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第1話 夢の途中で


 夢と思っている先は、陽ノ下家が治めている広大な都。今から2000年ほど昔の、西暦96年くらい(だとあちこちから聞き出した)。

 陽ノ下桜子の先祖と白菱トラの先祖も、時空を超える勢いの大親友だ。

 で、この都には、東西南北の護りがいる。東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武。

 言わずもがな、青龍は龍古、白虎はトラばあさんじゃなくてミスター、朱雀は雀おばさん、玄武は玄武だ。


 で、ついさっき現実世界でその顔をまじまじと眺めていた雀おばさんは、なぜか超美人で超ナイスバディのお姉さんで、しかもなんと南の護りなんだそうだ。けど、性格はあのまんま、だるーい感じ。いったいこれでホントに護りになんてなるのかね、と万象は少々不安である。

(この前の誘拐事件の時も、おばさんなーんもしなかったしな)

 と、事情を知らない万象は勝手にそう思っていた。

 で、龍古と玄武はだいたい見た目も性格もそのまんま。そして、こちらでも見えすぎる目と聞こえすぎる耳を持っている。ただし、いつもそうではなく、自分できっちりと制御できるのだ。

(だけど、聞いて聞いて! この間の事件でなくなったと思われていた2人の能力は、ここと同じく無くなったのではなくて、自分で自在に操れるようになっただけだった)

 この2人は龍古が東、玄武が北をそれぞれ護っている。

 最後に西の護りだが。

「ふわあ~お。ん? なんだ?」

 大あくびをしながら登場したのは、こちらでもトラばあさんの甥っ子である、ミスターだ。で! で!! なんでだよ! 性格あのまんまなのに、こっちも雀おばさんと同じく、イケメンになってるじゃないか! まあ、体躯はあのまんま大柄筋肉質だ。


 一番驚いたのは、ここでは万象は、由緒ある東西南北荘と言うお屋敷に住むお坊ちゃまなのだ。もっと驚くことに、桜子とトラばあさんも一緒に住んでいる。もっともっと驚くことに、あの4人も一緒だ。

「万象さま、お目覚めになりましたか」

「……え、あ、うわっ!」

 何度経験しても慣れないこの目覚めと呼び方。

 万象さまって、なにさまだよ。

「お、おはよう、ございます……」

 万象は照れもあって、ついぶっきらぼうに返事してしまう。初めはかなり恐縮していたお付きの者も、それが万象なんだとようやく慣れてくれたようだ。

「大丈夫ですね。では、本日のご予定の確認です」

 ちょうど龍古(中学生かな)と同じくらいの年頃の少年が、手慣れた感じで万象の着替えを出したあと、このあとの予定をひとつずつ話し始める。

 実は最初は、着替えも手取り足取り、万象はただ立っているだけだったのを、あまりにも恥ずかしかったので、懇願? してなんとか今のスタイルに変えてもらったと言うわけだ。

 着替えを終えて、食堂(と言っても社員食堂とかじゃなく、広ーくて豪華な)へ行くと、いつでももう皆揃っている。

 まず、正面にはトラばあさんと桜子が並んで座っている。で、その左右に雀とミスター、龍古と玄武がいて、そして、トラたちの向かい側に万象、と席も決まっている。

「おや、おはよう、万象」

「おはよう、万象くん」

 トラばあさんと桜子も、あっちの世界より若干若い? かな。

「はよ」

「おーきたきた」

「おはようバンちゃん」

「おはよう!」

 あと、4人の護りは、最初からこんな感じだ。

 でも、「万象さま」とか呼ばれたら、きっと立ち直れないだろうから、こんな感じで良かった、と、胸をなで下ろした万象だった。

「おはようございます。遅れてすみません」

 うんうん、となぜか楽しそうな皆の視線を受けて、なごやかな朝食は始まるのだった。


 いつもは朝食をとりながら、午前中はどこぞの貴族と歓談しながら打ち合わせで、午後は都の視察、とか、このあとの予定を確認していく。驚くことに万象は、桜子さんとトラばあさんとともに都の統治を担う若きエース? なんだそうだ。最初はムリ! とか思っていたが、仕事を始めてみると、なんてことはない、ただ、有能な2人の後ろにくっついてあちこ出かけて行くだけだ。

