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第7話 戻ってきた地の護り


 万象は、ゆらゆらと波間を漂っている。

 ここはどこだろう。なーんか気持ちいいな、海水浴にでも来たっけか?

「こっちだぞ!」

「わかってるって」

「いた!」

 あれ? あれはなんだ? なーんか、子どもの時に見てた、ヒーローものに出てくる雑魚な敵みたいだなー。

 そいつらは、万象の顔をのぞき込むと、

「見つけたぜえ、おとなしくしろ! って、ええー? コイツ違うー」

「んな馬鹿な! DNAは確かに……って、なんで違うんだあー!」

 頭を抱えた雑魚が、「お前たち」と言う恐ろしげな声と同時に消え去った。

 うわあ、これ、なんとかレンジャーの撮影? 

 すると。

「ありがとう。君のおかげで悪いヤツらをたたきのめせるよ」

 と言いながら、雑魚をボコン、ボコン、と倒していく青年がいた。

「うおー、カッコイイー」

 と言ったところでハタと目が覚める。



 あれ、また夢かよ。

 えーと、今回は何だか前よりもっともっと、もーっとインパクトすごかったな。いやー、鞍馬が来てくれて良かったよ。え? あれ? じゃあ、またこれ夢じゃない!


 ガバッと飛び起きた万象の目の前に、鞍馬がいた。

「おわっ、鞍馬! あんた来られないって言ってたじゃんか!」

「少し状況が変わりまして」

 いつものごとく苦笑する鞍馬に、「なんだよそれ!」と、いつものごとくくってかかる万象だった。


 そのあとの説明によると、万象は2組の四神を発動する力に耐えきれなくなって、気を失ったという。

「でも、よくやってくれました。途中で体力が尽きるかと思ったのだけれど、最後までなんとか持ちこたえて。貴方はやはり素晴らしい素質の持ち主ね」

 桜花に褒めちぎられて、照れまくる万象。

「いや、あの、ははは」

 そのあと、トラばあさんが変な事を聞いてくる。

「万象よ、今何か夢を見ておらんかったか?」

「え? なんで知ってるんですか、トラばあさん」

「おお、詳しく聞かせてくれ」

 何だか嬉しそうなトラばあさんに、万象はさっきのなんとかレンジャーの夢を話す。

「トラ、これはもしかして」

「おう、もしかするぞ。コトラ」

 親指を立て合うばあさん2人に、「なんだよ、説明しろ!」と、すごむ万象だが、そんなものにちっとも恐れを抱かない2人なのはわかりきっている。

「ちぇ」

 と、むくれる万象に、桜花がまた優しく説明しようとした時だった。


 ――きらきらきらきら☆

 陽ノ下家の中庭に、天空から一条の光が差し込んできたのだ。

「おう、やはり」

「うむ、帰ってきたか」

 トラとコトラが嬉しそうに言う。

 皆がポカンと見守る中、その光に乗って、誰かが地上へと降りてくるのが見える。

「あ!」

 玄武・兄が嬉しそうに庭へ飛び出す。

 他の者たち、こちらの四神は勇んで庭へと走り出た。

 そしてその人が地上に降り立って、光から出てくると。

 四神たちは、その場にひざまずいて頭を垂れた。


森羅しんらさま」

「森羅さま! お帰りなさい!」

「ご無事で良かった」

「……」


 すると、ぐるりと彼らを見回して、森羅と呼ばれた青年が、口を開いた。

「うん、ただいま。心配かけちゃったね」


 四神の後から庭へ出た飛火野も、彼の前で跪く。

「森羅さま、お帰りなさい」

 驚くことに、あのクールな飛火野が少し目を潤ませている。

「わ、飛火野にも心配かけちゃったね。ゴメンね」

「いいえ」

 その横では、一乗寺も丁寧に跪いている。

「お帰りなさいませ」

「一乗寺~、相変わらず君は可愛いねえ、ただいま」


 そして、中庭への降り口で立ち止まり、こちらは目をウルウルさせている桜花を見つけると、そちらへ行って、優しく彼女をハグしている。

「桜花さま、ご心配をおかけしました」

「いいえ、いいえ」

 桜花はそれ以上言葉に出来ないようだ。

「コトラばあさん。今回は貴女が俺を救ってくれたんだって? どうもありがとう」

「いやいや、わしは居所を探ったたげじゃ。本当の救世主は、」

 と、こちらもズズッと鼻をすすり上げながら、そのまた後ろに控えた7人を手で示す。


 そこには、万象を中心に、ミスター、雀、龍古、玄武の5人。

 そして、その横に、トラばあさん。そのまた斜め後ろに鞍馬がいた。


「ああ、君たちが! どうもありがとう」

 そう言いながら、万象の手を取ってブンブンし、驚く万象に自己紹介をする。

「初めまして。俺は京都みやこ 森羅しんらです。よろしくね」




 そのあと、トラが説明してくれたところによると。


「相手さんがフェイクなんて卑怯な真似しておると聞いて、それならこっちも騙してやろうじゃないか、と、ふと思いついたのさ。同じ京都みやこの一族なら、きっと同じDNAを持っているだろうと、調べてみればビンゴ! じゃったんじゃ。それで急ぎ装置を製作した」

