【おまけ話】シールドアートオンライン事件【時系列:不明】
意識が朦朧としている。視界がゆがんでいる。
……ヤベえなこれは、一体どうなってやがるんだ。
今自分が居る場所もわからねえし、自分が何をやっているのかすらよくわからねえ。
落ち着け――そもそもどうしてこんなことになったのか、思い出さなきゃいけねえな。
……確か今日は友人達と飲み会があって、酒をしこたま飲んだんだ。
んでペースが早すぎて、いつもなら十次会まで行っていたはずなのには今日は六次会のカラオケで意識を失った。
ここまではまあいつも通りだ。
ああ、そうだ。つまり泥酔しているんだな今のオレは。
ようやくほんの少し意識がはっきりしてきた。
自分の居る場所がわかってきたぞ。
どうやら、オレはそれまで狭い部屋の中で、誰かに対してずーっとずーっと、何かを捲し立てていたようだ。
一体オレは何を言ってるんだ?
「わっかんねえかな!? ……まだゲームの中には、6000人のプレイヤーが残されているんですよ!!!!」
おいおいおいおいおいおい、これオレがノリノリで読んでたラノベの内容じゃねえかよ!
名前は確かシールドアートオンラインだったか……。
確か、VRMMOに閉じ込められてデスゲームをやらされるっつーアレだ。
最初はこんなくだらねえ作品誰が読むかって馬鹿にしていたが――暇すぎて読んでみたらこれが意外と面白くて気がつけば夢中になって一気読みしてしまったのが良くなかった。
つーか……ヤベエ。オレマジでヤベエこと言っているぞオイ!
酔っぱらいすぎて自分のことを自分が制御できてねえ状態になっちまってる!
恥ずかしいとかそういうレベルじゃねえ!
オレは一体“誰に”こんな小っ恥ずかしいこと言ってるんだ!?
「いや、君ね! 本当に落ち着いてね!? 事情をね! 説明してくれないと困るの! わかる!」
机の反対側で大声でゆっくりとオレに聞き取りをしているのは…………警察だ。
正真正銘本物の警察官だ。
ここ、警察署の中じゃねーか!! 何やってるんだオレは!?
「だから早くあのゲームをなんとかしろって言ってんだよ!! このままじゃ閉じ込められた皆がヤベーんだって!」
そう叫んでオレが机を右手でぶっ叩いた。
ヤベーのはオレだ!!!!
まずい、自分の喋る内容すら制御できていない。
意識は一部はっきりしているのに、オレの脳みその大半はまだ酔っ払っているみたいだ。
うげ……何故か知らねえが机を叩いた右手が妙に痛え。
……あ~、少しだけ思い出してきた。
オレは酔っ払って右手でカラオケの壁を全力でぶん殴ったんだ。
「まあ、誰も怪我してる人がいなかったから良かったけどね。お兄さんちょっと酔っ払いすぎてわけがわからなくなっているみたいだから、ちょっとしばらくここに居てね!?」
「何でオレの言うことを聞いてくれないんですかァ!? このままじゃ皆死んじまう! 早くゲームをクリアしねえとヤベえんだ! オレをこっから出せって!!」
だからヤベエのは今ここで警察官にラノベの内容を熱弁しているオレだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ま、まずい。
また意識が朦朧としてきやがっ――――――――――――――――――
――なんだよ……。次は何だ? ここはどこだ…………。
ああ、そうか。
まだ意識ははっきりしないが、どうやら無事に釈放になったようだな。
前科も付かなければ拘留にもならなかったみたいだ。
んで、どうやらオレはタクシーに乗せられているようだ。
「ウオオオオオオオオオオ!! ヤスナアアアアアアアアアアアア! ヤスナアアアアアアアアアアアアアア! オレが必ず助けるぞ! オレが助けるからな! ヤスナアアアアアアアアアアアアア」
タクシーの中で何叫んでんだオレはアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?
つーかこれ意識無い間もずっと喚いていたパターンだろ!
しかもヤスナってオイ! ラノベのヒロインの名前じゃねえか!
誰かオレを殺せエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!
「……それ一体、誰だよ」
隣で死ぬほど冷静なツッコミがオレに入った。
……いや、隣に座っているお前こそ誰だ!?
待てよ?
ひょっとして“アイツ”がオレを引き取ってくれたのか?
……助かったぜ、やっぱり持つべき物は“親友”みたいだ。
オレは隣の席に座っている男を見つめた――
――って、隣の席に座っているのオレの親父じゃあねーかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「お前が、まさかこんなことになっているなんてな。俺は知らなかったぞ。あそこのアザブ警察署な、俺の知り合いがいたから多少信頼があって逮捕されずに済んだわけだが。俺とお前は親子として、もう少し話し合わないと行けないのかもしれないな……」
「うう……こんなことって……こんなことって無いぜ……ヤスナアアアアアアアアアアアアア…………うわあああああああ……」
「お前……次またこういうことやったら――海に沈めるからな?」
死にてえ……。
死にてええええええええええええええええああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――
「――ということがあって、アイツが通報されて警察署に連れて行かれたとき、俺はゲームを遊ぶのが忙しくて行けなかったので、ベルシーの親父さんに直接連絡してあげたわけだ!」
「黙っておいてあげてくださいよォ!! いや、流石にベルシーも自業自得だけど、いくら何でも酷すぎでしょクリアさん!!」
「いいんだよ別にアイツは。普段から度を超した迷惑かけているんだから、たまには痛い目見ないと駄目なんだよ」
「クリアさんが言えることなんですかね。それェ……」
「ちなみこれは余談なんだけど、この前大学のラグビーだかアメフトだかでタックルの事件があったろ?」
「ああ、そういえばそんなこともありましたね」
「その事件にベルシーを釈放した警官が関わっていてな。記者会見の後。アイツの起こしたこの失態が警察関係者の間で与太話として取り上げられて、結構盛り上がったらしいぞ」
「うわぁ……全然関係ない場所でも酷い晒し者だ……。何でだろう……同情の余地が全くないやぁ…………」
「アイツとアイツの親父さんに会って、直接その時のことを聞く機会があったんだがな。親父さんが『もうお互い惨めになるから、その話はしないでくれ』って呟いて、それっきり親子二人とも葬式みたいな雰囲気になっていてな。見ていて楽しかったぞ。“親父さんのおごりで食べた寿司がとても旨かった!”」
「そこからさらに追撃するなよ!! 鬼畜かよ!!」
容赦ないクリアにツッコミを入れつつ、レットは強く思った。
大人になっても、無茶な飲酒は絶対にしないように気をつけようと――
【この部分も後で削除します】
この二人のやり取りは隣で聞いていた上に本人に確認したので間違いないです。
完全に実話です。




