第六話 焚火と食事と“招かれざる客”
その後、レットは敵の細かい弱点等をケッコに手取り足取り教えてもらうこととなった。
まだまだ操作に慣れてはいなかったものの、普段から身体を全く動かさないレットにとって、森を駆け巡り、敵と戦うのは新鮮な体験であった。
「ソードマスターって魔法は使えないですね」
「まあな。だけど武器にスキルや魔法効果を付与する――なんてことはできるんだぞ。杖に回復上昇効果が付いていたり、剣から炎が飛び出したり。キャラクターのステータスを底上げしたりする物もある。レアなモンスターから手に入る武器は、最初から割と滅茶苦茶な性能が付いていることが多いな」
「伝説の剣って奴ですね! いや~楽しみだなあ! オレ、いつも別のものばっかり握っているからなあ〜」
「お前な……そういうことばっか言っていると本当に通報されるぞ」
手に入れても居ない武器を振り回す妄想を始めるレットを見つめて、クリアは呆れたような表情をした。
「そういえば、言っていなかったけど。俺の職業はノマドだ。格好いいぞ!」
(ああ、オンラインマニュアルで読んだな。あの薄汚い物乞いみたいな職業か……)
ノマド、要するに流浪者である。
エールゲルムのノマドは国々を当てなくさまよう放浪者――と聞こえは良いが、ゲーム内でNPCの流浪者は“生活の糧として事故者、奴隷や被差別民そして戦死者からすら際限なく金品を略奪する卑しい存在”であることを嫌でもプレイヤーに見せ付けてくる。
不遇というわけではないのだが、イメージの悪さからプレイヤーからは不人気。
他人を信用できない設定故か、罠をしかけたり身を隠したりする能力に長けている。
職業性能的にも賤しい為か、使える武器の括りは割といい加減。
高い技量を必要とする武器や設定的に逸話のある片手剣、盾、各種杖等は一切付けられない。おそらく、その身の丈に合わないのであろう。
一方で死体漁りの設定が生きるのか、“趣味が悪いレベルで豪華なだけ”の武器は装備できてしまうあたり、RPが捗るとプレイヤーには称されている。
「ノマドねえ……いやあ、オレは遠慮しておきますよ」
「ああ――それがいい、こんな職業でこのゲームを遊ぶのは正気じゃないぞ!」
「それ、自分で言うんすか……」
改めて、レットはクリアが装備している武器を見つめた。
「そういえば、クリアさんが背負っているその気味の悪い武器……なんですかねこれ」
「ああ、これは長槍だよ。三――――二つに折りたたんでいるんだ」
クリアが背中から取り出したそれは、珍妙な見た目の武器だった。
刃先はギザギザで反対側に把手のような物が曲がってくっ付いており、錆びているような色合いで汚らしい。
まるで穂先だけを鋭い槍に挿げ替えたシャベルのような奇妙なデザインだった。
「俺の武器は三種類あって、戦闘中に切り替えているわけだ。二つ目がこれね」
クリアは片手持ちの短い剣を取り出す。
デザインは実に無骨な物で刃は反れていて、刀身は淡い緑色。
お世辞にも格好良いとは言えないシンプルすぎるデザインだった。
「なんかロクな武器がありませんね……そこの武器だけだなあ、格好良さそうなの。曲がっているけど……」
レットはクリアの右腰を指さす。
そこには豪華な刺繍の施された細い鞘がついていた。
鞘の細さから察するに、収められている剣も細身であろう。
しかし武器の刃部分だけがグニャグニャに湾曲しているようで、どうやって鞘から抜くのかレットには見当もつかない。
「ああ、これはレイピアだ。ある男の死に際に……譲られた大切な物なんだ――」
クリアは目を瞑り、懐かしむような表情でポルスカ森林の風を受けながら目を瞑る。もう間もなく夕日が沈もうとしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
フォルゲンスの巨大な宮殿の前で二人の男が話し合っている。
「通報、されたんやが」
「ああ……また、何か悪さしたんですね」
「普通にお○ん○ーーーって、叫びながら、国中走り回った、だけや」
「あーはいはい……いつも通りですね。そろそろまた監獄行く感じです?」
