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第十八話 苦戦の先に

 迫りくるツネの右前脚に和也は盾を前に出して防ぐ。

 綺麗に受け止め、その瞬間に押し返す事でツネの体勢を崩した和也に合わせるように静馬が嵐狐をツネに向かって振るった。

 その一撃はツネに向かって綺麗に吸い込まれるように辺り、腹部に大きな傷をつける事に成功する。


「よし、行ける!!」


 一撃を受けて怯んでいるツネの様子を見た和也が斬りつけようと前に出るが、そこはツネも予想していたのかすぐさま後ろに下がってその攻撃を避ける。

 そして、そのまま傷の痛みを我慢しながらも静馬に向かって走り出したツネの様子に驚きの表情と共に見逃してしまう和也だったが、既に静馬は迫ってくるツネに気が付いていて嵐狐を構えて待ち構えていた。


「静馬!!」


「分かってる!!」


 迫ってくるツネの速度は速く、既に静馬の近くまで来ていた。

 血を滴らせながらも近づくツネのその顔は静馬の様子に自分の勝機を見出したようだった。

 そして、その勢いそのままに低く飛んだツネの右前脚は真っ直ぐ静馬に向かって突き出され、その鋭い爪が一直線に静馬に向かう。

 既に躱すにしてもギリギリのタイミングと速度と判断した静馬は右に身体をずらしながらも左手に持っていた鞘を下から叩きつける事でツネの右前脚を弾き、避けようとするがツネの巨体とそれがスピードに乗っていた為にうまく弾く事が出来ずに鋭い爪が身体を掠め、鮮血が飛び散る。

 だが、その痛みを我慢しながら静馬は嵐狐を動きを止めたツネに向かって突き出し、それは無抵抗なツネの急所に突き刺さった。


「グフゥ」


「静馬、大丈夫か?」


 ツネは口から血を滴らせながら後退る。その様子に静馬は警戒してズルズルと抜けた嵐狐を改めて構えた。

 急いで傍まで駆け寄ってこようとする和也が声を掛けてくるのを無視しながらも自然はツネを見続ける静馬。

 微かに動いたツネに改めて仕掛けようとした静馬だったが、直ぐにツネが地に伏せた事で嵐狐を構えるのを止めた。


「きゃっ」


 やっとツネを倒した事で安心した静馬たちの耳に飛び込んできた陽の声に慌てて声のした方に顔を向ける。

 そこに見えたのは残っていた三頭の内の一頭に首筋を咥えられて怯えている陽の姿だった。


「なっ、一頭ずつだったんじゃないのか!?」


「そうだ!」


「ん、何か勘違いしているようじゃが、儂は別に言った事を守っているぞ?」


 何かこちらの反応を楽しそうに見るウルソスに合わせるように陽を咥えていたフンディーノが静馬たちに視線を向ける。

 まるで心外だと言うようなフンディーノのその眼は静馬と和也を嘲笑っているようだった。


「ただ、お主らがツネを倒した途端に動いただけじゃからな」


「なんだと!!」


「くっ」


 そのウルソスの言葉に和也は苛立ちを隠せないようだったが、言っている事は間違っていない様子に静馬は悔しさを見せる。

 ツネと戦っていた為に知らない間に陽と距離が離れてしまっていた二人とは違い、ウルソスたちは陽の周りになっている。

 助け出したいと思った静馬たちも既にタネとツネの二頭と戦って相手の実力が分かっている為に無理に助け出そうとすることが出来ない。


「さて、ツネも倒れたようだし、次はどうしようかのぅ?」


 探るように静馬と和也の顔を見るウルソスだったが、陽を押さえているフンディーノ以外の二頭が同時に前に出る。

 お互いに手柄を立てたいようで顔を見合わせながら威嚇しあう姿にチラっとそれを見たウルソスが笑い始めた。


「クックック、そう焦るな。どうせ、相手は二人しかおらんのだ。互いに一人ずつ相手すれば良いだろぅ」


 その言葉に顔を静馬たちの方に向けたフンディーノたちはどっちがどっちの相手をするか直ぐに決めたようで互いに違う相手に向かって顔を向けて唸り声を上げ始める。


「おい静馬、どうするよ!?」


「どうするもこうするも相手するしかないだろ!!」


「ほう、ノブが盾持ちの小僧、トモが刀の方か……」


 そう話した途端にフンディーノたちは静馬たちに向かって走り出し、その姿にウルソスが呟いたが、静馬たちにはそんな事を気にする余裕もなく二頭に対抗した。

 速さはどうしてもフンディーノたちの方が速く、直ぐに静馬たちの傍まで近寄るが、既に同種のタネやツネと戦った二人はその速さにも慣れてきたのか二頭の攻撃を簡単に避ける。

