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第十話『毒とラブコメ』

「━━━━━ふぁあ……!」


 先頭で柳涼太が声を上げる。入場ゲートをくぐり終え、ショップが立ち並ぶメインストリートを抜け終えると、そこには世にも不思議な恐怖と危険で溢れかえる世界があった。

『東京・デンジャラス・ランド』名前の通り危険がいっぱいの遊園地だ。メインはお化け屋敷やジェットコースター、フリフォールなどの絶叫マシーン。色々と都市伝説が絶えない施設でもある。

 正面に立ち誇るのはサタン城と名のつく巨大なお城だ。城壁はツタやらコケなどの装飾品で良い感じの雰囲気が出ている。


「すんげぇえ!拙者大興奮の巻!」


「あなた来たことないの?」

「イエス!ザッツライト!」


 両手で指をさしてジェスチャーを取る柳に、白澤は「ふーん」とだけ言って流す。浅黄に関しては元より興味ないと言った態度だ。

 で、だが。別に柳に対する彼女らの対応に関しては特に興味もない。興味があるのはその先だ。俺たちの班は誰かさんらのせいでマトモに予定が決まっていない。もちろん、予定なんざ狂う為にあるのだから構わないが、下地が有るのと無いのとでは全然違う。

 と、今ここで熱弁したところでなーに一つ変わらないのだが。


「おぉー!あのジェットコースター乗りてぇ!!」

「キャラ忘れるまで興奮してんのかよ……」


「じゃあアレから乗る?」


「私はなんでも」

「右に同じで」

「乗りたいッ!」


 まぁ、彼女らも来たことあるようだし、ここは初めての奴が楽しむのも悪くはない。言い方を変えればアトラクションの決定権が柳に譲られた事により、決めるのは彼一人の意見となる。つまり揉めない。つまりジャスティス。

 そう言えば、誰一人ジェットコースターとお化け屋敷系が苦手とか聞いてないな。何その謎の信頼感……。それともアレ?一回目は自分の成長ぶりを考えて、的な考えなのか?


「見てみてすげぇ!360°回るのかよぉ!」


「完全にキャラ崩壊したな」

「私としてはそっちの方が気楽」


「さいですか……」


 あの「拙者」だとか「ござる」だとか「ゲフフ」とか、その他諸々を聞かなくていいのは嬉しいな。だってアレ、時々恥ずかしいんだもん。なんか自分が言ってるわけじゃないのに覚える心やましい気分。

 元々柳のそう言った態度を白い目で見ていた浅黄からすれば、今の彼は一人の男子に見えるのだろうか。しかもイケメンの。基本スペックが高いってホント許せねぇな!


「今は……四十分待ちか。サッサと乗れそうだな」

「そうね。早く乗りましょ」


 ……。

 …………。

 …………………やり辛ぇ。何がって、なんでコイツこんなに喋ってくんの?いつもの無視☆な態度はどこ行ったんだよ。

 

「……何?キモいんですけど」


「あーいや、なんでもねぇよ」


 棘がない。ジェットコースターに乗るってわかってからの、棘のなさが半端ない。バラがチューリップにでもなったみたいだ。まぁ、そのチューリップでさえも球根には毒があるらしいですけどね!

 結論、浅黄楓は毒でできていた。何それ怖い。


「……お前ジェットコースター苦手なの?」

「は?死にたいの?変な心配とか気持ち悪いからやめて」


 即答。しかもいつも通りの毒ブレス。

 せめてその毒ブレスの時だけはモーション入れてくれよな。美少女から罵られて喜ぶ性癖とか持ってねぇし。稀にクリティカルヒットするしさぁ。俺のステンドガラスが何枚割れたと思ってんだ。

 ま、彼女自身がそう言うのなら大丈夫なんだろう。けどなぁ、このジェットコースター多分この遊園地の中で一番怖いヤツなんだよなぁ。


「悪かったよ……」


 まぁ、グロッキーになったらなった時だ。柳の面倒は白澤に見てもらうとして、俺はこの毒吐きお化けの看病に当たるとしよう。

 白澤に浅黄の看病は頼めないからね!敵に塩を送る?そんな言葉が女子の派閥にあるわけねぇだろ。傷口に塩胡椒かけてバターで焼き上げるぐらいだぜ?

 浅黄楓は少し後ろを歩きながら、携帯を弄り続けている。その少女の瞳が少しばかりキラキラと揺れているの事に誰一人気づけなかった。


 ーー


 チューっとストローをさしたオレンジジュースを飲みながら、少女は青い顔でコッチを睨みつけている。俺は俺で元気にポップコーンを貪ってるので、特に気にせず周りの様子を見つめていた。

 案の定、彼女はジェットコースターが終わると共に青い顔でフラついていた。やっぱり苦手な人に360°&パーク最長はキツイかったのだろう。まぁ、乗る前の様子的に想像はついていたが。


「……なに?」


「なんでもない。アンタの顔見てると腹が立ってくる」


「ひでぇな、おい」


 一応の注意喚起はしたからな。それを無視して乗ったのだから、責任は向こうにある。まぁ、浅黄からすればそこが腹立たしい点なんだろうが。


「まだ辛そうだな」


「うるさい……!」


 顔は心なしか赤みが取り戻して来ているし、何よりオレンジジュースを飲むスピードが上がってる。ま、変に調子狂うと面倒だしこのまま療養してもらいたい。

 と、和やかに見えるが全く和やかでない会話を続けて十分程度。そろそろ浅黄の体調も良くなりだしたので、落ち合い場所を連絡しようとすると、柳の方から連絡がきた。

 内容は、『次はここに行くぜぇ!楓ちゃんが無事なら一緒に行くであります!』とのこと。大層なことにマップの写真まで寄越している。

 アイツ俺とのラインで『楓ちゃん』『茜ちゃん』って調子こいてるから、さっさとドジ踏んで自爆すればいいのに。なーに、ただの非リアの妬みですから。気にしないで。


「えっと、次行くのは『Haunt of the soul』?って言うお化け屋敷だとよ。……どうする?行くか?」


「お化け屋敷か。それなら大丈夫。私も行く」


「ん、そう伝えとく」


 柳に浅黄も行く、と連絡し荷物やらゴミを片付けているとまた携帯が震えた。やはり柳けらだ。本文は『な、なんかさ茜ちゃんが急に黙りこくったんだけど???』。

 正直な感想を言えば、「今度はお前かい!」で、初めに浮かんだ感想は「いつも黙ってるからわかんねぇわ!」だ。なるほど、つまり彼女ら二人は双子か何かですか?

 立ち上がり、荷物を肩にかける。場所はこのノース通りを真っ直ぐに抜ければ良かったはずだ。後ろに振り返り、「よいっしょ」と声をあげる浅黄の確認をする。もう立ち眩み等は大丈夫そうだ。少し先を歩こうと足を進めた瞬間、後ろから声がする。


「その……ありがと」


 軽く恥じらいがあるのか頰を赤らめながら、彼女はぎこちなく感謝を述べる。その異様な態度に軽く唖然とし、ちょっと「可愛い」なんて思ってしまった。


「……おう、気にすんな」


 苦し紛れに出た返しは、ちょっぴりラブコメの主人公っぽい気がした。

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