第十五話 混沌の闇鍋
《DFからID、行こうや》
――とある日。
リーダーのテツヲにTeam会話で声をかけられたレットは、メレム平原のとある座標に向かっていた。
メレム平原。ハイダニア王国に隣接するフィールドである。
このゲームの最初に作られたフィールドであり、開発段階でゲームの概要を外部に説明する目的で作られた為か、川に掛けられた橋、山に草原、近場に光の神殿跡、ダンジョンである洞窟などがバランスよく配置されており「冒険」という言葉をコンパクトにまとめたような作りとなっている。
無印発表の際のテストプレイにも使われており、新要素が実装されると同時にゲームショー等でこのフィールド使って説明が行われたこともある程。
冒険の始まり地として流れる印象深いケルトチックなフィールドBGMは、ハイダニア王国を開始地点に選んだプレイヤー達の心を掴んで離さない。
プレイヤーがゲームを引退――課金を停止し遊ばなくなった後も、このフィールドでの冒険の思い出が、時たま蘇ることがあるという。
フォルゲンスに密接していたポルスカ森林と同じように、そこにはレべリングに勤しむ初心者プレイヤーの姿が多数見受けられた。
(――あ。いたいた)
そして――平原の先の焚き火に屯している“怪しい団体”の姿が、嫌でもレットの目に付いた。
「レットさん。こちらです」
そう言ってから、タナカがレットに手を振る。
「お。レットが、来たで」
焚き火の周囲に設置されている縁石の上に、重装備を脇に置いたままほぼ全らの状態で正座で座っているテツヲ。
「おー、ええにゃん。これで全員揃いましたにゃ。準備を始めましょうにゃ」
そして、焚き火の上に鉄製の板や小さな鍋を並べ始めているネコニャンの姿があった。
地面に設置された縁石に座り込む前にレットは改めて周囲を見回す。
国に隣接しているパッシブエリアということもあってか、自分達を監視しているようなプレイヤーはいない。
少し遠くにぼーっとした表情で座っている初期装備の初心者プレイヤーが一人居るだけで、そのプレイヤーもこちらを監視しているような素振りは全く無かった。
「DFからIDに行くって聞いて意味はちゃんと調べてきたんですけどォ……。何でこんな場所に集合したんですか? あれって、クエストを進めてダンジョンを解放すれば、どこからでも転送で行けるもんなんじゃ無いんです?」
レットは自分で調べた内容を思い返す。
DFとはダンジョンを踏破する目的のメンバーを探すオートマッチングシステムのことであり、IDはどこからでも突入することのできる“攻略タイプのダンジョン”のことである。
本作のレベリングは周囲のメンバーとパーティを組んで各フィールドで行うのが基本であるが、冒険による現地集合によるレベリングは時間がかかってしまう。
故に、メンバーが集まらなかったり集合に至るまでの時間以前に、ゲームをプレイするまとまった時間が取れない――そういったプレイヤー層の需要を満たすために実装されているのがこのオートマッチと自動転送によるインスタンスダンジョン攻略だった。
「まずいきなりなんですけど、レットさんって彼女とかいませんよにゃ?」
「あの――オレの質問を全部無視して、開幕“精神攻撃”仕掛けるの辞めてください……彼女なんているわけないじゃないですか」
そのレットの言葉を聞いて、深く頷くネコニャン。
――厳密にはレットがその台詞を言い始めた段階で食い気味に頷いていた。
まるで“彼女がいるわけがない”とまるで最初から確信していたかのような頷き方であったため、レットは少し落ち込んだ。
「これから行くIDは通常のパーティと同じように、食事によるステータスアップが必須なんですにゃ。彼女の手作り弁当とか、無い~。料理を作ってもらうことも、できない~。そんなね、さもしい独身男性の人達の為に用意したのがこちらの“焚き火で使える調理キット”なんですにゃ!」
『ほいにゃにゃ~ん』と気の抜けたトーンの自前の効果音で、改めてレットに向けて焚き火に設置された調理器具の数々を披露するネコニャン。
「……ええっと。つまり『自炊しろ』ってことですか?」
「一人でやる“自炊”。やなくて、皆で作る立派な“食事”やで。自炊はこんなもんじゃ。ないで。俺の知り合いが。仕事として。やっとるわ。なんか。儲かるらしいで」
そのテツヲの言葉にタナカが訝しげな表情をした。
「テツヲさん。……ひょっとするとその“自炊”は――書籍を電子化して無許可に販売するという“犯罪行為の自炊”なのではないでしょうね?」
「……タナカさん、話が拗れるからいちいちツッコミ入れなくてもいいですにゃ……。テツヲさんの言うことをいちいち真に受けちゃいけませんにゃ。話を戻して――とにかくこの調理キットの遊び方をぱっぱと説明しますにゃ」
(いや、テツヲさんの話は流しちゃいけない気がするんだけど……冗談だよね? これって通報されたらヤバくないか?)
