第四話 運命を決める職業選択
「というわけでレット。今度は無事に外に出れたのは良いとして、レベルアップさせるのは本当にその職業でいいのかい?」
「もちろん、今の職業の【ソードマスター】を頑張りますよ!」
ソードマスター、剣を極めし達人。エールゲルム大陸の全ての剣に精通しており、ありとあらゆる剣を優れた技術で軽々と振り回せる。
巨大な剣を使うこともできるが、その力の本質は洗練された剣技に基づくものである。
故にその動きには無駄がなく、彼らは最小限の力で敵を断ち切るのだ。
二本の武器を同時に攻撃に使える“二刀流”はソードマスターの有名な職業特性。
装備品やスキルの選択によっては、敵の攻撃を受け止める盾役として立ち回ることもできる。
今作ではこういう“中庸で、できることの多そうな勇者っぽい職業”はやたらと年齢層の低いプレイヤーに好まれる傾向がある――ということをレットは後に知ることになる。
「レベルアップで覚える“二刀流”がかっこよくてかっこよくて、前々から職業だけ調べてて、コレやりたいなって思っていたんですよ! 初心者用の片手剣もばぁっちりです!」
レットは銅で出来た片手剣を儀式のように宙に掲げて、大きな声で叫んだ。
「「――こっからオレは『オリジナルスキルや特別な職業を、自分だけ習得して無双してみせます!!』」」
「よ……よせよ――漫画やアニメじゃないんだぞ。そんなこと、できるわけないだろ……」
クリアは心底呆れたような表情でレットを見つめる。
「い、いや。オレ自身薄々わかってはいたんですけど。このゲームでは、やっぱり無理なんですかね。“そういうの”」
「どんなゲームでも無理だろ……。お、お前……もしも、自分以外のプレイヤーが一人だけシステム上で優遇されていたらどう思う?」
「そ、そりゃあ……クソゲーですよね……オレ自身、遊びたくなくなるカモ……」
気勢の削がれたレットに対して、クリアが苦々しい表情で答える。
「まあそういうケースが全く無いわけではないだろうけどな。例えば――“先が長くない病気の少年に、開発会社が伝説の武器をプレゼントしてあげた”……とかなら。他のゲームでも実際にあったことだし、美談としてギリギリあり得る話かもしれないけど」
「そんな流れで強くなるのは嫌ですよォ……。オレは健康だから、早死にする予定もないですし……」
(つまり結局、“無い”ってことだよな……この世界の中で“オレだけの特別な何か“は……)
レットは現実を理解して、深く落ち込んで肩を落とした――
「――よって、今日は全く別の“イレギュラーな手段”を実行することで、効率良く強くなる」
レットは全く予想していなかったクリアの言葉に対して耳を疑った。
「ええっ……実際のゲームに、“本当にある”んですか? そんな抜け道みたいな方法が!?」
「ここに来る前に確認したが、もう一度確認させてくれ。お前は“この世界の中で手っ取り早く強くなりたい”って自分で言ったよな? ただ“適当にエンジョイしたい”わけじゃないんだな?」
「はい! 間違いなく言いました。もちろんオレは本気です!」
「よし、とりあえず。俺が教えるその“イレギュラーな手段”を、職業選択に適応した際の最適解は――武器を斧に代えて【ウォーリア】でアタッカーを始めてしまうことだ。正解はソードマスターなんかじゃない」
――それまでずっと掲げていた片手剣が、レットの手から零れ落ちた。
このままだと、この剣は無用の賜物――本当に儀式用のまま終わってしまいそうだとレットは焦りを感じて唾を飲み込む。
「い……いや、ウォーリアって要するに“蛮族の戦士”ですよね? 『ごつい格好で斧とか大剣とかをぶんぶん振り回す』っていう。自分、あんまりやりたくないっていうか――」
ウォーリア、最も基本的な職業で使える武器種は多岐にわたるが、細かな技術を要する武器は不得意。
どちらかといえば力に身を任せた豪快な戦闘スタイルが基本。
また、非常に頑強な鎧と重盾を装備して、スキルを調整することで盾役としても活躍できる。
「そもそも、どういう理屈でクリアさんはウォーリアをおすすめするんですか!?」
