【おまけ話】一方その頃、ここはポルスカ森林南【時系列:一章の後】
私は今、ポルスカの森に居る。
コンディションは抜群。気持ちだけなら誰にも負けない。
例え負けてしまっても、一矢報いてみせる。
そういう気概で今日まで己を研磨し続けてきたのだ。
「団長さん……」
入ったばかりの私を温かく迎えてくれた聖十字騎士団の人達。カッコよかった団長さん。
チームメンバーが初心者をいじめていたなんて根も葉もない情報を流した記者には後できっちり謝ってもらうとして――
(あの優しかった団長さんがPKをやっていただなんて、嘘に決まっているわ! 証拠が出ているから何だっていうの? そんなの捏造に決まっているわ!)
「許せないわよ“ダークレッド”!」
新聞記事に書かれていたダーク・レッド(ダアクレットと書かれていたけど多分誤字だと思う)。
全ての元凶であるその男を、人づてに果たし状を渡してもらってポルスカに呼び出したのである。
そして私は、果たし状に書いておいた指定の地点に到着した。
「私の名前はFruit in Howkeye! 出てきなさいダークレッド!」
団長に憧れて購入した豪華な片手剣を掲げて私が叫ぶ。
すると、木の上からヘルムを被った男達が現れた――人数は四人。
(なるほど。数で押してくるってわけね!)
心配は要らない。私から手を出さない限りリンチされることは無い。
(何人いようが、タイマンなら自信がある! 全員なます切りにしてみせる!)
男達は私に近づくと突然、名乗りを上げた。
「Dark・redl!」
そう言って男の一人が兜を脱いで、謎のかっこいいポーズをとった。
「XxDarkredxX!!」
そう言ってその男も兜を脱いで、謎のかっこいいポーズをとった。
「Akakura・gorou!」
そう言ってその男もまた兜を脱いで、謎のかっこいいポーズをとった。
「DagaaDaakuReddoDagaa!!」
そう言ってその男は足を滑らせて地面にひっくり返った後に、兜を脱いだ。
「「「「五人合わせて――ダークレッド!!」」」」
「というわけでそこの女ぁ! 貴様が果たし状を送った張本人だなぁ! いいだろう! 俺たち全員が直々に――「ちょっと駄目」
「――はぁ?」
「駄目よ。アンタ達、色々待ちなさいよ」
「は――はぁ。待ちますけどぉ」
私のツッコミに、それまで受け答えをしていたピンクの鎧の『Darkredl』は勢いを削がれたのか、急に砕けた口調になった。
「何で? ――何であんた達全員でダークレッドなわけ? というか、全員顔同じじゃない! どれが本物のダークレッドよ!」
「いやあ。そんなことを言われてもなぁ。俺ら、誰が本物かとかあんまりそういうこだわりないんでぇ……」
「こだわりってちょっと……私は困るのよ! どれが本物よ! ――そもそも、なんでこんなに沢山居るのよ!」
「ダークレッドっていうのはぁ。孤独に戦うVRMMOアニメの主人公の名前で、人気なんでぇ……。俺らの中で誰一人Darkredの名前をつけることができなかったんですよぉ……。だから全員微妙に名前が違うんすよぉ。な? クロス」
レッドルは隣の青い鎧のXxDarkredxXに同意を求める。
「そっスねえ。仕方ないんで微妙に名前をかえてつけてるんスよ」
「色々おかしいわよ! というか名前にL足しただけのDarkredlは……まだわかるわよ! で、青鎧のアンタの名前……何!? 何なの? くろすくろすだーくれっどくろすくろすって。どういう意味よ!」
「いや。人気の名前なんでこう……前後にエックス二個つけて記号みたいに見せてみようかなあと思ったんスけど……」
「じゃあ普通にダークレッドって名乗りを上げればいいじゃない! 何でクロスクロスを二回も言うのよ! 名乗りに必要ないわよ!」
ここまで来て聞かないわけにもいかないような気がしたので、私は左端に立っている三人目の緑の鎧の男に質問をぶつけた。
「――で? そこの。そこのあなたの名前は――何?」
「僕はAkakura・gorouだよ!」
「いやいやいやいや。誰よ! わからないわよ!」
私の疑問に対してピンク鎧のレッドルが代わりに答える。
「赤倉っていうのはそのぉ。そのVRMMOのアニメの主人公ダークレッドの“現実の名前”でしてぇ」
「あっ……ああ~……なるほどね。そういう設定あるわよね。じゃあ厳密にはダークレッドじゃないけれど、メンバーの中では一番まともな名前なのね……」