「うむ。次はキャラごと。消されるやろな。んで、このレイピアめちゃレアな武器なんやけど、キャラと一緒に消されたら、しゃくなんや」
「ああ、じゃあそれ自分に預けておいてくださいよ! 帰ってきたら――必ず返しますから!」
「うむ、わかた。わたすわ」
「(……愚かなリーダーめ! 引っかかりおったな! このアイテムは未来永劫貴様には返さん! ギャハハハハハハハハハハハハ!)」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あ、あの――クリアさん。話を聞く限り。それ、ただの持ち逃げっていうか借りパクじゃないですかね? というかチームのリーダー、本当にロクでも無い人ですね」
「遙か昔の美しい思い出さ……。二日くらい前の話かな……」
「えぇ…………」
何からどうツッコミを入れて良いのかわからず困惑するレット。
「でもこのレイピアは強いんだぜ!? どんなプレイヤー相手にも背後からぶっ刺さって引っこ抜けば大ダメージだ! そして背中に突き刺さった時点でもう手遅れ。スロウのデバフによって相手キャラクターの速度は半分になって勝利が確定するのだ!」
「……無茶苦茶強くないですか、ソレ」
「流浪者という悪目立ちする職業で、相手の“無防備な背後に一撃入れられる状況を作れる”のなら強い。最も――僅かにでも相手に警戒されていたら、100%うまくいかないだろうけど」
「ほんと、クリアさんは何もかもが邪道なのよね~……基本的にそこらへんの武器は、モンスター相手には役に立たない――というか、普通の対人戦でも運用するのが難しい変な物ばっかりよ……まあ、クリアさんらしいと言えば、らしいんだけど」
(ほんと、大丈夫かな……こんな粗大ゴミが合体したような人について行ってしまって)
ゲームを教わる相手を間違えているのでは無いかとすら考え始めるレット。
その内心は非常に毒舌であった。
それからも、レットの修行は続いた。
少しずつキャラクターのレベルが上がり手応えを感じ始めた頃に、夕日が沈み始める。
夕暮れによってもたらされた暗闇が三人を包んでいく。
同時にそれまで懐かしくもどこか軽快だったBGMが、どことなく落ち着いた物に切り替わった。
(うわあ、音楽が変わるの凄いな。……凄いの一言としか言えないのが虚しいくらいに凄いや)
「――あら、もうこんな時間! すっかり夜じゃ無い! ごめんなさいね。私そろそろ夜勤……もとい用事があるの。また遊びましょ? 少年♪」
「はい! 色んなことを教えてくださって、ありがとうございました!」
「お疲れ様です。ケッコさん」
ケッコが突然奇妙なポーズを取り、くるりと一回転する。
紫色のゲートが広がりどこかにケッコは吸い込まれていった。
「このゲームの魔法はあんな感じだ。その場で動作を再現して感覚で詠唱を完了する。彼に――気に入られたみたいだな。レット!」
「オレはそれが気に食わないです……なぜ、女の子ではないのか。なぜ、この世界はオレにこう冷たいのか……」
「現実世界と比べれば暖かいものさ。まあ、腐るなよ。そのうちいいことがあるさ! とにかく強くなるには“レベルを上げる”ことだな。後は慣れだ。キャラクターの身体の操縦に慣れれば凄い動きができるようになるぞ!」
「とりあえず、苦境に陥るのは結構慣れてきましたよ。オレは、めげません! ……それで、可愛い女性プレイヤーさんの“身体の操縦”はいつになったらできるようになるんでしょうか……」
「オッサンの下ネタかよ!? やかましいわ!」
クリアが悪ノリしたレットの頭部を軽くひっぱたく。
「うぐぐぐぐ……。そういえばクリアさん。オレ、昨日から思っていたんですけどォ。この世界って日が落ちる時間がズレてますよね? 現実ではもうすぐ夜の10時になるっていうのに、こっちじゃ日が落ちたばかりだし」
「少しずつ、ズレるようになっているのさ。この世界の一日は23時間! ――そりゃあそうだよ。現実と時間の流れを同じにしてしまったら、人によっては仕事や睡眠の関係で、“絶対に遊べない時間帯”が存在してしまうだろ?」
尚、ゲーム内表示は24時間制なのでこの世界の一時間は現実世界では約57.5分ということになる。