「VRMMOの“職業に対する評価”は、大別して二種類に分けることができる! ――なんだと思う?」
「え? えっと……職業に対する評価っていうのはつまり、“弱い職業”と“強い職業”ってことですよね?」
「ある意味で正解だが。俺の捉え方はちょっと違う。一つ目は開発者の『調整が長期安定している職業』、二つ目は『調整が長期不安定な職業』だ。んでもって、『調整が長期不安定な職業』に時間をかけすぎると強い時期と弱い時期を行ったり来たりことになるわけだから、精神が不安定になる可能性もあるし。ゲームのサービス終了までひたすら辛い思いをすることになるかねない」
クリアは思い当たる節があるのか何なのか、苦い表情をしながらレットに対してそう言い放った。
「調整っていうのは、“職業バランスの調整”ってことですよね? これ以上聞くと、なんか納得しちゃいそうで嫌だけど……じゃあ、たとえばどういう職業が不安定になりやすいんです?」
「どんなゲームでも、まず第一に『手広く一人で何でも同時にできちゃう万能な職業』は超危険だな。強すぎると『ソイツ一人で全部良いじゃん』ってなってしまうのでどこかのタイミングで調整されるんだが、万能をウリにしている場合一転して器用貧乏に陥ることがある。その逆も然りで、ある日突然強くなったりすることもある」
「そんなぁ……一人で何でもできるってカッコいいじゃないですか……」
「なんでもできたらその万能職以外の出番がなくなるからな。他には――開発者の中で『職業のコンセプトがあやふや』だったり『複雑な独自の仕様を抱えている職業』も調整が長期的に不安定になりやすい。ソードマスターはこれの“後者”に該当する。右と左で全く違う剣を2本持ちながら“攻撃することができてしまう職業”だから、火力の調整が他の職業と比較して迷走しやすい」
「二刀流……独特で格好いいのに……独特だから不安定になるのか……」
「他にも『自キャラ以外のユニットを“細かく”使役して戦う職業』とか『変な飛び道具がメインダメージの職業』とかもこのゲームでは不安定になることが多い。ご多分に漏れずゲームの基本部分からズレすぎて“調整が難しくなりすぎる”んだろう」
レットは深く落ち込みつつも――
(ソードマスターがダメっていうなら、じゃあ――)
――残された希望がまだあった。
少年にはまだ、他にもやってみたい“第二希望の職業”があったのである。
「じゃ……じゃあ。オレ、パラディンでみんなを守る盾役になりますよ! 前からかっこいいと思ってたんです! 『聖なる暗黒の晴天の騎士ダークレッド』の――」
パラディン、高貴なる騎士。
頑強な鎧のイメージが強いが、実際は軽装の鎧を着こなし華麗に立ち回るのが主軸。敵の攻撃を受け流しつつ要所で盾を構えることで最前線に立つ壁として活躍する。
回復もこなして防御にも優れている為、正々堂々とした殴り合いでは“最高クラスの強さ”を誇る。
また、装備品やスキルを適切に選択することで、回復役やアタッカー役を担うこともできる。
しかしその高貴さからか、使える武器種は非常に少ない。
――騎士の誉れは御身を蝕む。
「肩書きがさらに長くなるし。おすすめはしない」
「それじゃあ、オレもう何やっても駄目じゃねえか!」
憤慨し乱暴な言葉を使うレットに対し、クリアは冷静に話を続けた。
「このゲームで盾役をお勧めしない理由は、“プレイヤーへのメンタル的な負担が大きい”傾向にあるからだ。敵の攻撃を真っ先に受けることが心理的にも知識的にも負担になるし、敵のターゲットを集めるために一番前に出る必要があるので――つまり、後ろにいる味方プレイヤーに“ミスがバレやすい”」
「あ、あー……。納得できるっていうか、“すごくちゃんとした理由”ですね。それ」
「例えば、ダンジョンを攻略するときも先頭に立つことになる関係で知識を要することが多いし、野良パーティ――つまり、お互い知らない者同士で組まれたパーティでは、ミスると結構気まずい」
「う……それは、嫌だなあ」
レットは自分の脳内で妄想をする。
パラディンとなり先頭に立っている自分が、失敗から真っ先に戦闘不能に陥って、それを残念そうな目で背後から見つめる初対面の他のプレイヤー達の姿が自然と思い浮かんだ。
