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第十六話 異常発生

 どうしてこうなったと言うのが静馬の心の言葉だった。

 全身から感じる痛みに顔を顰めながらも身体を動かし、なんとか身体を起こす。

 周りは一緒に崩れて落ちてきた岩などが散乱しているが、さっきまでいた筈の迷宮と同じような壁が目に入る。

 そして、静馬はため息を一つしながらも今の状況になった原因について思い出し始めた。




 最深部から歩き始めて少し経つと目の前に大きく凹んだ地面が目に入った。

 たぶん、道中で聞こえてきた音の一つが原因なんだろうと思った静馬と同じことを思った他の面々も口々にその事を話す。


「なぁ、これ、武司の仕業だよな?」


「たぶんな。それ以外に考えにくいし」


「ホント、良くここまでの事が出来るわね」


 恐らくここでそこそこの数のEVEと戦ったのだろう。その跡とは別にそこかしこにその痕跡が残っていた。

 一番大きいものは武司が作ったと思われる大きな凹みとそこから広がる罅割れだったが、それ以外の痕跡の多さからここでかなりの数のEVEと戦った事が分かる。


「にしても酷いわね、ここ」


「そうだね。結構、EVEが多かったんだろうけど……」


「まぁ、俺たちが来る前に終わってて良かったじゃん」


 辺りを見渡しながら話す陽と久本の二人に和也がそう声を掛ける。

 同じ様に周りを見ていた静馬だったが、不意に武司の作った大きな凹みが気になって近づく。


「おい、危ないぞ静馬」


「そうだよ。何が有るか分からないし」


 和也と陽の声に適当に答えながらも中心部に近づいた静馬はしゃがみ込んでその部分に手を当てた。

 するとそれに合わせるかのように壁に有った穴からラトが大量に出てきて静馬たちを囲んでしまう。


「げっ、マズいぞ!!」


『ピシッ』


 因牙武装を展開しながらもラトたちと向かい合う静馬たちに金村たちも助けようとして戦い始めているのが見える。

 微かに何かが軋むような音がしたと思った静馬だったが、その事を考えないようにラトたちが襲い掛かってくる。

 同時に何匹も来るそれを必死に因牙武装で叩き落して倒していく静馬たちだったが、穴からどんどんと出てきているラトの数に徐々に押されていく。


「くっ、いつになったら終わるんだよ」


「どうする、静馬君!」


「和也も陽ももうちょっと耐えれば大丈夫だから!!」


『ビシッビシビシッ』


 そう言って必死にラトに対応していた静馬が踏み込んで一匹のラトを嵐狐で地面に叩きつけた瞬間、地面に走っていた罅が一気に広がり、叩きつけた時の衝撃に負けたのか地面が崩れ始めた。




「いててて、陽と和也は大丈夫か?」


「な、なんとか」


「私も」


 ごそごそ何とか立ち上がった陽と和也の姿を確認した静馬は自分たちが落ちてきた穴へと目を向ける。 その穴からは上に残ってしまった金本や聖、久本の面々が静馬たちの無事を確認しようと覗き込んでいるのが見える。


