第十話 賑やかな時間
今回から投稿時間を変えさせていただきます
感想、誤字脱字報告などよろしくお願いします
上にはさんさんと輝く太陽、後ろは雄大に広がる海、照りつけるような日差しの下で静馬とその横でどんよりとした空気を背負った和也が浜辺に立っていた。
自由時間まで時間が有るはずなのに浜辺に集められた生徒たちは口々に不満を言いながらも前に立っている橘の指示に従って並ぶ。
そんな生徒たちを見ながら橘はこれから始める事に関して楽しみが抑えきれないようで時々笑みが零れている。
「じゃあ、全員揃ったから軽く訓練をして、その後は時間まで自由時間にするわよ」
「えぇー、そんな予定なかったじゃないですかー」
「まぁ、良いじゃない。早めに着いて時間余っちゃってるんだから」
急に変わった予定に文句を言う生徒たちを宥めながら、理由を話す橘に一層生徒たちの不満が集まるがそれすら黙らせるように笑みを消して凄む姿に徐々に無くなっていく。その中、静馬はこれから行うであろう軽い訓練について考えてみる事にした。
ここ、浜辺で何か準備されている様子も無く、ただただ波が押し寄せる浜辺が有るだけ。まぁ、着いてそんなに時間が経っている訳でも無いから出来る訳もない。
なら、この動きづらい浜辺を走るくらいしか思いつかないと静馬が考えている内に生徒たちの様子が落ち着いた。そして、その姿に橘は頷き、すぐさま笑顔に戻った。
「先生ー、それで何をやるんですか?」
「勿論、砂浜マラソンよ!!」
その声に橘はよく聞いてくれたという様に顔をそっちに向けて答える。
予想していた静馬はそこまで何も思わなかったが、幾人かからすれば嬉しく無いようで不満の声が上がる。
そんな生徒たちの反応を無視するように走る範囲を浜辺の端から端までという橘に静馬も含めたそれまで不満の声を上げていなかった生徒たちまで声を出す。
「えぇー、端から端までって…… 」
「まぁ、距離が長いから一回往復するだけで良いわよ」
特に変わった事は言っていないというような橘に冗談を期待した生徒たちだったが、誰一人としてその事を言えず、視線を向けるだけだった為に橘は敢えてそれを無視した。
「じゃ、スタート!」
そして、その言葉と共に橘は手を打ち、生徒たちに走り始める事を促す。
バラバラと走り始めたクラスメイトの姿を見た静馬は同じように走り出そうとして、横にいた和也を思い出して声を掛ける。だが、それに気が付かなかったのか相変わらずどんよりとしたまま俯き、走り出さない和也を不思議に思ってもう一度声を掛けた。
「おい、和也行くぞ」
「……じゃないか」
ボソボソと何かを言い続ける和也が何か聞こえるような声で言ったが、生憎と静馬には最後しか聞き取れなかった。
そうしているうちにも既に静馬と和也以外の生徒は全て走り出していなく、未だに走り出さない二人に橘が不思議そうに見ているのが分かる。
流石にこれ以上はマズいと感じた静馬が何度目か声を掛けていたが、変わらない和也の反応に諦めてこれが最後とダメ元でもう一回だけ声を掛けた。
「おい、走り終わらないと楽しめないぞ」
「うぉー!!」
すると何かずっと俯いて呟いていた和也は不意に頭を上げたと思うと大声で叫びながら後の事も考えていないのか先に走り出していたクラスメイトに追いつけ追い越せと言わんばかりの速度で走り出した。
あまりに唐突な出来事に呆然としていた静馬は暫くすると我に返って今の状況を思い出して急いで和也の後を追う様に走り出す。
やはり和也が叫びながら走って行ったのは誰にとっても予想外の事らしく、驚いて走るのを止めて和也を見ているクラスメイトが多くいるのが静馬には分かった。そして、そんな彼ら横目に静馬は和也を追いかけるように走る。
「あっ、静真君だ」
そんな声に静馬が横を見ると陽が直ぐ傍を走っていた。
先に走り始めた割にはすぐに追いついたような気がした静馬だったが、やはりそれだけ和也の事や浜辺という事が影響しているのだろう。
そうは言ってもまだ走り始めなので陽の呼吸はそこまで荒くなってなく、余裕が有るように見える。たぶん、走り切る事を考えたペースなんだろうなと静馬は感心してしまう。
