登場人物とプロローグ
〈登場人物〉
京都 万象……この物語の主人公。東西南北荘に住むことになった。
白菱 虎……トラばあさん。東西南北荘の住人。少々時代遅れだが、超~優秀な科学・化学者らしい。
・白虎は西の護り
十朱 雀……東西南北荘の住人。「朱いモワノー」(モワノーとはフランス語ですずめ)と名乗る、伝説の脚本家。
・朱雀は南の護り
青葉梟 龍古……東西南北荘の住人で、姉弟の姉。
・青龍は東の護り
青葉梟 玄武……東西南北荘の住人で、龍古の弟。
・玄武は北の護り
なぜだか4人は、白虎・朱雀・青龍・玄武という、京都の護りを名前に持っている。
ミスター白菱本名・白菱 大河……トラばあさんの甥っ子。実は優秀な細胞遺伝子学者らしい。
陽ノ下 桜子……莫大な資産を有する、由緒正しき陽ノ下家の大奥様。
鞍馬 秋……日曜日だけやってくるボランティア料理人。
飛火野……夢に出てくる、陽ノ下家の秘書。
一乗寺……夢のなかでの万象のお世話係。
〈プロローグ〉
7月に入った途端、急に夏が来た!
いやいや、6月もそれなりに蒸し蒸ししていたのだが、それはやはり梅雨の蒸し蒸しで、朝夕はまだ過ごしやすかった。だが暦が変わると、まるで季節がそれを待っていたかのように、連日猛暑日を記録している。
「なーんでこんなに暑っついんだよーもう! 夕方になっても気温が下がりやしないじゃないか!」
ぶつぶつ文句を言いつつ、庭に水をまく万象。
今日は休日。
このたびめでたく調理師の免許を獲得した万象は(応援してくれた皆、ありがとう! って、べつに応援してないってか)修行していたレストランでも、みごと本採用となった。けど、今でも朝ご飯のボランティアはきっちりとこなしている。
「ふわ~あ~」
庭の水やりをしながら、大あくびをする万象。
実はここの所、どうにも寝不足気味だ。
と言うのは、ここ何日か、毎晩夢を見ているからだ。しかもその夢、かなりリアルで、朝、目が覚めると、なぜか寝たような感じがしなくて身体がぐったり疲れているのだ。
「あらあ~、バンちゃん、もうおねむなのお? ま、若いときはどんなに寝ても眠いものねー」
そこへ現れた、雀おばさん。おねむとか言いながら、自分もかなり眠そうだ。
しまった、今の見られたか。
万象はあくびなんて見られてもどうってことないのに、なぜかばつが悪そうにすねた顔をする。でも、そのあとなぜかまじまじと雀の顔を眺めはじめるのだった。
「なに? バンちゃん。何か私の顔についてる?」
不思議そうに万象を見ながらも、気になったのか、雀は、トラばあさんの離れ前に無造作に積まれたガラクタの山から、鏡になりそうなステンレスの板を見つけて顔を映している。
「あ、いや、そうじゃなくて」
「何もついてないわよ? 変なバンちゃん」
何と言い訳しようかと、あたふたしだす万象の事などてんで気にせず、雀はふっと微笑みながら、縁側から部屋へと上がって行った。見ると、ノートパソコンを持ち出して何やら始める様子。
ホッとした万象は、聞こえないとわかっているが、かなり小声でつぶやいていた。
「おばさん、ギャップありすぎてもう……」
そう、夢でも万象は雀やトラや、東西南北荘の面々と過ごしている。
――ただ。
登場人物の設定が、こことはちょっと、かな? いや、かなり違っていることだ。
で、あとひとつ不可解なのは、これだけ役者が揃っているのに、なぜか鞍馬がいないのだ。
「まあ、あいつはここが本拠地じゃないからな」
その時は、あまり深く考えもせずにいた。
あれは夢だと思っていたから。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
東西南北荘の第二弾、始まりました。
初めは万象の見ている夢の話からです。
さて、この後どのような展開になっていくか、
また亀の歩みで更新していきます。
どうぞごゆるりとおつきあい下さいませ。