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「何をやっている?」
演奏をしているところでね。
『ピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2』は有名な曲なのだが、これは、クラシックに明るくないあの少年が唯一好きな曲だったと聞く。
大衆的には『月光』と言った方がわかりやすいのかもしれない。
「……俺の記憶が正しければ、この場所にピアノは置けないはずだが」
その通り、だから演奏をしている――『私』の頭の中で。
「…………………………」
あの少年は言っていたな。
男が太陽とするなら、女は月のような物だと。
「どういう意味だ?」
『私』にもよくわからない。
ただその“月の光”を、彼自身が幼少期から浴び続けていたわけだ。
親類の女性の歪な寵愛を受け続けて、ああなってしまったと彼は言いたかったらしい。
「なるほどね。月の光か――あの少年はどうなったんだ?」
彼は『私』の提案した『ゲーム』に負けて失踪した。
聞いた話では虚ろな表情して人形みたいになっていたらしい。
皮肉なものだ……気にしなくても良いのに。
新しいゲームなど、いくらでも提供してあげたのに――とても残念だ。
「横で聞いていた身としてはそうは思わないがな。あの少年の個人的な金払いは相当だったと聞く」
そうだな。結晶の武器を買い占めたのは君も知っての通り。
あれは、あの少年個人の伝手で手に入れた物だったはず。
「戦いに負けた以上、それのほとんどが奪われてしまったんだろうな」
……ところが。そうではないみたいなのだ。どうやら。
あの少年。この世界から居なくなる前に言っていたんだが――戦い負けた後、武器は全く奪われていなかったらしい。
「何だって? 一体、どうして……」
少し、考えてみようか? あの少年に引導を渡した人間が、なぜ武器を奪わなかったかを。
理由一つ目『あの少年を、真の意味で打ち倒したかった』。
あの少年の『ゲーム』での敗北は、それまで積み上げた物を失うことを意味している――あの少年は完全に破滅する。
「確かにそうだが……。その事実は、武器を奪わないことと何の因果関係があるんだ?」
『私』が考えるに、引導を渡した者は、少年の破滅の原因に“金銭的な損失”を含めたくなかったのではだろうかと思う。
万が一、あの少年が失踪するなり、自らの命を絶つとしても、その原因は“あの少年自身の生き方に寄る物でなければならない”……そう考えていた可能性もあるな。
「………………………………」
理由二つ目『自分の身、もしくは誰かを守りたかった』。
あの少年は“複数人”に打ち倒されたと言っていた。
もし、金銭的な損失がとどめとなってあの少年が命を絶ったとしよう。
そうなれば、あの少年を直接的に敗北に導いた人物は“自分が間接的に殺人を行った”と後悔することになるかもしれない。
そのように考えたくなかった――もしくは、武器を奪える立場に居た人間が、少年を追い詰めた“誰か”に間接的な殺人の罪を被せたくなかった。
「聞けば聞くほど考えすぎでは無いのか? あんな常軌を逸した乱暴な強襲を行うような連中の中に、そのような判断が下せるような聖人君子がいるとは思えないが……」
常軌を逸している――か。
……如何にもな意見だ。
しかし、『私』も同じものを感じた。
“どんな団体が関わっているのかは概ねわかった”が、知れば知るほど不思議な連中だ。
「情報が揃えば揃うほど、まともな連中じゃないと思えてくる」
確かに狂っているし、反社会的なやり方だが――しかし、面白いとも思うべきだ。
あのチームは限りなく我々に近しい存在――のような気もする。
「まさか……」
どうであれ、酷く頭の回る人間が音頭を取っているようだ。
「そこまで、わかるものなのか?」
あの少年の話や、零れ出た情報から連中の取った行動を知れば、直感的な推理はできる。
あの連中の思考回路は乱雑で在りながら暴力的。
しかし、そこに理性的な――ある種の達観した氷のような冷静さを感じる。
「……“頭”が冷静ってことか」
そうだ。
さらに、そこに一つ、奇妙な点がある。
「――奇妙な点?」
連中の冷静さや乱暴さとは別に、ノイズのように“必死”さというか――“熱意”のような物が垣間見えた。
これのせいで彼らの全体像が、酷く前向きな物に見えてくる。
「……矛盾しているな」
ああ、矛盾している。面白い。
……MMOというものは本当に素晴らしいものだね。
人が人と人をつなぐ。
今回『私』は素晴らしいを縁を得た。
「――連中を調べるのか?」
ゲームを台無しにされて、僅かながら興味を持った――他の有象無象と同じくらいには。
この連中は『私』の抱えている新しい『ゲーム』に使えるかもしれない。
何らかの形で、彼らに接触してみようと思う。
「好きにやればいいさ。だけど、俺のことも忘れないでくれよ」
ああ……心配しないで欲しい。
私達は皆、仲良しで――親しい間柄だから。