 だが、二頭とも攻撃方法と考え方が違うようで和也を狙ったノブはその速さを主軸に和也の周りを駆け回りながら時として襲い掛かり、トモは狙った静馬の様子からそこまで激しく動く事は無く、着実に隙を窺って攻めていく。


「ハァハァ……」


「和也、大丈夫か?」


 誘いこまれるように背中合わせになる静馬と和也の二人。

 和也は既に素早い攻防に息を切らせ、静馬も自身にそれほどの余裕は無かったが和也の様子を背中越しに確認する。

 そんな二人の様子を窺いながらも周りを歩く二頭は一瞬の隙を見つけたのか、二人に向かって飛び込んだ。

 お互いに迫ってくるノブとトモの姿に後ろの事も考えて受け止める事を選んだ静馬たちだったが、どうしても疲れた身体では対応が甘くなってしまった。

 静馬は飛び込んできたトモを痛む左肩を無理に動かして鞘で横っ面を叩きつけて何とか逸らしたが、無理をした左肩の傷が広がったようで鮮血と痛みが生じる。

 そして、和也も盾で受け止めて剣で突こうとしたが、その事を読んでいたノブは少しタイミングを遅らせる事で無防備になった和也の身体にその爪を振り下ろした。


「ぎゃっ、この!!」


 痛みで倒れそうになった和也に続けて噛みつこうと動くノブだったが和也が剣を振るうそう振りを見せた為に一旦距離を取る。

 そして、静馬に叩きつけられたトモが身体を起こしてノブの傍に動くと静馬は二頭の様子を見ながらも和也に声を掛ける。


「いけそうか?」


「痛いが、何とかってところだな」


 互いに傷の様子を確認したいところだったが、前にいる二頭がその隙を逃すとは思えず、未だに主張する痛みと出血を我慢しながらも再度因牙武装を構えた。

 にらみ合う二頭と二人の光景を口元に笑みを浮かべながらも眺めるウルソス。そして、傍で残った一頭のマサに押さえつけられながらも自分の非力さと二人への申し訳なさから涙を流し始める陽。

 陽がその悔しさから二人から目を逸らした瞬間、二人は痛みを耐えながらノブとトモに向かって駆けだした。

 今までとは逆の光景だったが、静馬は直ぐにエヴォルオ因子を操り、嵐狐の周りに纏わせてトモまであと少しという所で嵐狐を振るった。すると纏ったエヴォルオ因子は姿を変え、刃となりトモに向かって飛んでいく。

