小高い丘の上で
「靄が掛かって、それで出られなくなってしまったの」
朝露の滴る木の葉をぴんと弾いた少女は、天に文句を言うように呟いた。
霧がかった小高い丘の上、元は林の緑や空の青が美しいのだろう、その場所を隠すように白い靄が居座っている。
只一つ、くっきりと存在するのはその少女だけで、林の音色もも小川のせせらぎもずっしりとした小屋もどうにも色素が薄い。確かにこの場所に立っているのに、あやふやでもやもやとした、耳栓でもつけているかのように何処か、遠い。
「嘘をつくな、何が出られなくなった、だ。」
「あら、お姉さんったら意地悪だわ」
ぷくりと頬を膨らませる少女に呆れ返る。何をしているかと様子を見に来てみればこれだ。色のない少女は今日も今日を繰り返し、ついに明日をも脱却したらしい。
そんな事をしても根本的な解決にはならないのだと知っていながら。
「だって約束したんだもの」
「だって」と少女は何度も繰り返す。たった一つの希望を胸に抱えて、両手に抱いて、何度だろうと「だって」を繰り返すんだろう。それがこの少女の生きる希望で、それだけの為に生きているのだから。
「そうか」
本当に馬鹿だ。けれどその言葉を口にすることはなかった。
報われなくとも、救われなくとも、それでも上を向いて笑う少女を誰が笑い飛ばせるのだろう。馬鹿だと思う、思うがそれだけだ。どのみち陽炎のような自分では言葉を交わす程度しか出来ないのだから。
「ねえ、お姉さん」
「何だ」
少女は嘘の空を見上げながら「外は、素敵なのかしら」と、独り言を呟く。
「ああ」
その答えに、少女は満足そうに笑った。
――――
「馬鹿だな」
地に足を付けて呟いた。
色づいた空、小川のせせらぎ、林の木の葉が揺れる音楽を聴きながら、土臭い小屋の扉を開く。
立て付けの悪くなった錆びた扉は、それでもなんとか自分を小屋の中へと導いた。
「今日もいい天気なのに」
部屋の中央には錆び付いた小さな檻と、一つの骸骨が転がっている。爛れ落ちた眼球では何も見えないだろうに、それでもまだ待ち人を待つのだろう。
存在が薄れ、骨さえ崩れて塵になろうとも、
小高い丘の上で