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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第一章 “英雄”との出会い
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第八話 “災厄な天災”の噂・その1

自身の身分を隠して取材をするために、細心の注意を払って選んだ装いの着心地は悪くない。


羽飾りのない実用的な革製の帽子。

肩からは、動きやすさを重視した軽装の革鎧。


胸元を飾るのは、目立たないよう柔らかな色合いの綿布で、その上から腰まで下がる革のベルトが取材道具を携えるための小袋を固定している。

顔の上半分には、目元を隠すための黒い手拭いが巻いてある。




そして――俺の武器は、小さな手帳と羽根ペンだけだ。




「――で、ミズテンよ。こいつをどう思う? クロかシロか……」


「その呼び方ぁ、いい加減やめてよぉ~。どう思うって、今のところ~どうにも思わないけどぉ~」


俺と似たような雰囲気の装いをしている仕事の相方、ミズテンはフォルゲンスの広場の木製ベンチの上で喉をゴロゴロと鳴らして紫色の尻尾をだらりと垂らしていやがる。

こいつめ……本当によくわかっていないのか? それとも知能が全部胸に行ってしまっているのか?


「今回の調査対象の事は、理解しているんだろうな?」


「んめぇう?」


「だぁああ~かぁあ~らァ……今回の取材対象は!?」


「わぁかってるわよ~『屑塵(くずごみ)』でっしょ~」


……相も変わらず反応が鈍くて嫌になる。

しかしやれやれ、流石にこの位のことは覚えていたようだ。


 プレイヤーコミュニティの間で有名なPKプレイヤー――通称『屑塵』。

行動パターンとしては、とりあえず初心者を見かけ次第一撃で殺す。

殺しに来た他のPKを息をするように殺す。

仲間を殺された報復で掃討作戦を展開した奴らも全員殺す。


むしろ報復に来た奴のチームを突き止めてレベル上げのパーティを組んでいるところを強襲、皆殺しにする。

意味も無く一日に同じプレイヤーを何度も何度も執拗に殺す。


何日もぶっ続けで、神出鬼没に圧倒的な数の悪事を正体不明のままを続ける――正真正銘のイカレ野郎。


――噂を簡潔にまとめると、こんな感じか。


「それにしてもぉ~、都市伝説みたいじゃない~? なんかそういう話、わっくわくするわよねぇ~。ゲームやアニメのラスボスみたいなかんじしない~?」


 ミズテンは変なところでロマンチックを発揮しているが、実際この『屑塵』が俺達にとってのラスボスであることには違いねえ。

このPKの情報、あわよくば正体を掴むことが出来れば我らがプレイヤーコミュニティ【エールゲルム冒険者新聞 フォルゲンス情報誌社】は発行部数と閲覧数で他の二国や地方誌社をぶっちぎること間違いなし。


 記事の公開の仕方をちょっとでも間違えれば誹謗中傷になりかねないが、特定のプレイヤーがPKを繰り返し続けているという事実を“客観的事実に基づいて漫然と提示するだけなら問題なし!”