レットは慌てて周囲を見回す。
しかし、先ほどまで座っていたはずの初心者プレイヤーもどこかに立ち去ってしまったようで、周囲に他のプレイヤーは誰も居なかった。
「この調理キットは、時間限定で挑戦できるミニゲームみたいなものなんですにゃ。調味料でも何でも使って煮るなり焼くなり料理して、お互いのお皿の上に料理を配りまくって食べまくって累積でステータスアップするのが目的なんですにゃ」
「――え? でもオレ、料理とか全然できませんよ……。カップラーメンとかならなんとか作れるけどォ……」
「……ぶち込んで調味料かけて混ぜれば、ゲームシステムが勝手に料理完成させてお皿に乗っけてくれるんですにゃ。プレイヤーによって鍋やフライパンや取り皿が決まっているから、効率よく調理してお互いのお皿の上に料理を載せて食べさせあう。――要は連携が大事なんですにゃ」
ネコニャンが大きな革袋の中から肉や野菜、魚といった食材を取り出して並べる。それらの見た目はすでに加工済みだった。
「……なんだろ。あんまりファンタジーって感じしないですねこの食材。このまま業務用のスーパーとかに並べられてても違和感がないような……」
「――分相応に初心者向けの安い食材を集めてきたんですにゃ。細かいことは言いっこなしですにゃ。インパクト重視でレアだったりとか高級だったり幻想的な食材ばっか集めると、食べづらかったり扱いづらかったりでほんまに悲惨なことになるんですにゃ。一番大事なのは皆で楽しく――」
「おっとぉ~? “楽しそうなこと”をしているじゃあないですかネコニャンさん! 皆で焚き火囲んで料理をするだなんて聞いてないですよ。俺も混ぜてくださいよ! ね?」
背後から突然現れたクリアに声をかけられて、ネコニャンの全身の毛が逆立った。
(あ……なんかオレ、もう嫌な予感がする。楽しい食事が始まる前に、終わったような気がする……)
「…………いったいこの人はどこから湧いたんですかにゃ。割とほんまにお断りしますにゃ!」
クリアの満面の笑みに対して、ネコニャンは苦虫をかみつぶしたようなな顔をしており心底嫌そうであった。
「まあまあ堅いことを言わずに! 丁度、席が一個空いてて助かったな~。ここの焚き火を占有しているのはテツヲさんですよね。俺も誘ってくださいよ」
「ちょ……ちょっと待ってくださいにゃ。テツヲさん。クリアさんは――」
「もう。誘っとるで」
テツヲの呟きを聞いて、ネコニャンの体から力が抜けてだらりと――どろりと前のめりになる。その様は、まるで液体のようだった。
クリアは軽く周囲を見回してから意気揚々と席に座り込む。
そして、間髪入れずに懐から禍々しい色の革袋を取り出した。
「ネコニャンさん。俺に良い提案があるんですよ。――システムの設定変えて全員“明度ゼロ”で料理やりませんか?」
「……“クリア式闇鍋”はお断りしますにゃ。ダンジョンに行く前に全滅とかするから、ほんまに堪忍してくださいにゃ~……」
物騒な単語を聞いて、レットは思わず逃げ出したい衝動に駆られた。
「まあ、さっさと始めようや。案ずるより、食うが易しやろ」
「だから待ってくださいにゃテツヲさん。クリアさんがいると――」
テツヲが流れを切って、開始の指示を出してしまったようで、レットの視界に時間制限のような物が表示された。
「ホラホラ急げ急げ! 時間制限あるんだから食べろ食べろ~!」
クリアのかけ声と共に、ゲームとしての料理が始まる。
メンバーは思い思いの食材を拾い上げて鍋に放り込んだ。