 その一撃を含め静馬たちが先に仕掛けてくると思っていなかったようで一瞬遅れて動き始めたトモは避けきれず、左前足に当たりその鋭さから斬り取られた左前足は宙を舞った。

 そして、トモ自身もその反動から着地に失敗して血に伏せ、いつの間にか近くまで迫ってきていた静馬によって抵抗できぬまま斬りつけられてその命を散らした。


「あとは、和也の方だが……」


 そう言って和也の方を見た静馬だった。




 一方、和也は静馬と同じようにノブに向かって走り出したが、ツネとの戦いの時に負った傷が痛み、静馬ほどは動けなかった。

 その為、ノブも和也が振るった最初の一撃を交わし、お返しにと和也に攻撃を繰り出すがそれは持っていた盾で防ぐ。


「やべぇ、傷が痛くて集中できねぇ」


 少し距離を置いてにらみ合う和也とノブだったが、今の動きで少し傷が開いたようで和也は痛みにノブから眼を放しそうになってしまう。

 気を散らせながらもなんとか耐える和也を嘲笑う様にノブが動き始めると和也もそれに合わせるように重い身体を押してノブに対抗する。

 左右にステップを踏みながら和也に向かうノブの動きは傷ついた和也にとっては辛いものがあり、いつも以上に振り回されてしまう。

 その為、すぐそこまで近づいたノブの攻撃を避ける事も防ぐ事も出来ずに無防備な脇腹をその鋭い爪が抉った。


「ぐっ、この!」


 和也はそれに対して持っていた剣で斬りつけようとしたが、その動きは既に遅くノブは剣の届く範囲から逃げていた。

 お互いに身体の向きを変え、対峙する中で和也は一つの賭けに出る事にする。

 既に負った傷の影響は酷く、このままではノブを相手に負けると感じたからこそ敢えてノブの攻撃を受けると。

 その考えを知ってか知らずかノブはまた和也に向かって走り出したが、それはさっきまでの動きとは違い、和也の様子から一直線に向かっていた。

 その動きに和也は恐怖と痛みを抑えながら敢えて向かってくるノブに対して持っていた盾を構えるのすら止め、片手剣のみを構えて待ち受ける。

 徐々に近づいてくるノブは姿勢を低く、足を噛みつく事にしたのか飛びついてくる様子を一切見せない。


「くっ、だが、これで終わりだ!!」


 抵抗する事も無く足を噛まれた事で走る激痛に耐え、引きずり倒そうとするノブの脳天に持っていた片手剣を突き立てる。

 既に勝負はついたと思っていたノブはそれに気が付かず、逃げる事も無くそのまま剣が突き刺さる。

 少しの痙攣とあふれ出てくる血を見て、和也は警戒しながらも足に噛みついたままのノブを外した。


「流石にキツい……」


 チラっと静馬の方に目を向けるとどうやら向こうも終わったらしく、焦ったようにこっちを見ていたので笑い掛けながら和也は座り込んだ。




 あまりにも傷つき過ぎている和也の姿に急いで駆け寄った静馬の耳に笑い声と手を叩いているような音が聞こえてくる。


「フハハハハ、まさかノブとトモまで倒すとは思わなかった。だが、既に一人は戦えぬようだな」


 ウルソスはそう言いながらも陽から離れて静馬たちを襲おうとしていたフンディーノを下がらせながら一歩前に出てくる。

 その姿には、配下が倒されたというのに余裕もそしてなんの感傷も無いようだった。


「次は儂の相手をして貰おうかのぅ」


 不満そうにしているフンディーノの姿を無視するようにまた一歩進んだウルソスの姿に和也は何とかして立ち上がろうとし、静馬は嵐狐を構えるがその瞬間にウルソスの姿が消える。

 慌ててその姿を探す二人の目の前に姿を現したウルソスは二人の様子を面白そうに見ながらも右手を振るって和也を吹き飛ばす。

 目の前に現れたウルソスの姿に一瞬だけ戸惑った静馬だったが、視線が合った瞬間に感じた恐怖から和也を吹き飛ばしたままの姿勢のウルソスに嵐狐を振るったが、その一撃は岩か何かを斬りつけたかのように刃が弾かれる。

 そして、ウルソスはギョロリと静馬に目を向け直すと嵐狐が当たった右腕で静馬の腹部を殴りつけた。


「ぐはぁっ」


 殴られた痛みと吹き飛び、地面にぶつかった衝撃で息を漏らしてしまう静馬。

 立ち上がりながら和也に目を向けるが、流石に今までの事も有って立ち上がる事も出来ない姿に焦りを覚えてしまう。

 ゆっくりと立ち上がる静馬の姿を見ても更なる動きを見せないウルソスはチラっと和也の方を見ると一つため息をして改めて静馬に向き直った。


「ふん、流石にお主以外は無理のようじゃのぅ」


 面白くなさそうにしながらも未だに嵐狐を構えて戦う姿勢を見せる静馬を見て少し口元を歪めるウルソス。

 静馬は未だに構える事もせず、自然体で立っているウルソスの姿とその後方で未だにフンディーノに押さえつけられている陽を見ながら、一つ息をするとウルソスに向かって走り出した。

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