 その行為の善悪を判断するのは記事の読者がやることだ。


「なんとしても『屑塵』の正体と行動パターンを明らかにしてみせる。俺達で金の鉱脈を見つけるしかない――それを掘る奴のことまでは知らんがな」


「もう~小っちゃいフェアリーの姿でゲームを遊んでいるくせに、性格悪いんだからぁ~……」


「知ったことかよ。しかし、問題はこの『屑塵』。PKを受けた被害者から情報を集めようとしても、正体が全く見えてこねえんだよな」


「んみゃう……殺されたプレイヤーなんて、数え切れないのに、正体が分からないなんておっかしな話よねぇ~」


ミズテンは座った状態でじっとしていることができないのか、立ち上がってふらふら歩き回り始めやがる。

ちょっとは落ち着いてもらいたいものだな。

まあ、まだターゲットが見えないからこのくらいのことは許してやるか。こっから先は当分、自由に動き回れんだろうしな。


「ああ、もはや一人のプレイヤーではなく“PKという現象”そのものになりつつある」


「もう~、そういうことでいいんじゃなぁい?」


「いいわけねえだろ。ターゲットが“あれ”を持っているかどうか――それが今回の調査のスタートラインだ」


そう、【アジャッタの仮面】。

リニューアル前に、イントシュア帝国で開催された小規模なPVP大会の上位ランカーのみが手に入れたとされるスペシャルにレアな頭装備。

噂でつけている面と特徴が一致していたから、あの個人戦に参加していた者達の中でそれを手に入れたランカー上位者、若しくはその付近のプレイヤーが『屑塵』である事は間違いない。


――という推理を立てたまではよかったんだよな。


「そんなこといってもぉ~。いくら何でも調査に時間かかりすぎよぉ! これ何人調べればわかるわけぇ~?」


ミズテンが本能のままに大きな欠伸をしやがる。いつ見ても、まんま猫だな。

問題はミズテンの言うとおりで、件のPVP大会は参加者一覧からランキングの表記まで“名前の非表示設定・可”となっているという点なんだが……。

これじゃあ誰が『アジャッタの仮面』を手に入れたかなんてわかりゃしねえ。


「俺だってそのくらいのことはわかってるさ。だから情報をかき集めて“ヤバい奴”から虱潰しらみつぶしにやっていこうって話だよ」


「それにしてもさぁ~、『屑塵』の疑惑を掛けられて巻き添えになった人達がかわいそうよねぇ~。腕試しで参加した人も結構いたんじゃないのぉ~? そのPVP大会~」


「ああ、自己顕示欲丸出しでキャラ名を出していたランカーは全員後悔したろうな」


キャラ名をきちんと出して正々堂々戦った“アジャッタの仮面持ち”共はほとんどが、ゲーム内外で言われ無き誹謗中傷の雨あられに曝された。

中にはゲームにログインしなくなったプレイヤーも居ると聞く。ご愁傷さまと言ったところかな。


散々文句を言って、無実と判明しても謝罪すらしない。匿名の烏合の衆という物は救えない連中だよなあ。


「このゲームってぇ~、キャラクターの情報が無駄に秘匿されているから色々めんどくさいのよねぇ~」


ミズテンの言うとおり、何か起きても個人を特定するのが余りにも面倒くさい。

このゲームはシステム的な制限がかかるとはいえ、課金をすればプレイヤーの名前や見た目を変えること自体は一応できてしまう。


それに加えてゲーム運営者の“PKプレイヤーの情報を秘匿するという姿勢”にどういう意図があるのかが全く理解できん。

『あえて遥か昔のMMOを再現しながら、フルダイブという革新的な餌でユーザーを集客している』ような節さえある。


このゲームの運営はいつもプレイヤーとゲーム内外でしっかりコミュニケーションを取ろうとしねえから、何を考えているのかさっぱりわからないわけだが。


 「そういえばぁ……その仮面が誰か別の奴に使われてたり、複数人が使い回して“屑塵を演じている”って可能性はないのかしらぁ~?」


「前者はともかく、後者はありえねえな。あそこまで強い『屑塵』の代わりがゴロゴロ存在したら、このゲームのPKシステムはとっくに破綻しちまってる。上位たった10人のランカーの内、身元が判明していないプレイヤーは第一位、第二位、第四位、第八位、第九位の計5枠……頼んだぞミズテン。今回もお前の“変な直感”が頼りになるかもしれん」


「んめ~ぅ…………」


このぱっと見馬鹿そうな猫が今回も活躍することを願うしかないな。

なんやかんや、毎度毎度痒いところに手が届く猫の手ならぬ孫の手のような“気付き”がある。


今まで下手を踏まずに、ビビるような本物のスクープを手に入れて来れたのは身も蓋もないことを言うとコイツのおかげなわけで……たまには褒めてやるべきか?