(とりあえず……適当に何か食材を一つ入れてみるか)
メンバー達に倣ってレットが目の前の自分のフライパンに魚を入れて塩を掛けて混ぜる。
暫くすると鍋に乗せた魚が消えて、自分の皿の上にチーズの乗ったムニエルが“乗せられた”。
レットは感心しつつもフォークをムニエルに伸ばす。
フォークは白身に綺麗に刺さり、零れそうになるのを何とか口に運んだ。
(これは――凄いな。口当たりが良いしチーズに対する火の通り方が絶妙だから良く伸びて変なところで千切れたりしないぞ)
口の中で蕩けるチーズと魚が絶妙に調和した味が広がる。
何より、“普通に美味い”というのがレットにとって衝撃的だった。
(そういえばゲームの中では痛覚が無いんだもんな。どんなにアツアツの料理でも最高の状態で美味しくいただけるのはありがたいや)
しかし、そこで不意に――レットの耳にガリガリガリガリという嫌な音が聞こえてきた。
(なんだ? どっかで聞いたことある音だぞ?)
音の方をレットが見遣って仰天する。
隣に座っているネコニャンの、頭上にあるHPのゲージの色が紫色に変色していたのであった。
「うぉわ! ネコニャンさん――HPが減ってます! 減ってますって!」
「こうなることはわかってましたにゃ……どうせ手癖の悪いクリアさんが自分の鍋に“毒のフグの白身”とかぶち込んだんですにゃ。やると思ってましたにゃ」
「ウッヘヘヘヘヘヘヘ……しめしめ……」
そう言いつつ、鍋から沸き立つ湯気の隙間からクリアが邪悪な笑みを見せていた。
(うわあ……ゲッスい笑い声……)
しかし――
「ふっふん! 今更、こんくらい気にしませんにゃ。もう慣れっこですにゃ!」
そう言ってネコニャンは涼しい顔で“火の通った猛毒”を食べ続ける。
(え……えぇ……)
予想外の反応にレットは困惑する。
タナカも露骨に不審そうな表情をしていた。
「……ちぇー。つまんないの~」
クリアは動じないネコニャンを見て、やや落ち込んでいるようである。
実際、ネコニャンの職業のレベルが高いせいか、そのHPがゼロになる気配は無い。
「残~念~でしたにゃ~。以前はレベルの低い職業で食べたから、死体の状態でダンジョンに転送されたりして大顰蹙買ってたけど、何度も同じ轍はふみませんにゃ――ドニャッ!」
したり顔で両目を閉じたまま猛毒を完食し、続けざまに自分の器に入っている“ふやけた茶色い何か”を口に運ぶネコニャン。
ぐにぐにと奇妙な咀嚼音を鳴らしてからごくりと飲み込み――
「――う……ぐぇえ!! ……なんにゃねんこれえ! ……何!? これなに……いれたんにゃ……」
――時間差で悶絶した。
咄嗟にタナカが立ち上がり、ネコニャンの背中を擦る。
「ネコニャンさん! ――なんか見たこと無いようなエゲツないビジュアルの弱体効果が沢山ついてますよ! ちょっとクリアさん! 今度はネコニャンさんに一体何を食べさせたんですか!?」
「何って――“新品の革靴”だけど。合成革じゃないからちゃんと食べられるはずだぞ多分」
「アンタは馬鹿かよ! 何入れてんだよ! というか、ネコニャンさんもなんでドヤ顔で丸呑みしてるんですか!」
「そ、そんなこといってもぉ……年のせいか口に放り込んだ物の味覚が遅れてくるんですにゃ……」
「アンタは猫じゃなくて犬かよ!」
「――あきらめえや。このゲームで、嘔吐は。できんで」
テツヲの無慈悲な言葉を聞いて、ネコニャンはますます苦しんでいるようだった。
(……これから食べる食材には警戒をしなきゃ!)