「おーい、大丈夫かー?」


「登ってこれそうか?」


「大丈夫だけど、登るのは無理そう!」


 周りを見ても道になっている場所に落ちている為、何処かに向かって進むことは出来そうだったが、登るのは無理だった。

 次にどうするかを考えた静馬だったが、見た目は今までと変わらない事から進んでいくうちに何処かには繋がるだろうと思ってそれを金村たちに伝えた。


「分かった。一応、自衛隊員さんたちと橘先生に伝えるけど、進んでいって無理そうなら此処まで戻って救助を待って欲しい」


「分かってる。取りあえず、今立ってる向きから左右に道が伸びてるけど、左に進んでいくからそう伝えてくれ」


 静馬たちの言葉に金村たちはその場を離れたようで、それを確認した静馬たちも言った通りに先に進み始めようと動き出した。


「和也も陽も行けるよな?」


「あぁ、でもここで待ってなくて良いのか?」


「そうだよ、静馬君。こういう時はその場で留まった方が良いんじゃない?」


「そうだけど、エスペランサーになった時の事を考えたら進むのも手なんだと思う。だから、先に進もう」


 少し考えた後に静馬の言葉に賛成する事を決めた和也や陽はそのまま荷物の確認して静馬の後ろについて歩く。


「あんまり、上と違いは無いようだな……」


「そりゃ、そうだろ。流石に同じ迷宮内でそんなに違ったら困る」


「そうだね。でも、迷宮によってはそういう所もあったよね」


 そうだなと返しながら先を進む静馬の耳に一つの鳴き声が聞こえてくる。

 犬の鳴き声だろうその声はどちらかと言うと低く、鈍い声から何かまともな状態じゃないと思ってしまう。


「なぁ、今の声ってさぁ?」


「たぶん、野犬だろうな。ただ、どうして迷宮内にいるのかはわからんけど」


 気を付けながら行くぞと言って進む静馬だったが、野犬の優れた嗅覚には勝てないようで暫くすると数匹の野犬が前から迫ってくるのが見えた。

 慌てて因牙武装を展開する静馬たちを警戒するように顔を静馬たちに向けながらうろつき始める野犬。

 低い唸り声を上げながら静馬たちを警戒していた野犬だったが静馬が覚悟を決めて斬りかかろうとするとその気配を感じてか数歩後ろに下がる。

 暫くお互いがにらみ合うような状況が続いたが、それは一匹のラトが乱入してきた事で崩される。

 ラトはそのまま野犬たちを無視するように和也に飛び掛かろうとするが、それに気が付いた和也によって一撃で倒される。

 そして、それに意識を取られたと思ったのか、今までにらみ合っていた野犬たちも飛び掛かってくる。


「マズいっ!!」


「和也君、危ない!!」


 ラトに続いて飛び掛かってきた野犬をなんとか一匹は対応出来た和也だったが、続いて飛び掛かった野犬には対応が出来なかったがそれに気が付いた静馬が嵐狐で斬り捨てた事で難を逃れる。

 そして、なんとか体勢を立整えた和也を横目で見ながら静馬は残りの野犬に斬りかかろうとすると野犬たちの様子がおかしい事に気が付く。


「なっ、姿を変えている……?」


「違うよ。たぶん、進化しているんだよ」


「なんでだよ!?」


 爪が伸び、顔の輪郭どころか身体全体が震えながら変形していくその姿に攻撃するよりもその様子を窺う事を優先してしまう。

 恐らく進化し始めた原因は迷宮に入り込んだ事に加えて傍でEVEが倒された事だろうと陽が言う様にラトの倒れていた当たりから光の粒子が三つに別れて野犬に吸収されているのがよく分かる。


「ど、どうしよう」


「どうしようも何も戦って勝つしかないだろ!」


 言うが早いか、飛び出した和也はそのまま一匹の野犬だったものに斬りかかる。

 そして、未だに進化の影響か動きの鈍い一匹に片手剣が吸い込まれるように当たるが、致命傷にはならなかったようで痛みに耐えながらそれは和也を鋭い爪で切り裂こうと前足を振る。

 だが、それを読んでいたように和也は盾でそれを防いで他からの追撃を警戒しながら静馬たちの近くまで下がってくる。


「和也、あんまり無理はするなよ」


「そうだよ。って、“水よ(アクヴォ)”」


 陽がそう呟くと一瞬だけ陽の因牙武装である本が輝いて、陽の前に現れた水の玉が陰から飛び掛かってきた野犬に向かって飛んでいく。飛んでいった水の玉はそのまま野犬に当たって消えるが、野犬は当たった衝撃で後方へと吹っ飛ぶ。


「見えない所にもまだいるって事か……」


「気を付けないとダメだね」


 飛び掛かってくる野犬たちに対応していった静馬たちだったが、意図的に飛ばされる場所を調整していたのか、気が付くと静馬たちを囲むように周りから隙を窺う野犬たちと向き合う為に自然と背中合わせになってしまう。