冗談抜きで野生の直感があるのかもしれねえ。


「んで、この『屑塵』候補の一人が今回のターゲット、【Clear・All】、通称クリアだ! PVP大会で他の参加者やランカーが対戦、目撃したらしい。風の噂じゃ相当悪さをしている――というかもう悪さしかしてないような“超の付く問題人物”のようだな」


「“ヤべーヤツ”っていうのは聞くけどぉ……具体的に何をやっているのかまではワタシ知らないわよぉ?」


 仕方ねえ、俺が最初から『アスフォー無印』の頃のClear・Allの“大冒険”ならぬ“大暴挙”を説明してやるしかないようだ。


不正に作られた武器を、合法的な手段で入手して量産して不特定多数にばらまいた結果、血みどろの殺し合いを演出してサーバーリセットの原因を作り出した事件。


言語の通じない外人プレイヤーと、勢いだけで強すぎるモンスター討伐に挑んだ結果、意思疎通がとれず誰も弱点を突けずに10時間程戦闘を継続。休日とはいえ外人達はストレスで敗走して全滅。

一方本人は普通にご飯を食べたり、のんびり風呂に入ってたということが判明して国内外から非難殺到となった事件。


特殊フィールドの倒せてはいけないはずの敵対NPCをどうやったか知らないが無理矢理撃破し、それがきっかけとなりプレイヤー同士の戦争が起きた事件。


詳細は不明だが東の大陸の“国家防衛戦”関連でもトラブルを起こしているようで、その当時、東の国家にいた全プレイヤーにとてつもない迷惑をかけた事件。


「他にも大事件を数えきれないほど起こしているが、ここまでで充分だろう? 要はまともじゃねえってこと!」


――簡単に説明してやったまではいいが……やっぱりミズテンの奴、ドン引いてるな……。


「――なによそれぇ~………………あいつ一人だけ別のゲームやっているんじゃないのぉ? そういうゲームじゃないわよこれぇ~……」


そういうツッコミも、批判に混じってされていた気がする……。

ミズテンめ、露骨に嫌そうな顔をしやがる。

色々ヤバイ奴見てきた俺だって、スクープが無ければあんなわけわからん奴とは正直関わりたくねえんだよ。


「しかもだ。あの男が所属しているチーム。【テツヲ・ゴッデス (Tetsuwo・Goddess)】がリーダーをやっているチームらしい」


「テ……テツヲってぇ~……ひょっとして“まともじゃない方”のかしらぁ……」


「ああ、そっちのほうだ。事あるごとに卑猥な発言を繰り返し、街中やダンジョンで場所問わず大暴れを続けて、監獄に何度もぶち込まれてアカウントを失っても何事も無かったように生還する。正真正銘の魑魅魍魎の親玉。不死身の超迷惑プレイヤーだ」


「それぇ~……生還したとは言わなくないかしらぁ~……」


――まあ、たしかに。不死鳥のように何度も生まれ変わっているという表現の方が正解なのかもしれねえな。


「ともあれ、『屑塵』の正体がこのクリアと決まったわけじゃねえ。イントシュアのPVP大会に参加していたヤバいプレイヤーは他にもいるからな。例えば、意味も無く素手で初対面の相手に張り手をするハラスメントを年単位で繰り返して、誰のパーティにもチームにも誘われなくなってしまった男! ハンドスラッパー・レイン丸!」


「何か、そういう病気なのかしら……」


「何も悪いことはしてねえのにキャラの名前が“海外のギャング団”と同じという理由だけで周囲から悪者扱いされてしまった結果、本当にグレてしまった物理攻撃最強、伝説の料理人ハマス!」


「その名前、ヒヨコ豆のペースト料理の事じゃない……酷い勘違いだわぁ……」


「超過激派宗教集団の幹部をやっていたことがオフ会で判明した女、キチクナオコ! こいつは既に現実で逮捕されてるが可能性は十二分にあるぞ」


「もうそれ普通に犯罪者じゃなぁい!」


「現実で犯罪を起こすプレイヤーは沢山いるさ。あのクリアが滅茶苦茶なことをやっているのはあくまで“ゲーム内”だけだからな。リアル犯罪者と比べればまだマシな方かもしれねえ」


それにしてもPVP大会にいた連中だけでこの面子の厚さだからな。

このサーバー、呪われているんじゃねえか?