(想像しただけでゾッとする……)
「ま、いきなり初心者が始めるのにはちょっと厳しいかもな。盾役としての需要は高いけど」
「確かに……盾がいない戦闘ってのもそんなに想像できないし、活躍の場自体はあるってことか……」
「そうだな。“このゲームで盾に特化したパラディンは物凄く強い”。まさしく『物語の主人公の如き強さ』ってやつだ」
(まさにオレの理想だ……めっちゃ憧れるけど、すっごく大変そう……)
「はぁ……初心者が選んじゃ駄目な職業はよ~~くわかりました。じゃあ逆に、どうしてクリアさんのおすすめは“アタッカーとしてのウォーリア”なんです?」
「『近接戦闘職』の中の“基本中の基本”に位置する職業だからだ。このゲームは“近接で殴る”職業を中心に戦闘のデザインがされている。そしてウォーリアは他のアタッカーの調整やデザインを行う上での“基準点”となっている職業だから、調整が入ってもブレ幅が少ない傾向にあるんだ。つまり“長期に渡って安定した強さ”が保証されやすい」
「ウォーリアはぶっちゃけ死ぬほどやりたくないんで、他に何か無いんです? 調整が安定している職業って」
「次点で……やっぱり回復ができる“基本の職業”だな。このゲームはプリーストの調整が安定している時期が長い」
「プリーストか……うーん。それもなんかあんまりやりたくないなあ」
(オレの中では、回復役って、女性キャラクターがやるイメージがあるし……)
プリースト、司祭、神官。
様々な回復、治癒の技術に優れる後方支援が基本。
刃物は持てないが、しかし棍棒を使った攻撃は強烈。
「そう、それが理由その一だ。回復役は盾と同じで『誰もやりたくない』。つまり、『ある程度強くしておかないと人口が増えなくてゲーム全体に影響が出るポジション』だから開発者から優遇されている。なんやかんやいってプレイヤーの性別問わず。爽快感溢れる攻撃職をやりたい人が多いからな」
「あぁ……なるほど。そういう理由もあるんですね。で、“回復役ができる職業”の調整の基準点がプリーストってことか……」
「これは他のゲームを長く遊ぶ時にも大事な考え方かもな。“ゲームの基準点となっている安定したキャラクターや職業”を事前に理解しておけば、ストレスを抱え込まないで済むってわけだな」
「逆にその“基準点の職業”が長期間不安定な調整を受けるってことは起こりえないんです?」
「それは滅多に無いし、もしそうなっているなら長期間にわたってゲームの基本が出来ていない=ゲーム全体のバランスがずーっと壊れ続けているということになる。そこまで不健全な状態に陥っているゲームは運営が迷走しているってことだからもう続ける必要がない。課金を止めるなりなんなりして、ゲームから距離を置いてしまった方が良い――以上!」
「乱暴な結論の出し方だなあ……結局、クリアさんは『変にテクい複雑な職業より、基本的で単純でわかりやすい職業の方が調整が安定しやすくて迷走しない』ってことが言いたいんですよね。でも、当たり前といえば当たり前の話じゃないですか?」
「職業の選択だけ見たら、そうなるが。俺が言いたいことはそうじゃない。“ゲームの基本的な構造とバランスを理解した上でその都度戦略的な選択を行うこと”。これこそが“イレギュラーなやり方”ってわけさ。こんなことまで考えてゲームを遊ぶプレイヤーは、滅多にいない」
(う……た、確かに。“普通にゲームを楽しもう”とか。“今強い職業をその都度全力で遊ぼう”っていう考え方とも全然違う。ゲームの基本的な構造をきちんと理解した上で、長期に安定して、効率良くゲームを攻略する手段を分析しているって感じなのか……)
レットは、余所見をしているクリアの顔をじっと見つめる。
(この人、フザけた見た目の割には頭が良いっていうか。単純にゲームが上手いとか下手とかとは違う次元で、ただ者じゃない感じがしてきた……)
「逆に、構造を理解しないで、自分の憧れとか好みだけでゲームを始めてしまうと『客集めの為だけに作られた中身の無い格好だけの職業』に釣られた挙句、迷走して辛酸を舐め続けることになりかねない」
(う……。それってまさに今のオレじゃん……)