そうレットが思った矢先に目の前の自分の取り皿に、新しい料理が乗せられた。
(おお~。なんかしらないけど油トロットロだ!)
それは、柔らかい温野菜の入ったとろみのあるスープだった。
レットが口に運ぶと火の通った野菜がほぐれて、ほんのりとまろやかな味がする。
(お、スープが半固形なのにすんなり飲めてすっげえ美味い! 何の食材なんだろこれ? というか、自分の鍋にはまだ次の食材なんて入れてないんだけど……誰かがオレの鍋に入れてくれたのか?)
舌の上でスープを味わっているまさにその時、対面のクリアがぽつりと呟いた。
「今レットが飲んでいるのはゼラチンの野菜スープみたいだな。……ところで知っているか? このゲーム。ゼラチンの作り方には二種類あってな……」
クリアの含みのある台詞を聞いて、口の中にある旨味を飲み込むことをレットは咄嗟に躊躇する。
「一つは“動物の骨”から作るパターンだ。一番市場に出回っているもので、フォルゲンスにいた猪とか、オーメルドのウサギの骨からとかから作られる」
嫌な予感がする、このままこれを飲み込んではいけない。
――頭の中で警告が鳴っていたが、現代っ子のレットは一度口に含んだ物を躊躇無く地面に吐き出せるほど育ちが悪くはなかった。
「もう一つは“別の骨”から作るパターンだ。そのゼラチンの素材は俺が知り合いのネームドモンスターのハンターからあえて貰ってきた物でな……」
クリアの満面の笑みに対してゴクリ――と唾を飲み込むレット。
その嚥下で、口に含んでいたスープを完全に飲み込んでしまった。
(あ、美味……しまっ――)
「今お前が飲み込んだゼラチンの素材はずばり――【古代死霊王国のスケルトンキング】の骨! つまり歴とした元人間の骨なわけだッ!」
「グッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
レットが悶絶し、持っていた皿をひっくり返しそうになる。
クリアが反対側から飛び出して、咄嗟にそれを空中でキャッチした。
そして、タナカが木製のコップに入った水をレットに差し出す。
「【古代死霊王国のスケルトンキング】って“72時間間隔”で沸くゴミモンスターじゃないですかにゃ……。こんなしょうもない嫌がらせの為だけにそんなしょうもない物を集めてきたんですかにゃ!? クリアさん。ええかげんにせんと――」
「――悪かったですって! “今回は”これっきりにしておきますよ」
そう言ってクリアがレットの皿のスープを躊躇無く全部飲み干すと、ステータスが上昇する。
「ま、いちいち気にせんで。ええ。市場に出回っているゼラチンの何割かは・骸骨が素材や。こんなん結局は。気分の問題や」
「確かに、このゲーム“獣人の目玉”とか正体不明の肉とか普通に料理にできるから……全体的に見れば割とまともな食材ですよにゃ。クリアさんのフレンドの方がヤバい物入れてますもんにゃ……」
「その通り! ちゃんと食べれるだけマシでしょ? 俺は“鉱石”とか“金貨”とか“蜘蛛の幼虫”とか“ダニ”とか“軟膏”とか“脂の乗ったフェアリー”とか料理に入れたりしませんもん。さっき入れた革靴だってジャンルは一応食材であって、普通の革靴じゃ無いんですよ? ネコニャンさんは俺のやることにいちいち警戒しすぎなんですって!」