「ところでぇ~。もうちょっとなんとかならなかったわけ~? その『屑塵』って名前ぇ。普通、『悪夢の恐怖パラノイア』とか『黒の鎮魂歌レクイエム』とかそれっぽい名前が付くもんじゃ無いのかしらぁ?」


「ないない。そういうの全ッッッッ然ねえから。そもそも殺された奴らが単純な恨みを込めて付ける名前なんだから、格好なんてつくわけねえよ。塵と屑を連続で読むと、このゲームの“公序良俗に違反する音声を自動でカットする”『ボイスフィルター機能』に引っかかってしまうから順番を入れ替えて『屑塵』だ」


「もう~、みんな夢がないんだからぁ……」


落ち込んでいるところを見る限り、意外とこういうネタ好きなんだなコイツ……。


「おい、出てきたぞ! ターゲットだ、身を隠せ!」


ミズテンに指示を出しつつ咄嗟に路地裏に身を隠す。

木製ベンチの上で堂々と聞き耳を立てていても良いのだが、これから尾行をする以上、顔を覚えられてしまっては厄介だ。


昨日入ってきた情報とは違って、ターゲット――クリアは予想より早い時間にやって来ていやがる――いきなり血塗ちまみれの状態で。


「〔もう、既にまともじゃないわよぉ! 何をやったらああなるわけぇ!?〕」


「〔モンスターかプレイヤーを大量殺戮してきたんだろうな……現段階じゃなんとも言えんが……〕」


クリアの奴は速攻でリアリティのない黒ずんだ血の汚れを落としたが……目の前のぱっとしない黒髪の初心者もビビッていやがるぞ。


「〔そいえばぁ~あの初心者ってもうすでに有名になってたわよねぇ~……〕」


「〔国中で大騒ぎしていたあいつか。別の意味で注目されているな。付いた異名が『触るとこっちも痛い厨房のだあく(笑)』〕」


「〔ちょ……ちょっと……か、かわいそうじゃなぁい。フッ……ククッ……〕」


ミズテンは笑いを堪えられないようだ。

――実際俺も、最初にアイツの名前を知ったときはかなりツボったわけだが。


「〔……それにしても、あの初心者は、どうしてあんな問題行動起こす迷惑プレイヤーと一緒にゲームを遊んでいるのかしらぁ?〕」


「〔年相応のガキ特有の、危機感の無さってやつだな。平和ボケしたああいう年頃のガキは“人を疑って警戒する”って思考回路がそもそも育ってない。相手の人当たりが良ければノコノコついていくし――“面白い”“強そう”“すごい”のどれかに引っかかれば、それだけで仲間認定しちまう。悪意のある大人から見れば、ああいうクソガキほど、扱いやすいカモもいないってわけで――――――――まずい!!〕」


突然クリアの奴が周囲を見回したので、再び二人で身を隠した。

ミズテンが尻尾を出さないことをついつい祈っちまった。


「〔何か周囲を警戒していたな……尾行がバレたのか?〕」


「〔いくらなんでも早すぎじゃなぁい~。違うと思うわよぉ?〕」


クリアと件の初心者は、門から普通に歩いて外に出て行きやがった。


「〔そのままポルスカ森林に向かうようだな。追跡するぞ!〕」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 外に出てからクリアは――また件の初心者と話を始めている。