「“いつか必ず弱体調整が来る”と脅えて悩んだり“いつか必ず強化調整が来る”と希望を持って待ち続けることになる可能性だってある。転職を他人に薦められても“好きなんだから辞められない”と苦しみ続けることになったりとかな? ――だけど、どう足掻いても自分の力で現状は変えられないから、プレイヤーの性格次第ではストレスと向き合うのは大変になるだろう」
(憧れて始めて、頑張って鍛えた職業が全然活躍できなかったりしたら、オレなら確かにすごいストレスを感じるんだろうなあ……。だけど――)
「クリアさんの考え方もちょっと冷徹すぎるというか――あまりにもドライすぎるっていうか――身も蓋も夢もないっていうか。これはこれですごく窮屈な遊び方なような――」
レットの指摘を受けて、クリアは『しまった』と言わんばかりのハッとした表情をする。
「あ〜その……レット。なんというか、申し訳ないことをした。オンラインゲームで、こういう効率重視のネタバレみたいなアドバイスは初心者のやる気を削ぐ、一種の迷惑行為みたいなものだからな。――とはいえ、このゲームは一つの職業を極めるのにもある程度時間がかかる。適当に楽しく遊びたいっていうならまだしも、“本気で強くなりたい”っていうなら、ゲーム全体を冷静に俯瞰する姿勢も必要だと思ってな……」
「いや、それは良いんです……。オレが知りたくて自分から聞いたことだし――。でも――でも――」
レットは、クリアから突きつけられた“現実”を受けて、改めて打ちのめされる。
「「グッ…………グッ………………グググオオオオオオオオオオオオオオ!」」
そして、レットはポルスカ森林の中で猛る獣のように叫んだ。
「「それでも、それでもオレはソードマスターを…………やりたいんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」
「――ワッハッハッハ! わかったわかった。好きにしろよ!」
「――――え? あれだけ上から目線で長ったらしく偉そうに語っておいて?」
レットのさりげない暴言を流しつつ、クリアは深く頷いた。
「俺は“効率良く強くなりたい”ってお前が言うからこそ、必要な情報や考え方を最初に教えたんだ。そして、それを知ってもお前は自分の頭で考えて、やりたい職業をきちんと主張した。そんなお前の望みを否定する権利なんて誰にもありはしないさ! やっぱり、最終的には理屈がどうとかじゃなくて、“自分の心の声に従う”のが一番なのかもしれないな!」
「「はい! 覚悟を決めました! オレはアタッカーとしてのソードマスターを極めます!」」
「おう! 頑張れよ。“有名人!”」
「――――――――有名人?」
「ああ、そりゃあ悪い意味で有名にもなるさ。ゲーム開始直後からずーっと大声で叫んでいたからな」
「「ほげえええええええええええええええ」」
今まさにレットが使ったのが、ゲームの会話機能“Yell”。
大声で叫ぶことで、フィールドのかなりの範囲に声が届く便利な機能である。
「レット。今日、街の中で誰かに話かけようとしなかったか? 多分、無視されたろ?」
レットは聖十字の騎士達に逃げ出されたことを思い出す。
「ああ、あれってオレが昨日叫びすぎたせいで避けられていたってことなのか――――――ンアアアアアア!? こうなることがわかっていたなら一番最初に注意してくれたって……いいじゃあないですか……」
「そりゃあ、止めないさ」
「……はい、言われる前に自分で気づくべきでした………テンション上がって周りが全く見えていませんでした。反省しています」
「全然違う!! 謝るんじゃあねえ! 大声で叫ぶのは、お前の大事な個性なんだよ!」
「こ、個性!?」
「ああ――そりゃあたしかに大声を出したことで他人の不興を買ったかもしれない。でも良いんだよ、いちいち萎縮しなくてさ! 普通、ゲームを始めたほとんどのプレイヤーは黙ってチュートリアルを受けようとする。でも、お前はそんなことせず。この世界に大きく派手な産声を上げた! そのぶっ飛び具合が気に入ったんだよ。ネジが外れていて面白い奴は俺は大歓迎さ!」