 ただ、この2人の仕事ぶりは見ているだけで勉強になる。ひとつの都を動かしていくって言うのは、こういうことなんだな、と、万象は日々驚きと発見の連続だ。


 けれど、今日は少し話しが違っていた。

「北野さまの領地において、何やら通常とは違った音色がする、と」

「玄武かな?」

「はい! 桜子さま!」

 北野さまとは、その名の通り北にあって、ここと同じく北野家が統治している大きな都だ。領主である北野は大変出来た人物で、2つの都は交流も長く深い。

 玄武はその能力を生かして、日に何度か、東西南北の些細な音を拾っているのだが、今朝は、北の方角に少し違和感を感じたようだった。

「それってどう言う感じ?」

「うーん、ちょっと怖い感じ」

 少し身を縮めて言う玄武の言葉を引き継いで、桜子の横に控えていた男が言う。

「人と人が、嫌悪を露わにして言い合っているような怖さで、けれどまだ大事ではないのだそうです。ですよね、玄武」

「はい!」

 この男は、飛火野とびひの

 桜子さんとトラばあさんの片腕としていつもそばに控えている、超優秀な、まあいわば秘書みたいなもんだ。かなりきつめの顔立ちで、いつでも1本スッと筋が通ったカッコイイ立ち姿をしている。冷静沈着、言葉は丁寧。

 万象はいつもながら思わず顔がにやけてしまうのを感じた。だってこの人、雰囲気が鞍馬に似てるよな。飛火野のほうがかなり冷たい感じがするけど。

「万象さま、なにか?」

 ジロリとこちらを睨んだ飛火野(けど、それは睨んでるんじゃなくて普通に見ただけ)に聞かれて万象は、「いや、なんでもない」と、小さく咳払いをする。

 その真向かいで、

「そう……」

 と、少し考えを巡らせていた桜子はしばらくして顔を上げると、飛火野に指示を出す。

「それなら、今日は北野さまとお昼をご一緒しましょう。出来ますか?」

「はい、もうすでに約束をお取りしてございます」

 少し頭を下げて答える飛火野に、桜子は満足した様子。トラばあさんは大笑いだ。

「ハハハ! 相変わらずやるのう」

「いよ! 飛火野! 都で一番のイイ男!」

 ミスターが楽しげに言うと、飛火野は「ミスター、ご冗談はその辺で」と、今度は本当にジロリとミスターを睨む。

「万象さまも、ご一緒願います」

 万象の方へ向き直った飛火野がこともなげに言うので、少し驚きつつも当然だよな、と、彼は返事を返すのだった。

「はい、わかりました」



「おおー、よくお越しくだされた。さささ、こちらへ。お、万象くんもご一緒か、いや、嬉しいことよ」

 この恰幅の良い福の神のようなおじさんが北野さまだ。何を隠そう、万象は昔から、なにげにこのおじさんが好きなのだ。

(でも、俺ってこの人のことよく知らないはずなのになー。ま、夢だからいいか)

 そう、今のように夢の中では、万象はかなり前からここにいる設定になっている。そして、最初は起こる出来事に違和感があっても、なぜか途中から、すいーっと自分の中で腑に落ちてしまうのが不思議だった。

 今日ここへ来たのは、桜子さんとトラばあさんと万象の3人。あとはそれぞれのお付きの者だけだ。

 四方山の話しをしつつ庭園を散歩し、3人は屋敷の食堂へと向かった。

「今日は3人のために、……、うわ!」

 食堂の入り口で振り返った北野の後ろから、何かが飛んでくるのが見えた。間髪を入れず、万象はトラと桜子を押さえ込んで自分も床に伏せた。

 北野はというと、間一髪、お付きが飛び込んできてこれも床に伏せている。

 ゴン! と廊下の壁に何かが当たる音がして、見るとそれは小さな斧のようなものだった。

「誰だ!」

 床から北野が叫ぶと、可笑しそうな声がした。

「あれー、残念。うまくいけば北野家と陽ノ下家の領主、いっぺんに始末できたのになー」

 ぶん、ぶん、と同じような斧をまわしながら、やせぎすで毛皮のようなものを纏った男が言った。

 そして、今度は北野に狙いを定めて容赦なく斧を放つ。

「北野のおじさん!」

 叫ぶ万象の声に被さって鋭い音がした。


 ガツン! 

