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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第三章 青空へ向かって
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プロローグ 駆け出す者

 遅れに遅れた帰りのHRが終わると同時に、“少年”は早足で教室を出て行った。

その様はほんの一瞬だけ学友達の話題となる。

しかし、ここ最近ずっと少年はそんな感じだった上に、元からクラスにおける存在感がいまいち薄かったためか、それ以上気にかける者はいない。

結局、彼らの話題はあっという間に“放課後の遊び”に戻っていった。


 廊下には待ち合わせだろうか? 隣のクラスの学生達が屯している。

人混みを掻き分けながら、少年は前に進む。

トイレに入っていく男子学生の集団を横切って、滑るように階段を降りて昇降口に向かい、靴箱に上履きを放り込む。






 グラウンドを突っ切り、校門を出る。高台を駆け下りて、河川敷を抜けていく。

少年の瞳の端に映る町の景色が、あっという間に流れていく。

沈み始めた大きな夕日の中に町の電線が混ざり込んでいく。



















挿絵(By みてみん)







 少年の顔に冷たい風がぶつかる。

寒さで痛みを感じつつあるその耳に、どこからともなく救急車のサイレンが聞こえてくるが、少年は気にせず走り続けた。




 そうして、瞬く間に少年は自宅に到着した。

家の前に置いてある赤い小さなカラーコーンを蹴飛ばしそうになりながら、玄関ドアを開けて、乱暴に靴を脱ぎ捨てる。

自室のある二階へ続く階段に足を掛けて……そこでほんの少しだけ立ち止まる。


それから、思い出したかのように玄関に戻って、一瞬で脱ぎ捨てた靴を整えてから今度こそ二階に上がって、鞄を放り投げて制服のままベッドに飛び込み、怪しげな機材を頭に装着する。












―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――












 ログインと同時に“レット”は目を瞑って深呼吸をする。


時間帯の割に周囲は酷く暗く、オークションハウスの取引窓口に設置されたランタンに灯された魔法の光がぼんやりと辺りを照らしている。


昨日、自分がログアウトした場所を思い出しオークションハウスから外に出ると、レットは全身に冷たさを感じた。

城下町にいつもとは違うトーンのしんみりとしたBGMが流れて、水が地面を叩く音と混ざりあっている。


しかし、落ち着いた雰囲気に浸る間もなく、レットはすぐに前を向いて再び走り出す。

向かうはチームメンバーの家。








 レットの足に、石畳である地面の堅さが何度も何度も伝わってくる。

天気は瞬く間に悪くなっていった。

降り注ぐ雨は段々と大粒になっていき、走るレットの顔を叩いて、その口から零れた白い息をずたずたに引き裂さいていく。

視界が真っ白に明滅し、遅れて天が轟き、その体が衝撃で揺れ始める。

しかしそれでも、駆け出したその体は決して止まらない。





















挿絵(By みてみん)




エールゲルム、スミシィフ地方、ハイダニア王国は――本日、曇りときどき雷雨。






【嘆きの雨、ハイダニア(Mourning rain Hydania)】


『A story for you OST Vol1.世界』に収録。

雨天限定時のハイダニア王国BGM。

しっとりとした曲でどこか悲しげではあるものの、ハイダニア王国は拠点としてプレイヤーが長時間居る=BGMを聴く時間が長いことを配慮しているため全体の起伏は激しくない。


雨やプレイヤーが水を踏むことで発生する環境音との相性を鑑みて作曲されているため、現実世界の雨の日にこの曲を思い出して口ずさんでしまうプレイヤー諸氏も居るのではないだろうか?




「……また、スミシィフ地方に雨が来るのか」

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