どうやら、手取り足取りゲームの事を教えてやっているようだが……。


「〔懐かしいわよねぇ~……私もああやって、色々アンタに教わったものよねぇ~……〕」


「〔……ほとんど身につかなかったがな〕」


色々教えて、結局戦闘はからっきしだったので俺がコイツをこの仕事(ロールプレイ)に引き込んでやったんだが、このポンコツ猫がそこまで覚えているかは怪しい……。




「「――こっからオレは『オリジナルスキルや特別な職業を自分だけ習得して無双してみせます!!』」」



……とてつもない声量だ、勘弁してくれ。

あの件の初心者――だあく(笑)の野郎に違いない。


「〔うるせえ!〕」


思わず心の中で叫んじまった。


「〔噂以上の大音量ねぇ~……〕」


実際はその後の方が遥かに酷かった。あの初心者、加減というものを全く知らねえ。おそらくポルスカ森林の北側にいる連中全員に聞こえているんじゃあないだろうか?





「「グッ…………グッ………………グググオオオオオオオオオオオオオオ!」」





「「それでも、それでもオレはソードマスターを…………やりたいんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」





「「はい! 覚悟を決めました! オレはソードマスターを極めます!」」





「「ほげえええええええええええええええ」」







あいつの叫び声だけが鮮明に聞こえてきやがる。

どんなアドバイスをしているのか、一週回って気になってきたぞ……。


「〔あの子、見てて面白いわねぇ~……〕」


「〔ああ、突き抜けた馬鹿だな……。しかし、クリアの野郎が一介の初心者のレクチャーをしているっていうのは理解できない。あいつが『屑塵』なら、いきなりあの隙だらけのだあく(笑)を殺害してしまってもおかしくはないんだが……〕」


まずったな、ひょっとすると俺の読みが間違っていたのかもしれねえ。


「〔――クリアの奴、意外と善人なんじゃないか?〕」


「〔そ、そうかしらぁ~……見間違いでないのなら、レベル1の初心者をレベル6の猪につっこませているように見えるんだけどぉ~……〕」


訂正、とんでもねえ屑だ。ぶったまげた……。


「「うおおおおお! 閃光の光速の光! フラッシュライトの速度が上がるスキル!」」


勝てるわけがねえのに全力で未知の言語を叫びながら突進を繰り返す哀れなだあく(笑)……。

肝心のクリアは自分たちが隠れている地点の反対側を向いているようだが……何を見ていやがるんだ?