クリアが“レットの頭上”を見つめながら実に楽しそうに捲し立てた。
(やっぱり、変な人だなあ……。ちょっと頭おかしいのかもな、この人)
「ゲームの世界の中で自分を見失わないでまっすぐに進む奴は、著しく人の心を傷つけたりしない限り。どんなに周囲から馬鹿にされようと俺は評価するよ。今時見かけないしな。お前みたいに若くて、あそこまで突き抜けた“英雄キャラのなりきり”っていうか――ロールプレイができる奴なんて」
「ええ!? でも結構あんな感じの人って居ませんか? 自分いつもあんな設定で色んなゲーム遊んでますよ。オンラインでやるのはこれが初めてだけど……」
「確かに、VRMMOの最初期にはいい意味でネジの外れたプレイヤーがたくさんいたんだが、腫れ物扱いされた挙句に嘲笑の的にされて、今では皆どこかに消えてしまったんだよな。人の個性や可能性を潰そうとする等、愚かしいことだ」
そう語るクリアの表情はかつて出会ったプレイヤー達を思い返すかのような――どっか寂しそうな、懐かしむようなものだった。
「それはまあ……仕方ないですよ。悪い意味有名になって、ゲームを続けられないのかもしれないです。オレだって既に大声で叫び続けてたわけだから、もうどこのチームにも入れてもらえそうに…………ないし……」
「諦めるなよ。お前のロールプレイを止めなかった理由はもう一つある――お前、俺のチームに入れ!」
「い……いいんですか!?」
「ああ、もちろん。お前は“逸材”だからな――合格だ! ――というわけで今から、チームに誘うぞ! 挨拶の準備をしておいてくれよ!」
「――は、はい!」
突然舞い降りたチームへの加入イベント。
たくさんのプレイヤーと交流することになる――と緊張してか、レットの体が緊張で僅かに強張る。
「………………リーダーに誘ってもらおうとしたんだが。冷静に考えたらチームに誘う権限を持っている肝心のリーダーが当分ゲームに戻って来れないの忘れてた」
「あららららら……」
思わぬ肩透かしを受けて、レットは思わずずっこけそうになる。
「いや、スマン。リニューアルしてから新規に立ち上げたチームだから、権限管理の移管がまだできていなくて自分は勧誘ができないんだよ」
(ふーん。チームって、結構細かい権限があるんだな)
権限管理とはチームメンバーが使えるチームの機能を、地位によって分けるものである。
『メンバーAはチームメンバーを新規で勧誘できるが、メンバーBは自由に勧誘できない』といったような物である。
「――ていうか、ゲームに“戻ってこれない”って、リーダーは何処に行ってしまったんです?」
レットの質問に対して、クリアはバツが悪そうに顔を背けた。
「リーダーは………………今、“監獄”にいる」
「監獄ゥ!? ……って何です?」
「利用規約を違反したプレイヤーが送られる隔離施設のことだよ。いつものことなんだよ。リニューアル前の無印のプレイヤーは特典として新型のVRゴーグルを真っ先に受け取れたんだけど、うちのチームのリーダーはサービス開始直後にいきなりゲームの違反行為を起こして監獄に連れて行かれてしまったんだ。『アスフォー無印』の頃からリーダーが監獄にぶち込まれるのは今回で……えー、ひいふうみい……――――丁度10回目になる」
「――――はあああああああああああ!? 10回!? それってその……キャラクターを削除されたりとかしないんですか!?」
「もう何回も処罰を受けてキャラクターを削除されているよ。アカウントの永久BANも何度もされてる」
「え、永久BANって。つまり”ゲームプレイが永久に停止されちゃう罰を受けた“ってことですか!?」
「ああ、永久BANをされる度に、立ち上げたチームもその都度解散してんだ。だけどその度にうちのチームリーダーは新しいVR機材一式とゲームを購入して新しいアカウントを作って遊んでいるってワケ」
「あ……あの……クリアさん。人間として信用できるんですか? そのチームのリーダー……」
「いいや、全然。自分なんかチームを乗っ取ろうと日々企んでいるくらいだ」
「それ、いくら何でもチームリーダーの人徳無さすぎだろ!!」
(この人、やっぱまともなプレイヤーじゃねえッ!)
