【おまけ話】週末は近い!? の巻【時系列:三章六話の直後】
※挿絵があります
「釣れませんね……」
「釣れないな…………」
クリアとレットは、特訓の時間を削って沼で釣りをしていた。
――というのも、ネコニャンニャンが購入予定だった魚の出店が閉店となってしまったからである。
その魚は小魚を餌に釣り上げるレアリティの高い大型魚で、ちょっとやそっとで釣れる魚では無い。
なので、別の場所でネコニャンが大型魚を狙い、その“餌となる小魚”を釣り初心者であるレット達が釣り上げるという体制を急場で組んだのであった。
しかし釣り上がるものといえば穴の空いたブーツや木の破片くらいで、二人の竿に魚がかかる気配はない。
(暇だなあ~~)
「クリアさん。何か面白い話でも――」
そう提案しようとしたところでレットは口ごもる。
「……いや、やっぱり遠慮しておきます」
(クリアさんの面白い話ってインパクト凄すぎるからなあ……。釣りに集中できなくなったら本末転倒だもんな。うーん。それなら――)
「クリアさん。ネコニャンさんがストーカーにあったのって本当なんです?」
「ああ、本当だぞ。その話を聞きたいのか? ははあ、聞きたいんだな⁉︎」
「いや、それもやっぱり遠慮――」
「よーし、俺も釣りに飽きてきたし話そう! 人知れず人々を癒すために戦った、ヒーローの話を!」
「人の話聞けよ! ただクリアさんが話したいだけじゃないですか!」
かくして、クリアの回想話と、それに対するレットのツッコミラッシュが始まるのであった。
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これはまだこのゲームがフルダイブじゃなかった頃に起きた出来事だ。
今と違って、簡単にゲームに出入り出来たころの話だな!
『へぇ~。大分昔なんですね……』
ある日、ネコニャンさんがため息をついていて、それを自分ことClear・Allが聞いてしまったのがこの悲劇の始まりだった。
『……元凶判明するの早すぎません? この時点でクリアさんが悪いことやったの確定みたいなもんじゃないですか!』
「はぁあ~。困りましたにゃ~……」
「最近いっつも木曜日の深夜に酔ってますよねネコニャンさん」
「自分の入っているネコのコミュニティって結構ハードワーカーの社会人が多くてストレスで皆木曜日なのに飲んじゃうんですにゃ。しかも最近ネコ族の評判が調整で落とされて、世間の目が冷たくて皆ストレス溜まっているんですにゃ……。コミュニティのネコプレイヤーたちの愚痴を夜から聞いているうちに“ながら”で飲んでいるお酒の量が増えちゃってぇ~。自分も木曜日の深夜はいっつもへべれけになっているんですにゃ」
「へべれけに……か……」
この時Clear・Allは思った!
(なるほど、悪戯するならいつも酔っている木曜日の深夜が狙いどころってことだな?)
『クズかよ!!』
早速俺は酔っているネコニャンニャンのログアウトを妨害した後拉致!
皆を救うヒーローに必要なのは変身だ!
――というわけで、俺は真っ黒な目と耳出しのマスクをかぶせたわけだな。
『え……一体何をさせるつもりなんです!?』
「は~い、ネコニャンさん。両手を挙げてバンザイして、この両面看板を胴体に装備してくださいね~。後、この立て札も持ってくださいね~」
「う……うぃ~。あんれれ? これチームのメンバーが家の中に置きっぱなしにしていた看板じゃないですかにゃ……?」
「いいんですよ。元の持ち主はゲーム内で“街宣運動”をしてアカウント消されたばかりなんだから勝手にデザインして使っちゃいましょう。ちょっとした廃材アートみたいなものです」
「よーわからんけど、わかりましたにゃ~。ヒック……」
というわけで、酔ったネコニャンさんに看板と立て札を装備!