「なんでこっちで作らなかったんですか?」

 森羅が聞くと、

「慣れた場所で作る方が早いからじゃよ」

 と、トラは笑って言う。

「それがこれじゃ」

 と、取り出したのは、丸い小さな通信機のようなもの。

「これはな、2人が持つDNAが感じられるようになっておる。わしらにはあまりわからんが、あっちとこっちをフラフラしておるヤツらにはてきめんじゃ」

「あっちとこっち?」

 万象が聞くと、コトラが説明してくれる。

「次元空間の向こうとこっちじゃよ」

「へえ、……って、それってすごい事じゃん! 2000年前ってそんな簡単に行ったり来たり出来たんですか?」

「まあ、君たちの時代に比べればね」

 森羅がいとも簡単に言うので、万象はそんなもんかと納得するしかない。


 この装置を、探し当てた森羅の居所あたりにいる鳥や獣につけて放ったのだった。結果は今あるとおり、敵は驚くほどたやすく引っかかってくれた。

 森羅があちこちに現れたものだから、何が起きたかわからず右往左往するヤツら。確認しようとして結界フェイクが薄らいだ途端、森羅はその機を逃さず自力で脱出してきたのだった。

「自力? すげえ! でもなんで皆、助けに行かなかったんだよ」

「四神が行くと警戒されるし、もしバレたら元の木阿弥だからの」

「そう、それに森羅は、雑魚くらいなら簡単に蹴散らせると聞いておったし」

「そうなのか?! じゃあ、あの夢の青年は森羅だったんだ」

 驚いて言う万象に、森羅はちょっと笑って言う。

「君だって覚えれば蹴散らせるよ。けど、2000年後ではあんまり使いどころないかもね」

「だな」

 現代には雑魚なんて出てこないし。

「けど、こうやって解決したあとはどうするんだよ。そんな装置をつけられたままの鳥や獣、可哀想じゃないか」

 ふと気がついた万象は当然の疑問を投げかけるが、トラは涼しい顔で答える。

「大丈夫」

 と言ってから、急に芝居がかって続ける。

「なお、この装置は、自動的に消滅する」

「はあ?」

「おお、ス○イ大作戦じゃな」

「お、知っておるとは! お前さん何者!」

 なんだかばあさん2人で、話に花が咲いているが、万象にはちっともわからない。


 なので気を取り直して、森羅に話を振った。

「でも、すごかったぜ、森羅がここにあらわれたとき。こう、一筋の光が差して上からズイーッと降りて来たの。あれもお前の力なのか?」

「え? いいや、違うよ」

 森羅は困ったようにトラとコトラを見る。

「あ、あれはな」

「あれはわしらの演出じゃ」

「はあ?」

 いぶかしそうな万象に、大いばりで説明するばあさん2人。

「ほれ、やっぱり登場の仕方は感動的にせにゃ」

「そうそう、色々考えたんじゃわ、けどあれが一番インパクトあるし、いかにも護り~って感じがしたじゃろう?」

「え? ええー!」

 一瞬驚いた万象は、そのあとガックリうなだれる。

「ホントに感動したのに」


 けれど玄武2人などは「すごーい!」と言ったあと、目をキラキラさせて、

「僕もやってみたい」

「僕も、僕も!」

 と、ばあさんズに頼んでいる。

「だめじゃよ、あれは1回限りでおしまいの技じゃ」

「「ええー、つまんないの」」

 トラに言われると2人とも口をとがらせて、不服そうだ。

 万象は「まったく、人騒がせなばあさんたちだ」とか言いながら、2人の玄武をミスターと白虎の前に連れて行き、

「肩車で、森羅の登場シーン再現、お願いします」

 と、不思議そうな表情の2人に頼んだのだった。

 そのあと、肩車したまま立ったりしゃがんだりしてくれるミスターと白虎に、玄武たちは大はしゃぎだった。

「へえ。なかなかやるね」

 と、感心したようにその姿を見ていた森羅だったが、ふと思いついたように万象に呼びかける。

「あ、そう言えば君は万象って言うんだね。俺は森羅だから、2人会わせて、森羅万象しんらばんしょうだよ。やっぱり俺たち縁があるんだね」

 万象も改めて言われると、なるほど、と、思ったのだが。

「あ!? それじゃ、もしかして、桜花さんとコトラばあさん、そんな単純な理由で俺を選んだのか?」

 大事な事に気がついて、2人に真相を確かめる万象。

「あたりまえじゃ」

「そうね」

 やっぱりか、と、またガックリしようとした万象に、桜花が真顔になって言う。

「けれど、どの時代、どの地を探しても、万象の名を持つのは貴方ただひとりでした。それに懸けてみたのだけれど、どうやら私たちの選択は正しかったようですね」