それに比べてと既に遙か前方を走っている和也の姿を見る静馬に陽が話しかける。
「和也君、なんか叫びながら走って行っちゃったね」
「あぁ、声掛けても反応無かったのに急に叫んで走り出すから驚いた」
ほとんど見えなくなった砂塵を上げながら爆走しているだろう和也の姿を想像しながらも二人で話していくが、走りながらの為に余計に体力を消耗してしまって次第に息切れしてしまう。
走りにくい砂浜に照り付ける太陽の光。滝のように流れ出す汗を拭い、走り始めた頃が嘘のように黙々と走り続けるがだんだんと陽の走るスピードが遅くなっていく。
「はぁ、はぁ、和也君、まだ先、頭を走って、るよ」
苦しそうに息絶え絶えになりながらも陽が言った言葉に静馬が前をよく見てみると既に折り返してきたのか前から未だに何か叫びながら走ってきている和也の姿が有った。その様子と形相は凄いもので前を走っていた皆が道を開けていくのがよく分かる。
どうやら和也自身は必死になり過ぎていて他に走っている静馬たちの事に気が付いていないようなので静馬は前を行くクラスメイト達と同じように和也にぶつからないよう道を開ける事にした。
そして、静馬に声を掛けた後は走るのに必死になってそういう事を考えれていないようだった陽の手を取って引っ張る。
「えっ、あぅ、はぁ」
静馬が急に手を引っ張った事で驚いたのか陽は和也を避けるように動くが足を縺れさせ、そのまま倒れこみそうになってしまう。そして、その事に気が付いた静馬は慌てて抱き寄せるように引っ張り上げる。
勢いよく引っ張った静馬だったが、そのまま抱きとめる事も出来ずに陽と二人で浜辺に倒れこんでしまう。
一瞬にして変わった視界と身体全体に感じる柔らかい感触に静馬は今の状況が理解できずに固まってしまう。そして、それは陽も同じようで静馬の上に乗ったまま動く様子をみせない。
暫く二人ともそのままの姿勢でいたが、そんな二人を避けるように走って行くクラスメイト達に気が付いて静馬はどうにかして今の状況から抜け出そうと陽に声を掛ける。
だが、一向に陽が動く気配を見せず、このまま下手に動いてケガをさせる事になるとマズいという考えやこの感触をもう少し味わっていたいと思う気持ちに悩まされる静馬。
そうしている内に何か問題が起きたのかと橘がやってきて二人の状況を見てニヤニヤしながら話しかける。
「あらあら、どうしたのかしら?」
「分かってていってませんか……」
未だに動かない陽を上に乗せたまま静馬は動くことも出来ず、そのまま橘を見上げながら早く陽が動いてくれることを祈る。そんな静馬の内心を見通しているのか橘は陽に声を掛ける事を控えめにしながら静馬をからかう事を優先していた。
そして、暫くしてから陽は現状に気が付いたのかだんだんと顔を赤くしながらそそくさと静馬の上から退いた。
「わるい、大丈夫だった?」
「う、うん」
どうやら直ぐには落ち着く事が出来ないようで小さく答えるだけで下を向いたままの陽にケガはしてない事を確認しながらも対応に困ってしまう静馬。
あてにならなさそうな橘は相変わらずの様子ながら教師の義務として陽に話しかけてケガの有無を確認しており、静馬はいたたまれない気持ちをどうにかしようと辺りを見渡してみる。
そんなことをしている内に相変わらずの様子でだいぶ近くまで走って来ていた和也の姿や静馬たちを無視して追い抜いていくクラスメイトたちの姿が見える。
ただ、頼ろうにも和也はこちらに気が付いていないようだし、クラスメイト達は論外。どうやっても今の状況を打破する事は出来なさそうだと静馬は思ってしまう。
「ふふふ、そんなに赤くなっちゃって」
「いや、あの、その……」
相変わらず赤い顔の陽に橘はそう言って煽る。勿論、まだまともに考えれていない陽からすると顔を更に赤く染めて俯くしかできないようだ。
このままだと色々と更にマズい状況になりそうだと思った静馬は橘が陽の相手をしている今のうちに逃げるように走り出すことにした。
「あっ!!」
後ろから聞こえてきた声からたぶん陽が走り出した事に気が付いたんだろうとチラっと周りを見るふりをして後ろを見てみると裏切り者と言いたげな視線を送る陽の姿が見えた。そして、その傍では少し面白くなさそうな顔をした橘がいた。
