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第二話 新しい友人と

感想、誤字脱字報告などよろしくお願いします

 まだ少し騒めきの残る教室を横手に橘に案内されながら静かに廊下を進む。

 その中で静馬は見慣れない風景と着慣れない制服に違和感を感じながらもこれからの事で胸が高鳴っていた。


「さて、もうすぐ教室に着くわよ」


 橘の言葉にぼんやりとし始めていた意識が覚め、緊張が高まっていくのが分かる。

 微妙な時期に編入する事になったので心配は尽きないが諦めてできるだけ前向きにいく事を考え、教室に入っていった橘に事前に指示された通りに待つ。



 いつも通りに騒がしい教室内と生徒たちの様子に顔には出さないが橘は苦笑してしまう。

 まぁ、そんな事よりもと注目を集めるために声を掛ける。


「おはよう。急なことなんだけど、このクラスに編入生がいるわ」


 その言葉に一段と五月蠅くなる教室。


「えっ、この時期にですか?」


「そうよ。しかも、今日からだからね」


「先生ー、男子ですか女子ですかー?」


「金村君が期待するのもわかるけど、残念ながら男子よ」


 当たり前のように定番ともいえる質問が飛んでくるのに苦笑しながら答えながら橘は期待するように見つめてくる女子に視線を移す。


「カッコいいですか?」


「それは見てからのお楽しみ」


 まぁ、そんなもんよねと思いながらも橘は自分の学生時代だったらと考え、直ぐに変わらない事に思い当たる。

 橘の様子を気にすることなく、その答えに期待を乗せた声で騒ぐ女子と男子という事で楽しみも面白みも奪われた男子の様子をなんとか治めて静馬に入るように伝えた。




 廊下で待っていた静馬は橘の話す言葉で一挙一動する教室内の様子に不安を感じながらも高鳴る胸の鼓動を落ち着かせようと深呼吸を一つしてから意を決して教室に入った。

 扉を開けた途端から教室中の視線が突き刺さるのが分かる。

 一部からは何やら期待に満ちた視線が存在する中を気にせずに橘がいる教卓の付近まで歩いていく。

 教卓の傍まで静馬が来たことを確認した橘は教室内を一度見渡してから話した。


「という事で、今日からこのクラスの一員になる神居君よ」


「神居静真です。よろしくお願いします」


 促されるように視線を浴びた静馬は緊張しながらも簡単に無難な挨拶し、頭を下げる事でその視線から一度顔を隠す。

 