「あ……」

「改めてお礼をいいます。ありがとう、万象」

 優雅な仕草ながら、きちんと頭を下げる桜花と、

「ありがとう」

 と、こちらも珍しく真顔のコトラに、万象は、「え? いや、あの!」とか焦りながら、ふと目尻が熱くなるのを抑えられずにいた。




 万象たちは、鞍馬のタイムリミットに合わせてこの地を後にしようと話し合って決めていた。

 それまでの残りの時間は、桜花が用意した心づくしの食事とともに、しばしの歓談を楽しんでいる。

 そろそろその時が近付くと、鞍馬は「お別れを言ってきます」と、森羅たちの所へ行く。

「ありがとう、鞍馬。おかげで大事な飛火野を失わずに済んだよ」

「ほんに。もう来られないのが残念じゃの」

 鞍馬は、森羅とコトラの前にそれぞれ跪いて別れの挨拶をする。

 コトラにはレデイに対する尊敬の念から、手を取ってその甲に唇をあてる。ポカンとするコトラを可笑しそうにトラが眺めている。

「お気をつけて、それと、」

 最後に桜花の前に跪いたが、桜花がそこまで言ってチョイチョイと鞍馬を手招きした。

 耳のそばで何かささやく桜花に、少し目を見張った鞍馬は、

「承知しました」

 と手を取って、その甲に唇をあてた。


「いちいちする事がキザっぽいですね。全然キザに見えないところがまた少し苛つきますが」

 その向こうに立っていた飛火野は、出会ったときからなぜか鞍馬に突っかかるのだ。冷静な飛火野にしてはかなり珍しい。

「恐れ入ります」

 と、こちらはいつもの鞍馬が手を差し伸べる。

「お世話になりました」

「いいえ。でも、またお会いしましょう」

 え? と言う顔をした鞍馬の手を取って、しっかりと握手する飛火野だった。


「ねえ、飛火野どうしたの?」

 こっそり聞く玄武・兄に、こちらもこそっと白虎がつぶやく。

「なあに、飛火野はな、鞍馬に惚れちまったんだよ」

「なあんだ、そっか」

 その説明ですんなり納得する玄武・兄だった。




 万象と四神、そしてトラばあさんは、見送りは寂しくなるからと辞退し、万象の部屋にあるタイムマシンへと乗り込む。

「鞍馬さんは?」

 心配そうに聞く玄武・弟に、

「大丈夫です。必ずあちらでお待ちしております」

 と、微笑みかけた。

 パタンと閉じられた扉が振動しながら消えてしまうと、鞍馬は、さて、と、部屋の外へ出ていく。

 そこには一乗寺が立っていた。

 鞍馬が微笑んで声をかける。

「貴方が千年人だったとは」

「私も驚きましたよ、まさか2000年を飛び越えて来られるなんて」

 なんと、一乗寺はこの時代を生きる千年人だったのだ。

 しかも。

「お名前は?」

「失礼しました。フルネームは、一乗寺いちじょうじ 夏久なつひさと申します」

「え? それでは」

「はい、私はこの時代の春夏秋冬しゅんかしゅうとうです」

 春夏秋冬。それは、千年人の中で、春夏秋冬の一文字をその名に持つ者たち。彼らは、ひとつの時代が終わると、それを引き継ぐように同じく春夏秋冬を名前に持つ者が現れる。

「では、貴方が私たちにバトンを渡して下さる春夏秋冬なのですね」

「そのようです。けれど、貴方のような方が次の春夏秋冬で、良かった」

「ありがとうございます」

 彼らはもう会うことはないだろう。けれど、跡形もなく消えてしまう千年人が、何かを次の時代に残すとすれば、春夏秋冬がそれに値するのだろうか。


「さきほど、桜花さんから引き継ぎを依頼されました」

「?」

「万象くんのことを、くれぐれもよろしく、と」

「ああ」

 ふふ、と、一乗寺は照れたように笑う。

 一乗寺はもともと森羅の付き人だ。そして、わずかの時間だったが、彼の代わりに現れた万象のお付きも任されたのだ。口は悪いが照れ屋でひたむきで、ちょっぴり不器用な万象に対して、一乗寺からは放っておけないオーラがにじみ出ていたのだろう。

「森羅さまとは全然違うので、最初はとまどいましたが、万象さまもあれはあれで」

「目が離せなくて、楽しいですよね」

「はい、アハハ、面白い方ですね、鞍馬さんは」

「そうですか?」


「「!」」

 ふいに何かを感じ取る2人。

 そして、向かい合うとお互い丁寧に礼をする。

 一乗寺が顔を上げたとき、鞍馬の姿は、もうどこにもなかった。



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