「“氷の針よグラツェア・ピキロ”」


「そこか!?」


 飛んできた氷の針を避けた野犬だったものに斬りかかった和也の攻撃はそのまま首に当たり、事前にエヴォルオ因子を刀身に纏わせていたのか、そのままバターを切るように突き抜けて首が落ちた。

 その和也を襲おうとしていた野犬たちは陽や静馬に牽制され、行動がとる事が出来なかった。

 見える範囲にいるのは残り二匹。前後で静馬たちを挟む状態でこのままでは不利と悟ったのか、一匹が顔を天井に向けて大きく口を開けて吠える。

 余りの声の大きさに顔を顰めたり、耳を抑えたりと視線を野犬たちから逸らしてしまった静馬たちを無視するように後ろにいた一匹はそのままもう一匹と合流し、響く声が聞こえたのか遙か前方から走ってくる野犬たちの姿が有った。

 そして、合流した野犬たちの数は五匹になったが、ここまで来る途中でラトを仕留めたのか合流した三匹は微かに光の粒子を纏って身体を変化させているのが分かる。


「マジかよ……」


「大丈夫か? 陽」


「うぅ、まだ耳が痛いけど、大丈夫」


 未だに耳を押さえている陽を心配する静馬だったが視線は野犬たちから離さず、いつでも対応できるようにしている。

 陽も野犬たちを睨みつけるのを合図にしたように一気に距離を詰めてきた野犬に合わせて片手剣を振った和也。だが、それは分かり切っていると言わんばかりに横に飛ぶことでそれを避けた野犬は着地と同時に和也を避けて陽に向かって走り出す。


「きゃっ!?」


 余りの速さと間近まで近づいてきた迫力に腰を抜かしてしまった陽に静馬は慌ててその野犬に向かって嵐狐を振り下ろして倒す。

 ギリギリの所で避けられたが陽を守れた事に安堵しながらも直ぐに今の状況を思い出して視線を向ける。


「ありがとう、静馬君」


「あぁ」


 そして、またもにらみ合う形になった静馬たちと野犬の集団。互いに何かしらの隙を見つけようとしているのが、そんな都合のいい事は無いようだった。

 しかし、何かに反応するように耳を活発に動かし始めた野犬たちが急にお互いに顔を見合わせる。

 それを見てチャンスと思って斬りかかろうとした和也だったが、直ぐにその動きを止める事なった。何故なら唐突に響く盛大な遠吠えの声に持っていた因牙武装を落としてしまったからだ。

 だが、本来なら攻撃を仕掛ける筈の野犬たちはそんな和也の様子を無視するように吠え返すと踵を返して走り去っていく。

 あまりの事に意味も分からずに立ちすくむ静馬だったが声によってそこまで考える事が出来ず、ただただそんな野犬たちを見送るだけだった。


「うぅ……、耳が痛い……」


「大丈夫? 和也君」


「なんで静馬や陽はなんとも無いんだよ」


「分からないよ。ただ、辛くないって程でも無いんだよ?」


 静馬を横目に耳を押さえている和也に話しかける陽だったが、何かしらの影響が有ったのか微妙に顔を顰めているのが分かる。

 我に返った静馬も因牙武装をしまいながら和也たちに近寄って心配そうに二人の姿を見た。


「しかし、何だったんだ今の声?」


「野犬の遠吠えにしては声が違ったようだし、おかしいよね?」


「あぁ、ただあの声聞いてからの様子を見ると群れのボスかそれに近いものの声っぽいな」


 立ち上がった和也の様子を確認しながらも辺りの様子を確認する静馬だったが、背後――北方向から大量のヴェスペルトが道を塞ぐように飛び回っているのが見えた。


「これは先に進むしかなさそうだな」


「そうだな……」


 あまり嬉しくなさそうに静馬に言葉を返す和也の姿に陽は驚いた表情を見せていたが、今さっきの事を思い出して納得したような顔に変わる。

 二人の様子を見ながらも覚悟を決めた静馬は二人を促しながらも先に進み始めた。

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