(おいおいおいおいおいおい。そんなもんを入れる奴がいるのかよ……最後の“脂の乗ったフェアリー”ってひょっとしてケッコさんなんじゃ……)
それからしばらくして――
戦々恐々としつつ、悪夢のような料理の時間が終わる。
なんやかんやで恐る恐る食べていたもののレットとタナカのステータス上昇はとても良好だった。
一方、ネコニャンのステータスは料理が始まる前より下がっていた。
「クリアさんにしてやられましたにゃ……。ドサクサに紛れて上昇値の良い食材を使った料理がいつの間にか全部初心者の二人に偏ってますにゃ……」
「いいじゃないですかネコニャンさん。初心者が上級者と一緒にダンジョン行くと置いてけぼりになったりするし、このくらいのハンデはあった方がいいですって――ね? ネコニャンさんだって取れたてのオニオンたっぷり食べたじゃないですか。隙間無くネコニャンさんの鍋とフライパンにぶち込み続けた甲斐がありましたよ」
「……猫にタマネギ食べさせまくるとか、クリアさんはほんまに喧嘩売ってるんですかにゃ?」
(クリアさん。地味に陰湿なことやってんな……)
「あ~楽しかった! 少なくとも俺は楽しかった――というわけで、俺は帰ります! レットとタナカさん、ダンジョン頑張れよ~」
クリアはそう言うだけ言ってから口笛を吹いて立ち上がり、何かを探し回るような素振りをしながら城下町の方にのんびり歩いて行った。
(一体、何をしにきたんだよあの人は……)
「んじゃ。腹ごしらえは終わったし、このパーティメンバーのままIDへの参加申請を出します――にゃっぷ」
ゲップをしながら参加申請を出しているネコニャンに、タナカがおずおずと話し掛ける。
「あの……私、気になったことがあるのですが……。クリアさんはダンジョンにご同伴されないのでしょうか?」
レットはその時、タナカと全く同じ疑問を抱いていた。
『ネコニャンを料理で戦闘不能に追い込んだ上で強引にメンバーとして参加してくる』のではないか――と、内心で警戒していたくらいである。
「んん? クリアさんがですかにゃ?」
「あ……いえ。余計な詮索をしてしまって申し訳ないです。そもそも私のレベリングの手伝いの為に皆様にわざわざお集まりいただいている訳ですし……決して同伴していただけないことに対して苦言を呈しているわけでは決して無くて……むしろ同伴していただかない方が安心というか……あ、いえ。その――」
(タナカさん……本音が出てる)
「クリアさんは基本来ませんにゃ。意外と知られていないけど、あの人、実はPVEのコンテンツ全般が、すっっっっっっっごく苦手なんですにゃ」
そのネコニャンの発言にレットは一瞬だけ驚いたが、今までのクリアの素行を思い返してすぐに納得する。
「確かに……そうだなあ。PVE――対モンスターとなると、クリアさんって普段以上に頼りないイメージがありますよね」
「実際頼りないんですにゃ。今時、基本的なモンスターの弱点とか属性とかほとんど知らんのですにゃ。ダンジョンにも行く頻度が低いせいか、たま~に頼み込まれて仕方なくついていってあげても、クリアさん本人がとんでもないミスをして大事故になるんですにゃ」
「あ――あー……。そうだったんだ……」
(冷静に考えるとPVEは基礎の基しか教わっていないんだもんなあ……。茶化されているように見えてモンスターの弱点とかろくに知らないのか?)