「そうなんだよ! 本当は主人公の名前は赤倉太郎(Akakura tarou)なんだけど、既に使われていたから妥協して赤倉五郎にしたんだよ!」
「妥協の仕方がおかしいわよ! 何で名前そのものを妥協してるのよ! ひねり方がおかしいわよ! もう別人じゃない!」
そして私は最後に、あんまり言及したくない四人目に話しかけた。
「――で? ……黄色い鎧のアンタは何よ?」
「DagaaDaakuReddoDagaa!!」
「…………………………………………………………え? 何?」
「ダガー!」
「こ…………答えになってないわよ……」
「ダガー!」
その男の声を聞いて、なるほどなるほどとレッドルが頷いた。
一体、何に対して頷いたのか私にはさっぱりわからない。
「ええとですねぇ。†(ダガー)ってあるじゃないですかぁ。だから†Darkred†って無理やりつけようとしてああなったらしいんですよぉ」
「――もう何もかもがおかしいわよ!! 何なの? ローマ字入力ってことは英語わからないの? キャラ作り直さないの? センスがいいとか悪いとかの次元じゃないわよ!!」
「ダガー!」
「“ダガー!” じゃねえわよ! テメエコラ!」
「というわけで改めてぇ! Dark・redl!」
「XxDarkredxXッス!!」
「Akakura・gorouだよ!」
「DagaaDaakuReddoDagaa!!」
「「「「「五人合わせて――ダークレッド!!」」」」」
「わかったわよ! わかったから! ――いや、わかってないわよ! 何で五人合わせてなのよ! あんた達、よく見たら四人しか居ないじゃない!!」
再び突っかかる私を見てレッドルは溜息をついた。
「いやぁ、本当はDerkRadっていう。高校生の子がもう一人居るんですけどぉ。でもなんか今中間テストだかぁ、期末テスト中だとかでログインできないみたいなんでぇ……」
「――は? じゃあ何? あんた達そんなふざけたナリで全員中高生とかじゃないわけ!?」
「そうですねぇ。レッドルの俺が社会人でしてぇ――」
「僕は留年中の大学生なんだよ!」
「――んでクロスのオレは万年無職っス。最後に、ダガーの彼が既婚者で子持ちッス」
「ダガー!」
「何もかもがおかしいわよ! 世の中間違ってるわよ!! 怖いわよ!」
「ダガー!」
「『ついこの前、二人目が生まれました』って、言ってますねぇ」
「ああうん……それはめでたいわね。――おめでとう。……VRMMOやっている場合じゃなくないかしら?」
「いやぁ。でも俺嬉しいなあ。こんなかわいい女の子のキャラクターに果たし状突きつけられるだなんて。まるでラノベみたいですよぉ」
「か……可愛いだなんて。嫌だわ。照れちゃうわ」
私のキャラクターの美貌に見とれてしまったということかしら?
キャラクタークリエイトは何時間も何回もやり直ししたんだから、自分の見てくれには自信があるけれど……。
「この人攻略が簡単だよ! 都合の良いメインヒロイン役、きっとやれるんだよ!」
「ちょっと褒められただけでその気になるとかすごくチョロいっス! ヒロイン適正高いッス!」
「いい感じですよぉ。ダークレッドって滅茶苦茶モテる設定なのに、俺達女っけが全くないから困ってたんですよ。丁度良かったですよぉ」
「言いたい放題言って失礼な連中ね!! 面と向かって、都合のいい女だのチョロいだの何だの言うんじゃないわよ! 私はチームの団長さん一筋よ! 入ったばかりであの人のこと全然知らなかったけど、とっても優しい人だったんだから!」
「この人意外と一途だよ! どう転んでもヒロイン適正高いよ!」
「おお~。一途なのもいいっスね。これは是非オレ達のチームに入ってほしいッスね。正妻の余裕ってやつッス」
「というわけですみません。その一途さを見込んでぇ、俺達に目移りしてもらっていいすかぁ?」
「その質問、一行で矛盾してるじゃない! ふざけないでよ! ――というかダークレッドなのに、なんでアンタら全員“白基調の鎧に赤以外の色”塗ってるわけ? 暗闇と赤の要素ゼロじゃない!?」
「いや、それはそのぉ。リーダーの俺が『まあ、皆でやっていくなら。喧嘩しないように色は分けて全員でダークレッドにしよう』と決めたんですよぉ」
「何で無駄に仲良いのよ! そもそも孤独な設定なんでしょ!? 群れるの辞めなさいよ!」
「そんなこと言ってもなぁ。俺ら、最近意味もなく恨みを買って追いかけられるようになっちゃって困ってるんですよぉ」