 キュルキュル…

「おいおい、斧ってのは木を切るためにあるんだぜえ」

 寸分の狂いもなく北野の身体に刺さっていたはずの斧は、今度は毛皮男の頬をかすめて食堂の奥へ飛んで行った。

「ミスター!」

 そこに立っているのは、頑丈そうな剣を持って立っているミスター白菱。来るとは聞いてなかったんだけど、護りだからいるのかな。

「2対1なんて卑怯だけど、仕方ないわよねえ~」

 そして、横に現れたのは、ナイスバディ美人の雀おばさん? いや、雀お姉さんだ。

「くっそう、卑怯者め。なんてねー、実はこっちの方が卑怯」

 と言うと、毛皮男のまわりにバラバラと大勢の敵が躍り出た。

「わあ、ホントだわ」

 全然慌てた様子のない雀お姉さんは、手に持った数本の何かを後から出てきた雑魚(失礼)に投げつける。

「「うわっ」」

 それは、鋭いペン先の万年筆たちだった。

「ペンは剣よりも強し、よ」

 冗談のように言いながら、襲いかかるヤツらに、的確に万年筆形武器を投げつける。

 そんな2人をあっけにとられて眺めていると、

「バンちゃん、こっち!」

 食堂から続く廊下で玄武の声がした。

「おう!」

 万象は気持ちを切り替えるとすぐ、桜子とトラばあさんを抱えて立ち上がらせ、玄武の方へ押しやった。そして。

「飛火野! 2人を頼む!」

 それまで3人をかばうように食堂と廊下の入り口に立っていた飛火野に叫んだ万象は、彼の横をすり抜けると、食堂へと駆け込む。


 はずだった。

「え?」

「だめです。大事な万象さまに何かあってはおおごとですから」

 襟首を捕まれて、ひょいと後ろへ追いやられる。

 見ると、前に立っているのは、屋敷で万象のお付きをしている一乗寺いちじょうじだ。万象より小柄なくせに、彼に軽々と身体を持ち上げられてしまった。

「うっそおー」

 ま、仕方ないか。ゲーマーの万象は、この時代では何の役にも立たないし。

 いや今は違う! あれからあっちのミスターにちょっとずつ護身術を教わってるんだ。何かは出来るだろ。それにこれ、夢だし。

 と、見境もなく万象は雑魚の前に躍り出る。

「え? ちょっと、万象さま!」

 焦る一乗寺の声を尻目に、「だあー!」と、声だけは勇敢に敵につかみかかった。

 あたふたとしつつも万象に続く一乗寺の後ろでは、桜子とトラ、そして北野を安全な場所へ導かなければならないので、かなりレアでかなり珍しく! 舌打ちなどした飛火野がつぶやいた。

「あとで厳しく指導をせねば」

 そして、龍古とすれ違う。

「頼みます」

「はい!」

 龍古は一度ギュッと目を閉じて、両の手を目の前にクロスしてかざす。

 そして、その手を大きく素早く広げると、カッと目を見開いた。

 ボワンボワン……

 龍古の瞳から発せられる、強烈な光があたりに降り注ぐと、敵たちは「ヴガアー」と、目を押さえて倒れ込む。

 驚く万象は、その光に溶けるように消えていった。





 ジリリリリ!

 龍古の光に溶かされたところで都合良く鳴った目覚まし時計の音に、「うわっ」と飛び起きる万象。

「またあの夢か……、けど、今回のはインパクト強かったー」

 危ないところだったと、髪をガシガシしようとして、万象は手に何か握りしめている事に気がついた。

「!」

 それは、さっき敵ともみ合ったときに引きちぎれた袖の一部だった。

「え? え? これって」

 訳がわからない万象は思わずつぶやいていた。

「……夢じゃ、なかったのか」



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