「本当は皆と同じように入学する予定だったけど、いろいろと有って入学が遅れただけだから変に勘ぐったりして苛めちゃだめよ」


「そんなんしませんよ」


「それよりも一限はHRですけど……」


「はいはい、そんなに期待しなくても質問する時間とかにするから」


「流石、橘先生!」


「じゃあ、神居君はあの空いている席に座って」


 その指示に従って歩き始める静馬に相変わらず視線が集まるも先ほどまでに比べれば数は減り、変わりに小声で話し合う声が増える。

 よく漫画や小説などであるネタとして編入生の歩いているところに足を出して転ぶように仕向ける悪戯が有るが流石にそんな事が有る訳もなく席にたどり着いてそのまま座った。


「連絡事項を言うわよ」


 静馬がそのまま鞄を机の横にかけて連絡事項を聞きながらも授業に対応できるように準備していると横から腕を突かれた。

 気になって顔をそっちに向けると横に座っていた女子が話しかけてきた。


「私は桜庭陽さくらばひなた。これからよろしくね。あと、とりあえず頑張ってね」


「よろしく……? 頑張って、っていうのは何が」


「じゃあ、これで連絡は終了だから残り時間はお待ちかねの質問タイムで良いわよ」


 にこやかにそして優しく笑いながら話かけてきた陽に意識が向いている中で耳に飛び込んできた言葉。

 先ほど陽の言っていた言葉の意味を理解できた瞬間、今まで静かにしていたクラスメイト達が一気に声を出していく状況に嫌な予感が静馬の脳裏によぎる。


「本当ですか!?」


「えぇ、私は次の授業の準備に行くから騒がしくしないでね」


 爆発的に騒がしくなった教室内と愛想笑いに変わった陽の表情に静馬は視線を橘に向ける。

 手荷物を整えながらも教室内を見渡していた橘と視線が交差する。

 何か言おうと静馬が口を開けかけた視線の先で橘の口が頑張ってと言っているように動いた。

 それが合図になったのか一部のクラスメイトが席を立つのが視界の淵で見えたような気がした。

 陽に話しかける事で面倒な事を少しでも減らそうと横を向くが、そこには申し訳なさそうに手を合わせながら笑っている陽がいた。

 そうしているうちにクラスメイトたちが静馬の席を取り囲むようにして次々に話しかけてくる。


「なあ、どこ出身?」


「なんで普通に入学しなかったの?」


「彼女いる?」


「家族に姉か妹いないか?」


「趣味は何?」


「一緒に世界を変えないか?」


 度々、変な質問が有ったが聞かれる内容に何とか答えながらも早く終わらないかなと静馬は思うもまだ休憩時間に入ってそんなに経っていない。

 だんだんと質問の数もクラスメイトの人数も減ってきた時に聞こえてきたチャイムに辺りが慌ただしそうに動き出す。

 それは最後まで質問しようとしていたクラスメイトも同じで時計を確認を一度見たう上で急いで席に向かう。

 

「次は……」


 その様子に静馬は事前に貰っていた時間割を思い出しながら周りと同じように授業の準備をする。

 次の授業は一条高専を含むエスペランサー育成を行う高専のみが行う特別授業―――エヴォルオ因子学について。




 まず最初にエヴォルオ因子について説明しようと言って授業が始まった。

 エヴォルオ因子とは、EVEの出現と共に発見された一定条件化で変化を起こす存在だ。

 因子が見つかったのも一番最初に観測されたEVEであるアヌーラと呼ばれる個体から剥がれ落ちた身体の部位からで、発見にはアヌーラの出現から二年もの時を必要とし、その間にもアヌーラとは違うEVEが世界各地に出現していた。

 それに合わせて被害も甚大なものになっていく中で見つかった因子の情報は直ぐに各国で共有され、更なる調査を進める事となる。

 そして、研究と出現するEVEの観測情報から何かしらの膨大なエネルギーとそれに合ったエヴォルオ因子が揃う事で空間干渉が起き、空間に歪みが発生してゲートと言われる穴が誕生して地球上ではない何処かに繋がる事、更にその場所からエヴォルオ因子が流れ込んでくる事も解明された。

 また、この空間干渉が起きた場所に生物が存在していた場合はその生物に因子が流れ込む事で身体に変化が起きて従来の生物とは違ったモノになる事も確認された。

 そして、続く研究の中からエヴォルオ因子を体内に保有して活用していると推測されたEVEに対抗する為にはエヴォルオ因子を活用する以外には手が無いと判断されて対EVE攻撃用兵器―――因牙武装が開発される事となった。

 話を戻して先ほど言った通りにエヴォルオ因子は生物だけで無く、空間にも影響を与える事が確認されている。

 今現在でこの空間干渉について分かっている事として一時的なゲートの生成と一定範囲における空間の異界化が確認されている。

 どちらも人の手によって引き起こせる事は確認されているが、人の手が無く自然環境下で起きる原因は一切不明。

 更に異界化が起きた場所では発生した中心には空間を維持するためのゲートとそれを中心に謎の模様が存在し、そこからエヴォルオ因子が流れ込んでくる事や生物のEVE化が起きる事から危険地域とされ、当初は調査がうまく進まない事や物語に出てくるような構造物から迷宮と呼ばれている。

 この迷宮は世界各国で確認されており、日本でも大規模な所として青木ヶ原樹海や硫黄島、高千穂や比婆山連邦などで確認され、未だに調査が進んでいない。

 数少ない最深部までの到達例などから異界化を解除する為にはゲートと周りの謎の模様を消滅させる事と分かってはいるが、実際にそれが出来たのは更に極少数の迷宮のみでほとんどがそのままとなっている。