クリアのあっけらかんとした物言いに、レットの中での“仲間”という概念が大きく揺らいだ。
「現実で投獄されていないだけましだろ?」
(比較対象がおかしいだろ……)
「リーダーが不在ってことで、チームへの加入は見送りだな。とりあえずレットは俺とのフレンド登録だけ頼む! まだ、登録ができてないみたいだからな」
「は、はぁ……そういえば……クリアさんは何故オープニングを見ている途中の初心者のオレに、いきなりフレンド登録なんて送ったんですか?」
「え? オープニングが見れなくて、いいリアクションしてくれそうだな――と」
「やっぱアンタ最悪だな! チクショウ!」
こうして、半ば苛立ちながらもレットは彼とのフレンド登録を認証したのであった。
「ハッハッハッハ! よしレット、改めてよろしくな! 困ったことがあったらいつでも呼んでくれ。どこからでもすっ飛んで来て、一瞬でお前を殺害してやるから!」
「冗談でも、登録した直後にそういうこと言うのマジでやめろ!」
(くっそー! ゲームを初めてから、この人のペースに振り回されっぱなしだ! こうなったら必ずソードマスターで最強になってクリアさんに一泡吹かせてやる!! いつか絶対にこの人と戦って――勝つ!)
自らの職業とこの世界の目標を定めて、レットは心中で固く決意するのであった。
【バランス調整の難しさ】
本作の調整は不安定ではあるが、この時代、『アスフォー』を含めてほとんどのVRMMOは職業調整というものを諦めていた節があった。
調整が上手くいっているように見えるゲームも“複数職業があっても戦闘・回復・盾でやることが全部同じ”であったり――“敵が全体的に弱く調整されていたり”――“常にどこかの職業が壊れており、強くなって弱くなっての調整を、繰り返し高速で行っているだけ”だったり。
どのゲームも誤魔化し誤魔化しで調整しているという実情があった。
ゲームで万人が納得できる調整を施すことなど、不可能なのかもしれない。
「クッソゲやわ~。マジ糞ゲ。はいクソゲ」
(そんなに文句言うなら黙って辞めればいいのに……)
【未来永劫永久停止BAN】
ゲームによっては永久BAN措置を受けたプレイヤーが新しいアカウントを購入しても同一人物だと判明した場合、即そのアカウントも永久BAN措置を受けることもある。
しかし、アスフォーNWはそこまでは関与しない。
どうやら情報の取り扱いを間違えたからか同一人物の確認を怠ってしまい誤BANを行った結果、外国人プレイヤーに訴訟を受けたらしく。しかも、その個人相手にそのまま敗訴してしまったかららしい。
「ここの運営は、なんでいつも外人プレイヤーの意見ばかり聞くんだよ!」
「Youも訴訟しちゃいなyo!」
【NPC】
原則、殺害は不可。プレイヤーの攻撃はすべて透過する。
例外として特定のクエストやコンテンツなどで共闘したりする場合などはモンスターの攻撃で戦闘不能になることがある。
また、街を防衛する大型コンテンツが発生した場合なども侵攻してきたモンスターによって行方不明になったりする。
ほとんどのNPCは自動学習の単純なAIに基づいているため、決まったことしかにしか返事をしてこない。
しかしごくごく稀に妙に反応の良いNPCがおり「中の人がいる」と冗談交じりに言われることも。
ちなみに負荷がかかりすぎると、話しかけても無反応になる。
NPCに何度も話しかけると、周囲にいるプレイヤーから批判を受けることもある。
「すみません! ちょっといいですか? ちょっといいですか? ちょっといいですか? ちょっといいですか? ちょっといいですか? ちょっといいですか?」
「おい! お前、うるせえぞ! 順番くらい守りやがれ!!」