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第5話 敵が来た、あの方も来た!


 元の時代に戻されてしまった鞍馬は、とりあえず離れから母屋へ行く。


 食事の準備は、皆が帰ってきてからでも十分間に合うので、さて、どうしようかと考えて食材を眺めていて、ふと思いつく。自分がいないときに、玄武や龍古でも簡単に煮たり焼いたり、はては温めるだけで一品になるように処理したものを冷凍しておけば、毎日の献立が簡単だろう。いわば手作り冷凍食品だ。

 そのあと何品か下ごしらえをしたところで、離れのタイムマシンと連動したアラームが鳴り出した。誰かが帰ってきたようだ。

 なにはともあれ、離れへと急ぐ。

 タイムマシンの出入り口がある離れの奥の部屋に入ったのと、ガタン、と扉が開いたのが同時だった。

「トラさん?」

 出入り口から出てきたのは、トラひとりだけだったが、少しあせっているようだ。

「おお。鞍馬、まだいてくれたのか」

「それは当然です。ところで、少しお疲れのようですが何かあったのですか」

「いや、それがの」



 トラの説明によると。

 あれから南野の屋敷に向かった面々は、屋敷の壁や屋根に張り付いて傷をつけたり、冷蔵庫の食材をむさぼり食ったり、部屋を荒らしたりしている雑魚を発見する。


「うわ、ひどおい」

「だね。えーと、玄武・弟、こっち。力の使い方、教えてあげる」

 2000年前の玄武が現代の玄武を、少し離れたところへ連れて行く。

「わかった、玄武・兄」

 どうやら同じ名前の2人は、先に産まれていた方(とは言え2000歳も年上!)を兄、後の方を弟と呼んで区別する事にしたらしい。

「こうするとね、雑魚の嫌いな音、わかるよね」

 耳に手のひらを当てて、雑魚の方を向く玄武・兄。

「うん!」

 玄武・弟も同じようにする。

「そしたらね」

 と、玄武・兄が口をOの字にして息を吐き出す。いや、実際には人に聞こえない高さの音を出しているのだ。

 キャー

 すると、雑魚たちが変な叫び声を上げながら、耳を押さえてもんどり打ち出す。そして、キューとまた変な声を上げて、屋敷から退散していった。

「うわあ、すごい。よし、僕もやってみるね」

 玄武・弟も口をOの字にして。が、それはただのオーと言う声になってしまう。

「うーん難しい。けど、あきらめないよ」

 何度かやっているうちに、玄武・弟も上手に音を出せるようになった。


 こちらは青龍に連れられた龍古。

「これは一度使うとしばらく出せないから、使いどころをよく考えてね」

 と言って、目をギュッとつぶった後、そっと少しだけ目を開く。すると、かなり強烈な光がその目から発せられているのがわかる。

「……すごい」

 あっけにとられる龍古に、もう一度目を閉じた青龍が、また普通に目を開けて言う。

「すぐ出来るようになるから大丈夫」

 と言うと、青龍は龍古の両手を取ってキュッと握る。

「うん!」

 頷いた龍古は、教えられたとおりに目を閉じていくのだった。


 さて、2人のミスターはというと。

「ありゃ、玄武と龍古は頑張ってるねえ。けど、俺は若造に教わらなくても、ぜんぜん大丈夫だよおん」

 と、年寄り(失礼)ミスターが余裕で言う。

「と思うだろお。けどさ、こいつらって」

 と、白虎が言っているそばから、ミスターの身体がホワンと宙に浮き上がる。

「わ! なにこれ? 無重力体験?」

 いかなる時も慌てないミスターだったが、地に足が着いていないと攻撃が出来ないので、少し焦っている。

「変な事言ってる場合じゃないぜ。こいつらさ、妖術使うんだよね。だから、ほいっと」

 白虎がミスターの腕を取って、そこにブレスレットをはめる。すると、あら不思議、ミスターの身体はきちんと地上に降り立った。

「おお、やっぱり重力はいいもんだねえ」

 白虎は、何でもすんなり受け入れてしまうミスターの柔軟さに、さっきは、なれの果てなんて言っちゃったけど、こういう歳の取り方ならいいかも? とか思っていた。


 さて、最後の雀おばさんは?

