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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第二章 闇に蠢く
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「何をやっている?」


演奏をしているところでね。

『ピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2』は有名な曲なのだが、これは、クラシックに明るくないあの少年が唯一好きな曲だったと聞く。

大衆的には『月光』と言った方がわかりやすいのかもしれない。


「……俺の記憶が正しければ、この場所にピアノは置けないはずだが」


その通り、だから演奏をしている――『私』の頭の中で。


「…………………………」


あの少年は言っていたな。

男が太陽とするなら、女は月のような物だと。


「どういう意味だ?」


『私』にもよくわからない。

ただその“月の光”を、彼自身が幼少期から浴び続けていたわけだ。

親類の女性の歪な寵愛を受け続けて、ああなってしまったと彼は言いたかったらしい。


「なるほどね。月の光か――あの少年はどうなったんだ?」


彼は『私』の提案した『ゲーム』に負けて失踪した。

聞いた話では虚ろな表情して人形みたいになっていたらしい。

皮肉なものだ……気にしなくても良いのに。

新しいゲームなど、いくらでも提供してあげたのに――とても残念だ。


「横で聞いていた身としてはそうは思わないがな。あの少年の個人的な金払いは相当だったと聞く」


そうだな。結晶の武器を買い占めたのは君も知っての通り。

あれは、あの少年個人の伝手で手に入れた物だったはず。


「戦いに負けた以上、それのほとんどが奪われてしまったんだろうな」


……ところが。そうではないみたいなのだ。どうやら。

あの少年。この世界から居なくなる前に言っていたんだが――戦い負けた後、武器は全く奪われていなかったらしい。


「何だって? 一体、どうして……」


少し、考えてみようか? あの少年に引導を渡した人間が、なぜ武器を奪わなかったかを。








理由一つ目『あの少年を、真の意味で打ち倒したかった』。


あの少年の『ゲーム』での敗北は、それまで積み上げた物を失うことを意味している――あの少年は完全に破滅する。


「確かにそうだが……。その事実は、武器を奪わないことと何の因果関係があるんだ?」


『私』が考えるに、引導を渡した者は、少年の破滅の原因に“金銭的な損失”を含めたくなかったのではだろうかと思う。

万が一、あの少年が失踪するなり、自らの命を絶つとしても、その原因は“あの少年自身の生き方に寄る物でなければならない”……そう考えていた可能性もあるな。


「………………………………」


理由二つ目『自分の身、もしくは誰かを守りたかった』。


あの少年は“複数人”に打ち倒されたと言っていた。

もし、金銭的な損失がとどめとなってあの少年が命を絶ったとしよう。

そうなれば、あの少年を直接的に敗北に導いた人物は“自分が間接的に殺人を行った”と後悔することになるかもしれない。

そのように考えたくなかった――もしくは、武器を奪える立場に居た人間が、少年を追い詰めた“誰か”に間接的な殺人の罪を被せたくなかった。


「聞けば聞くほど考えすぎでは無いのか? あんな常軌を逸した乱暴な強襲を行うような連中の中に、そのような判断が下せるような聖人君子がいるとは思えないが……」


常軌を逸している――か。

……如何にもな意見だ。

しかし、『私』も同じものを感じた。

“どんな団体が関わっているのかは概ねわかった”が、知れば知るほど不思議な連中だ。


「情報が揃えば揃うほど、まともな連中じゃないと思えてくる」


確かに狂っているし、反社会的なやり方だが――しかし、面白いとも思うべきだ。

あのチームは限りなく我々に近しい存在――のような気もする。


「まさか……」


どうであれ、酷く頭の回る人間が音頭を取っているようだ。


「そこまで、わかるものなのか?」


あの少年の話や、零れ出た情報から連中の取った行動を知れば、直感的な推理はできる。

あの連中の思考回路は乱雑で在りながら暴力的。

しかし、そこに理性的な――ある種の達観した氷のような冷静さを感じる。


「……“リーダー”が冷静ってことか」


そうだ。

さらに、そこに一つ、奇妙な点がある。


「――奇妙な点?」


連中の冷静さや乱暴さとは別に、ノイズのように“必死”さというか――“熱意”のような物が垣間見えた。

これのせいで彼らの全体像が、酷く前向きな物に見えてくる。


「……矛盾しているな」


ああ、矛盾している。面白い。

……MMOというものは本当に素晴らしいものだね。

人が人と人をつなぐ。

今回『私』は素晴らしいを縁を得た。


「――連中を調べるのか?」


ゲームを台無しにされて、僅かながら興味を持った――他の有象無象と同じくらいには。


この連中は『私』の抱えている新しい『ゲーム』に使えるかもしれない。

何らかの形で、彼らに接触してみようと思う。


「好きにやればいいさ。だけど、俺のことも忘れないでくれよ」


ああ……心配しないで欲しい。

私達は皆、仲良しで――親しい間柄だから。

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