今から戻る事は最初から考えていない静馬は前に向き直ってまだ走り始めていない陽に内心で合掌した。
そうして黙々と走り続けて静馬は追い抜いて行ったクラスメイトの何人かを追い抜かし、叫びながら走る和也を避けて浜辺の端にたどり着く。
特に目印が有る訳でも無く、その場で走る向きを変えて再度スタート地点に戻ろうと走り始めた静馬だったが少し前にこちらに向かって走ってくる陽の姿を見つけた。
どうやら橘が解放したのかうまく逃げる事に成功したのかは分からなかったが何か言いたげな視線を向けてきた陽に思うところが有った静馬は走るスピードを緩めて陽が追いつきやすくする。
「ちょっと、待ってて……」
すれ違った瞬間にそんな言葉を陽に投げかけられた静馬だったが、最初からそのつもりだったので遅すぎず、早すぎずの速度をキープする事で陽を待とうとするが、その事に陽は気が付いていないのか速度を上げて早く静馬に追いつこうと折り返す。
「やっと、追いつ、いた。さっき、置いてく、なんて酷いよ!」
漸く追いついてきた陽にそう言われながら静馬は陽のスピードに合わせて走り出す。
追いついた時は途切れ途切れだった呼吸も落ち着き、余裕が出てきた陽は先ほどの静馬が置いていった事に文句を言う。
「で、どうした?」
「どうしたじゃ、ないよ!?」
何もなかったように振る舞う静馬に少し怒りながら話す陽だったが、徐々に自分の味わった苦しみを共感してくれるようにと話し出す。
「あの後、は大変だったんだよ! 全然、先生話聞いてくれないし…… 」
「あぁ、それはすまん」
あまり聞きたくないなと思ってしまう静馬だったが少しずつ自分に向いた怒りの矛先が他に向いてくれる事を期待して話を聞く。
あまりにも必死に訴えてくるその不満の内容につい謝ってしまう静馬だったが、それでも陽の機嫌が良くなる事は無く、そんな二人をすれ違うクラスメイト達は生暖かそうな目で見ていた。
そして、もう直ぐで終わりそうなところまで走ってきた静馬たちだったが、相変わらずの陽のようにどうにかして話を変えようと静馬は思い切って話を切り出した。
「なぁ、もう直ゴールになるけどその後は一緒に遊ばない?」
唐突な話題の転換とその内容に陽は驚きを隠せないようで静馬を凝視してしまう。そして、その様子からは何かあるのではと疑っているように感じた静馬だったが、元々の原因は自分に有ると思ってその視線に耐えた。
「そんな事でお詫びになるとは思わないけど、今現状で出来る事がそれだし、なんならこの校外学習から戻った後に何か奢るからさ」
「本当? 嘘だったら絶対に許さないからね」
これからの事になのかそれとも校外学習後の事なのかは分からなかったがその言葉に嬉しそうに笑みを見せ始めた陽。どうにかそれを隠そうとしているような感じを受けた静馬だったが少し先からこっちを見ている面々の事を考えると仕方ないのかと思う。
そして、静馬が頷く事でその意思を陽に伝えると笑顔のままで今まで長い距離を走っていたのが嘘のように速度を上げて静馬を置いて走って行ってしまう。
その様子に驚いた静馬だったが陽だけ先に行くのはマズいと少しだけ走る速度を上げて長く待たせてしまう事を避ける事にした。
ゴールにたどり着いた静馬だったが流石に息が上がってしまうが、何とか先に行った陽を約束の為に探そうと荒い息のままで辺りを見る。
既に海に入っている生徒たちの姿も見える中、陽より先に見つけたのは橘だった。
どうやら、手に持った端末に走り終わった生徒たちのデータを入力しているらしく、陽を探していた静馬に気が付くと傍によって来た。
「お疲れ様。もうこの後は時間まで自由にしていいから」
そう言って直ぐに次の生徒の元に向かう橘を見送って再度陽を探そうとすると静馬に気が付いていたのか直ぐに陽がやってきた。
その姿は静馬よりもスピードを上げて走り切ったとは思えないほどにニコニコしながら軽い足取りだった。
「みんなもう海に入っているけど私達も行く?」
「ちょっと、待ってくれ」
流石に走り切ったばかりの静馬には余裕が無く、なんとか呼吸を整えようとしてみるが、そんな事お構いなしと陽は静馬の腕を取り、海に向かって駆け出そうとする。