「自分は上級者だからって他に頼れる人がいない時はついつい通常のフィールドでも頼っちゃうことがあるんですけど、頼ると大体“この前の船”みたいなことになっちゃうんですにゃ。毎回毎回悪い意味で裏切られるんであの人には本当に気をつけた方がええですにゃ」
「ネコニャも毎回、クリアの巻き添えに、なっとるからな。傍から見てて、楽しいで」
「……騙されたり陥れられたりしてても気にもしようとしないテツヲさんに言われたくないですにゃ」
「俺は。メンバーには。優しいからな。人としての。器が。デカいんや」
そこでレットの頭の中でシステムの通知音が鳴り響く、どうやらパーティマッチメイキングが完了したようであった。
「あ、そうだ。わかっているとは思いますけど、今回のダンジョン攻略の自動のオートマッチのメンバーは野良パーティと同じで完全にランダムなんですにゃ。クリアさんみたいな変人と当たらないことを祈りましょうにゃ」
「たまにクソみたいな、ヤツが。普通に来よるからな。――まさに嘔吐マッチング、やな」
『いやあ、ちょっと上手いこと言ってないと思うんですけどォ……』
そう言おうとしたところでレットの体が転送され、その視界が光に包まれた。
【メレムの悲劇】
無印の頃に起きた事件。
ゲームショーにてメレム平原を使っての新バトルコンテンツの紹介が行われ、ゲームショーに試遊席が設置されることとなる。
しかし、何故か『専用のサーバーを用意しなかった』為、ゲームショーの試遊中に一般プレイヤー達が“下着以外何もつけていないほぼ全裸の状態”でこのフィールドに集まってしまい、会場が阿鼻叫喚の地獄絵図となり、運営の手によって、参加したプレイヤーの全員がGMに一時隔離されるという事件が起きた。
しかも、“巻き添え”があった模様。
「助けてくれ! 出してくれ! 俺は無関係なんだ! ただ裸で走り回っていたいだけの一般人なんだ! こいつらとは関係ないんだ! おい、頼むよ! 頼む――」
【古代のキングダムスケルトンキングアンデッドキング】
本来の名称は作中で紹介された【古代死霊王国のスケルトンキング】となる。
本項目の表記は以前のバージョンの物であり、言い逃れできないレベルの完全な誤訳である。
何故こんな名称になってしまったのか――。
実はこのモンスターは海外で行われたデザインコンテストが発祥であり、選考を行った人間は今作の命名規則を知らなかったらしく、選考したモンスターの名前を国内のユニークモンスターの命名パターン(〇〇の〇〇〇〇〇〇)に無理矢理差し替えて実装したところ、こうなってしまったらしい。
要するに、社内の酷すぎるコミュニケーションエラーが原因。
現在は名称修正済みだが、ネタをわかっているプレイヤーの間では未だにこう呼ばれることもある。“KKSKA”とも。
そして、前衛的で恵まれたデザインの割には大して強くなく、戦闘開始時の会話中に袋だたきにされて撃破されるほど弱い――というのもネタにされる一因である。
このモンスターの実装以降、命名規則に縛られないモンスターが多数実装されることとなった。
『……よくぞここまできたな(この時点でHPが半分)。我らが古代の民の恨みを(この時点で撃破)………………………………ぬわあああああああああああああああああ! これが……生者の強さか……』
【甘皮のブーツ】
外見も名前も皮なのだが、実際は甘い味付けが成された海藻で作られたブーツ。ブーツの紐はパスタ。
期間限定で手に入ったアイテムで装備することもできるが、分類としては一応――食材らしい。
「旅人は空腹だった。冒険は彼の心を満たしたが、その足跡は彼の腹を満たすことは決して無かった」
【DFのダンジョン攻略と現地集合のパーティ狩り。二つの経験値稼ぎ手段の特徴と、それに対する運営の姿勢と調整の経緯について】
原則として現在、IDは――
①繰り返しが容易なため貰える経験値は少なめ。
②見た目重視の性能の装備品をドロップする。
③唐突にワープする関係で通常のダンジョンやフィールドに比べて異質なデザインコンセプトの物が多い。
――といった特徴がある。
これに反して、現地集合によるレベリングには――
①メンバーが集合するまで時間がかかるが経験値効率が良い。
②素材等のゴールド面のアイテムを入手しやすい。
③通常のフィールドを利用する物なのでゲーム世界に対する没入感が高い。
――といった特徴がある。
旧世代のMMOを参考に無印の中期に実装となったID。
実装当初は『国や街の中から直接ダンジョンに転送というのは冒険するオンラインゲームとしての趣に著しく欠けている』といった批判や、『ゲーム世界に居るプレイヤーが減るのでは無いか』というプレイヤーの危惧の声が上がった。
しかし運営はいつも通り実装を強行。
経験値効率が良かったため、アスフォーの通常のフィールドには誰もいなくなってしまった。
再び調整が入り、あくまでアスフォーの基本は現地集合型のレベリングと定義されるようになった。
「世の中便利すぎるのも、考え物よね~」
「ハッ! コンビニ夜勤のテメエが言う台詞かよ!」