また、日の出日の入りが早く設定されているというだけであり、“時間そのもの”が圧縮されているわけではない。
「――まあ、たしかに毎日ゲームを始めたら夕方から始まるっていうのは嫌だなあ」
「RP的には“夜専”“昼専”って感じでやれると趣があるかもしれないけどなあ……夜か朝かでモンスターが登場する時間帯やNPCの開く露店だって違うんだからそうもいかない。――さて、レット“少年”が寝るような時間まではまだもう少しあるわけだ……が。結構長時間遊んでいたからな。一度休憩しようか?」
「……わかりました」
周囲に危ないモンスターがいないことを確認してから、レットはその場に座り込んだ。
「いや、休憩する場所には気をつけた方が良いぞ。“普段はプレイヤーもモンスターもいないような場所”に限って、特定の条件下で特別なモンスターが登場したりすることがある」
クリアは周囲を見つめる。
「あそこなら、大丈夫だろう」
クリアが指し示した場所は木々が少しだけ開かれた平地。
その真ん中に石と木で組まれたオブジェクトが設置されていた。
「あれは一体、なんです?」
クリアがオブジェクトに近づき、覆うように座り込むと瞬く間に火が立ち上がる。
「焚き火だよ。このゲームのフィールドは馬鹿みたいに広いからな。ちょっとした休憩地点が点在するんだ」
『――座れよ』
そう言われて、レットはクリアの隣に座り込んだ。
「火をつけると色んなプレイヤーが集まってくる。逆にほとんどのモンスターは寄ってこなくなるから休むときは火を付けると良い――とされている」
「なるほどなあ……焚き火なんて現実でやったことないや」
「……そりゃ、そうだろうなあ」
クリアが枯れ枝と火打ち石を手に取り、火花を散らす。
試行錯誤するような素振りも見せぬまま、小さな炎がひょっこりと顔を出して、やがて焚き火が大きく勢いを増した。
「熟練っていうか、すごく手慣れた感じがしますね」
「普段から松明を持ち歩いている関係で、“火をつけるのは習慣になっているからな!”」
(この人が言ったら“お尋ね者の放火魔”みたいに聞こえるな……)
レットは燃え上がる火に手を近づけてその暖かさを感じる。
薄暗い森の中で、炎が勢い良く弾ける音が心地よかった。
「いかにもな雰囲気出ているっていうか……めちゃめちゃ落ち着きますね!」
目を輝かせるレットを見つめて、クリアは軽く笑った。
「ああ、これだけはどんな時も素晴らしいと感じるよ。実際、このポルスカ森林っていうフィールドがこのゲームで一番印象に残る場所だというプレイヤーも結構多くてな」
「どうしてですか?」
「“最初に冒険を始めるフィールド”は誰にとっても新鮮で“何度も行く場所”だから、皆色んな思い出ができる。ひょんなことから、何の気なしに出会った人とずっと仲良くすることになったり、思い入れのある場所になったりするわけだ」
「なるほどな〜」
クリアはどこからともなく取り出した銅製の鍋に豆を入れて、缶詰から粉状の調味料を乱雑に入れ始めた。
「お、料理作成のスキルって奴ですかね?」
「いや、違う違う。完全な手製だ。こっちの方が趣があっていいだろ? このゲーム、手製で物を作ることも出来ちゃうのさ。効果は固定じゃ無くてランダム要素が強くなるんだけどね」
「変なところ凝ってるんですねぇ……。それってスキルで作るのと何が違うんです?」
「どっちにも長所、短所がある。スキルによる合成はあっという間に作れるし、時間がかからない。その代わり味や料理効果はスキルに依存するだけで皆同じ物が出来る。手製はそれの逆だな。時間がかかるが味や料理効果はスキルに依存しない。本人の現実の腕次第。他の種類の合成も同じような物だ。複雑すぎたり、時間がかかりすぎる作業は手製でもある程度手順を簡略化されているらしい」
『――俺はあんまり合成は好きじゃあ無いからよくわからないけど』と鍋を木の棒で適当にかき回しながらクリアが答えた。
「さて――食うか? まずいぞ?」
レットはクリアから皿を受け取る。中には中途半端に白く濁ったスープが注がれていた。
スプーン等は貰えなかったためそのまま両手で皿を傾けてその中身を飲む干そうとするレット。