「私は行っても役に立たないから、こっちに残る。朱雀が2人分頑張ってねえー」

 と、いつもの調子だ。

 この時代、都の中心に位置する陽ノ下家の屋敷は、いざというとき、指令室の役目も果たせるようになっている。

 年寄りと、おばさんと、大事な役目を持つ万象は、そこに残って大画面に映る現地の様子を見ながら作戦や指示を考え、もう一方で捕らわれた京都みやこの捜索と奪還に力を尽くしている。


 万象が感じたとおり、テクノロジーはこちらが進んでいる、というか、進み方に大きな差があって、たとえば陽ノ下の都ではエネルギーは完全フリー。大自然から頂くものを、人と機械が協力し合って供給し、技術のあるものが無償でメンテナンスしている。だから途絶えることもない。

 そんなきれい事で世の中成り立つものか! と、自己中な統治の仕方をする違う都のヤツらは言うが、実際成り立っているんだからしょうがない。陽ノ下家はこのシステムを惜しみなくまわりの都に伝承していて、受け入れる所はきちんと受け入れてくれる。そうでない幼稚な思考の持ち主は、無視するか、ねたんであのように悪さしてくるか、とにかくどうしようもない。


 そんな中、トラがさっきの続き、とばかりに立ち上がる。

「さて、わしはいったん向こうに戻ってと。お、その前に万象、ちと献血せい」

「え? こんな時に何言ってるんですか」

 いきなり振られた万象があきれたように言う。

「ハハ、お前さんの血液からDNAを採取させろと言っておる。あ、DNAなら髪の毛でも良いのか」

 と、プッチンと万象の髪の毛を1本抜く。

「そんなもんどうするんですか?」

「まずはこっちの京都みやこの行方を探り当てて、」

 そこまで言ったトラばあさんにコトラが口を挟む。

「行方は大体わかっておるのじゃ、ただ、結界やなんかがほんに厄介で」

「そう、それそれ」

 トラはそこでにんまり笑うと、言ってのけた。

「その結界に一泡吹かせてやるんじゃよ」



 南の雑魚は8人がかりで行くまでもなかったようだ。ただ、龍古と玄武・弟にとっては、自分の能力を認識させてもらう良い機会になったのは確かだ。

 首をかしげつつ、朱雀が言う。

「でも、変ねえ。雑魚ばっかりなんて。まるで私たちをここに集めたみたいよね」

「……もしかして、陽ノ下家が?」

「まさか!」


 その時、2人の玄武がまた何かを聞きつけた。

「大変! 今度は東野さまのお屋敷」

 と、これは玄武・兄。

「なんだって!」

 続いて玄武・弟が全く反対を指さす。

「待って、あっちもだよ。えーと」

「西?! 西野さまのお屋敷か!」


 そこに万象の声が響いた。

「こっちも東西のヤツらを探知した。で、二手に分かれて行ってくれるか。えーっと、西の護りは白虎だから、白虎とミスター、それから玄武2人。で、東は、青龍と龍古に朱雀。よろしく! 俺もここからドローン飛ばして援護するから」

「お、司令官。やるねえ」

「様になってるわよお」

 白虎と朱雀が楽しそうに言うと、「やめてくれ、はずかしい!」と、焦る声がした。

 そのあとに、また指示を出す万象。

「それから、東に飛火野が行ってくれるって。朱雀だけしか攻撃できないからってことで」

「あら、ありがと」

「どういたしまして」

 静かに言う飛火野の声がして、そこでいったん通信は途切れた。





「で、東西に現れたのが、雑魚ではなくて、相当な使い手らしかったのじゃが。わしはそのあとすぐに出発してしまったので、どうなったのかはわからんのだが、心配で仕方がないんじゃ。鞍馬が行ければ本当に良かったのにな」

「そうなのですか」


 トラばあさんが何やら制作すると離れにこもってしまった後、鞍馬はいきなり落ち着かない気持ちが心をよぎった。

「? これは……」

 時間がたつにつれ、どんどん胸騒ぎが大きくなっていく。

「これはこれは。ちょっとヤバいぜ、ですね」

 こんな時にと思ったが、つい万象の真似などしてしまった鞍馬は、そのあと真剣な顔に戻ると、長いこと考えにふける。

 けれど。

「仕方ありません。ダメ元でヤオヨロズさんにお願いしてみますか」

 万策尽きたところで、ふいにつぶやくと、鞍馬は天を見上げた。ヤオヨロズさんとは、なんと鞍馬の知り合いの神様だ。

 すると。

 暗い空の果て、星より遠いところから、こちらに向かって光が落ちてきた。

 ズガガガガーン!