 だからこそ、一般的には知られていないがピオニローラーの育成は急務となっている。


「……というのが、エヴォルオ因子の発見とその影響についてだ」


 そう言って話し切った男教師――相沢厳雄(あいざわいつお)は生徒を見渡して何か質問が無いかと気に掛けた。


「先生ー、前から気になってたんですけど、エスペランサーとかエヴォルオって何語なんですか?」 


 その質問に同じことを思っていた静馬を含め教室中の視線が相沢に集中する。

 興味津々と言わんばかりに向けられた視線の多くに相沢はちょっとだけしり込みするも直ぐに気を取りなおして話始めた。


「あー、その事についてだが……」


 今まで移っていた画面が切り替わって新しく画像が一枚表示される。

 表示された画像はどこかの建物の前で五人の白衣の人たちが立っている姿が映っていた。


「去年も君たちの先輩に聞かれたことだが、まずはこの名前を付けた人から説明しよう」


「この写真で真ん中に写っている人物が名付け親にしてエヴォルオ因子を発見したランフランコ・モンテリーゾ博士だ」


 生物学を専攻していた研究者の一人で元々その筋では有名な人だったと告げる相沢はどこか遠くを見つめている表情をしていた。


「先生は会ったことが有るんですか?」


「あぁ、凄い人だったよ……」


 良い意味でも悪い意味でも変人という言葉が似合った人物だと言った後に何か思い出したくない事でも思い出したのか、頭を左右に振って考えたことを忘れようとしている姿に話しかけるのを躊躇してしまう。

 そして、改めて話始めた相沢曰くアヌーラが出現した当初は招集されなかったが、調査の為に集められた研究者も余りに不可解な事の多さに匙を投げ、回りまわって当時から異端児や変人と有名だったモンテリーゾ博士の所まで話が行き、行動にも言語にも問題が多々有った人物だったとはいえ優秀な学者の一人だった博士がエヴォルオ因子を見つける事となった。


「でだ、何語かって話だけど……、エスペラント語だ」


 話ながらも色々と思い出してしまったのか疲れた表情を見せながら話す相沢。

 曰くモンテリーゾ博士に勇気ある記者が何故エスペラント語を使ったかを聞いた所、返ってきた言葉が『エスペラント語って言う響きなんかこう良いよね?』だったという。

 エヴォルオ因子のエヴォルオはエスペラント語で進化を意味しているらしく、高エネルギーに反応して変化、進化していく様子から付けられ、余談にはなるが関係する物に関してもエスペラント語から引用する事が多く、エスペランサーはエスペラント語で≪希望の(エスペラ)≫を元にしている。

 しかし、行動にも言語にも問題が多々有った人物だったモンテリーゾ博士はある実験を境に姿を消す事となった。

 記録によるとプロトタイプともいえる因牙武装の開発が完成した約三年前から始められた実験に参加していた。

 関係者の話から推測された実験の内容はEVEの生息していると思われる未開拓地(ソヴァンジェージョ)と命名された世界への侵入及び調査を試みるというもの。

 幾らかの問題は有ったが順調に進められていたらしい実験は“大襲来”の直前若しくは同じ頃に行われた何度目かの挑戦でゲートを一時的に固定する事に成功、博士を含む第一次調査隊がそのゲートを潜り、未開拓地(ソヴァンジェージョ)への侵入後に異常が発生してゲートが閉じてしまう。

 その後、残った関係者はすぐさまゲートの復旧に尽力を尽くすもゲートの生成は出来ず、博士は勿論の事、調査隊に参加した人は誰一人として帰還しなかった。

 今も同じような実験は続いており、そこに参加する調査隊の使命の一つに第一次調査隊の捜索が入っている。


「重要な事として、ピオニローラーは一般的には迷宮の探索調査が多いんだが、優れた能力を持つ場合は今も行われているこの調査隊に所属する事ができる」


 まぁ、国家代表になるよりは調査隊になる方がまだ簡単ってぐらいだけどなと笑いながら続けた相沢。


「勿論、調査隊に所属する場合は命の危険が有る事も承知の上で参加しないダメだがな」


 直ぐに表情を真剣なものに戻して続けて言った言葉と表情からは、心からその道を目指す者の事を案じている事が分かる。

 そうして、一度そのまま教室を見渡した後に表情を柔らかいものに変えてから付け足すように一言告げた。


「まっ、どんな道を進むかを決めるのはお前たちだ。悔いが無いように学べよ」


「じゃあ、今日はここ迄。この後はお前らのお待ちかねのクリスタル生成だ」


「橘先生は先に特別教室の方に行ってるらしいから、遅れないように動けよ」


 時計を確認して一つ頷き、授業に使っていた資料を整えながら相沢は楽しいそうに言った。

 合わせるようにチャイムが鳴り、授業を終えて出ていった相沢を見送った静馬たちは慌ただしく、そして楽しみな事が丸わかりで騒ぎだす。

 