「早く早く」
どうにも早く海に入りたいのか静馬の様子を気にせずに動く陽。
引っ張られている静馬としてはもう少し休みたいと思って誰か助けてくれそうな人はいないかと周りを見るが一番仲の良い先に終わっている筈の和也の姿は傍に無く、他のクラスメイト達も思い思いに過ごしているのか、見て見ないフリをするか静馬を睨んでいるくらいで助けてくれる気配が無い。何より極一部の人たちは何が面白いのかニヤニヤしながら静馬たちを見ている。
そして、諦めながらも海の方に目を向けてみると未だにテンションが上がったままなのか沖に向かって凄まじい泳ぎを披露している和也の姿が見えた。
そんな和也の姿をなんとか忘れつつも引っ張られながら波打ち際まで来た静馬に掴んでいた腕を話して陽がニコニコしながら話しかけてくる。
「こんな辺で良いかな?」
だが、そんな言葉も忘れようとしている和也の姿が目に入る静馬には聞こえていなかった。
その為、少し不満げな顔になった陽は静馬の視界を遮るように立つ。
「ねえ、さっきから声掛けてたのに無視してその反応は酷いと思うんだけど」
急に泳ぐ和也の姿が消えて少し頬を膨らませた陽の顔が現れた事で静馬は驚いて数歩後ずさんでしまう。
流石にマズいと思った静馬だったが、時既に遅く陽は不満げな顔から怒っている事を更にアピールするように腰に手を当てて静馬を軽く睨みつけていた。
「ごめん。ちょっと沖の方が気になって……」
静馬が顔の前で手を合わせて軽く拝むように謝ってから陽に理由を話してみると陽は相変わらずの様子のままで顔を沖に向けた。
ちょうどタイミングが良いのか悪いのかそんな陽の視線の先には特に変わった事が起きている気配の無い海が広がっているだけで静馬が気になった事が分からずに陽は首を傾げる。
そして、そんな陽と同じように沖に再度視線を向けた静馬だったが見えていた筈の和也の姿が見えない事に焦りを覚えているとかなり遠くに何か黒い影が見え、それを陽に伝えようとする。
「冷たっ?!」
その瞬間に顔に冷たい何かが飛んできてつい静馬は声を上げてしまう。
それを取り除くように顔を拭ってから前を見ると笑いながら陽が足を上げた状態で立っているのが見えた。どうやら陽が足を使って海水を飛ばしてきたのが顔に掛かったようだった。
先ほどまで考えていた事を忘れて静馬は直ぐに足を海に入れて同じように陽に向かって海水を蹴り上げる。
余りの静馬の反応に笑っていた陽はそれを頭から被ってびしょ濡れになってしまうが、直ぐに仕返しをしようと動くのが静馬には見えた。
こうなってくるとお互いに水の掛け合いが始まって、だんだんと移動しながら続けられるそれに周りも巻き込まれて参加している人数が増えていく。
そして、水辺にいた生徒たちの大半がその掛け合いに参加した頃にその異変が目視できるところまでやってきた。
それに最初に気が付いたのは誰だったかは分からない。ただ、それを見てしまった人は視線をそのままにしてしまう。だからこそ、その周りにいる人間はその行動が気になって同じ方向を見てしまう。
そうして徐々に増えていく目撃者の数だったが、近づいてくるソレを見て何かと気が付ける者はいなかった。
そして、静馬や陽たち全員が気が付く頃になると漸くその姿の大半が見える距離まで近づいてきたソレの正体が何か、何故こっちに向かってくるのかを誰もが理解した。
「うぉーーーーーー!!」
そこに有ったのは誰もが目を疑う光景だった。そして、それは先頭を必死に泳ぐ和也を追いかける様にサメが群れて泳いでいるという衝撃的なものだった。
普段ではそうそう見ないサメの数とその前を必死に泳ぐ和也の姿に静馬たちは呆然としていたが徐々に近づいて来ている事と直ぐに我に返った橘の指示で急いで海から出て陸に上がる。
「誰か助けてくれーー」
そんな声が和也の方から聞こえてくるが、我先にと必死に海から少しでも遠ざかろうとしている静馬たちは聞き流す。
そして、距離の取れた静馬が浜辺に座り込みながら和也の方を見てみるが、状況は相変わらずで少しばかり和也とサメとの距離が近づいているような気がした。また、橘以外の教師も事態に気が付いたのか此方に向かって来ているのが分かる。