だあく(笑)は無駄に熱い戦闘を繰り広げて、壮絶な死を遂げやがった。

死体の上でクリアが満足そうに笑っていやがる――本当に楽しそうだな、オイ。


「〔俺が言うのもなんだけどさ、慈悲の心っていうものがねえのか? あの男には……〕」


「〔初心者の子、言うこと聞いてわりと頑張ってたのにねぇ~……〕」


そこに……フェアリーだな――トコトコと歩いて来てだあく(笑)の死体に蘇生魔法をかけやがった。


「〔おっ……あのキャラのRP(ロールプレイ))はなかなか――センスがいいじゃねえか〕」


装備がかなりアダルティだが、キュートというか――フェアリーの可愛らしさをよく理解しているようないい動きをするものだ。

中で操作している人間いるとは思えねえな。


「〔ふぅ~ん。ゲームの中じゃ、ああいう女キャラが好きなんだぁ~……。へぇ~……。まあ同族だから仕方ないわよねぇ~……〕」


おいおい。ミズテンの奴、何か勘違いしていやがる。


「〔馬鹿言え! 俺は小児性愛者なんかじゃねえ! 俺がフェアリーを選んでいるのは、単純にキャラ面積が小さく視覚的に目立ちにくいからだってのは知ってるだろ!?〕」


職業柄、他人の癖や仕草はどうしても気になってしまうというだけだっつーの。

目ざといと褒めてもらいたいくらいだな。


そこからしばらく経って、クリアの野郎の先導で三人とも――森に入っていったようだな。


「〔奴ら、また進んだか――早速追っかけるぞ!〕」


「〔くんくん……なんとなくなんだけどぉ、ちょっと待ったほうがいいと思うわぁ~〕」


……………………。

なるほど、猫の手ってヤツだな。

ミズテンの提案をすんなりと受け入れてその場で待機したが――――ビンゴだ。


俺達とは逆側の草むらから――ぞろぞろとプレイヤーが溢れるように出て来やがる。

それにしてもこいつら、普通のプレイヤーとはぜんぜん違うな。


仁侠映画を観終ったばかりなんじゃないかというくらい殺気立っている。

人間性を捨て去ってしまっているかのように、全員の目が死んでいた。









「〔――おそらく、ありゃあ本物(ガチ)のPK集団だ〕」






【エールゲルム新聞・フォルゲンス情報誌社】


ゲーム世界の中での活動を主とする、プレイヤー主体で運営されている新聞社。

ごく少数の有志が運営会社に強く働きかけ、そのアイデアを開発者の一人である「木場田知亜貴」氏が拾い上げて自分の物としたのが設立のきっかけであり、本格的に稼働し始めたのは比較的最近のようだ。


攻略情報重視の日刊と、趣味やプレイヤーコミュニティを重視する夕刊の二部が毎日発売されている。

コンセプトは『一日二回、小粒でおいしい文字の旅』。(職人、傭兵の求人や一般プレイヤーの撮った写真が掲載されたりすることも頻繁にある)


地方ごとに記事の内容が違っていることもあり、場所によってはかなりふざけた内容の物もあるとかないとか(彼女の募集、彼氏の彼氏募集。等)。

バックナンバーにもきちんと対応しており、発行したものはログイン前のゲームコミュニティ一覧で全て確認できる。(インターネットでの閲覧も可能)。

しかし、検閲が面倒なのか、トラブル発生時に責任を負いたくないのか、その内容に関してはあくまでプレイヤー主体。オフィシャルなものではないようだ。


プレイヤー発祥のコミュニティとはいえ、何をやっても許されるというわけでは無く、著しく特定のプレイヤーを直接的に誹謗中傷することは規約上では禁止。

記事にされたプレイヤーが削除申請を行うこともできるが、一度出回った情報を無かったことにするのは不可能であり、トラブルの原因になることも多々あるようだ。


当初はプレイヤー自身に世界を構成させるという意図があったようだが、現状は情報リテラシーの管理とトラブル対応が後手後手になっているというのが実情であり、その存在が危ぶまれつつある。


プレイヤーに対する取材の姿勢は現実世界の新聞社と同じように、支社ごとに違いがある。

尚、フォルゲンス支社の取材スタンスは可も無く不可も無くといった感じで、スクープが出ることは少ないが、メディアリテラシーが欠如することも滅多に無い。



「――汝、中立であれ。――そして、公正であれ。されど、世界の中心は誰にもわからぬ」




【紙媒体・本】

 世界観を重視するためか、技術的に不可能なのか。

アスフォーNWは旧世代ゲームとは違い、ゲームプレイをしながらインターネットの外部サイトを同時に閲覧するという従来の遊び方ができない。

故に、ゲーム内では紙媒体で様々な情報がまとめられているのである。

一見不便そうだが情報の持ち運びは便利で索引、検索も可能。そして何より、頑丈。

プレイヤーが書いた物は製作者が許可しているものなら写本もできる。


 ちなみに、ゲーム内の民家の本棚の本は全て読める。(持ち出しは厳禁)

本を集める目的で世界各地を旅する者もおり、意外と奥が深い。

図書館で閲覧許可の必要な禁書や、印刷不可のレアリティの高い本も存在している模様。


なぜこんな部分に力を入れたのか甚だ疑問であり、ゲームバランスの調整にもっと力を入れて欲しいというプレイヤーの要望が頻繁に上がっているようだ。




「物語の金脈を掘る者よ。まさしくその道程をしたためたまえ」



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