「疲れた…… 」


「よう、お疲れさん」


 後ろから聞こえてきた声に静馬が振り向くと授業前には見かけなかったクラスメイトの男子生徒が一人そこに立っていた。


「ん、誰? 」


「俺か、俺は藤井和也(ふじいかずや)。よろしくな!」


「へぇ、それにしては藤井をさっき見なかったけど?」


 疑問に思いながらも何か用が有るのだろうと思って聞いてみる。


「そりゃそうだわ。誰が好き好んであんな苦労するのに参加するかって。それに俺以外にも何人かはアレに参加してないぜ」


「そうなのか。ありがとうとでも言っておこうか、藤井」


「別に良いって。そんな事より藤井じゃなくて和也で良いぞ」


「そうか。なら、俺も静真で良い」


 周りのクラスメイトが教室を出ていくのに合わせて静馬たちも遅れないようにと続いて教室を後にする。


「そういえば、特別教室ってどこに有るんだ?」


「あっ、静馬は分からないか」


 和也によるとアリーナに隣接した別校舎にあるらしく、クリスタル生成を楽しみにしている和也を含めたクラスメイトの足取りはそれを現しているかのように軽く進んでいく。

 そんな和也やクラスメイトの姿を見ながらも辺りを気にして他よりも落ち着いた感じで相槌を打ちながらも歩いている静馬の姿に和也は疑問に思った。


「なんでそんなに落ち着いていられるんだ?」


「クリスタルって言えばエスペランサー一人一人によって違うアイデンティティーとも言える物なんだぞ!」


「なになに、どうしたの?」


「あっ、桜庭さん。どうしたのって静真がクリスタルを貰えるってのに喜んだ様子が無くて……」


 近くを歩いていたのか和也の声を聞いて陽が不思議そうにしながら話に交じる。


「もしかして、クリスタルを既に持ってるとか……?」


「はぁ? そんな訳ないよ」


 唐突に言われたことに驚きながらも答える静馬の姿に本当にと若干疑いの目を向けながら続ける陽。


「それより桜庭さんは」


「陽で良いよ」


「はいぃ?」


「やっ、桜庭さんじゃなくて陽って呼んでいいよ」


 なんとか疑いを晴らそうと話そうとしたが制するようにそんな事を言いながらニコっと笑いかけてくる陽の姿に戸惑い、和也の方を見てみると和也も戸惑いと驚きを隠せないような微妙な顔。

 和也も静馬の視線に気が付いて何やら様々な感情の交じった顔を見せていると何も言わない二人に気が付いたのか陽が声を掛ける。


「あっ、勿論だけど藤井君も陽って呼んでくれていいよ。変わりにこっちも静真君と和也君って呼ぶから」


 続く言葉にまさかと言わんばかりに目を白黒させている和也と共に静馬が混乱していると陽が不安そうな表情をしながら見てくる。

 流石にその視線と表情には耐えられないのと気が付かないうちに周りからの視線を浴びていた事に気が付いた静馬が陽に声を掛けてなんとか場を治めようとする。


「わかった。だから、そんな顔をするのは止めてくれ」


「本当?」


「和也もそうだよな? 陽って呼ぶよな?」


 なんとか和也の同意を得ようと何回か話しかけて正気に正気に戻そうとしている静馬に相変わらず周りの視線が集まっている。


「あぁ、それで良いから」


 まだ、何かぼんやりとした感じの残る和也は同調するように首を振る姿に嬉しそうな陽の姿。

 

「で、何の話だっけ?」


 そう話しかけた静馬にさっきまでの姿が嘘のように軽く怒っていますと言わんばかりに頬を膨らませた陽がクリスタルの事だよと教えてくれる。


「そうそう、クリスタルは持ってないんだけど、陽と和也は持ってるか?」


 当たり前の事ながら聞かれた二人はその言葉に首を横に振る。


「「だよな」」


 なんとなく零れた言葉が和也と同じで笑ってしまう。


「でも、じゃあなんでそんなに普通なの?」


「だって、周りが騒いでるとさ……」


 素朴な疑問にその顔で覗き込んでくる陽に静馬は一瞬だけ可愛いと違う事を思ってしまった。

 ただ、ちょっと恥ずかしく感じてしまい、誤魔化すように周りを見渡して話す静馬の姿に陽は不思議に思ったのか視界に入ろうと動く姿に何か気が付いた和也はニヤニヤした笑顔で二人を見ていた。


「そっか、でも楽しみだね」

 

 陽に構いながらも近づいてきた和也を少し軽く叩き、誤魔化すように前を歩く集団に遅れまいと思いながらも静馬は陽たちとのちょっとした話を楽しんだ。


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