「そうなんス。だから、こうやって皆で身を寄せ合って震えながら何とかやってるんス。でも俺ら全員、例の聖十字の事件とは無関係なんスよ」
「そ……そうなのね。私、勘違いしてたわ……」
私というか、果たし状を渡すようにお願いした私の知人が勘違いしていたんだろうけど。
私だって、こんな頭の悪い連中があのカッコいい団長さんを倒しただなんて信じたくないし……。
「はぁ……“本物のダークレッド”は何処に行ったのかしら……。全くもって、とんだハズレを引いちゃったわ……。Darkredって名前にどれもこれも掠りもしてないじゃない……」
「ハズレだなんてぇ。酷いこと言うなぁ。後、おたくの名前も大概だと思いますよぉ?」
「――どういう意味よ?」
「だって、あなたの名前って××××××××でしょ?」
……おかしい。レッドルの言葉にボイスフィルターがかかっている。
仕方がないので一度フィルターを設定で外した。
「これでよし――と、改めてリーダーのレッドルさん。もう一回、私の名前を呼んでもらえる?」
「ですからFruitin Howkeyeですよね?」
「「Fruit in Howkeyeよ!」」
「え!? そうなんだ! 僕もフルチンだと思ってたんだよ!」
「ホーケイなら任せてくださいッスよ!」
「ダガー!」
「「テメエら当初の目的どおり、本当に殺すわよ!!」」
「――見つけたぞ! ダークレッドだ!」
私が振り返ると、そこには二人組みのプレイヤーが居た。
多分というか、武器を構えているところを見ると間違いなくPKが目的だろう。
「で――おい。一体、どれが本物のダークレッドなんだ!?」
「いや、よくわからないし意味わからないよ。困ったなあ……。どうしよう……」
二人組みは、多数のダークレッドを前にして困惑しているようで、なんとなくだが親近感が沸いた。
「それにしても……どいつもコイツも酷い名前だな……手前に居る女キャラは何だ?」
「わからないけど、ネームセンス的に多分ダークレッド達の仲間だと思う。フルチンホーケイなんて名前正気じゃないよ……不適切な名前で通報した方がいいんじゃないか?」
「「だからFruit in Howkeyeって言ってんだろがコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
怒りに身を任せてPKに切りかかる。
鬼気迫る表情で突っ込んだからか二人組みは恐れ戦いて逃げ始めた。
団長の無印の頃の戦いを動画で真似した私の剣技で二人組みは――
「「【H-8】でフルチンホーケイのダークレッドに教われてます!! 助けてください!! 助けてー!! ぎゃああああああああああああ」」
――最悪の断末魔を上げながら、あっさりなます切りになって倒れた。
(PKが助けを求めてどうするのよ……)
ぶっちゃけ、PKの癖にあんまりレベルが高くないため圧倒できた。
死に物狂いでレべリングをした甲斐があったというものだ。
「おぉ~。ゲームセンス高いですねぇ」
「絵に描いたような戦う有能ヒロインッスね」
「最高だよ! 無敵なんだよ!」
「ダガー!」
私の戦いっぷりを見て湧き上がるダークレッド達。もう黙っていて欲しい。
そこで、PKの断末魔に呼び出されたのか別のPKプレイヤー達がわらわらと集まって来てしまった。
埒が明かないのでダークレッド達を見捨てて走り出す。
こんなわけのわからない連中に付き合っていられない――
「いやあ助かりましたッス。これからも末永くオレたちを守ってくれると助かるッス!」
「――何で当たり前のようについてきてるのよ!! アンタ達は黙って倒されていなさいよ!」
最悪なことに、全員ついてきた。
冗談じゃない。こんな連中と一緒に行動している余裕なんてない。
「凄い数のプレイヤーが追ってきたんだよ! 大変だよ! レッドルどうしよう!?」
「これはまずいなぁ。こっからどうしますリーダー?」
「私に勝手にリーダーを押し付けるんじゃないわよおおおおおおおおおおおお!」
こうして、こんなくだらない理由で私の名は間違った意味で知れ渡り、追われることになってしまったのであった。
他プレイヤーの与太話です。
ちなみに先に襲撃しているので、この場合フルーツさんがPKプレイヤーということになります。
多分、この人達。もう二度と出てこないと思います。
というかもう出てこないでくれ、話がややこしくなるから。