「|THE SYUUMATU IS NEAR!《週末は近い》」
『何ですかこれどっからツッコミ入れればいいのかわからないですよ! おかしいだろこのフレーズ!! オレの名前レベルのセンスじゃねえか!!』
いや、自分でそれを言ったらおしまいだろレット……。
「うぃ~。今日は木曜日! 週末は近いですにゃ~! 頑張りましょうにゃ~……」
兎にも角にも俺の指示でネコニャンさんは人々を励ますために胴にこの看板を巻き付けて、立て札をもってべたべた練り歩いたんだ。
「しゅうまつ いず にあー! しゅうまつ いず にゃ~! ――ヒック! うぃい~……」
『う~わ、可哀想……。これで不気味がられて嫌がらせ受けるようになったんですね』
いや――
「お、『週末は近いネコ』じゃん」
「ヤバー。黒マスクキモカワー!」
「あ~。もう木曜日なのか……」
「よーし、後一日頑張れば休みじゃん」
「明日は飲みだし、今日は無理せず寝よっと!」
――不本意ながら結構好評で、ウケた。
『何で!?』
「ええ~っと。後は……クリアさんからもらった……この張り紙を貼ればいいんですにゃ……。でかいと目立って迷惑だから、国の中にある全部の募集掲示板の隅っこにぺたぺた~~~っと。うぃ~こんな感じですかにゃ?」
【ネコと和解せよ】
というわけで貼られたのがこのステッカーだ。
文言はお馴染みのヤツだな。
本家へのリスペクトを忘れず、なおかつ定型の肉球スタンプ付けた二次創作品だ。
『いや意味わかんねえよ! シュールすぎるだろ!!』
他にもリスペクトしてゲーム内で再現した物がいくつかある。
【心からネコを信じなさい】
【ネコへの態度を悔い改めよ】
【ネコを捨てた世は滅びる】
――とかな?
残念ながらこれらのステッカーはあんまり広まらなかった。
『当たり前ですよォ。こんなよくわからないシュールな文章じゃ――』
「おい! 勝手に剥がそうとするなって! これは俺の物だ!」
「嫌よ! 私だって一週間待っていたんだから離しなさいよ!!」
「申し訳ないけど、今週の分は自分が前から予約していたんで」
「どうでもいいから売ってくれよそのステッカー! 言い値で良いから!!」
――速攻剥がされて流行らなかったからだ。
『だから何でェ!?』
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「というわけで、ネコニャンさんは【週末は近いネコ】とか【ネコ和解ネコ】って呼ばれて結構ブームになったんだよ。ネタとしてもウケが良くて、外部掲示板で小規模の専用スレが立ったりもしたんだ。その代わりにストーカー被害に会うようになったわけだな。フレンドもできたらしいけど」
「結局いつも通り元凶はクリアさんなんですね……」
「そう睨むなよ。実際効果はあったんだ。ネコのコミュニティでも割とネコニャンさんに励まされた人が多かったらしく仕事の愚痴も減って、このサーバーのネコ族に対する風当たりも調整が入るまでの間、多少は良くなった。そうしてネコニャンさんが木曜日にへべれけになることも無くなって、『週末は近いネコ』は消えたわけだな」
「ストーカーは結局どうなったんです?」
「ちゃんと排除したさ――テツヲさんにお願いしてな……」
クリアが顔を背け、レットは何かを察して黙った。
「……なにを二人で駄弁っているんですかにゃ?」
突然現れたネコニャンニャンの姿に驚いたのか、クリアが飛び上がった。
「いや~何でもないですよ? なんでもないんです。ただちょっと魚が釣れないな~と……」
「そんなん当たり前ですにゃ! 目当ての魚は目の前の沼じゃなくて真後ろの小川で釣るんですにゃ!! もぉおう~レットさんもクリアさんも、いい加減にしてくださいにゃ!」
「ネコニャンさんだってさっき臭いで大失敗したじゃないですか。これでチャラってことにしてくださいって~」
「ぐぬぬぬ……」
しばらく二人のやり取りは続いたが、最終的にネコニャンは言い包められて元の場所に戻っていった。
「二人して怒られちゃいましたね。オレも割とネコニャンさんに迷惑かけているから、気を付けないとなあ……」
「レットの場合は無自覚で迷惑かけているんだから気にするなって! ワハハハハ!」
「自覚して悪さしているアンタは少しは気にしろォ!!」
「あの時は“心配だった”のさ。実際当時のネコニャンさんの精神状態は酷かった。酒を毎週ガンガン飲んで愚痴を聞いているのは体にも悪いだろ? 俺もなんとかしたかったんだよ。ああすることで、最終的にのんびりネコニャンさんがゲームできる環境が整ったってわけさ!」
「クリアさん……」
(そうか。そうだよな。やっぱり、この人は――)
「〔そうして、元気を取り戻したネコニャンさんはいつものように俺の悪戯に付き合うことになってしまったわけだな! ワハハハハハ!!〕」
(――――――――屑だわ)
https://www.youtube.com/watch?v=Zn1vy7foEu8
酔っているネコニャンさんはこういうイメージで書いています。