「…………!! ゲホッ! ゲホッゲホァア! 何ですかこれ! 想像以上に強烈ゥ!?」
豆は柔らかいものの極端に苦く、それを覆い隠すかのように各種調味料の数々が、レットの口の中で凶悪な主張をしてくる。
「フォルゲンス共和国関連の食材はどう調理してもまずいのだ。普段現実で取っている食べ物がどんなに美味いかよくわかるだろ。ワハハハハハ!」
「――あ、でも何かこう珍味って感じがする。不味いはずなのに不思議と飲みたくなってくる!?」
「ワハハハハハ! そうだろうそうだろう!」
珍妙な味わいに目覚めたレットは、クリアの作った非常に味の濃いスープを瞬く間に飲み干してしまった。
「はい、これ牛乳。スープに使った余りな!」
そう言ってレットは、クリアが差し出してきた瓶を受け取った。
「いい加減だなあ……」
しかし、うんざりするほど味の強いスープの後に飲む牛乳は不思議と口当たりが良く、程良い甘さであった。
「食事を取ると、何か良いことあるんです?」
「食事の効果は様々さ。基本的にはステータスの上昇や経験値の取得量上昇とかそんなところだな。後は現実と同じで満腹感と精神の安定! 単純に美味い物はそれだけで高値で取引される」
「お腹も膨れるんですね」
「ゲームの中限定で満腹感を感じているだけだけどな。……食べさせておいて何だが、それは特に気をつけてくれ。今、レットの『満腹度の設定』はどうなっている? キャラクターコンフィグで見れるはずだ」
レットはコンフィグウィンドウを開いて中身を確認した。《満腹度設定 オン》と表示されている。
「オンになってますけどォ……」
「切っておいた方がいいな――満腹度設定をオンにしておくと仮想空間の中だけで満足してしまって、現実で食事を取ることを怠って餓死する可能性がある。実は他の国で死人が出て、結構問題になっているらしい」
「ひえっ……」
慌てて設定をオフに切り替えるレット。
彼のお腹に僅かな空腹感が戻ってきた。
「それでいい。まあ――満腹度設定をオフにすると“食べても食べてもお腹が一杯にならない”ので人によっては食事依存症のような状態になってゲームの中で激しく散財するようになる。ケッコさんとか割とそのタイプだな」
「そんな……どっちもロクでもないじゃないですか……」
「自分の現実の体の自己管理はしっかりしろってことだよ。開発者が無責任と言えばまあそうなんだが――VRMMOで自己管理ができない人間は冗談抜きで死ぬんだよ」
「怖い話ばっかりしないでくださいよォ……。クリアさんはゲームで死んだ人を――見たことがあるんすか?」
「………………さぁな。きっとこれから先の冒険で、お前も出会うことになるんだろうな。色んな事件に。ヤバくなったら直ぐに自分に相談しろよ。VRもMMOも面白い反面――両方とも怖いからな」
俯いて呟くクリア。
その言葉は他のアドバイス以上に、重い意味が込められている――根拠は何も無かったが、レットはそう感じた。
「これから先の冒険――ですか」
レットはまだ見ぬ土地やこれから出会う人々との冒険を想像し、夜空を眺めた。開かれた空間には見たことの無いような美しさで星々が瞬いている。
――絵画のような情景に、焚き火から上がった煙が淡々と吸い込まれていく。
「――ああ、そう。色んな連中に出会うものさ……………………こんな風にな!!」
突然、クリアが胸元から小型の投げナイフを取り出して森の闇の中に放り投げる。
「ぎゃっ――ガッ――――ク――――」
暗闇の奥からどさり――と、何かが倒れ込むような音がした。
【違反行為通報ついて】
本作では違反行為に対して通報をすることができる。
通報されると内容の精査が行われた後にキャラクターは監獄に送られることになる。
直接的な物理接触、言葉によるもの、過剰な付き纏い行為など、ハラスメントの種類は多岐に渡る。
【泥豆のスープ】
豆が半分溶けて牛の乳と混ざり合った奇妙な料理。
飲む人間が思い思いに調味料を追加して味を合わせるという、とてもいい加減な料理で、不味い。
元はとある種族の郷土料理であったが、フォルゲンスの人間が自分達の物であると主張し、今ではフォルゲンスの郷土料理となっている。