やっと和也を除く生徒たちが陸に上がった事を確認した橘たちはサメを駆除する為に因牙武装を展開させる者とそのまま生徒たちを施設へと避難させる者に別れる。
橘は教師陣の中で一番海に近く手には既に展開した因牙武装の槍を持っている。
既に準備万端とも言える姿を見たからか追われている和也の泳ぐスピードが上がって少しサメとの差が広がる。
そして、その姿を確認した橘は周囲の因子を槍に集めているのか、槍に光が集まり始めて少しずつ槍が光始めているように感じる。
徐々に浅瀬に近づいてきた和也に数匹のサメは諦めたのか身を翻して沖に戻っていくのが静馬たちには見えた。だが、それでもまだ和也を追い続けているサメはいる。
ついに和也が浅瀬にたどり着き、必死に水をかき分けながら浜辺に上がろうとする。そして、それに合わせるように橘は和也の位置を確認してから空中に跳び上がり、手に持っていた槍を和也とサメの間に投擲する。
海面に槍が衝突するとその衝撃で大きな水柱が上がり、それに巻き込まれるようにサメの姿が白い飛沫の中に消える。
そして、何とか浜辺に上がった和也は海から少し離れたところで倒れこみそうになるが、直ぐに駆けつけた教師によって移動させられる。
一方、そんな和也を気にせずに橘は徐々に元に戻っていく海面に鋭い目線を向けたまま右手を横にまっすぐ伸ばす。すると海に沈んだはずだった槍がその場に現れ、橘の右手に収まった。
そして、暫く辺りを探る様に泳いでいたサメの群れだったが、獲物を逃したのが分かったのか沖に向かって泳ぎ去って行った。
その姿を確認した橘は警戒した雰囲気を霧散させた橘だったが、その背中からは今までとは違った威圧感を発し始めたのを和也は気が付いてしまう。
ただ、教師たちに連れられて移動した為に辺りを固められてしまい、正面だけ開いた状態の和也はその状態から何となく嫌な予感を感じた。そして、橘は俯きながら身を翻して和也たちの方へと近づいていく。
徐々に近づいてくる橘の雰囲気から先ほど感じた嫌な予感はこれから起きる事をだんだんと理解し始める。そして、橘が顔を上げて正面からそれを見た瞬間に和也の顔が引きつったのは仕方ない事だろう。
和也の反応を無視するように近くにいた教師だけではなく、他の避難誘導をしていた人たちまで集まってきた事で長時間行われる事となる説教大会が始まった。勿論、一方的に言われる訳無いのが和也と言うべきなのか所々で何か言い返しているのが見てとれる。
しかし、そんな事が通じるほど甘くも無ければ聞けない事態にまで発展してしまっている為にだんだんと和也は謝り続けるだけになった。
時より隙を見ては辺りを見渡して誰かに助けを求めようとする和也だったが、周りを囲んでいる教師は勿論の事、その隙間からなんとか見えた静馬たち生徒の誰一人として目を合わせようとしない。
最も静馬や陽は和也からだいぶ離れた位置にいたために目が合った事に気が付ける程度で状況もつかめずにおおよその予想からたぶん助けを求めてるんだろうと思いながら巻き込まれたくない為に首を横に振った。そして、それを確認した和也は絶望したような顔になり、話を聞いていなかったと思った橘によって更に叱られる事となった。
「あー、良かった」
「ん、何が?」
急にそう言った陽に静馬は聞く。
すると陽は浜辺で囲まれて叱られているだろう和也を無視して海を指さす。
「だって、あんな橘先生の攻撃が有ったからサメが一匹もいなくなったし、また海で遊べそうだもん!」
そういう陽と同じ考えの生徒が多いのか今まで施設に戻ろうとしていた生徒たちも浜辺に向かって歩き始めている。そして、その空気はさっきまでの事が嘘のように穏やかな物だった。
「じゃあ、俺たちも戻るか」
「だね、まだ遊び足りないし!」
ニコっと音の聞こえてきそうな笑顔を見ながら浜辺に向かって走り出した陽を追いかけるように静馬も浜辺に向かう事にした。
もっとも和也には悪いがそう簡単に早く終わるとも思えなかった静馬と同じようにその雰囲気に誰もその付近に近づく事は無く、一部を除いて最後まで平和な時間が流れたのだった。