「よう! 呼んだか? 鞍馬」

 鞍馬はさすがに驚きを隠しきれず、「お早いですね」と言う。

「そうか? で?」

 ニヤニヤと笑ったあと、あきれたように言う。

「わかってるぜ。けどな、もうちょっと決断早く出来なかったのか? もう、鞍馬はまどろっこしくてまどろっこしくて。呼ばれる前に来ようかと思ったくらいだぜ」

 いつもながらせっかちなヤオヨロズに、鞍馬は可笑しくて、でもありがたくて思わず苦笑したが、そこでヤオヨロズがまわりの状況に気がつく。

「あれ? 元に戻したはずなんだがな」

 彼らのまわりには、トラばあさんのガラクタがゴッチャリと積み上がっている。

「あ、それは……」

 と、鞍馬が説明しようとしたが、ヤオヨロズは納得したように手で制する。

「大丈夫だぜ。帰るときはきちんとしておくからよ。で、今回はまたとんでもなく難しそうなことを考えてるようだな、おい」

「はい、やはりわかっておられますか」

「あったりまえよ、なんたって神様だぜえ。あー、けどな、」

「やはり不可能ですか」

「いや、ぜんぜん可能だ。けどどこにでもいるんだなーこれが。なにかあると、一発ぶちかまさなきゃ気が済まないうるさ方がさ。それを説得せにゃならんのでめんどくさいだけだ。うーん、ニチリンに頼むか……」

 と言って、ヤオヨロズはぐっと目に力を入れて上空を見上げた。

 そして、こちらに向き直るヤオヨロズを待って、鞍馬が言う。

「もう一つ、お願いがあるのですが」

「ヤツの居所か?」

「はい」

 なんと、やはりヤオヨロズにはそれもわかっているようだ。

 ぐるりと頭を巡らせて、ヤオヨロズは顎に手を当てながら言う。

「そいつがどこにいるかわかっていても、俺たちは手出しできないぜ」

 どうやら2000年前の京都みやこを見つけたようだ。だってそこはそれ、神様なんだから。

 けれど、よほどの事がない限り、神様は人の出来事に介入することはない。

 ん? と言うことは、鞍馬が2000年前に行くのはよっぽどのことなのだろうか? 真相はそれこそ、神のみぞ知る、だ。

「まあでも」

 ゆっくりと顎をなでながら、ちょっと楽しそう。

「役者は揃ってるんだから、あきらめなきゃなんとかなるさ」

 鞍馬はその言葉を聞いて、こちらも少し楽しそうに言う。

「それは大丈夫だと思います」

「うん?」

「あきらめるようなヤツは、1人もおりませんので」

 鞍馬の思いがけないひと言に、ヤオヨロズは一瞬ポカンとして、そのあと豪快に笑い出した。

「アーッハハハ、鞍馬も言うようになったな! お? けどよ、あっちのばあさん、かなりピンポイントで居所見つけてるぜ。どちらのばあさんも優秀だねー。だから、会ったらそのまま行けー! って教えてやりな」

 鞍馬は京都みやこの居所に目安がついているということに少し驚いたが、そこは「はい」と、素直に返事をした。


 しばらくして。

 ヤオヨロズはふい、と、上を見上げると、「お、来たぜ」と楽しそうに頷いて鞍馬に向き直った。

「行ってこい、鞍馬。ただし、きっかり24時間だ」

「はい、ありがとうございます」


 パン、と鞍馬の背中を叩くと、帰りもいつも通り、ズガガガガーン! という大音響を残して、ヤオヨロズは嵐のように帰っていった。



 ヤオヨロズが帰ったあと、離れで作業していたトラがのそのそと出てきたので、鞍馬は24時間限定で2000年前に行ける事になったと告げると、「いったいどうやったんじゃ」と、驚きつつも大喜びしてくれた。

 そのあと。

「しかしすごい雷じゃったの、ヘッドホンしてても聞こえたぞ。だが雨は降っておらんじゃないか。おや?」

 トラが周りを見てびっくりする。

「なんじゃこれは、鞍馬、お前さんが片付けたのか?」

 なんとも言えない笑みを浮かべながら、首を横に振るしかない鞍馬。

 そこには、あれだけ乱雑だったガラクタの山が、きっちり分別されて置かれていたのだから。



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