寂しいなぁ、おい!べ、別に友達になりとか、そんなんじゃないんだからね!!

 ツンデレって簡単だよなぁ。落とすの。落とした事ないけど。まず喋った事もない件。


 店を出て、夜のパークをブラブラと回る。菜乃花へのお土産はマスコットのブラッドクマ君キーホルダーにしておいた。あとは家族用のクッキー。ブラッドクマ君って妙に男心を擽る名前だろ。凛々しい顔してるだろ。コイツ雌なんだぜ。それで。


「確かもうすぐパレードが始まる時間。やる事ないし見てから集合場所に行く?」


「意義なぁしッ!」


「構わないわ」

「俺も」


 浅黄の案により、悪魔城の前へと向かう。広場はもう人で溢れかえっていたが、離れた所ではまだベンチが余っていた。

 そして数分、なんの偶然か柳はトイレへと向かい、浅黄は友達を見つけたとかでそっちに行ってしまい、残ったのは俺と白澤の二人だけ。それも何のイジメか花火が上がる前だ。さっきの情景がフラッシュバックしマトモに顔も上げれない。


「ねぇ、さっきの見てたでしょ?」


 唐突に彼女が問う。

 質問の意図はわからない。が、怖い話の「見たなぁッッ!!」と言う雰囲気が抜けない。食われるマジ食われる。


「見られてたらマズかったのか?」


「いいえ。別に。ただ……」


 ただなんだよ!変に切るなよ!怖ぇだろうが!


「……変に噂されると口封じをしないと、ね?」


「いや別に俺は何も見てないです。はい。さっきはカマかけてすいませんでした。マジで何も見てません」


 んだよ。見てねぇし。冗談だろうけど、全く冗談に聞こえなかっただけだし。いやいや、まず俺見てねぇから。うん。ホントホント。


「ふふ、あなたって本当に嘘が下手ね」


「さぁな。お前が言う所の『色が無い』からじゃねぇの?知らんけど」


 まぁ、彼女の言う色が嘘の事を言ってるのかは知らないが。それもまた要因の一つとしての話だろう。何にせよ、彼女の中で俺は無色透明だ。


「色の意味は━━━━━」


 彼女は何かを口にしたが、その言葉は花火によって打ち消された。

 赤、黄、緑、の花が空一面に広がる黒の野原に咲き始める。


(ポイントが欲しいな……)さて、今夜もオールして書くか。

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