元々はとても美味なスープであったと聞く。
誰がどう作っても不味いという宿命から逃れられないが、ケパトゥルス族の一部のプレイヤーのみが知りうる調理法を行うと美味となる――らしい。
「迫害された大地の神々の涙、泥豆のスープ」
【本作の各種属性解説】
火:ダメージとしては安定性があり平均的。応用的な使われ方もするが、原則力押しのごり押し的で大雑把な使い方をされる。
使い方次第で自らの身を滅ぼす魔法が多い。調子に乗ると使っているプレイヤーは死ぬ。
延焼というプロパティが付与されるスキル、魔法が多いので時間を鑑みた場合は最もダメージの出る可能性があるが、それはデバフどころか火属性のバフにも適用されたりすることがある。敵味方を問わない無指向性の力という印象を与えたかったのかもしれないが、それが故にプレイヤー同士の揉め事の原因になりやすく、炎上しやすい。
水:液体ということで毒もここにカテゴライズされる。土と同じく見た目が地味な魔法が多い。
他属性と比べるとダメージは低めだがデバフを付与するスキル。魔法が多い印象。
一時期妙にエフェクトの音がうるさかった時期がある。
なので、長時間の戦闘で寝落ちしそうなパーティメンバーに対して突発的に水魔法が使用されていた。
寝耳に水である。
風:ただそこにあるだけの属性という概念からか単純なダメージに拠らない汎用性の高い魔法が多く無指向性のものが多い。
火とはまた違ったベクトルで味方に被害が出やすい属性。特に物理演算の関係か、エフェクトなどのバグ調整が運営から頻繁に入る。
キャラクターの座標を直接動かすこともあるため大抵想定外の悪さに使われがち。
使い方を間違えると取り返しのつかない暴風のようなトラブルが起きることも。
土:地味なエフェクトだがとても強い。しかし地面を揺らすためか、使い方次第で別の意味で重くなる。ゲームにかかる負荷も大きめ。また、地割れや細々としたひび割れが集合体恐怖症を思わせるため一度修正が入った。
天候のエフェクトなどが重なるとさらに重くなる。雨降って、地固まる。
かつてはゲーム自体が固まることもあったようだ。
氷:凝固するという特性がある故か、風とは対照的に速度を遅くする魔法が多い。
水系統のデバフをさらに凝縮したようなものが多いが、効果時間も凝縮されているため扱いが難しい。
既存の魔法をそのまま氷に作り直した結果、予期せぬエラーが発生したことがあり、無印の頃、他プレイヤーのゲームハードをフリーズさせたことがある。
雷:大がかりな魔法が多い。
風と同じレベルで様々な用途があるが、こちらはゲームシステム的にハイリスクハイリターンなものが多い。
理論上最強ダメージが出る魔法もこの属性にカテゴライズされている(ただし詠唱時間とコストが莫大で、装備のブーストがないとろくに撃てなかったり、撃つと自分が死ぬようなあまりにも極端な魔法だったりする)。
エフェクトの処理が間違っていたのか、この魔法が原因で異常な負荷がかかりサーバーの電力そのものが落ちたことがある。
闇:独立した属性で、闇はさらに深い闇に弱い。
意外なことに、回復魔法のほとんどがここにカテゴライズされている。光を扱うはずの魔法もカテゴリーは闇。
表向きのゲーム内設定では、闇をコントロールすることで光を集めるイメージで詠唱を行うらしい。
プリーストたちは嘯く。闇を抱えているからこそ、光を使役できるのだと。
どこかしら闇の深い設定である。
光:ほとんど存在していない。本作の世界設定的には神々の時代に完全に消滅したらしい。
プレイヤーには使えない。この世界の希望の光はどこに行ってしまったのか。
無:いわゆる万能属性。しかし、属性という概念そのものを完全に無視する強さであり、「何のために属性を作ったのかわからなくなってしまう」といった開発の事情でプレイヤーが使える無属性技は軒並み削除されることとなる。
無属性は完全に無の存在となってしまった。
【尿意、便意】
食欲と違って、こちらは絶対にオフにすることができない。
じっとしていないとログアウト処理が始まらないため、尿意に負けてじたばたすると“事故”の原因につながる。
「あー、コレはまずい。まずいけど――あ」