エピローグ
「あ! 鞍馬さんだ! いらっしゃい」
どん、とぶつかってくる玄武に、少し違和感を感じる鞍馬。
すると向こうから、もうひとり玄武が走ってきたのだ。
「ずるいよ、玄武・兄! 僕が最初だよ」
なんと、最初にぶつかってきたのは、2000年前の玄武の方だ。違和感の理由はこれだったのか。
今日は日曜日。鞍馬が夕食を作りに東西南北荘を訪れる日だ。
「どうされたのですか?」
2人を連れてキッチンへ入ると、和室でパソコンに向かっている雀に聞いた。よく見ると、雀の後ろには、彼女の肩もみなどしている朱雀がいる。
「あー、なんだかねえ」
「タイムマシンに乗ってきたのよー」
「そういうことではなくて」
鞍馬が心配しているのは、東西南北の護りがこんな所にいていいのかと言うこと。
「大丈夫じゃよ。あっちには、大河と龍古を派遣しておる。数は合っておるわい」
離れから戻ってきたトラが、縁側に腰掛けて言う。
「数の問題では……」
と言いつつ、仕方がないですね、と、小さくため息をついて夕食の準備に取りかかろうとしたとき、庭に続く入り口から誰かが入って来た。
その人物に、少し目を見張る鞍馬。
「言ったでしょう? またお会いしましょうと」
「飛火野さん……」
差し出された手を習慣で取ってしまって握手しつつ、ふっと天を仰いでため息をつく鞍馬と。
ニッコリ笑って「貴方の夕食を頂きに来ました」と、楽しそうに言う飛火野がいた。
「あら?」
雀の声がしたかと思うと、開かれたノートから何かが昇華していく。
「このことだったんだ」
――2人はガッチリと握手し。
――1人は天を仰ぎ、もう1人は、にっこりと微笑んだ。
消えていく文字には、そう書かれていたようだ。
「バンちゃん、お疲れー」
「お疲れ様でした!」
料理長に挨拶して、帰りを急ぐ万象。
今日は鞍馬が来る日だよな。ハハ、驚くぞ、あいつらが来てるって知ったら。万象は情けない鞍馬の顔が早く見たくて、家路を急いでいた。
通りから少し奥まった笹藪の1本道を抜けると、東西南北荘の表門だ。
今は道の正面に月が昇っていた。
その美しい輝きに、万象はなぜか森羅が光の中から現れた時の事を思い出し、無性に森羅に会いたくなる。
「よおし、今度の休みには、森羅に会いに行くぞ!」
勝手にそう決めると、何だかとても嬉しくなって、万象は門へと走り出した。
了
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
東西南北荘の第二弾、完結しました。
万象の夢から始まって、とうとう2000年のかなたまで、しかもタイムマシンで飛んで行ってしまいました。新たな護りと四神も登場して、今後このお話はどうなっていくのやら。まだ先はありそうですので、またいつか、お目にかかれるのを楽しみにしています。